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数々の大企業に対して「コンサルティングxクリエイティブ」で領域不問の課題解決を行うJBA。でも「JBAって何屋さん?」と聞かれると、一言では答えにくいんです。そこで、実際のお客さまとの具体的なプロジェクトを通して、担当した社員は、何を考え、どんなことをしたのか。やりがいや苦悩や仕事観に至るまでをリアルにお伝えする「事例紹介」シリーズです。
こんにちは。2015年入社のコンサルタント、諏訪です。今回は、わたしが2017年に1年がかりで携わった、ある会社の天才社長の知恵を伝承する”教科書”制作のプロジェクト事例をご紹介します。
誰も知らなかった天才社長の考え
その会社の過去の歩みを歴史年表のようにまとめた社史制作は、会社の創立から10年、20年の区切りを祝う周年事業の定番です。しかし、大手食品メーカーのX社さまから「80周年の節目に社史を作りたい」というご相談を受けてヒアリングに伺った時、私たちは「作るべきはものはただの年表ではないな」ということに気が付きました。
X社さまはもともと、現社長のおじいさまが創業した会社でした。戦後の食糧難の中で世のためになるものを作りたいという思いがそこにあり、「日本に豊かさを提供する」という理念のもとに、新たな商品を生み出し続けてきたのです。
しかし、会社を受け継ぎ守ってきた天才社長の頭の中にある考えは誰も知りませんでした。長い年月、ワンマン社長の強いリーダーシップで動いてきた結果、社員が社長の決定に対して意見をすることはほとんどなく、経営判断の裏にどんな情景や背景があったのか、社員は全く分からないという状態を生みだしてしまっていました。
もちろん長い歴史の中で会社としてのいろいろな危機があり、その度に生き延びてきたわけですが、その素晴らしい知恵は社長が頭の中だけにあって、社員に伝えられることはありませんでした。
ただの社史ではない、本当に役立つコンテンツを
従来はそれでもよかったのです。しかし、社長はもうご年配でした。この先、社長に万が一のことがあれば、誰が会社を経営していけるのかという危機感を、会社全体が持っていたのです。
お話を伺う中で、そのような重要な経営課題が浮き上がってきたため、私たちは「80周年を記念して作る冊子は”社史”ではなく、社長の考えを社員全体に共有できる”教科書”のようなものにしませんか」と提案しました。
”社史”とは会社の歴史の記録です。それはそれで愛社精神を育み、貴重な情報を得られる資料となります。しかし、社員数1,000人以上の大きな組織で分厚い資料を配った時に、どれほどの社員がそれをじっくり読んでくれるでしょうか?
それならば、80周年を記念して作るべきは、現在のX社が直面している課題である、経営陣への社長の考え方の伝承や若手の育成に役立つツール。それこそが今必要なものではないか、と考えたのです。
担当者さまとの話し合いで、社員が「変化のおこし方」や「製品開発のノウハウ」を学べるものにしようということになり、そのような情報が詰まった“教科書”のイメージで冊子の制作を進めることになりました。
コンテンツとしては、まず、これまでX社がたどってきた軌跡を、社会の変化や業界の流れも踏まえて時系列に整理し、折々の変化点をX社がどう切り抜けてきたのか、危機に際してどんな経営判断がされてきたのかを伝えます。
また、一部の社員しか知らされることのなかった新商品開発の流れやコンセプトを詳しく解説するページも設けることになりました。
見た目も”教科書”らしくなるように、彩り豊かに、持ち運びしやすいサイズにするといった工夫をし、社員全員が読みたくなるような仕掛けを考えました。
中身を充実させるため、徹底的な調査を
型が決まってからも、その中に詰め込む情報を集める作業が大変でした。
通常、このような資料を作るにあたって、私たちは、まずは過去の会議資料や株主向けの刊行物、倉庫にあった写真など手に入る限りの資料を全て読み込無ことから始めます。
見るべき資料は、大きな段ボール箱で20箱以上もありました。すべてを開封して整理するなかで、掘り出し物がどんどん出てきます。・・・ここは正直体力勝負で大変なところですが、私なんかは、会社の核心に近づいているようで、いつの間にか熱がはいってしまう作業です。
それから行ったのが、社長への8回にわたるロングインタビュー。
通常、大会社の役員の方の時間をまとめて取ることは極めて難しいので、社長取材などは1時間程度1回限り、という暗黙の了解があります。しかし今回に関しては、社長の頭の中にしかない事柄をご本人の言葉で語り切っていただきたかったため、2時間取材を8回行うことを提案し、了承していただきました。
社長の言葉を引き出すための努力
担当者さまによると、社長は厳しい方なので、不用意な質問をすれば「そんなこと自分で考えろ」とバッサリ切られてしまうこともあるとのお話しでした。
ロングインタビューといえども時間は限られています。私たちは、厳しい社長に「この人になら本音を話そう」と心を開いていただくため、周到な準備をして取材に臨みました。
そのためには当然のこととして、会社に関する過去の重要な出来事はすべて頭に叩き込んでいきます。取材に向けて毎日X社さまの製品を食べて、いち消費者としての視点もバッチリ、整えていきました。そして、外部のコンサルタントだからこそ訊ねることが許される、核心に迫る質問をいくつも用意しました。
そして取材当日。社長が、ご自身の言葉で自由にその世界観を語っていただけるように、お話を傾聴することに集中しました。徐々に、素晴らしい言葉が引き出されてきました。
私がいつも、取材をする中で大切にしているののは、自分の先入観やフィルターをなしにして相手を理解するというスタンスです。こちらが期待する答えを誘導するような質問をするのではなく、社長がどんな人物でどんな思考をしているのか、その人生を、本音を、聞ききることに注力しました。
”教科書”が次世代に届ける、社長の思い
取材の結びに、社長はこうおっしゃいました。
「会社は変化させていかないとつぶれてしまいます。今までは自分がその役目を果たしてきましたが、これからは社員一人一人が主人公となって会社を動かしていかなければいけない。これからの会社を守っていくのはあなたたちです。会社の”変化のさせ方”は話しました。それをヒントに、これからは、自分たちで変化を生み出していってください。」
出来上がった”教科書”は、社員のみなさんからも「読みやすい」「初めて会社のことを知った気がする」と大好評で、社長の思いは十分に社員に伝わったという手ごたえを感じることが出来ました。更に想定外の展開として、今、その冊子は新人研修にも活用されるようになっています。
天才社長の頭の中をひきだして形にして社員に伝えた。そしてここから、未来の製品や新しいアイディアが生まれていく。そんな仕事に携われたことを、誇りに思っています。