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数々の大企業に対して「コンサルティングxクリエイティブ」で領域不問の課題解決を行うJBA。でも「JBAって何屋さん?」と聞かれると、一言では答えにくいんです。
そこで、実際のお客さまとの具体的なプロジェクトを通して、担当した社員は、何を考え、どんなことをしたのか。やりがいや苦悩や仕事観に至るまでをリアルにお伝えする「事例紹介」シリーズです。
こんにちは。2013年入社のコンサルタント、江口です。今回ご紹介するのは、大手機械メーカーのA社さまの周年事業の事例です。この案件は、2017年で70周年を迎えるA社さまから、「価値のある周年イベントをやりたい」とご相談を受けたことから始まりました。
大手機械メーカーA社の70周年プロジェクト。
A社さまとは、広報支援を通じて長年の信頼関係があり、当時私は既に120名以上の社員さまとお会いしたほか、社長とも年に2~3回はお会いする関係でした。事業内容や組織、企業が抱える問題について全体的な把握ができている状況で、さらに周年事業に向け、社長に直接お考えを伺う、最初のヒアリングを行いました。
「おめでとうございます」と切り出すと、意外にも返ってきたのは、社長の危機感に溢れる言葉。「今、自分は社内のコミュニケーションのありかたに問題を感じていて、70年の歴史など何かあればすぐに吹き飛んでしまうと感じている。100年目の未来を見越して必要な手を打たなければ」という思いを語られました。
「社員たちは、自社の製品や技術にプライドはあるれども経営状態には興味がない。また、縦割り意識が強くて部門間のコミュニケーションはほぼ皆無。社内の風通しをよくして、皆が同じ方向に走っていける会社にしていきたい。会社を変えるなら、理念から。理念を変えるなら、社員の手で行わなければならない。」
そのような社長の思いを伺って、私は悩みました。単に「周年イベント」というならば、これまでの経験やノウハウからいくらでも面白いやり方は思い浮かびます。しかし、社長に言われた課題を解決するとなると、そんなに単純ではありません。
特に一番の課題とされていた「組織内のコミュニケーション」というのは、外部コンサルタントがどんなに良い解決策を示しても、社員は「やらされている」と感じてしまいがちな課題です。なんとしても、社員の皆さまにそれを「自分ごと」として捉え、自らの手で解決に向かっていっていただけるようなきっかけをつくりたい。
工夫を凝らし、プロジェクトを始動
そこで私が提案したのは、将来の幹部候補を選抜して「企業理念」を見直すプロジェクトの発足でした。企業理念は会社運営の前提です。そして周年イベントは、新たな理念を打ち立てて、皆が同じ方向を向いていくように周知する絶好の機会です。でも、その理念をトップが勝手に決めると、社員は「他人事」と感じてしまいますから、これから30年後にくる100周年を見据えて、その時、第一線で活躍しているであろう幹部候補、つまり現在の若手が中心となってその理念を考えるということを提案しました。この提案が受け入れられ、将来の幹部候補10名による理念改定プロジェクトがスタートしました。
JBAは選抜メンバーに対して、周年企画のための研修プログラムを提供しました。プログラムは、経営課題や未来に必要なこと、会社が世間からどう見られているかなどを話し合い、より良い未来に向けた施策を共に探すというものです。優秀ではあっても経営についてはまだ素人である若手メンバーに対して、私自身がそのプログラムのファシリテーターとして議論の活性化を促す重役を担いました。
結果的に議論は大盛り上がり。参加した幹部候補からも「自社のことを深く知るいい機会になった」「自分の部署にこの経験を還元したい」という声が聞けて、社員さまの手による理念改定が動き出した手応えを得ることが出来ました。
70周年記念の当日に向けて、社内を盛り上げる
企業の周年への取り組みは様々ですが、どこでも重視されるのは記念日当日の式典やイベントです。社歴を振り返ったり、未来に向けて決起したり、芸能人を呼んで盛り上がったり、企業の数だけ当日の迎え方があります。
その当日のイベントだけを重視した企画はよくあるのですが、実はそれはとてももったいないことです。社員からすると、強制的に式典に参加することになってしまうと「こんな忙しい時に楽しめと言われても…」と受動的になりがち。それでは、社内のコミュニケーションを良くするどころか、逆効果になってしまうかもしれません。
イベント成功のコツは、実は、徐々に社内を盛り上げる仕掛けをして、社員の皆さまが周年当日を迎える心の準備をしてもらうプロセスにあるのです。
私はA社さまに、周年ロゴの決定のための全社員投票の開催を提案しました。周年ロゴは1年間あらゆるところに配置して、皆の意識を揃えるシンボルになります。投票に参加することで、帰属意識を持ちきれていない社員さまでも、ロゴを見るたびに「あ、自分たちで決めたロゴだ」という気持ちになります。
並行して、定期的に発行している社内報でも、社歴の振り返りや理念策定プロジェクトの進捗を共有する周年特別企画のコラムを設け、周年イベントに向けて徐々に皆の意識を盛り上げていきました。
そして直前にもう一押し。式典の1か月前、全社員の顔写真とプロフィールが分かるアルバムを作成して社員全員に配布しました。実は、私が一番効果を実感できた取り組みはこれでした。コミュニケーションは、相手への関心から始まります。どの部署も、大盛り上がりでした。
絶景!全社員2,500名が集う周年式典
いよいよ式典当日。2,500名の全国の社員さまが一堂に会しました。事前準備をがんばっても周年当日が失敗しては意味がありませんから、同席する私にとっても緊張の一日です。
一体感を創るための仕掛けとして、チーム対抗の会社トリビアクイズを用意しました。異なる拠点・部門の人によるミックスチームを組んで、クイズを解くための必須アイテムとして持参してもらった社員アルバムを手に、今まで話したことがなかった人と「うちの部署ではこうしている」「私のところでは…」というような互い情報を交換できるような設問を用意しました。
一番気がかりだったのは「社員の皆さまに楽しんでもらえるだろうか」ということでした。実際、それだけの人数がいれば、嫌々参加という人も一定数発生してしまうかもしれません。しかも、ネガティブな気持ちは伝染してしまいますから、社員の皆さまが笑顔かということをずっと気にして、会場の一人一人の表情から目が離せませんでした。でも、その心配は杞憂でした。私が観察する限り、期待していた以上に、全員が笑顔だったのです。
そしてメインイベントである新理念の発表。TEDのようなライブプレゼンのスタイルにしたのですが、慣れないながらも、若い社員さまが舞台に立って一生懸命プレゼンをする姿は、他の社員さまからの評判も上々で「一体感が高まった」という意見が多く寄せられました。
こうして、式典は大盛況のうちに幕を閉じました。
2,500人の全社員が一堂に会する機会というのは、すなわち「会社そのもの」を見る機会です。そこに会社のすべてが集結されていて、皆が楽しみを共にしている姿を俯瞰できる。A社さまと長くお付き合いさせていただいている私にとっては、それは「絶景」でした。
全社員が集う機会をうまく使えば、所属意識や一体感が生まれます。普段は本社を離れた工場の一部門の世界しか知らない社員さまでも、式典に参加して共感できる「理念」を聞くことが出来れば視野が広がります。社員さまの目の色が変わる、その瞬間を間近で見ることができたのは、コンサルタントである私にとって、このうえなく感動的な体験でした。
周年は式典をして終わりじゃない。
式典後、楽屋で社長と握手を交わしました。「ありがとう。でも、これは始まりに過ぎない。これからが勝負だ」社長がおっしゃる通り、式典をやっただけでその後に何もしなければ「楽しかった」という思い出だけで終わります。周年は後のフォローも大事なのです。
新理念を定着させるための仕掛けもしっかり考えて提案しました。プロが撮影した式典当日の写真をダウンロードするためのパスワードは、式典で発表した新理念。1か月後には、式典の様子を盛り込んだ社史を配布し、ロゴの作成や名刺の刷新、ホームページの改訂などを通じて、継続的に社員がそれに触れる機会を作ります。
更に、その年度内に、全国各地で理念をテーマにした座談会を企画して、私もファシリテータとして全8回の会に参加しました。周年当日はあくまで「聞き手」であった社員のみなさんに、新しい理念と自分の仕事との結び付きを考えていただきたかったのです。
周年プロジェクトの主役はあくまで社員のみなさんです。私の役目はいわば黒子(くろこ)のように、社長が危機感を感じていた社内コミュニケーションの課題を、社員の皆さんが自分ごととして捉え、解決に向かっていただけるような仕掛けを作ること。社員の皆さんの口から、新理念について「そういうことだったのか!」という生の言葉が聞けて、それがまた社内報の記事を通して全社に届けられていく様子が見られた時、私はようやく、コンサルタントとしていい仕事ができたという手応えを感じることができました。