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ときには正論を捨て直感を信じ、パッションを前面に出してチームを導く

大手コンサルからfreeeに転職し、6年目を迎えた渡邉 俊。入社当初は志望とは異なるセールスでチームを率いた後、本来望んでいたアライアンスを組織作りからスタートさせました。リーダーとして経験を積んだ渡邉が、自らも成長しながら掴んできたマネジメントの方法論について語ります。

アンフェアは許せない──ジャーマネとしての原点を形成した2つの経験

freeeでは「“タレント”であるfreeeのメンバーを叱咤激励し、成長・活躍をサポートする」という意味を込め、マネージャーを「ジャーマネ」と呼んでいます。

このポジションにおいて、人をフェアに評価することに誰よりもこだわっている、と自負する渡邉。過去の2つの経験が大きく影響していると言います。

渡邉 「1つ目はサッカー選手としての経験です。監督やコーチの好き嫌いで評価が決まってしまうことに対し、ずっと違和感がありました。『人の機嫌や主観的な物差しによって、頑張っている人が正当に評価されないのはフェアじゃない』と思っていました。

当時は自分の想いをちゃんと言語化できませんでしたが、この経験によって自分はアンフェアなことはやりたくない、と思うようになったんです。原体験と言えるでしょうね」

2つ目は、前職のグローバルのコンサル会社での経験でした。

渡邉 「そこでは会社の求める条件でキャリアステップが決められていました。

ポテンシャルがあっても決められたステップを踏めない人が評価されないのは、個人の成長にもつながらない上に組織としても機会損失につながります。組織として成果を出すことをゴールに考えた場合に、このような負の要素を払拭したい、と私の中に正義感が芽生えました」

アンフェアに対して異を唱える渡邉。そこには、やはり自身の経験がありました。

渡邉 「小学生のときに、サッカーで日本一のタイトルを獲ったことがあるんです。瞬間的で短期的な成果にも関わらず、勘違いして調子に乗ってしまったんですね。冷静に自分の実力を判断し、やるべきことをやらなければダメだ、ということがよくわかりました。いい意味での失敗だったと思っています」

スモールビジネスへの共感からfreeeへ、そして中堅法人の市場拡大へ

渡邉が前職で感じた疑問は人事評価だけではなく、自らの仕事の意義そのものにも及び、freeeに転職する引き金になりました。

渡邉 「僕は起業を目指しているので、その前のステップとしてfreeeを選んだという理由もあります。大企業をクライアントとするコンサルで働く間に見えてきたのは、世の中の課題でした。大企業の豊富な人材をいかに活用していくか、どのようなサービスが提供できるのか、などです。

一方で、テクノロジーによって世の中が変わっていくトレンドを実感していました。クラウドITを展開し『スモールビジネスを、世界の主役に。』というミッションを掲げているfreeeが、とても魅力的に思えたんです。

そこでfreeeの面接を受けたら、出会った人たちがめちゃくちゃおもしろかった。それに尽きますね」

渡邉は事業開発のポジションに応募したにも関わらず、営業担当に配属されました。

渡邉 「freeeで出会ったおもしろい人に『セールス一緒にやろうぜ』と声をかけてもらったのでやってみよう、と。僕は職種にはまったくこだわりがないんです。

初日に上司との面談があった後、夜になって飲みに行った場でいきなり『インサイドセールスの新しいジャーマネだよ』と紹介されて、びっくり(笑)。これが僕のジャーマネ歴の始まりでした」

翌日からジャーマネとしてチームを率い、その後100名以下の法人をターゲットとしたチームでもジャーマネを務めた渡邉は、20名から100名の法人向けチームを切りわけて立ち上げました。

渡邉 「『freee会計』は当初、個人事業主やかなり小規模なスモールビジネスを対象として販売していたので、中堅法人の領域は弱かった。ここを開拓したいと考えたんです。

最初はなかなか業績が上がらず、厳しかったですね。メンバーと『売れねぇなあ、なぜ売れないのか一緒に考えようぜ』などと話していました。大変でしたが、スタートアップのような気持ちで楽しかったですね。

それからある大企業のグループ会社に引き合いがあって行ってみたら、その場で売れたときのことを強烈な成功体験として覚えています」

数カ月後、渡邉が立ち上げたこの中堅法人部門は、チームから新しい事業部へと昇格しました。そして渡邉は、アライアンス事業部に移ります。

渡邉 「事業推進の過程で見えてきていたのは、IPO支援における可能性です。ここでマーケットシェアを獲ってブランド化するほうが、freeeの強みがPRできると考えました。中堅法人向けの事業推進に2年携わった後に、SMB(スモールビジネス)とIPOを切り出し、僕はアライアンスを担当することになりました。

当時はスモールビジネス事業部に思い入れはあったものの、限界を感じていたのが正直なところです。freeeのサービスを届くべきところに届けるためには、採用当初に考えていたようにチャネル開発が必要だ、という想いでした」

パッションを表現して人を惹きつける一方で、中長期視点で冷静に人を評価する

渡邉がアライアンスに移った理由はもう1つ、組織についての考え方でした。

渡邉 「自分がやり続けることが既得権益になってしまうのを避けたかったんです。一人ひとりのやる気やポテンシャルを伸ばしたいから、ある程度オペレーションができてチームがちゃんと回るようになったら次に行く。長が変わってもパフォーマンスが落ちないのが、強い組織です。

ジャーマネとしてメンバーに任せることにこだわって、もし任せたときに事業がうまくいかないとしたら、それは自分が作った組織に足りない部分が多かったせいなので、反省が必要です」

アライアンス部門のチームの立ち上げでは、渡邉は優れた人材を外部から獲得する難しさを知りました。

渡邉 「採用は非常に苦戦しました。きてほしい人がなかなかきてくれない、その中でどうすればきてもらえるのか深く考える必要がありました。

人にきてもらうためには、freeeとアライアンス事業の使命や魅力について伝えるだけでは足りず、アトラクトしなければならない。そうなると、ロジックよりパッションが必要なんです。

僕はそれまで情熱的に話すタイプではなかったので、難しかったですね。将来、起業したときもパッションの表現は求められるはずなので、良い勉強になりました。苦労した分、良い人も集まりましたし」

こうしてスタートしたアライアンス事業は、3年が経過する中で多くの結果を残し続けています。企業として投資も行い、スモールビジネス事業部の「freee会計」領域とアライアンスは統合され好循環を生み出しています。成功を積み重ねながら、渡邉は組織を率いる立場としてチームの人材評価も行ってきました。

渡邉 「自分でアライアンス獲得のために最前線で動いてきましたから、ジャーマネと言うよりもプレイングマネージャーと言ったほうが実態に近いですね。

freeeは良い意味で急成長しています。評価制度についても会社が小さかったころはファジー過ぎるのではないかと戸惑うことがありましたが、社内で目線合わせをする中で解像度高く見えてきました。数百人を抱える企業として適切なレベルで、かなりフェアに評価できているという感触です」

それでも厳格に見れば修正すべき点がある、と渡邉は考えています。

渡邉 「たとえば3カ月ごとにセールスの成果を見る制度だと、瞬間風速的に数字が上がった人も評価されてしまう。中長期的な視点も必要だと思います。また、ポテンシャルある人がフェアに評価されていない可能性もありますから、是正していきたいですね」

一人ひとりが「成長痛」を乗り越えれば、組織は最大限の力を発揮する

評価に対する課題を感じながらも、渡邉はジャーマネとして多くの経験を重ねてきました。

渡邉 「アライアンス部門を立ち上げたときは、多くのメンバーがセールスから異動してきました。アライアンスは一種の事業開発ですから、セールスとはまったく違って、転職してきたようなものでした。

彼ら、彼女らにはセールスで活躍していたプライドがある、でもそれまでのスキルが機能しなくなることもある。そのとき、僕はジャーマネとして厳しく指導し、アンラーニングさせなければならないわけです。これは大きなストレスですし、彼ら、彼女らとの関係を毀損するリスクもあります。

痛みをともないますが、僕はこれはやらなければいけないことだと決意してやってきました。実際に彼ら、彼女らはこの試練を乗り越えて成長し、コアなメンバーに育ってくれています」

厳しくするベースには、もちろん信頼関係が必要です。

渡邉 「期待しているから厳しくしているんだ、と理解してもらうためのコミュニケーションを大切にしています。本音で話しているときにリアクションを見ながら、適切なタイミングでちゃんと伝える。何も言わないほうが伸びる人もいるので、そこは判断が必要です。

また、ジャーマネとしてブレーキを持ち、最悪、自分で巻き取る覚悟を持っておかなくてはいけない。適度にガス抜きをすることも大切です。このあたりは、僕は非常に感覚的にやっていますね」

渡邉のこの「感覚」にも、サッカーでの経験が活きています。

渡邉 「僕はプロになるポテンシャルがある選手でした。けれどプロになれなかった。それは僕が自分の技術向上に特化し過ぎて、周りと調和できなかったからです。大学に入ってからは、コミュニケーションを大切にしながらチームを作り上げることを学びました」

渡邉はジャーマネという立場を特に意識しているわけではありません。

渡邉 「『ジャーマネだから〇〇する・〇〇しない』という文脈には、嫌悪感があります。ポジション思考にはなりたくない。いかにモチベーション高く働けるか考え、組織の力の最大化に向けてやるべきことをやるだけです。

ジャーマネになる人には、自分よりできるメンバーを育てよう、自分より優秀な人を採用しよう、と伝えたいですね。その上で、自分も常に成長し続けなければならない。自分に自信がない人ほど、できる人を潰してしまったり、リミットを超えないようにコントロールしたりする傾向がありますから」

また、理想のリーダー像に対する認識も変わったと語ります。

渡邉 「新しい事業を始めるときには、自分の感覚や主観を信じ切らなければいけないと思います。合理的判断よりも、直感やパッションが必要です。アライアンスの採用時にわかったように、客観的な正論を言っているだけの人には魅力がともなわないからです。

『おもしろい』って言われる人こそ、チームをまとめ、人を動かすことができる。僕もそんなリーダーを目指しています」
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