EMに挑戦する前に、知っておくべき役割の本質 | Wantedly Engineer Blog
このストーリーは、Engineering Manager Advent Calendar 2023 の8日目の記事です。私は執行役員VPoEとして、Engineering Manager(以下、...
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ウォンテッドリー株式会社 執行役員 VPoE の要です。このストーリーは、Engineering Manager Advent Calendar 2024 シリーズ2の7日目が空いていたため、埋める形で投稿しました。
VPoEという肩書きではありますが、時折EMレイヤーとして推進したり、Squad Leaderとしてチームをリードすることもあります。今回は、EMとして立ち回る際に実際に行っていることや、弊社のEM陣に期待していることを言語化してみました。EMの役割は各社・各組織によって異なります。しかし、共通して言えるのは、EMは経営戦略の推進者の一人であり、開発チームと経営をつなぐ重要な役割を担っているということです。本ストーリーでは、その観点から、弊社でのEMの役割や期待している具体的な内容をお伝えします。これからエンジニアリングマネージャーを目指す方に、少しでも参考になれば幸いです。
はじめに
全社の構造を理解する
EMレイヤーに期待される成果
経営戦略を開発チームの戦術に落とし込む橋渡し
成果を経営戦略と結びつける方法
短期と長期の戦略的バランス
経営層とのコミュニケーション
まとめ
昨年のEngineering Manager Advent Calendarでは「EMに挑戦する前に、知っておくべき役割の本質」として、EMとして成果を生み出すための基本的なアプローチについてお伝えしました。
今回はその続編として「経営戦略」との接点にフォーカスします。
エンジニアリングマネージャー(以下、EM)の役割は、単に開発チームを管理することではありません。EMは、経営戦略を開発チームに浸透させ、成果として具現化する役割を担います。本ストーリーでは、EMが期待されている具体的な役割と、その背景について掘り下げていきます。
EMとして成功するには、自分の役割を全社的な視点で捉えることが必要です。CTOやVPoEといった経営層は、会社全体の戦略を立案し、それを達成するための計画策定と執行責任を負っています。一方、EMの役割は、その戦略を開発チームレベルで具体化し、推進するための戦術を提案することです。
経営層が描く大きなビジョンを実現するために、EMは「戦略を開発チームで実現する橋渡し役」として行動する必要があります。この役割を正しく理解し、全社の構造の中で自分のポジショニングを理解することが第一歩です。
EMには、経営戦略と直接紐づく成果が求められています。この点で重要なのは、「自分がやりたいこと」を優先するのではなく、会社全体の目標を実現するために行動することです。
例えば、技術的負債を解消する取り組みも、それ自体が目的ではありません。それが事業・プロダクトにとって、どのように収益性の向上や顧客満足度に寄与するか、運営リスクがあるのかを明確に示す必要があります。技術的負債が取りうるリスクを定量化したり、プロダクト開発にかかる時間の削減を具体的な形で成果を示すことで、自分のチームの活動が経営戦略に貢献していることを証明することが重要です。
加えて、ピープルマネジメントの観点でも、経営戦略との紐づけが不可欠です。たとえば、1on1やパフォーマンスレビューといった施策は、単にメンバーを支援するだけではなく、会社全体の目標達成にどのように結びつくかを考える必要があります。優秀なメンバーの意欲を維持しつつ、個々の能力を戦略的に活用することで、チーム全体としての成果を最大化することが期待されています。
また、メンバーの成長支援も、経営戦略を実現するための重要な要素です。例えば、新たなスキル習得を支援する場合、それが短期的なプロジェクトの成功に寄与するだけでなく、長期的には組織全体の競争力強化にどう貢献するのかを考慮することが必要です。未来の人材ポートフォリオ・チーム体制を強化する責任もあります。ピープルマネジメントにおいても、目指すべきは「メンバー全員が個々の役割を果たしつつ、全社目標達成の一翼を担っている状態」です。そのため、EMはメンバー個々の課題や目標を経営戦略と結びつけ、日々の行動に落とし込む役割を担っています。
EMは、経営戦略を開発チームに浸透させる「翻訳者」としての役割を担います。戦略は開発チームで具体的なアクションに落とし込まれなければ成果につながりません。そのため、EMには戦略を正確に理解し、開発チームの状況やリソースに合わせて適切な形に変換し、伝える能力が求められます。
例えば、収益性向上を目指す戦略の場合、それを実現するために開発プロセスの効率化や技術的負債の解消を提案することがEMの役割です。ただし、これらの施策が単なる業務改善に留まらず、経営戦略にどう貢献するのかを具体的に示す必要があります。例えば、技術的負債の解消が新機能のリリーススピード向上やユーザーへの提供価値にどうつながるかを明確にすることが重要です。
また、開発チームで得た知見や進捗を経営層にフィードバックし、戦略の改善や適応を促すこともEMの重要な役割です。この双方向の橋渡しにより、経営戦略が開発チームでより実効性を持つ形で機能し、成果を最大化することが期待されます。
EMとしては、チームやプロジェクトの成果を経営戦略にどう結びつけるかが重要です。そのためには、OKR や KPI といった目標を設定し、成果を定量的に追跡することが求められます。これにより、チームの取り組みが経営全体の目標達成にどう貢献しているかを明確にできます。
例えば、新しいプロダクトのリリースが売上やプロダクト指標にどの程度寄与するのかを示すことで、経営層の意思決定をサポートできます。実行が遅れている場合には、その原因を分析し、具体的な改善策を提案することが必要です。課題が技術的な問題に起因する場合もあれば、リソースの不足や目標設定のミスマッチが原因である場合もあります。これらを迅速に特定し、チームと連携して修正を進めることが、戦略目標を確実に達成する鍵となります。
また、技術的な成果を経営層が理解できる「経営の言葉」に翻訳するスキルも不可欠です。システムの安定性向上を単なる「技術的な改善」として伝えるのではなく、ユーザーへの提供価値の向上や収益増加にどう繋がるのかを説明することが重要です。このように、技術と経営を結びつける視点がEMには求められます。
経営戦略に基づいた成果を出すためには、短期的な施策と長期的な目標のバランスを取ることが重要です。短期的には技術負債を解消し、開発チームの効率化や即時的な価値提供を図る一方で、長期的には新規事業の基盤を構築し、組織全体の競争力を強化する、といったアプローチが求められます。
このバランスを取るには、各施策が短期・長期のいずれの戦略目標に貢献するのかを明確にし、優先順位を設定することが必要です。また、プロジェクト終了後には、成果が戦略目標にどの程度寄与したかを振り返り、成功と失敗の要因を分析する仕組みを整えることが大切です。この振り返りを通じて、次の戦略や施策の精度を高めることができ、持続的な成果の拡大につながります。
EMは、経営層とのコミュニケーションを通じて、戦略目標と開発チームの進捗をすり合わせる役割を担います。定期的なレビューを実施し、戦略目標の達成状況を報告することで、次に優先すべき事項を経営層と合意することが可能です。このプロセスにより、経営層の意図が開発チームに正しく伝わり、開発チームでの施策が全社の目標と一貫性を持つようになります。
さらに、経営層だけでなく、チームメンバーにも戦略を共有することが重要です。EMは、メンバーが自分のタスクが全社の目標にどのように貢献しているかを理解できるように説明し、全体目標に向けた一体感を醸成します。このように、戦略を上下に橋渡しする役割を通じて、EMは開発チームと経営の両方をつなぐ重要な存在として機能します。
EMは、経営戦略を開発チームで実現する「橋渡し役」として、単なる管理職以上の役割を担います。経営層が描く戦略を開発チームの具体的なアクションに落とし込み、成果を経営戦略に結びつけることが求められます。また、開発チームの知見を経営層にフィードバックし、戦略を適応・改善することで、戦略と推進のギャップを埋める重要な役割も果たします。この双方向のコミュニケーションを通じて、EMは組織全体の目標達成に貢献する存在となるのです。
本ストーリーが、EMとしての役割を再確認し、より実践的なアプローチを考えるきっかけになれば幸いです。