こんにちは。コーポレートの仁位(@niieee23)です。
働き始めて7年が経ちますが、今までキャリアの前半は監査法人で会計監査、後半は事業会社(未上場会社で1年、上場会社で2年半)で経理として働いてきました。
上場会社は会計監査を受けることが必須なので、上場会社の経理として働く上では監査法人での監査経験がすごく役に立ちました。これは監査法人のときも同様で、クライアントに監査法人出身者がいると監査がやりやすいなと思うことはしばしばありました。
その理由を考えると相手の手の内がなんとなく分かっておりスムーズに事前準備や対応ができるからだと思っていたのですが、実際に経理実務を経験し監査対応をしていると、手段に対する理解より、アプローチに対する理解の差が要因としては大きいと感じるようになりました。
そこで監査も経理も経験した身として、自分が考える財務諸表に対するアプローチの差を上場会社を前提として書いてみたいと思います。
監査人「このくらいのミス気付けよ。社内でちゃんとレビューしてんの?」
経理「質問のセンスないよな。本当にうちのビジネス理解してんの?」
何となく監査人と経理はお互いに上記のような不満を抱きがちだと思います。このような不満が出てくる理由と考えるとともに、より建設的な連携がとれるようにウォンテッドリーで行っている取組を紹介していきたいと思います。
スタートの違い
財務諸表を作成する場合、作成の根拠条文は会社法、法人税法、金商法等です。これらの条文に従い一般に公正妥当と認められる企業会計の基準に準拠して財務諸表の作成を行うことが経理の仕事の1つです。
では財務諸表の作成とはどういうことでしょうか?
具体的にはBSやPLの作成がそれにあたりますが、抽象化すると”「会計」というツールを利用して「企業活動」を「数字化」すること”と言うことが出来ます。
したがって経理の財務諸表に対するアプローチは、スタートに企業活動があり、財務諸表の作成そのものがゴールです。ゴールに辿り着くために、どれだけ網羅的かつ正確、迅速に企業活動に関する情報を収集できるかが重要であり、それが経理の評価ポイントでもあります。
一方で監査の目的は財務諸表が適切か否かについて意見表明をすることです。
財務諸表が適切か否かとは「財務諸表が企業活動を適切に反映しているか」を判断することと同義です。つまり監査人は”「数字化」された結果を「会計」というツールで紐解いたとき「企業活動」を適切に反映されているか”の視点で財務諸表にアプローチしており、財務諸表がスタートになります。
「企業活動」が適切に反映されているかの確証を得るためには、大きく「全ての企業活動が財務諸表に反映されているか」と「企業活動に対して適切な会計処理が行われているか」の2点が重要で、特に後者を担保する意味合いでもに会計監査は公認会計士の専門業務とされていると理解しています。
経理の弱みと監査人の弱み
ここで問題となるが「企業活動」に対する情報の非対称性です。
経理としてその会社の中で働いている人間と複数の会社を担当している監査人では、残念ながら「企業活動」に対する理解が違うのが現実です(もちろん監査人も経営者とのディスカッション等を通じてここに対する理解を深めていますが、現場のメンバーレベルで考えると圧倒的に経理側の方が理解が深いと思います)。
その結果経理の視点からは「ビジネスに対する理解が足りない」と監査人に対して不満を抱きがちです。
それでは経理がすべての面で優っているかというと必ずしもそうではありません。経理は「企業活動」をスタートとしているのでそこへの理解が深い半面、ゴールである「財務諸表」そのものに対するアプローチが弱くなる傾向があると思います。
どうしても数字を作るほうに力をかけすぎて、できあがった数字を確認するまでは手が回らなかったり疎かになりがちです。
またちゃんとできあがった数値を分析して確認しているという会社であっても、それを四半期単位でもやっているかは地味に重要なポイントです。
取締役会の報告に向けて月次の数字を正しく分析し報告することはやっていても、四半期は月次の積み重ねという整理の上、改めて詳細な分析はしない場合もあるかもしれません。もちろん月次が合っていれば四半期も間違うことはないという理論に一定の整合性はありますが、現行の金商法上は投資家に四半期の数値を開示することが求められます。
役会の報告に向けて月次の数値を分析/確認しているのであれば、市場に出す四半期の数字についても同程度の分析/確認を行うことは数字を作成した者の責任とも言えます。
監査対応における取組
これまで監査人は経理に比べると企業活動に対する解像度が低いということ、そして経理は財務諸表そのものに対するアプローチが弱くなりがちという2点を述べました。
この違いがお互いに「何でこれができてないんだ?」と感じる原因だと思うのですが、これらの違いを認識し対応することでお互いのフラストレーションを減らすことが可能です。
そこで上記を踏まえた上でスムーズに会計監査を行うためにウォンテッドリーで実施している取組を紹介したいと思います。
①監査対応の窓口の統一と振り分け
②四半期レビュー(期末監査)前の概況説明の実施
③四半期の数値に対する分析の実施
④経理チームの組織力を高める(内部統制の強化)
まず①監査対応の窓口の統一と振り分けですが、基本的に監査法人とのコミュニケーション(日程調整や依頼資料のやり取り、質問の窓口等)は一旦私がまとめて引き受け、その上で各担当者に振り分けるようにしています。
監査も数年やっているとお互いのチーム構成が分かり、何となくそれぞれのメンバー間でコミュニケーションをとることも可能になってきます。ただし監査チームのメンバーはちょくちょく変わることが多く、その都度またリレーションを築くのは大変です。
窓口を統一することで監査チームの方からすると「とりあえず何かあれば仁位に連絡すればいい」と思ってもらえる(そう自分では思っている...)のと、質問相手のミスによるコミュニケーション工数の増加を防ぐことができます。自社の体制や分担に対する理解は当然こちらの方があるので、一旦一人に情報を集約するこのような形が最適だと考えています。
とはいえ全ての質問が集中するのは辛いです。そのため実施しているのが依頼資料リストへの担当者の記載です。監査やレビューの際には毎回監査に必要な依頼資料のリストを頂くのですが、リストを頂いた後にこちらの担当者の名前を追加し返送しています。こうすることで資料に関する質問等については監査人も担当者と直接することができるようになり、細かいやり取りは当事者間で解決することが可能です。
続いて企業活動に対する情報の非対称性の解消のために行っているのが、②四半期レビュー(期末監査)前の概況説明の実施です。
実際にレビューや監査に入って頂く初日に概況説明を実施して、対象期間の概況を共有するようにしています。こちらから説明をすることで、解像度の違いにより生じる質問はかなり減りますし、その場で気になった点を質問して頂くことで改めて質問を受ける工数もなくなりました。社外の方に説明を行うのは貴重な経験でもあると思いますし、ビジネス理解がある前提で説明できるのであまり負担にはならず進めることがきます。
また概況説明の実施をするのに不可欠なのが③四半期の数値に対する分析の実施です。
概況説明は基本的に四半期の数字に関して行うため、事前にしっかりと分析をする必要があります。四半期単位で改めて数値を分析することで、決算整理仕訳を加味した四半期財務諸表が適切に作成されているかどうかを経理側でも再確認することができます。
そして何より大切なのが④経理チームの組織力の強化(内部統制の強化)です。
具体的にはタスク管理の強化や属人化からの脱却、暗黙知の形式知化等があげられます。これらについては監査対応の上で直接何か作用するわけではないですが、チーム内で常に正確な数字を作成する仕組みを整えることは結果として監査人の監査工数を減らすことにつながります。それぞれの取り組みについて詳しく書くとかなりのボリュームになってしまうので、また別の機会に紹介できればと思います!
まとめ
実際に監査対応をされている方からすれば当たり前のことばかりだったかもしれませんが、経理と監査人の財務諸表に対するアプローチの違いとそこから生じる問題を解決するための取組を紹介しました。
アプローチの違いはあるものの「適正な財務諸表を世に出す」というゴールは同じはずです。それなのに何となく敵対視しがちな雰囲気があるのが、両方の立場を経験した者としては少し残念な部分ではあります。
大事なのはゴールに向けて、お互いの長所をどう利用するかです。
例えば仮に何かしらのエラーが監査人により発見された場合、「言われたから直す」で終わるのではなく「どうやってそのエラーに気付いたか教えてもらう」までやらないと意味がありません。もちろん監査人の立場上、詳細な監査手続を教えることはできませんがエラーに気付く方法は教えてくれるはずです。そこのフォローができない監査人は会社にとってあまり価値がないとも言えます。
今回は経理側からの取組が中心になりましたが、昨今の監査難民が増えている状況を鑑みると、お互いに効率的かつ効果的な業務関係を目指して取組むことが今後より大事になってくるのかなと思います。
最後まで読んで頂きありがとうございました!
コーポレートでは今採用も行っているので、よければ話を聞きに来きて下さい~