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ChatGPTは「優秀な助手」人間の役割は「コミュニケーションとディレクション」。TAMのAI専任チームが考えるこれからの仕事とキャリア
「ChatGTP」などの生成AIや大規模言語モデル(以下、LLM:Large Language Models)の登場によって、現在進行形でビジネスに大きな変化がもたらされています。しかし、それらの利用にはセキュリティや運用コストといった課題が伴うこともまた事実です。
そこでデジタルエージェンシーTAMは、AI活用のR&D専任チーム「TAM AI Lab」を立ち上げました。AI技術を正しく見定め、社内外に向けたノウハウの共有や既存ビジネスへの活用を推進し、新しい価値提供を目指しています。
今回は、「TAM AI Lab」リーダーでAI専業エンジニアの佐川史弥さんと、チームメンバーでECチームのエンジニアでもある米本和生さんに、チーム設立の背景とAI活用の可能性、AI時代に求められるキャリアの考え方を聞きました。
「代表に直談判」AI Labの成り立ち
——「TAM AI Lab」は、TAM初となるAI専任チームですね。設立のきっかけを教えてください。
TAM AI Lab リーダー 佐川史弥 プログラミング教育・機械学習・Webデザイン・フロントエンド開発の経歴を経て現在はAI活用のR&Dに従事。生成AIの魅力に取り憑かれ、再びAIの道に戻る。Reactが好き
佐川さん:きっかけは、昨年(2022年)の夏にリリースされた「Midjourney」でした。Midjourneyは、ユーザーが入力したキーワードや文章に基づいてリアルな画像を生成するサービスです。絵を描く行為はクリエイティブの極地であり、人間にしかできないと思っていましたが、表現内容によっては短時間でできるようになってしまいました。
佐川さんがMidjourneyで作成した画像
続く12月の「ChatGPT」の登場によって、まだ正確性に課題はありますが、文章やコードの作成もできるようになりました。こうした技術によって、これからのビジネスは大きく変革すると感じたんです。さらに、私たち自身の仕事や働き方を変えていく必要性も感じ、チーム設立に至りました。
米本さん:僕も、画像生成AIが出たあたりから、実際に使ってみて、AIの可能性をものすごく感じていました。同時に、自分自身の働き方やキャリアを見直し、環境の変化に適応していかなければならないという危機感も感じていたんです。
TAM ECチーム(OHTAM)CTO / TAM AI Lab チームメンバー 米本和生
カナダでの留学経験を経て、教育業界からウェブ業界へと転身。主にECサイトの構築、EC関連ツール開発、AIを活用した業務改善やノウハウ共有に注力している
——AIに可能性と危機感の両方を感じたんですね。チームを立ち上げる経緯はどのようなものでしたか?
佐川さん:3月1日の朝、「OpenAIがChatGPTのAPIを公開した」というニュースを見てすぐ、当時所属していたTAMTO(TAMの東京チーム)代表の角谷さんに相談を持ちかけました。「来月からAIをやらせてください」と。
エンジニアとしての仕事との兼ね合いもあったのですが、僕は絶対にAIをやりたかった。他の会社に転職する選択肢もありましたが、TAMの人や文化がすごく好きなので「貢献するならここで」と考えていたんです。
TAM代表の爲廣さんにも直談判しました。その後、角谷さんと3人で話し、専任チームの設立が決定。普通の会社だったら、「社長に直談判するなんて」と反感を買っていたかもしれません。個人のチャレンジを応援してくれるTAMの文化があったからこそ、スピーディーに実現できました。
——米本さんは、当時の佐川さんの様子をどう見ていましたか?
米本さん:とにかく熱量がすごかったですね。もともと佐川さんは、AI技術のバックグラウンドがあるので、その知見と熱量が噛み合って、ものすごいスピード感で物事が進んでいきました。そんな佐川さんに感化され、僕だけでなく社内の多くのメンバーがAIに関心を寄せるようになりました。
AIの可能性を探り、クリエイティブの知見と掛け合わせる
——TAM AI Labの直近の動きを教えてください。
佐川さん:まずは、AI活用の可能性を探る勉強会を開催するなど、社内外でのナレッジ共有を進めています。TAMは自由な風土があり、個人が主体性を持って働くことをよしとしていますが、今回の変化はかなり大きなものなので、僕たちが先陣を切って、みんなで考える場を作ろうとしています。
と同時に、既存のWeb制作事業のワークフローのなかにAIを差し込んでいく取り組みも始めています。例えば、ChatGPTを使ったアイディエーションや、要件定義からのワイヤーフレームのひな形作成、ワイヤーフレームからHTMLの骨子を作るなど。
そのとき、人間にとって重要となるのは、ワークフローの言語化です。
AIにできるのは「元となるデータを変換し、新しいデータを生み出すこと」。ChatGPTに当てはめるなら、入力されたテキストから新しいテキストを生み出すことを得意とします。つまり、AIやChatGTPからすれば、私たち人間の仕事は一種の「データ入力」なんです。
私たちの実作業に目を向けてみると、例えば、Web制作において、ヒアリングシートから要件定義を書き起こす仕事は、いわば「テキストから新しいテキストを生み出す作業」であり、まさにChatGPTの得意とするところ。このように、AIの作業を「データ変換」として見てみると、「ここにAIを導入できそうだ」「そのためにはこれを言語化しておく必要がある」と気づくことができます。この気づきを得たり、部分的な適用をするため、ワークフローを言語化しておく必要があるのです。
しかし、ただ任せればいいというわけでもなく、作業の「指示」も欠かせません。ChatGPTは、指示の仕方によって成果物のクオリティが大きく左右されるからです。巷で「プロンプト・エンジニアリング」と呼ばれているところですね。
したがって、まずは「データ入力」という起点からワークフローを作り、その工程を細かく言語化することが、AIを導入し、効率的に活用する第一歩だと考えています。「デジタルエージェンシーとして積み重ねてきたクリエイティブの知見とAIをどう掛け合わせるか」、それをお客様と二人三脚で考えていきます。
人間の役割は「コミュニケーション」と「ディレクション」
——AIが急速に進化するなか、これからの人間の仕事について、どのように考えればいいでしょうか。
佐川さん:「かなりレベルの高い判断力と実行力を備えた、優秀な助手が手に入った」と考えると、分かりやすいかもしれません。その助手は、疲れもせず、ストレスを感じることもなく、何度も同じ作業を繰り返してくれます。しかも、人間の能力に勝る部分もある。
例えば、「自由な発想」は人間よりも得意だと思います。人間はどうしても過去の経験や理性、常識などにとらわれて、思考にブレーキがかかってしまいがちですが、AIなら、前例に縛られず、既存のアイデアを組み合わせることで、人間が考えつかないアイデアを生み出すことが可能です。
「ペルソナの設定」などは、その面白い活用法です。「設定されたペルソナだったらどうするか?」という行動経路を、私たちは無意識に自分たちの理想に近づけてしまいます。ChatGPTに「あなたがこのペルソナだとしたら、どう思うだろうか?」といった投げかけをすることによって、思わぬ洞察を得られることがあります。
米本さん:人間が処理できない大量のデータから、関連性を見つけ出して分類することも、AIなら可能です。
少し専門的な話になりますが、「Embedding」と呼ばれる処理によって、文章や単語、文字などをベクトル表現に変換することができます。すると、それらの類似性や相違性を、三次元空間における“近さ”として可視化することができるんです。
例えば、大量の動物の名前とその解説を含むリストデータをグルーピングし、可視化する課題があったとします。人間だけでこれを行うと、ポストイットに情報を書き込み、ホワイトボードに貼り付けて、意味的に近いものをまとめるなどといった作業になるでしょう。データ量が多ければ多いほど、その作業は骨の折れるものになります。しかし、AIを使えば、これらの作業を短時間で行うことができます。
この技術を使えば、僕が担当しているECの領域なら、お客様からの大量のフィードバックから傾向を見いだしたり、レコメンドの精度を高めたりすることができます。
——よく聞かれることですが、AI時代に人間が価値を発揮すべきことはなんだと思いますか?
佐川さん:ライブパフォーマンスのように身体性を伴う仕事や、五感のなかでも嗅覚・触覚を扱う領域の仕事については、まだ人間しかできないと思います。ただ、パソコンを使ってインターネット上で完結できる仕事のほとんどは、AIに代替されていくかもしれません。
そう考えると、人間が行うべき大事な仕事は、やっぱり「コミュニケーション」ではないでしょうか。論理的に話を整理するだけではなく、相手の気持ちに共感し、寄り添う力がより重要になります。達成すべき目的や解くべき課題を見つけるために、身体性や感性、五感をフルに活用することが人間の役割だと思います。
米本さん:それに加えて、「ディレクション」も重要ですよね。
AIにアウトプットをしてもらうにしても、素材となるデータを正しく渡して、正しく指示していく必要があります。正しくディレクションできなかった場合、例えば、「世界の歴史について教えて」というプロンプトは広範すぎて、AIはどの時代や地域、どのような観点から説明すべきかを判断できません。
また、自分の仕事のプロセスやコツなど、言語化したものをどのくらい「ストック」しておけるかも大切です。
自分の価値観と向き合い仕事を選択できる時代に
——人間同士の「コミュニケーション」で課題を設定し、AIによる解決策の実行を「ディレクション」することが仕事の中心になりそうだ、と。キャリアも変わっていくと思いますか?
佐川さん:キャリアはますます多様化していくと思います。非エンジニアでもAIでコードを書けるようになりつつあるように、専門性の枠を超えやすくなっている。だとすれば、会社や組織も、個人が自分の意思で自由に仕事を選択できるように、役職や役割でパキッと分けるのではなく、より余白を持てるようになるといいと思います。
米本さん:そこで、個人にとって重要になるのは「モチベーション」ですよね。AIでアイデアを実現することがすごく容易になったからこそ、「自分がなにをしたいのか」「なぜそれをしたいのか」を明確にし、すぐに行動に移せる人が活躍できる。
佐川さん:「どのように」実現するかは、技術の変化によって変わっていきます。だからこそ、「なにを実現したいか」「なぜ実現したいか」といった、自分の根底にある価値観と向き合うことが大切です。
——自分の内面にあるものは、AIには代替できませんからね。最後に、TAM AI Labにかける意気込みを教えてください。
佐川さん:このチームのミッションは、TAMのスローガン「勝手に幸せになりなはれ」を引用して、「勝手に幸せになれる土壌を作る」としています。
AIの隆盛により激動の時代に入りました。産業革命に近いものが現在進行していると言っていいでしょう。これまで「価値」とされていたものが揺れ動き、次の新しい価値が生み出されています。ですから、今はいわば、進むべき道の地盤が弱まっていたり、悪路だらけになっている状況だと思います。
TAMは自走できる人材ばかりですが、地図もない状態で道を誤ってしまえば、ビジネス上のコストが大きく嵩んでしまいます。したがって、AIチームでは新しい道を積極的に踏み抜き、ある程度の地図を作り、必要であれば峠を越える備えを全社員と共有していきたいと考えました。
それでも、TAMが、各個人が「勝手に幸せになれる」よう、成長する組織であることに変わりはなく、僕たちから「こっちに来い」という強い投げかけはしません。環境が大きく変化していくなかで、どう幸せになるのか、どう価値を提供していくのか、正解はないのかもしれませんが、TAMのメンバー一人ひとりが幸せである状態を創っていくうえで寄り添える存在になりたいです。
米本さん:AIとTAMの文化の相性は、すごくいいと思います。AI時代は、より「勝手に幸せになりやすい時代」。今のメンバーやこれから入社してくるメンバーが、AI時代に活躍できるよう貢献していきたいと思います。
[取材・文] 佐藤紹史 [編集] 岡徳之 [撮影] 藤山誠、渡辺弘幸