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デジタルエージェンシ―TAM入社5カ月目の岸本拓己さんは、1997年生まれのZ世代。在学中の居酒屋経営、大学中退、フィリピンでのインターンとユニークな経歴を持つ上、自らバイセクシャルであることを公言し、首元には花のタトゥーが光っています。
今回はそんな岸本さんと「職場の多様性」について考えます。年齢、性別、容姿、価値観など、もとよりさまざまに異なるメンバーが協働し、各々の力を思う存分発揮するインクルーシブな組織とはどのようなもので、どうすれば作れるでしょうか・・・?
「リバースメンタリング」で世代の違いを克服
ーユニークな経歴の岸本さんですが、今はどんなお仕事を?
今、所属しているTAMグループの広告チームでは、クライアントと広告キャンペーンを立ち上げて、一緒に売り上げを増やしていく仕事をしています。
コロナの影響で、従来の対面での営業方法が通用しなくなってきている中、顧客のほうから問い合わせしてきてもらえるようなインバウンドな営業の仕方が、クライアントも、また広告チーム自身にも求められています。
そこで今は、広告チームを「インフルエンサーの起用やZ世代の動向把握に長けたデジタルエージェンシー」という側面から打ち出すべく、インフルエンサーとZ世代が起点のコミュニティ形成に奮闘しています。
そうした仕事とは別に、最近は社内で「リバースメンタリング」をする機会がありました。
ーリバースメンタリング・・・?
リバースメンタリングは、年下の社員が「教育者」となり、年上の社員になにかを教えるという、これまでの社員教育とは真逆の発想のことです。
年下の社員が年上の社員に教える、というと、チャットツールの使い方みたいなITに関するお題を思い浮かべますが、それは第1フェーズ。リバースメンタリングには第1フェーズから第3フェーズまで「3つのレベル」がありまして。
第1フェーズはそういったITに特化したもの。ですが、第2フェーズではありとあらゆる分野について年上の人と年下の人が対等に「知識の交換」を行います。例えば、学校の教育方針を先生だけでなく生徒も一緒に話し合って決める、というように。
さらに第3フェーズでは「価値観と感覚の共有」を行います。例えば、Z世代の女性社員が「どうして男性って家にナプキンを置いてないんですか?」と先輩社員に尋ねたとします。これもある種、リバースメンタリングの始まりです。
日本企業で行われているリバースメンタリングの多くは第1フェーズでとどまっていて、第3フェーズまでやったという事例は、まだあまりありません。
ですが、海外に目を向けると、第3フェーズまでやることで年齢や経験にとらわれず、知っている人から教わり、自分と異なる価値観や感覚を理解しようとする「学びの姿勢」が磨かれると言われています。
先日のリバースメンタリングでは「Z世代の価値観」について、先輩社員の人たちに向けてウェビナー形式でシェアしました。
企業のダイバーシティー施策に感じる「危うさ」
ー職場には世代のほかにもさまざまな「違い」があります。そうした違いを内包するインクルーシブな職場を作るうえで、なにが大切だと思いますか?
例えば、ジェンダーやセクシャリティー。ここ最近、「ダイバーシティ」が叫ばれ、LGBTQの社員を支援しようとする施策を行う企業もありますが、中には疑問を感じるものあります。
というのも、大学時代、「LGBTQ推進団体」みたいなのがあって参加してみたんですが、いきなり「隣に座った人と自分のセクシャリティーについて話してみましょう」と言われたことがありました。
それにびっくりしちゃって。自分のジェンダーやセクシャリティーを公にする=アウティングするかどうかって個人の自由のはず。なのに、他の人がLGBTQなのかも分からない中で「話してみましょう」って。
これと同じことが、企業のLGBTQ施策にも起こっているかもしれない。個人にアウティングを促すのは、場合によってはハラスメント。それに、そもそも職場でなんでもかんでもさらけ出す必要はないんじゃないか、と。
僕自身もそれで失敗したことがあるんです。ゲイの友人に「アウティングしたほうが楽になるよ。だから言いなよ」って煽ったことがあった。そのときは心の底からそう思っていたんですけど、彼は違ったんですね。
彼のまわりには「(異性愛の性質を持つ)ヘテロセクシャルじゃない人とは距離を置きたい」という人も結構いたみたいで。そこで学んだんです、アウティングすることは必ずしもいいことではないと。
だから、会社が社員に、なんでもかんでも共有させようとしなくていい。その代わり、まわりにいる人は、相手のことを理解する姿勢、器の広さみたいなものを持ち合わせる必要があると思います。
寛容さとはなにか?『気にしない』には2種類ある
ー「相手のことを理解する姿勢」「器の広さ」というのは、「あなたがどんな人であっても気にしないよ」という寛容さのことですか?
『気にしない』と言う人は多いのですが、その『気にしない』は2種類に分かれると思っています。言ってみれば、「本物の寛容さ」と「偽物の寛容さ」です。
例えば、仕事を頼みたい同僚が妊婦だったとして、妊婦に気遣うべきことをきちんと知った上で『気にしない』というのは「寛容さ」。ですが、そうした気遣いを知らないにも関わらず『気にしない』のは、ただの「無関心」です。
同じ『気にしない』でも、無関心で冷たい『気にしない』と、能動的で温かい『気にしない』とがある、ということ。職場は後者で、なにかをアウティングする必要があるときに安心して言える心理的安全な場所だといいな、と思います。
ーそういう意味で、TAMはどんな職場ですか?
TAMでは、面談のときに自然な形でタトゥーのことや、バイセクシャルであることをアウティングしました。でも、個人的なことは本当に必要最小限で、質問攻めにされるようなこともない。
タトゥーやバイセクシャルであることで「ジャッジ」されたこともないです。タトゥーがあるからクライアントのところに連れていけないということはないし、あくまで僕を「人」として、個人の能力と人間性を見てくれていると感じます。
「人対人」の関係で仕事ができるようになると、自分でも想像もしなかったアイデアが生まれる感覚があります。「なにかいい案ない?」と聞かれて、無用なジャッジをされないと分かっていたら、「どんどんアイデアを口に出してみよう」と思えますよね。
株式会社TAM 広告チーム コミュニティマネージャー 岸本拓己
山口大学在学中にフランス文学を専攻し、性事象などに関心を寄せる。在学中に同大学同級生と二人で飲食店を立上げ、大学を中退。フィリピンへのインターンを機に店舗を手放し、そののちTAMへ入社。いつかは全身をタトゥーで埋め尽くしたい。
[取材・編集] 岡徳之 [構成] 山本直子 [撮影] 三浦千佳