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「ななめの関係」が社員の自己実現を後押しする。TAMの社内キッチンが組織にもたらしたもの

昔で言えば「たばこ部屋」、最近では会社の飲み会など、部署や職能を超えた「ななめの関係」を生み出すオフ・コミュニケーションの場が、生産性や組織の透明性といった観点から失われつつあります。

たしかに、仕事に関することなら上司・部下の「たての関係」で話せばいい。しかし、将来の夢やキャリアの悩みについて話したいとき、その相手は「ななめの関係」にある人のほうが適しているかもしれません。

クリエイティブテック・エージェンシーTAMで働く三内徹さんは、そんな「ななめの関係」を社内にもたらすべく、リノベーションされたオフィスに「キッチン」を導入し、部署や職能が異なるメンバー同士のコミュニケーションを促進しています。

いま多くの職場から失われつつある「ななめの関係」が組織にもたらす効用と、そうした関係づくりを促がすTAMの企業カルチャーについて、三内さんに話を聞きました。

会社の成長・生産性向上で生じた「副作用」

私は今、TAMでUXデザインチームのリーダーをしています。具体的には企業のWebサービスの設計や開発、製品のプロトタイプを作ること。

そのかたわら、今年1月ごろ、大阪オフィスのリノベーションを担当しました。過去に自宅をリノベしたことがあって、そのノウハウを活かせるだろうと「私がやります」と手を挙げたんです。

特に力を入れたのが「キッチン」です。リノベのいちばんの目的は、社員がより気持ちよく働ける、自信が持てる職場にすること。そのためには福利厚生を充実させたり、社内コミュニケーションを活性化させたりする必要があるだろうと思ったんです。

TAMは創業27年目、会社の成長とともに社員数も増えています。普段は大阪オフィスで働いているのですが、2カ月に一回くらい東京オフィスに行ったとき、以前なら「社員なのに知らない人」は全体の2割くらいで、オフィスですれ違ったときに挨拶をすればよかった。

それが最近、知らない人が半分くらいになり、なんだか落ち着かなくなってきた感じがしたんです。

僕がTAMに入社したのは30代前半のころで、当時在籍していたのは20代と30代の2世代だけでした。それが今では、僕も含めてチームリーダーは40代になり、3世代が一緒に働く環境になりました。正直、若い人とフラットに接するのは簡単ではありません(苦笑)。

世代のほかに、業務効率化の副作用もあるかもしれません。Slackやビデオ会議など、オンラインツールを多用するようになり、対面でコミュニケーションする機会はグッと減りました。社内体制もカンパニー制を採用しているので、他のチームのことを気にしなくても仕事は進んでしまうというのもあります。

たしかに、それで生産性は向上したかもしれない。だけれど、だんだんと会社での居心地に違和感を覚えるようになって、大阪オフィスをリノベーションするときに、「みんなが交流できる場所を作ろうよ」と提案したんです。

人を知り、つながる。キッチンは「関係性の土壌」

それで、大人数でまわりを囲めるアイランドキッチンを作りました。横にはダイニングテーブルを置いて、みんなでくつろぎながら食事をできるように。大学時代、映画制作をしていて、ロケ地でよくみんなで料理をして食べていたんです。そういう場が昔から好きなんですよ。

完成して、すぐに人が集まるようになりました。料理好きな人が主にキッチンを使うんですが、自分の分だけ作るのはもったいないから、みんなにも振る舞ってくれる。例えば、「カレーを作ります」とSlackに書き込んで、返信が早かった人順で食べられる。

誰でもいつでも使えるので、梅ジュースやクッキーを作ったり、コーヒーを淹れたりする人もいます。食事をすると会話が生まれますよね。「なに食べてるの?」「今日はなにを作ったの?」「コーヒー好きなんですか?」って。次第に社内に「知っている人」が増えていくんです。

食材の費用や片づけなど、明確なルールは設けていません。社内イベントのときは経費で作りますし、そうでないときは、食材費分くらいのお金をもらって振る舞っているようです。

比較的、社歴が短い人ほど使ってくれていますね。社内に居場所を作るいいきっかけになっているんだと思います。僕が思うに、こうしたオフ・コミュニケーションの場は、人を知り、より深くコミュニケーションしていくための「関係性の土壌」

キッチンでたまたま知り合って、お互いがどんな仕事をしていて、どんなスキルを持っているのかを知り、ゆくゆくは仕事の受発注やコラボレーションにつながっていけばいいなと。

「やりたいこと」に手を挙げられる人を増やす

「ななめの関係」を作ろうとするとき、会社によってはイベントや飲み会を社内行事として催すところもありますが、それは好きじゃないんです。トップダウンでの社内交流なんて、今の若い人たちからしたらドン引きでしょう?(苦笑)

だから、片づけも当番制にしていないし、作りたい人が、作りたいものを作ればいい。「キッチンを使ってなにをやりたいですか?」と聞いてまわるうちに、社内に「カレー部」が生まれたりもしました。そうやって、誰かが好きに始めることで、輪が広がっていけばいいなあと。

これはTAMの働き方にも通じることで、うちでは強制参加だとか、「仕事だからやろうね」とかは通じないんです。僕らは自分たちのことを、それぞれ個性や得意分野があって、自分がやりたいことをやるために集まっている人たちだと思っているので。

だけど、その個性を生かすには多少なりとも「つながり」が大切なはず。小さな輪の中に閉じこもっていると、生かせないことってあるから。

デザイナーであれば、「あの人はこういうことが得意だよね」と社内で共通認識を持ってもらえれば、その才能は他のチームのなにかのプロジェクトでも生かされるかもしれない。社内の「ななめの関係」が一人ひとりのキャリアを後押しすると思うんです。

そうやって、キッチンで生まれたつながりの先で、「やりたいこと」に手を挙げられる会社の土壌がもっと肥えていけばいいなと。

思うに、どんな会社であっても「やりたいことがある人」が少ないわけじゃなくて、手を挙げられる場所が少ないだけ。「ここなら手を挙げられるけど、ここでは挙げたくない」ってあるじゃないですか。

社長の爲廣さんもよく言うように、会社はやりたいことをやるための場所。そのためにキッチンだって使ってくれたらいい。

そうやって「ななめの関係」が生まれて、「やりたいこと」に向かえる人が増えていけばいいなと思います。

株式会社TAM UX Designチームリーダー プロジェクトマネージャー 三内徹
2008年よりTAMに在籍。大阪ガス、京セラなどのコーポレートサイトやアプリのプロジェクトを担当後、2016年からはUX DesignチームとしてWebサービスや製品のUIデザインの設計から開発までを担う。ユーザー行動の図解や課題抽出、プロトタイプによる仮設検証など、UX(ユーザー体験)を重視したプロジェクトの設計・遂行を得意とする。
[取材・文] 水玉綾 [企画・編集] 岡徳之 [撮影] 藤山誠​
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