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話題のテントサウナブーム、火付け役に聞いた「ない市場」のつくりかた

改善、効率化・・・ではなく、新しい価値、イノベーションを創出するということは、それまでに「ない市場」をつくるということ。しかしそれはとても難度が高い。どうすれば——? 今回はTAMの新規事業で、実際にない市場を開拓した「とあるブーム」の火付け役に話を聞きます。

そのブームとは、近年情報感度の高いビジネスパーソンの間で “なぜか” 盛り上がりを見せている「テントサウナ」です。全国各地で草の根的にイベントが開催され、多くのメディアで特集が組まれるなど、徐々にサブカルチャーの一つへと昇華されつつあります。

実はこの「テントサウナ」ブームの火付け役がTAMにいるのです。それが動画制作チームに所属する藤山誠さんと林由利子さん。テントサウナとは縁遠い人たちをも巻き込んでの盛況ぶりは、どのようにしてつくられたのかーー。

藤山さん、林さんへのインタビューを通じて、新規事業の秘訣自分の「好き」を仕事に変えるキャリアの築きかたを探ります。


「大自然と一体化」男女問わず、楽しむ、ととのう、テントサウナの魅力

ー最近よく聞く「テントサウナ」ブームの火付け役がTAMのお二人だったとは・・・! まずは、テントサウナについて教えてください。

藤山誠(以下、藤山)さん テントサウナのコンセプトは、「大自然との一体化」です。湖畔や河原にテントサウナを立てて、温まってから湖や川にダイブする。暑い、冷たいの感覚を繰り返すと、自然との境界がなくなって、一体化していく感覚になるんですよ。これがすごく気持ちよくって。

水さえあればどこでもやれるので、海も川も湖、街中でもプールがあればできるんですよ。猛暑の時期は別ですが、寒い真冬でも楽しめます。それがまたいいところ。

サウナは苦手だけど、テントサウナは好きっていう人が少なくないんですよ。サウナって乾燥して喉が痛くなるし、90度とかの高温がずっと一定に続いて、あまりにも暑い。だけど、テントサウナは、薪を入れて、熱い石に水を掛けて、白樺の葉っぱで蒸気を発生させるので、すごくいい匂いだし、喉が痛くならない。70度くらいなので、心地よくてずっといられるんです。

水着で入るから、男女一緒にお酒を飲みながら楽しめるのも、いいところ。だいたい昼から始めて、日が落ちる夕方くらいまで楽しむことが多いですね。あるいは、一泊することも。サウナに入って、休憩して、ご飯食べて、音楽聴きながらまた入って、深夜も入りたい人は入って、一泊して、また次の朝入って・・・解散みたいな。サウナがメインのキャンプ、みたいな感じですね。

ーそもそも「テントサウナ」を知り、熱中されたきっかけはなんですか?

藤山 『サ道』という、サウナを題材にした漫画ですね。作者のタナカカツキさんとアプリを作る仕事で知り合って以降、僕らの師匠として慕っています。

林由利子(以下、林)さん そう、そう。私もきっかけはタナカカツキさんの『サ道』ですね。知れば知るほど、サウナっていろんな見方があって面白くって、ハマってしまって。

実はサウナ文化って、世界中にあるんです。私たちがやっているのは、フィンランド式のサウナなんですけど、韓国とかメキシコとか。アメリカンインディアンにとっては、サウナは「スウェットロッジ」というスチームを使った儀式みたいになっていたりして、奥深さもあるんですよ。

それに、身体だけじゃなくて、精神的なものへの影響もあると言われていて。サウナ好きは、上がった後、「ととのう」っていう言葉をよく使うんですけど、これには2つの意味があるんです。整理整頓する「デザイン」の意味と、「チューニング」という意味。

普段は忙しくして、あらゆる情報でいっぱいいっぱいになっていても、テントサウナに入ると、「ああ、これだけをやればいいんだ」って思えるんですよ。新鮮な酸素がバンバン脳に行くことで、ストレスから解放されて、自律神経が「ととのった」って、言ってみればトリップ体験を味わえるんです。


本場のサウナを伝えたい——きっかけは二人の衝動

ーどんなきっかけで「テントサウナ」の活動をしようと?

藤山 サウナ雑誌のWebサイトをTAMで作ることになって、そのときに編集者の方と「テントサウナというのがあるんだよ」「へー、今度入らせてください」と話していたんです。そのことが、ずっと頭に残っていて。

今でこそサウナが流行っていますけど、当時はまだそんなことなかった、2016年ごろ。ちょうど、社長の爲廣さんから「なんか新しいおもろいことやらへんか?」と聞かれたときに、パーンとそれを思い出して、調べてみました。すると、僕らが知っているスーパー銭湯のサウナとはあまりにも違うことを知って…驚きましたね。

本場フィンランドのサウナは、大自然の中で、温まって、湖に飛び込む、爽快なサウナ。フィンランド軍がロシアとかに遠征に行くときに開発したから、見た目はミリタリーで、テント式。でも日本では、おじさんが砂時計を使って、乾燥した空気で喉を痛めながら楽しむみたいな、ちょっとダサいイメージで。日本のあれは、嘘のサウナだったのか——と。じゃあ、新しいサウナをみんなでやろう、って思ったんです。

林 日本のサウナって、男社会の閉鎖された空間みたいに感じるんですよ。男の人がガツガツ稼いで、疲れた身体を同僚と癒しに行く、サラリーマン文化というか。女の私にはあんまり関係のないものみたいに感じてました。だけどそれって今っぽくないし、サウナの本質を捉えられていないんじゃないか。本物のサウナを広めたいな、と思ったんですよね。

藤山 そう思った次の日には爲廣さんに提案するために、一日で「TENT SAUNA PARTY」のサイトをバーっと作りました。「PARTY」というネーミングには2つの思いがあって、1つは、みんなでやるということ。もう1つは、同じ志を持った人が集まれること。

爲廣さんに相談したら、「野外型のサウナ? なんやそれ。いいね」と上々の反応で。TAMには当時、動画制作チームがなかったので、毎回イベントの動画をつくってブログに上げていくし、テントサウナをきっかけにして映像の仕事をやっていきますと伝えて。そうして、自分がやりたいことと、会社がやりたいことが、ちょうど重なったんですね。

だから、TENT SAUNA PARTYは、サウナ好きのWeb映像デザイナーチームなんですよ。僕らはデザインもできるので、これならダサくない、新しいサウナを発信していけるだろうなって。

ーそこからは、どうやって他の人にも広めていったのでしょうか?

藤山 まずは、自分でネットでテントサウナを買ってみて、イベントを始めました。実際に動画をつくって、SNS・・・ Instagram、Facebook、それとホームページで拡散していきました。

2016年5月に始めた当初は、個人でテントサウナを持っている人すら、日本では3人しか僕は知りませんでした。当然、イベントという形でテントサウナを提供している人はいませんでしたね。

それから少しずつ人が増えて、琵琶湖で開催する公式イベントの参加者は今では毎回30人くらいいますし、僕ら以外のところでもテントサウナのイベントが開催されたりして、どんどん広がっています。

僕らも秋田県から大分県まで、毎週いろんなところに呼ばれていて。6月は毎週、7月8月は猛暑なので少し休憩して、9月からはまた毎週。フェスとか小さい音楽イベント、野外イベントでも声がかかったら、規模問わず全部行きますよ。滋賀県の小さな公園で開催された子ども会でもやりましたね。まだ実現していないけど、企業がスポンサーになって、経営者20人くらいで集まってサウナで討論会しよう、とかそういう話も出ています。

たくさんの人たちがテントサウナを好きになってくれて、そのおかげでいろんな分野の第一線で活躍する人と知り合うことも増えていて。 実は僕らの夢も叶ったんですよ。林さんは、タナカカツキさんと仕事がしたいという夢、僕は憧れのミュージシャンと出会いたいっていう夢。全部テントサウナがきっかけでしたね。

なぜブームに? 後押しした、火付け役のメンタリティ

ーすごいですね。テントサウナにハマる人はどんな人が多いんですか?

 年齢問わずいろんな人がいますが、特にクリエイティブ系の仕事をされている人たちが多いかな。私、イラストレーターの仕事もやっているんですけど、テントサウナをやり始めてからいい絵を描けるようになったんです。たぶん、気持ちがおおらかになったから。

ずっと一人で閉じこもって仕事をしていると、考えが狭まってしまって、感情がネガティブに傾いたりするんです。「周りがわるい」みたいな愚痴が多くなったり、自分が作っているモノがいやに思えたり。

でも、湖にダイブして、プカプカ浮いていると、「別に、世の中の人に評価されなくてもいいよね」みたいに、いい意味で肩の力が抜けるんですよ。自分が描くイラストにも、「この線とかタッチ、意外とわるくないんじゃない」って思えるようになった。

経営者の方も結構いらっしゃいますが、服を脱いで裸になることで、フラットな自分に戻れる感覚があるんじゃないですかね。肩書きとか、会社で背負っている責任感とか、考えないといけない問題を一旦手放せる。一人の裸の人間になって、心が開放的になるんだと思います。

ーなぜ、テントサウナは広がったと思いますか?

藤山 なんででしょうね。でもたぶん、まずは圧倒的に気持ちがいいから。「自分の友達、コミュニティにも体験してほしい!」って思うんでしょうね。美味しいものを食べたら、食べログで伝えたくなるじゃないですか。ああいう感じ。テントログですよ(笑)。

 気持ちいいのはもちろんのこと、サウナなのに外で入れるっていう、今までにない場づくりもよかったんだと思います。今ってアウトドア、野外系のイベントが流行っているから、タイミングもよかった。

藤山 実は僕らは別に、新規事業をおこそう、だとか、新しい市場をつくろうという意識ではやっていないんです。自分のやりたいこと、ほしいものをつくっているうちに、結果的に新しいものが生まれて、広まっていっただけ。

もし、やってみて違うってなったら、また新しいことをやればいいから。思いついて、パッと動いて今があるんです、きっと。たぶん、テントサウナを買うかどうか、サイトはどんなのをつくるのかどうか、って3カ月悩んでいたら、僕もさすがに熱が冷めちゃっていただろうなと思いますよ。あんまり深く考えず、進めたらいいんですよ。アホなくらいがちょうどいい(笑)。

林 目標とか計画を立てて始めると、失敗が怖くなりません? 若い人の中には「自分の好きなことってなんだろう」って悩んでいる人は多いけど、それこそもっとおおらかにいられたらいいなと思いますね。失敗とかリスクとか、なんなら “デカい成功” とかも考えずに、やり続けられたらいいなって。

ーなにか新しいコミュニティが広がる時って、古株と新参者の間に壁ができたりしそうですが、テントサウナの場合、そうした難しさはありませんでしたか?

 イベントには何度も来てくれる人もいれば、初めて来られた一見さんもいます。混じっていまよ。でも、サウナに入ってしまえば、みんなすごく仲良くなれる。

私自身、知らない人が来たら、服を着ているときは「誰だろう」って身構えちゃう。自分がすぐに理解できない、よく分からない人には警戒しちゃうタイプ・・・。でも、服を脱いで、サウナに入って、大自然の湖に入る体験を一緒にやると、仲良くなっちゃうんです。

もちろん、毎回「いい空間を作りたい」って意識はしていますよ。みんながリラックスして、いいコミュニケーションができる場になるように。そういうことが好きな人が集まるような動画をつくって発信していますし。それも影響があったのかな。

藤山 僕らの機嫌もあるんじゃない? 開催できることが毎回うれしいから、すごい機嫌が良い(笑)。僕自身、心がパカーンってひらいている。すると、周りの人も心をひらきはじめる。場がゆるくて、楽なんですよ。そうした絶妙な空気を作っていると思いますね。


自分の「テントサウナ」はどうすれば見つかる?

ー社長に提案する時は、会社の時間を使ってやるわけですし、ビジネスになるかどうか考えたんですよね・・・?

藤山 僕は全くなかったですね(笑)。テントサウナは絶対に盛り上がる、と確信していたから。まだ日本に上陸していなかったから、メディアにも取り上げられるだろう、と思っていたし。僕からしたら、「会社にめちゃくちゃ感謝されるだろうな」っていうテンションでした(笑)。

 うん、私も考えなかった(笑)。それで社長に怒られるという発想もなかったというか。ただただ、早くやりたい、やらない理由がないみたいな感じで、根拠のない自信と衝動だけがありましたね。

藤山 TAMは「やりたい」と思って、それを強く伝えれば、実現できる会社なんです。「あかん」と言われることはないんで。爲廣さんもノリがいいから「やりたかったらやろう、あかんかったら次やろう」って言ってくれる。

ー「やりたいことはなにか」と聞かれても「そんなのない」「これって本当に自分のやりたいことなのかな」と、動く手前で悩む人も多いと思います。お二人は、本当にやりたいことをどう見極めたのですか?

藤山 僕がハマるというか、衝動をもつときは、明確なビジュアルイメージが見えるとき。すごい細かく、サービスのロゴまで、全部がはっきり「絵」になるんです。テントサウナもそうでした。見えているから、なんの迷いもない。あとは、それを実現していくだけなので、「早くやりたい」ってなる。

やっぱり、「想像力」だと思いますよ。大きいところから、細かいところまで、想像できるかどうか。他の人と話していても、きっと想像できていないから、実現できないんだろうな、と思うことはよくあります。やりたいことは、解像度高く、まずは想像上でもいいからハッキリとつくっていくべき。僕は映像を作るときも同じようにしていますね。

 「本当にやりたいことなのかな、できないんじゃないかな」って悩んじゃうときはあると思うんです。ただ、これはなにかの本で読んだことなのですが、「歳をとると、経験値がどんどん上がっていくから、まずは悪いところをイメージする癖ができる」って。

つまり、大人になるほど、ネガティブな要素を想像しやすくなるんです。不安や粗探しをして、できない理由ばっかり言うようになっちゃう。これはもう、訓練するしかないと思いますね。いいところを探す訓練を。

それに “良い悪い” っていうのは、自分が決めることなんで、本当はどっちでもないんですよ。それなら、物事をあまりネガティブに捉えないで、良いことを想像したほうがいい。おおらかな気持ちをもって、アホでいるくらいがちょうどいい。私はそう思います。


株式会社TAM フォトグラファー 藤山誠
1980年大阪府出身。自然の中でサウナを楽しむTent Sauna Partyを主催。
株式会社TAM デザイナー/イラストレーター 林由利子
1978年大阪生まれ。TAMでのデザイン業務の傍ら、「ほりゆりこ」名義でイラスト制作の副業もこなす。著書にタナカカツキとの共著『はじめてのサウナ』がある。
[取材・文] 水玉綾 [企画・編集] 岡徳之 [撮影] 飯田健
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