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EMに挑戦する前に、知っておくべき役割の本質

Photo by Vlad Bagacian on Unsplash

このストーリーは、Engineering Manager Advent Calendar 2023 の8日目の記事です。

私は執行役員VPoEとして、Engineering Manager(以下、EM)よりも広範囲のマネジメントを担当しています。Manager of Managersとしての立場にもかかわらず、EMとしての経験から多くの失敗もありました。この記事では、これらの経験と知見を共有し、これからEMになる人々への実践的な助言としてまとめています。

ウォンテッドリーにおける EM は、 2-3 チーム / 10名 - 15名程度の規模のマネジメントを任せることになっており、不確実性の高いコトに取り組みながら組織開発・プロダクト開発の向上を実現する役割と定義しています。

はじめに

エンジニアから EM への移行は、単なる役職の変更以上の意味を持ちます。この新しい役割では、技術的スキルだけでなく、チームのリーダーシップやマネジメント能力も求められます。ここでは、EM になるために必要なマインドの変化と、取り組むべき新たな課題について探ります。

EM に関わるさまざまなマネジメント領域

組織によって EM が任されるマネジメント領域、優先度は異なります。ざっと企業に関わるマネジメント領域を列挙すると次のようになります。経営層は組織の全体的な方向性と戦略に関わる一方で EM はより具体的な日常の業務の実行とチーム管理にフォーカスすることになります。

経営層に近いマネジメント

EMの上長に当たるVPクラスの方や、社内の取締役・執行役員の方が直接的な責任者になるマネジメント領域です。

  • 戦略的マネジメント
    • 長期的な目標の設定、経営戦略の策定
    • 組織の将来の方向性と成長に重点を置く
  • 財務マネジメント
    • 企業全体の財務戦略、投資決定、資金調達
    • 財務健全性と収益性の維持
  • リスクマネジメント
    • 全社的なリスクの識別、評価、対策の策定
    • 事業継続計画の策定
  • 情報技術・テクノロジーマネジメント
    • 情報技術・テクノロジー戦略の策定、大規模なシステム投資の決定
    • テクノロジーを活用したイノベーションの推進

EM が携わるマネジメント

EMの管轄となるマネジメント領域です。具体的な日々の業務となる領域です。

  • オペレーション・プロセスマネジメント
    • 日々の業務の管理、効率化、品質向上
    • 短期的な業績目標の達成
  • 人材マネジメント(HRマネジメント)
    • チームや部門内の採用、トレーニング、評価
    • メンバーのモチベーションと成果の管理
  • プロジェクトマネジメント
    • 個々のプロジェクトの計画、実行、モニタリング
    • プロジェクトごとの資源と期限の管理
  • 品質マネジメント
    • 部門またはチームレベルでの品質基準の適用と監視
    • 品質向上のための具体的な活動の実行
  • テクノロジーマネジメント
    • EM自身の専門領域のテクノロジーの管理
    • 技術選定や採用した技術のマネジメント

新米EMは焦らず実務経験を積むのが大事

EM がいきなり「経営層に近いマネジメント」の活動に深く関与するのは、大きな挑戦です。通常、経営層のマネジメント活動は、企業全体の戦略的方向性を定め、長期的な視点での意思決定を含みます。これには、広範なビジネス知識、深い市場理解、組織全体のダイナミクスに対する洞察力が必要です。

一方で、EM が携わるマネジメントは、より実務的な業務運営、チームの日々の管理、プロジェクトの実行などに焦点を当てます。ここでは、具体的な問題解決、チームメンバーの指導とサポート、業務の効率化などが重要になります。

新しくEMになった人にとっては、まずはEMの基本的なスキルと経験を積み重ねることが重要です。実際のチーム管理やプロジェクト運営の経験を通じて、必要なリーダーシップ能力、コミュニケーションスキル、問題解決能力を身につけます。これらの経験が、将来的に経営層でのより高度なマネジメント活動に役立つ基盤となります。

徐々に、経営層のマネジメントに関わる機会を得ることで、EMは戦略的思考や組織全体への影響力を発揮する能力を開発できます。このプロセスは徐々に行われることが一般的であり、実務経験を積み重ねることで自然と経営層のマネジメントに必要なスキルが磨かれていきます。

求められるマインドの変化

個人の成果からチームの成功へのシフト

エンジニアとしては、個々の専門領域(=技術的な領域)の成果が重視されるのが一般的です。コード、設計、問題解決策が評価の対象となります。しかし、マネージャーとしては、視野を広げてチーム全体の成果に目を向ける必要があります。これは、チームメンバーの一人ひとりの成長と成功を促進し、それを通じてチーム全体が目標を達成することを意味します。EMの役割は、チームの潜在能力を最大限に引き出し、それぞれのメンバーが自分の役割を理解し、貢献できる環境を作ることです。

詳細な技術業務から戦略的思考への移行

技術的な問題解決に注力するエンジニアの役割から、より戦略的かつ広い視野を持つマネージャーの役割への移行は、大きな挑戦です。マネージャーとしては、日々の技術的な詳細よりも、プロジェクトやチームの方向性、目標設定、優先順位付けに注力することが求められます。これには、チームの長期的なビジョンの設定、目標の明確化、資源の効果的な配分などが含まれます。

コミュニケーションの重要性の増加

マネージャーの役割では、チームメンバー、他の部門、経営層との効果的なコミュニケーションが極めて重要です。これには、チームの意見を集約し、異なるステークホルダーとの間でバランスをとる能力が求められます。また、チーム内のコンフリクトを解決し、各メンバーが一致団結して働けるような環境を作ることも、マネージャーの重要な役割です。


これらのマインドの変化は、EMとして成功するための基盤となります。技術的なスキルからマネジメントスキルへの移行は容易ではありませんが、これらの変化を意識し、積極的に取り組むことで、より効果的なリーダーシップを発揮することができるようになります。

新たな取り組み

チームの管理とリーダーシップ、プロジェクトマネジメント、ピープルマネジメントなどの分野での効果的なパフォーマンスに大きく依存します。以下に、これらの新たな取り組みについて詳しく見ていきましょう。

チームの管理とリーダーシップ

EM として最も重要な役割の一つは、チームの管理とリーダーシップです。この役割において、あなたはチームメンバーに明確な目標を設定し、それらを達成するためのサポートを提供する責任があります。チームメンバーのパフォーマンスを評価し、フィードバックを通じて個々の成長を促すことで、チーム全体の成果を向上させることが重要です。

また、チームメンバーのモチベーションを維持するためには、適切な報酬や承認、キャリアの成長機会を提供することが必要です。さらに、新しいメンバーの採用やチームの編成に関わり、効果的なチームダイナミクスを維持することも、マネージャーの重要な任務となります。

プロジェクトマネジメント

EMとしてのもう一つの重要な責任領域は、プロジェクトマネジメントです。プロジェクトの目標を定め、それを達成するための計画を策定し、実行することが求められます。ここでは、プロジェクトの期限、予算、スコープなどの要素を適切に管理し、計画通りに進行するよう監督する必要があります。当人が担当する場合もあれば、別のメンバーをPjMとして任命することもあります。その場合は、PjMが機能的に行動できるようサポートすることが求めれます。

プロジェクトの進行状況を定期的に監視し、必要に応じて調整を行うことも重要です。リスク管理や問題発生時の迅速な対応は、プロジェクトの成功に不可欠です。また、プロジェクトに必要なリソースを効果的に割り当て、タイムラインを管理することで、チームメンバーのスキルと時間を最適に活用します。

ピープルマネジメント

チームメンバーの個々の成長をサポートし、全体的な職場環境を向上させるための活動が重要となります。

チームメンバーの成長のサポート

1on1のミーティングやキャリア相談を通じて、チームメンバーの個々の成長を促進します。これらのミーティングでは、個々のキャリア目標、職業上の悩み、スキルの向上に関する話し合いが行われます。マネージャーは、これらの会話を通じて、メンバーの目標に合わせたサポートを提供し、彼らのキャリアパスの形成を助けます。また、これらのセッションは、メンバーが直面している課題を理解し、適切なガイダンスを提供する機会となります。

メンバーのウェルビーイングと職場環境の改善

チームメンバーのウェルビーイング(心身の健康と幸福)にも注目し、職場環境の継続的な改善に努めます。これには、ストレスの低減、ワークライフバランスの促進、健康的な職場文化の構築が含まれます。また、職場の多様性と包摂性を高める取り組みも重要であり、全てのメンバーが尊重され、価値を感じられる環境を作ることが求められます。

ピープルマネジメントに注力することで、単に技術的な成果を達成するだけでなく、チームメンバーのキャリアと個人の成長を促進し、健全で生産的な職場環境を作り上げることができます。これらの取り組みは、チームの総合的なパフォーマンスと満足度を高めるために不可欠です。

陥りやすいこと

EM になると、多くの新たな挑戦に直面することになります。以下では、この役割で陥りやすい一般的な失敗とその原因について詳しく説明します。これらの失敗は、EMとしての役割において「短期的な成果を出ださないといけない!」というプレッシャーから生じることがあります。EMの取り組みは、時間を要し、結果を得るまでのリードタイムが長いことを理解しておくことが大切です。

マイクロマネジメント

陥りやすい一つの失敗は、チームメンバーの仕事に過度に介入し、詳細な管理を行うマイクロマネジメントです。これは、エンジニアとしての経験に基づいて、自分が正しいと思う方法で物事を進めようとする傾向、またはチームへの信頼の不足が原因で発生します。

コミュニケーション不足

コミュニケーション不足も一般的な失敗です。チームメンバーとの十分なコミュニケーションが行われず、誤解や不明確な目標が生じることがあります。これは、管理業務に慣れていないことやコミュニケーションの重要性を過小評価していることが原因です。

優先順位の設定ミス

優先順位の設定ミスは、チームの努力が重要でないタスクに向けられることを意味します。これは、組織全体の戦略や目標を理解していない、または戦略的思考が欠けていることが原因です。

フィードバックの欠如

チームメンバーへの適切なフィードバックを提供しない、またはフィードバックが非建設的であることも、一般的な失敗です。これは、フィードバックを与えることの難しさや、対人関係の緊張を避けるためにフィードバックを避けることが原因で起こります。

バランスの取れない業務分担

仕事の負担が一部のメンバーに偏ったり、自分自身で過剰な業務を引き受けることもあります。これは、チームの能力やリソースの不十分な理解、または自己の業務範囲を正しく把握していないことによるものです。

成果を焦りすぎる

EMが成果を急ぎすぎることは、チームの長期的な目標と持続可能性を見失う原因となることがあります。これは特に、EMの役割が不確実性が高く、成果が現れるまでのリードタイムが長い場合に顕著です。新しいEMはしばしば「短期間で目に見える成果を出さないといけない!」と思い込み自分自身へのプレッシャーを作ってしまいますが、成果が現れるまでの時間を理解し、忍耐強く待つことが重要です。焦りは非効率な意思決定やチームの士気低下に繋がる可能性があるため、バランスの取れたアプローチが必要です。

自己成長の無視

最後に、マネジメントスキルやリーダーシップ能力の向上に必要な時間やリソースを割かないことも、エンジニアリングマネージャーが陥りがちな失敗です。これは、日常業務に追われて自己研鑽の重要性を見落とすこと、または自己成長のための具体的な計画がないことが原因です。


まとめ

EMとしての役割を担うことは、多くの新たな挑戦と機会をもたらします。この役割では、技術的スキルに加えて、マネジメントとリーダーシップの能力が求められます。EMは、日々の業務運営とチーム管理に重点を置き、戦略的な思考と組織全体への影響力を徐々に発揮します。

この移行に伴うマインドの変化には、個人の成果からチームの成功への意識の転換、技術的な作業から戦略的思考への移行、コミュニケーションの重要性の増大が含まれます。また、チーム管理、プロジェクトマネジメント、ピープルマネジメントなど、新たな取り組みが必要になります。

EM自身が、時間的余裕や精神的余裕が失われると、「陥りやすいこと」に直面することがあります。同様に、メンバーもストレスを感じることがあります。そんな時は、正論を押し付けるのではなく、メンバーに寄り添い、彼らが抱える負担を一つずつ軽減して、バランスを取り戻すサポートをすることが大切です。

EMとして成功する鍵は、リーダーシップとマネジメントスキルを磨き、組織・チームを効果的に導くことにあります。挑戦に満ちていますが、チームと組織全体への影響力を高めることで、非常にやりがいのあるものとなります。

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