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「生成AI時代」に求められるビジネスパーソンの仕事術、TAM社長とAIチームリーダーが対談

分からないことを質問する、アイデアのブレストに付き合ってもらう、企画書をブラッシュアップする——ChatGPTをはじめとする生成AIを仕事に活用する人が増えています。

今後、AIによってWebサイトもアプリも画像も動画もある程度作れるようになるとすれば、顧客の要望通りになにかを作る、引いては「課題を解決する」だけの仕事の価値は下がってしまうかもしれません。

では、生成AI時代に求められる仕事やビジネスパーソンの在り方とはどのようなものでしょうか?

生成AIの新規事業に取り組むデジタルエージェンシーTAMの代表、爲廣慎二さん(写真左)、同社のAIチーム「TAM AI Lab」リーダーの佐川史弥さん(写真右)と一緒に考えます。

AIがクオリティや満足度で人を超える兆し

——ChatGPTのリリースから約1年が経ちました。生成AIによる仕事や働き方の変化を感じていますか?

佐川:すごく大きな変化はなくとも、着実に変わってきているとは思います。

TAMで言えば、ChatGPTを使って提案書を作る人もいますし、さらに新しいAIツールを取り入れようとする動きもある。過度に期待することなく、悲観することもなく、地に足のついた形で受け入れているのではないでしょうか。

社会全体で見ても、同じような雰囲気を感じます。有名なガートナー社の「ハイプ・サイクル」の2023年版では生成AIが「過度な期待」と示されています。しかし、もしかしたらもう幻滅期すら通り越し、啓発期に入っているのかもしれません。

                   出典:ガートナー社
         https://www.gartner.co.jp/ja/newsroom/press-releases/pr-20230817

爲廣:僕もChatGPTは頻繁に使っています。ただ、まだ「アドバイスをしてくれるアシスタント」くらいの存在ですかね。今はまだ、インターネットとスマホが実現してきた「作業の効率化、高速化」の延長線上にあるような気がします。この使い方はこれからも続くと思いますが、AIの本来の価値はもっと他にあるのだと思います

今のAIはまだ蒸気機関やインターネットに匹敵するような「産業革命」には見えないかもしれませんが、ここからだと思います。アンドロイドロボットが仕事をするようになったり、AIが自ら未来を作り始めたりする姿を見ることになるでしょう。

——「AIの未来」についてはいろんな議論があります。なにか兆しのようなものを感じた体験はありますか?

佐川:先日、自分の宣材写真をレタッチしようとしたときに新しい体験をしました。1万円で人に頼んだものと、AIツールを使って自前でやったものを比較してみた結果、自前でやったほうが満足できたんです。

AIによってレタッチがすばやく効率的にできるようになったことで、何度もリテイクが可能になり、それだけ理想のイメージに近づきやすくなります。効率化や高速化の先にあるクオリティや満足度みたいなものに、一歩先の価値を感じましたね。

「コミュニケーション VS ファクト」の構図

——今後、ビジネスシーンでAIの活用が進んだ場合、特にクライアントワークにおいて人間がやるべきことは何になると思いますか?

爲廣:原点回帰していくような気がします。昔みたいに、何度も相手先に足を運ぶなど、人と人とのリアルなコミュニケーションを取ることの重要性が一気に高まると思います。

実際、アメリカの弁護士のギャラは上がり続けているのに、日本の弁護士は上がっていないという調査結果があります。訴訟主義のアメリカの弁護士は、コミュニケーションで価値を生んでおり、判例主義の日本の弁護士とは提供価値が違うからだそうです。

「コミュニケーション VS ファクト」の価値を比較して、コミュニケーションに軍配が上がるのは明らか。AI時代は、ファクトベースのものはAIに任せておけばよく、コミュニケーションで価値を作れる人の市場価値が上がっていくことが分かりやすく現れているのかもしれません。

——コミュニケーションの中でも、どのようなものが求められるのでしょうか?

佐川:情報をやりとりするだけのコミュニケーションはAIでできるようになるので、やはり感情や感覚をリアルに共有し合うことが必要になりそうですね。それは、今のところAIでは代替できないことだと思いますし、より阿吽の呼吸で仕事を進められるようになります。

特にTAMのような顧客と一緒にアウトプットを作っていく仕事は、顧客のことを深く理解しないといけません。五感をすべて使いながら、まだ言語化されていないものを汲み取り、情緒的な表現になりますが、「お客さんとの絆」を作ることが大切だと思います。

爲廣:ミンツバーグという経済学者が提唱した「クラフティング・ストラテジー」*の中で、言語化されていない「暗黙知」の重要性が語られていますが、その重要性はますます上がっていくと考えています。

*良い戦略は、論理的な根拠と、経験に基づく暗黙知や愛着、バランス感覚などによって創作(クラフティング)されるという考え方

彼は論文のなかで、陶芸家の例を出しながら、「いくら口頭で教えられても、良い陶器を作れるようにはならない」と言っています。まさしくそういう時代なんだと僕も思います。

いくら型やメソッドがあって、その通りにやっても、うまくいくとは限らない。逆に、誰がやっても似たような結果になることの価値は下がっていきます。AIで作れるものの価格はこれから爆発的に下がっていくでしょう。

音楽もそうですが、すばらしい演奏をするには、長い経験に裏付けられた「暗黙知」が必要ということです。マニュアルに盛り込むことができない暗黙知をどのように共有し、生かして、アイデアを生み出していくかが、これから大事になると思います。

佐川:その通りですね。ただ、マニュアルが無意味になるわけではありません。いま社内で『Adpt』というツールを開発していますが、これはAIによってワークフローを効率化・自動化するものです。言語化できる仕事はツールで効率化・自動化する、人間は暗黙知を用いた仕事を追求する。この2軸が大切だと思います。

                      『Adpt』

生成AI時代の仕事の進め方〜コープこうべ様の事例

——暗黙知を仕事に取り入れるにはどうすればいいか、もう少し教えていただけますか?

爲廣:僕もコンセプトづくりのフェーズに参加させていただいた、生活協同組合コープこうべ様のECサイトのリプレイスプロジェクトは、型にハマったものではなく、みんなが暗黙知を持ち寄って、価値を築き上げたものでした。

プロジェクトのお題は、ECサイトのリプレイスにあたり、どのようなビジョンを描き、どのように改修を進めていくかを考えること。ECサイトが変わればロジスティックも変わるので、複数の会社が関わる2年にも及ぶ非常に大きなプロジェクトでした。

コープこうべさん、DXプロジェクトの始め方〈前編〉|TAM社長が聞きに行く
「TAM社長が聞きに行く」デジタル・トランスフォーメーションへの道!3年がかりの大きなDXプロジェクトの過程を、コープこうべさんにインタビューでお伺いしました。
https://www.tam-tam.co.jp/stories/coopkobe/

プロジェクト開始当初、ビジョンを考えるために徹底的にユーザーインタビューをしようとしたんです。が、先方の担当者は「それは嫌と言うほどやってきました。もういいです」とおっしゃったんです。

ユーザーの声に耳を傾け、課題を抽出し、解決策を考えて、実行計画を作って実行するというワークフローは課題解決の基本。しかし、それはもうすでに何度もやってきた、と。

そこでプロジェクトの進め方をガラリと変えました。他社さんを含め、総勢25人くらいのメンバーが関わっていたのですが、とにかくコミュニケーションを頻繁に取ることに。お互いのプロフィールを共有したり、ディープインタビューをし合ったり、コープこうべ様の未来像を個々人がプレゼンして、それを絵にしてみたり。4カ月くらい、ありとあらゆることをやりました。

       4社合同のプロジェクトメンバー30人以上で実施したワークショップ

——かなり長い時間をかけて、コミュニケーションを深めたんですね。

爲廣:はい。おかげで「コープこうべのあるべき姿」が自然と浮かび上がってきました。それは「顔の見えるECサイトを作ろう」というコンセプト。コープこうべの配達員さんたちが、地域で愛されていることを深く理解したからこそ生まれた言葉です。

シンプルなコンセプトに思えるかもしれませんが、全員が濃いコミュニケーションをしてきたからこそ、この言葉が生まれた時、腹落ち具合がすごかったんです。

コンセプトを生み出すまでの4カ月間は、目の前の取り組みが何につながるかなんて、全然分かりませんでした。議論を進めるためのフレームワークがあるわけでもなく、「みんなが面白いと思える方向に向かう」とだけ決めて、進め方もどんどん変えていきました。

大事なのは、お客さんとのコミュニケーションのなかで暗黙知を共有して、まだ顕在化していない「あるべき姿」を少しずつ共有していくことだと思います。

「それ、ほんまでっか?」という大事な問いかけ

——どうすれば、コープこうべ様とのプロジェクトのように「あるべき姿」を作れるようになるでしょうか?

爲廣:お客さんが抱えている課題に対しても、自分が良いと考えているメソッドに対しても、「それ、ほんまでっか?」と問いかけることが大切だと思います。もちろん無責任に問うのではなく、データ分析や市場調査のような根拠となるものを携えながら。

でも、とても難しいことだと思います。いわゆるプロジェクトの「上流」と言われるものですが、きちんとできるのは経験を積んだ一握りの人たちですから。TAMでは、経験を積んだベテランと新しい人がセットになることで、その「ほんまでっか活動」を推進しています。

佐川:棋士の羽生さんも、何度も何度も分析を繰り返した先に、直感的な「神の一手」が生まれると言っていました。仕事も同じで、分析・提案・改善を繰り返すことで、暗黙知が身につくのかもしれませんね。

「当たり前の言葉をいちいち定義する時代」「正解がないことを楽しむ」

——最後に、今後ビジネスパーソンに求められるマインドセットは何でしょうか?

佐川:やはりハードスキルではなく、コミュニケーション力や人間力などソフトスキルが求められるようになるという認識が重要だと思います。資料やグラフを作るにしても、作り方のような「How」のスキルではなく、「何の資料やグラフを作ればいいのか?」という「What」を設定できる力が必要となるでしょう。

爲廣:今日話していて思ったのは、これからは「当たり前の言葉をいちいち定義していく時代」になるんじゃないかということ。自分たちにとって「コミュニケーション」とは何を指すのか?「リアル」とは本当に対面で会うことを指すのか?当たり前の言葉の捉え方が多様化していて、正解のないものを自分なりに定義していくことが大事な気がしています。

AIがどんどん仕事をアシストしてくれるので、それ「ほんまでっか?」と疑って、自分なりに考えたり、定義したり、意思決定したりすることの重要性がますます上がってきています。

あとは、その正解がないことを楽しむことも大事だと思います。「正しくやろう」と考えると不安になって、過去の答えや既存のワークフローに頼りたくなる。そうではなくて、「面白い」と思うほう、ワクワクするほうに進むことが大事ですね。

ワクワクして仕事をしていると、お客さんもワクワクしてきて、良いコラボレーションが生まれやすくなります。感情や感覚も共有しやすくなって、コミュニケーションが深くなり、「ほんまでっか?」にもつながっていく。そんな関係性こそが、これから求められる「パートナー」の在り方だと思います。

[取材] 佐藤紹史 [編集] 岡徳之 [撮影] 蔡昀儒
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