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変化の激しいIT業界で、私たちはいかにしてエンジニア、ビジネスパーソンとしてユニークなポジションを築いて活躍し、生存確率を高めていくことができるでしょうか?
今回はデジタルエージェンシーTAMでEコマース開発のエキスパートとして活躍する米本和生さんが登場。Eコマースをより便利にする最新技術「Vue Storefront」を駆使し、そのグローバルコミュニティとTAMの日本で先駆けとなるパートナーシップも実現しました。
そんな米本さんは、実は元昆虫研究者。しかも、大学を卒業した後のファーストキャリアは中学校の英語教師でした。その後、カナダ留学を経て、エンジニアへと転身。それが今となってはEコマース開発の領域でTAMにとって欠かせない人材として活躍しています。
そんな米本さんと「異色の」経歴を振り返りながら、自分自身をITの世界でユニークかつバリューあるものとして位置づける「自分ポジショニング戦略」について考えてみたいと思います。
「平和ボケへの危機感」が自分を世界に突き動かした
ー米本さんが今のキャリアに至るまでの変遷を教えてください。
僕は学生時代、昆虫、特に寄生蜂という「蜂の研究」をしていました。蜂の毒液を取り出して、また蜂に注入して実験したり、細胞を培養したり。学部生の時は「自分で学会発表をする」と決め、学生生活の最後の3、4年はそれだけを集中してやっていました。
その後「教師」に。教員免許自体は、小学校・中学校・高校とすべて持っているのですが、仕事では中学生に英語を教えていました。「できるだけ多くの人に影響を与える仕事がしたい、それなら教育なんじゃないか」と思ったんです。
ただ、自分は新卒で教師になったんですけど、1年ほど経ち、この仕事をするには社会人経験が足りないと感じるようになって。なぜなら、生徒たちには教科だけじゃなく、生き方も教えなくてはいけないですから。
それで、自分のスキルや社会性を伸ばすために、カナダへ留学しました。カナダはいろんな国籍の人が住み、ダイバーシティーを尊重しているから、指導法以外にもいろいろ学べそうだなと思って。
カナダでは、幼稚園でインターンをしていたんですが、そこで驚いたのは、日本は「みんなの能力を伸ばす、落ちこぼれを作らない」という考え方だけど、カナダは「できることをとことん伸ばす」考え方だということ。だから、天才児とか、できる子は小学生ながらにして飛び級で大学に進学したりもしていました。
それに、僕と同い年のアジア人で、死に物狂いで英語やプログラミングを勉強していた子にも出会った。そんな現実を目の当たりにして、このままだと日本はヤバいんじゃないか——と思うようになったんです。
甘えというか、平和ボケというか。現状に満足してしまっている日本人と、それに満足せず「とことん日本を追い抜いてやる」というアジア人。そこに大きなギャップを感じて、それからというもの、“世界において自分をどう位置づけるべきか”、自分のポジショニングを考えるようになったんです。
レバレッジが効くWeb領域。自走する組織のTAMへ
ーそこから、なぜWebの世界に?
カナダは日本よりもシリコンバレーに近く、またIT系で働く人も多かったんです。特に、大学の同級生の一人が昼間は授業を受けて、夜はIT系の仕事をやっていて、それがかっこよく思えた。
ITのスキルってレバレッジが効くじゃないですか。コーディングができれば、サービスを作って、多くの人の悩みを解決できる。要は、自分の労力以上の価値を生み出すことができる。一方、教員は自分の目の前にいる子たちにしか影響を与えられません。
そこから、独学でWebを学び、その後、日本のアパレル会社で2年間Web担当者をやらせてもらい、そうして今のTAMにたどり着きました。TAMには、今の上司のようにWeb業界では結構有名な人が働いていて、「そういう人たちと一緒に働いてみたい」という純粋に憧れの気持ちがあったんです。
なにより、TAMには自走する力、課題を解決する力が強い人が多く、自分で課題を見つけて、学習すべきことを決めて、情報を仕入れて、実用化して、ポジションを築いていく。そういうロールモデルとなる人が多いことにも惹かれたんだと思います。
ーTAMでは現在、どんな仕事をしていますか。
メインはECサイトの開発です。お客さんのニーズをディレクターと共にヒアリング、プロジェクトの要件を定義し、全体設計やアーキテクトの部分から担い、それに合わせて適切なショッピングカートなどを提案し、構築していきます。
また、Eコマースに特化したフロントエンドの技術「Vue Storefront」のコミュニティとのパートナーシップも進めています。Vue Storefrontは、PWA(Progressive Web App)と呼ばれるWebサイトにネイティブアプリのような表現・機能をつけ、オフラインでもサクサク動かすことができる仕組みをベースで提供するEコマース向けオープンソースプロジェクトです。パートナーになることで、お客さまのビジネスモデルに応じて提供できるサービスの幅が広がると感じています。
元々、僕は関西EC交流会というのを隔月でやっていて、そこで登壇した際に、自分が見つけたVue Storefrontを紹介し、その内容をECブログに上げたところ、Vue Storefrontの人からメールでお声がけをいただいたんです。
ITの世界でユニークなポジションを築くためにすべきこと
ー未経験から始めて、現在ではEコマース開発のエキスパートとして活躍する米本さんですが、そのポジションはどのようにして築いてきたのでしょうか。
一つの鍵は「自己分析」だったと思います。
自分の場合、リスクが低くフットワーク軽く動ける学生時代に、とにかくいろんなことに手を出してきました。カナダ留学中は映画のエキストラ、日本では神社の奉仕、バーテンダーの仕事・・・経験してみないと、自分になにが向いているかは分からないですからね。
向き不向きは、「時間を忘れてやれるかどうか」である程度はかれます。仕事であっても、仕事だと感じないというか。たぶん向いていないことだと、やること全部が「タスク」に感じられてしまうはず。義務感でやっている、みたいな。
僕の場合、時間を忘れてやってしまうのは、Eコマースの世界もそうですけれど、今あるたくさんの情報の中から、必要なものだけを取捨選択し、試してみるというサイクル。自走させてくれる環境だと、それが加速しますね。決められたことだけをやる環境では、なにかを試し続けるのは難しいので。
こうやって「自己分析」ができていけば、自分が進むべきパスが見えるようになってきて、“あとはやるだけ” になるんです。
ーなるほど。とはいえ、自分に合うものであっても、レッドオーシャンの領域だとポジショニングを築くのは難しいのでは。
そうですね。特に技術系の分野だと、知識やスキルはすぐにコモディティー化して、必要とされなくなってしまいます。最近では単純なコーディングならAIでもできるようになってきているので「HTMLとCSSが書けます」だけだと、厳しい。
やはり、みんなが今後ついてくるであろう最先端のものをねらうと同時に、「その領域でパイオニア的な存在になる」くらいじゃないとクリエイターとしてはやっていけないんじゃないかと思います。
僕は元々新しいもの好きで、新しいサービスにはすぐに手を出すようにしています。例えば、2017年に日本に上陸して以来、爆発的に伸びている「Shopify」というサービスにしても、初期段階でそれに関するイベントを開いたことからEコマースのお仕事をいただけることが増えました。
こうやって、すぐに手を出して、一生懸命やり、それを発信していくと、エッジが立つんだと思います。だから、やり始めたら「やりきる」ことが大事です。
僕は学生時代、蜂の研究をしていましたが、たとえ短期間であっても、人生をかけてやったことはそのあとずっと効いてきます。英語で論文を読むなどの情報収集能力や、他の人を巻き込む方法などは、研究を通して学んだこと。それに、研究をとことんやったからこそ、大学の先生からは「いつでも戻ってこいよ」って言ってもらえたりして、それが今でも拠り所にもなっている。
なにより「あのとき自分はやりきった」という自信がいつも自分を支えてくれます。もしあの研究をやっていなかったら、今でもずっと不安でなんにでもちょこちょこ手を出してしまっていただろうなと思います。
ー今後の米本さんの目標を教えてください。
日本人って、最新のテクノロジーを使うことに消極的で、どちらかというと安定志向が強いんです。だから、今後も海外の最先端の技術、サービスをいち早くお客さまに提案していきたいと思います。
今なら例えば、PWAに加えて、AR技術をWebブラウザ上で利用可能にする「WebAR」。これを使えば、商品を自分の部屋に擬似的に配置して、フィットするかどうかを確かめてから購入できるようになります。こういうアイデアを広く提案していけたらおもしろいな、と。
これからの世の中では5Gが一般的になり、通信速度がますます速くなります。今までWebではできなかった表現がもっとできるようになる。そのなかで、さらに最先端を走っていけるように頑張ります。
株式会社TAM ECアーキテクト フロントエンドエンジニア 米本和生
1990年和歌山生まれ。教育業界からカナダ留学を経てWeb業界へ転身。前職ではアパレルEコマースサイトのWeb担当者として制作フロー全般を担当。現在はTAMのエンジニアとしてEコマースに関わる案件を担う。関西EC交流会やECブログでEコマースを取り巻く最新技術の情報発信も行う。
[取材・文] 水玉綾 [企画・編集] 岡徳之 [撮影] 藤山誠