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この記事はログラスDevチームAdvent Calenderの5日目の記事です。
SaaS開発のスタートアップ組織がスケールするために
こんにちは、株式会社ログラスの松岡(@little_hand_s)です。
ログラスは経営管理のSaaSを開発しているスタートアップ企業で、これまでアジャイル開発の手法としてDDD(ドメイン駆動設計)、スクラム、エクストリームプログラミングなどのプラクティスを適用しながら開発を行ってきました。
しかし、組織の規模が大きくなってきた(社員数が50人を超え、エンジニアチームも1チームから複数に分割されました)ことにより、それまでのスキルだけでは解消できない組織面の課題が生まれてきました。
そこで、今年の春から海外のアジャイルコミュニティで多く取り入れられている「システムコーチング®」という組織向けのコーチング手法を導入し、大きな手応えを感じているので、この記事ではシステムコーチングの概要、現時点の成果と今後の展望についてお伝えしたいと思います。
システムコーチング®とは何なのか
システムコーチングとは、英語ではOrganization & Relationship Systems Coaching(ORSC)といい、チームや部署など複数の人にアプローチするコーチングの手法です。ログラス社内では「関係性システムコーチング」と呼称しています。
複数人に対して直接コーチングセッションを行うことにより、チームビルディング、部署間の協力関係の構築、ビジョンの具体化、ハレーションの解消など、様々なケースにおいて大きな成果を得ることができます。(この例はできることのほんの一部です)
DDDなどの手法との関係
私は今までドメイン駆動設計などの開発手法について発信することが多く、社内でもそのような活動をしてきましたが、そういったものをやめてコーチング方面にシフトする、というわけではありません。
技術面の課題はアジャイルプラクティス、組織/関係性の課題はシステムコーチング、と場合に応じて使える手札が増えたような位置付けです。現在もモデリングの推進、設計の改善などを実施する傍らで必要なタイミングでコーチングをしています。
実際の取り組みと成果
実際にログラスで行ったコーチングのセッションと、その成果についてご紹介します。
DTA(Designing Team Alliance: 意図的な協働関係の構築)
チームや連携を強めたい組織間のメンバーで、「どのような雰囲気、文化の関係性にしたいか」について話し合うワークショップです。(システムコーチングではこのようなワークショップのことを「ツール」と呼ぶため、以下ツールと表記します。)
このツールの中で話すことはシンプルで、「チーム(関係性)をどのような文化にしたいか」といった問いについて考え、最後に普段の活動にもちかえる「チームの雰囲気・行動指針」まとめます。
この中で、コーチは会の進行をしながら、以下の「3つの現実レベル」を行き来して、参加者の価値観を深掘ります。(出典:アーノルド・ミンデル博士 プロセスワーク)
- ①合意的現実レベル: 目に見えて合意できる事実、行動、計画
- ②ドリーミングレベル: 想い、気持ち、願い、恐れ、価値観
- ③エッセンスレベル: 直感、言葉に表せない体感覚、雰囲気
一般的に「チームの目標を決めましょう」という話をすると、大体①合意的現実レベルの話に終始することが多いです。そこに、②ドリーミングの「想い、価値観」を乗せることができると一気にチームメンバーの価値観が反映された、とても気持ちの乗った目標、方向性作りをすることができます。
コーチは、②ドリーミングの要素を深掘るために、③エッセンスの方向からアプローチをすることがあります。「どんな文化、雰囲気にしたいですか?」といった問いかけに対してまずジェスチャーで表現してもらい、後から言葉にしてもらうなどのアプローチです。
①から論理で深掘っていくより、③体を動かした感覚から気づきを呼び起こしてみると思ってもいなかった価値観に気づくことはとても多く、システムコーチングではそういったアプローチが体系化されています。
他の人のジェスチャーを体感しながら意見交換している様子
この写真のチームでDTAを行った時は、
「行動の火種を起こして繋げていく」「アイデアをシュッと実行する」という行動指針が定められました。
Teamflowというバーチャルオフィスに行動指針が掲示される様子
この行動指針を定めて1週間後、「他のチームの成果をもっとみたいね」というアイデアの火種から、「じゃあチーム間の成果共有を行う会を開催しよう」という企画が実際にシュッと開催されました。
その他にもライトに使われる様子。「ミームを意図的に作る感じ」と言われたことがありますが的を射た表現だと思います。
上記キャプチャのいとひろさんの記事でもシステムコーチングについて言及されているので、よろしければご覧ください。
約1時間で手軽に実施できる割に効果が大きいので、チームの立ち上げ時期、メンバーが増えた際、チーム間の協力を強める必要性がある場合など、半年で多くのチームで計20回近く実施しています。
ハイドリーム・ロードリーム
個人や組織において、目標やビジョンを「3つの現実レベル」から掘り下げてブラッシュアップするのに使います。
コーチは、定めたテーマについてロードリーム(最低の状態、こうなってたらマジで嫌だな…という最悪の状態)と、ハイドリーム(最高の状態、こうなってたらめちゃくちゃいいなという理想の状態)について問いかけ、このツールの中でも、「3つの現実レベル」を意識して体感覚、想いを引き出しながら理想の状態を探っていきます。
最悪の状態を「うわー、こうなったら本当に嫌だわ…」と実際に嫌な気持ちになるぐらいイメージし、そこから最高の状態を考えることで、対比的に理想の状態がクリアになってきます。
このツールはOKRなどの目標設定と非常に相性が良いです。
OKRはともするとビジネス的要請から定めるとてもドライなものになってしまうことがあります。そこに、このツールを使って想いを乗せ、「これは絶対やりたい、必要だ!」と思える状態に持っていくことができます。
アライメントコーチング
複数の人の間にハレーションが起きた(揉めたり、ギクシャクしたり)際に、そのモヤモヤした気持ちを解消して同じ目的の方向に向かうように促す(=アライメントする)ために使うツールです。
ログラスでは、とあるプロジェクトの進め方に関する期待値が噛み合わず、3人のメンバー間にモヤモヤした気持ちが生まれてしまったことがあり、私がコーチとしてアライメントコーチングを開催しました。
会の中で、3人が普段お互いに思っているけど言えてなかったことをコーチの私に向かって伝えてもらいます。その場には残りの2人も参加しているのですが、コーチに向かって話すことで意外なぐらい嫌な雰囲気になることなく言うことができます。
それどころか、「これを言ったら引かれると思って言わなかったけど…」ということを思い切って言ってもらったら「それは聞きたかった、言ってもらえてよかった」という感想が出ることもありました。
このようにお互いの気持ちを吐き出したあと、終盤で共通の問題について向き合っていけるように促します。ここで合意ができれば、もうギクシャクはかなり消え、同じ方向に向かってまた歩き出すことができます。
この効果は大きく、参加者から「正直気まずくて話しにくくなっていたが、コーチングによって普通に前向きに話せるようになった」という感想をもらうことができました。
(Jump+というのは最後に話したDTAの内容です)
社内での展開の経緯
私がシステムコーチングを社内で展開する上で、人を集めて時間をとってもらうためにした工夫と経緯を紹介します。
社内ではまず、気軽に開催しやすいDTAから始めました。まずは同じ部署内の各エンジニアチームにDTAを実施し、前述の通り今までのチームビルディングにはない大きな手応えを感じました。
そこから、チームのOKRを考える際にハイドリーム・ロードリームを使い、新しくエンジニアリングマネージャーになった人に向けて環境の変化を受け入れて前に進むツール(神話の変化)、そしてある程度信頼を積んでからアラインメントコーチング、と幅を広げていきました。
ポイントは、実際に手軽なものから体感してもらい、「あれ、システムコーチング面白いし効果あるぞ?」と思ってもらって信頼を積んでいくことです。
コーチングは基本的には得体が知れない=体感しないとよさが絶対にわからないものなので、まずはやってみてらもうことがとても大切です。
そのなかではDTAは「チームビルディングのためのワーク」ということでチーム立ち上げ初期に開催するハードルがすごく低く、初期に実施するツールに向いています。
そこから各チームの人とコミュニケーションをする中で、課題を聞いてみて「こないだのDTA以外にもシステムコーチングにはツールがあるんですが、役立たせてもらえませんか」と提案し、少しづつ広めています。
その結果とても嬉しかったのが、CTOから異なるチーム間のDTAの開催を提案してもらったことです。
めちゃくちゃ嬉しかった投稿
なお、「飲み会」というのは実際に昼から飲むわけではなく、坂本のDTA、に対する感想として「飲み会のように腹を割って話し合える、かつファシリテートされて短時間で目的を達成できる」と言っていたことに由来しています。
提案された側もチーム個別ではDTA経験があっため、この提案はすすんで受諾していただきました。
普段意識しない「感情・価値観」に対して体系立ったアプローチがあるというインパクト
我々働いている人間は、「感情は自分で制御するのが大人」という無意識の前提を持っていないでしょうか。
しかし、システムコーチングを学んだ中で、その感情や価値観こそが人と一緒に働き、価値を生み出す上で非常に重要だということがわかりました。そしてそこに対して体系立ったアプローチが確立されていることに、スタートアップだけでなくどんな組織、関係性でも大きな価値を生み出せる可能性を感じています。
特にアライメントコーチングの成果は個人的に印象的で、今までは揉めている人たちがいたら個別に1on1などで会話し、「あと二人でちゃんと話しなよ」という間接的なアプローチしかできませんでした。それが関係性に課題のある人たちに対してまとめてアプローチし、改善まで持っていくところまで体系化されているというのはかなりインパクトがありました。
こういった人間関係の悩みを解決することは、生きていく上での悩み、ストレスを解消するインパクトがあり、大きな価値だと思っています。
今後の展開
これまでに社内でいくつかの成果の事例を作ることができましたが、まだまだ序の口だと思っています。
これからも全社的に組織が大きくなっていく中で、関係性の課題は必然的に増えていくはずです。その中で役立てる際にはシステムコーチングを用いて解決し、ログラスという会社の組織作りにおいて重要な施策の一つとしていきたいと思っています。
前述の通り、職種としては引き続きエンジニアです。
目指すのは、働く人が楽しく協調し合いながら、重要なことに向き合い、価値を生み出し続けられる組織です。そのために技術的なプラクティス、システムコーチング、その他必要なものをなんでも取り入れてやっていきます。
ゆるく募集
もしこの記事を読んでシステムコーチングに興味を持っていただいた方、今関わっている組織や関係性に課題感がある方で、私のコーチングをお試しで受けてみたい方はいらっしゃいませんか。
もしいらしたら、Twitter、もしくはFacebookのDMにてお声がけ下さい。まずはヒアリングさせていただき、どのようなツールを使うかのご相談からできればと思っています。(基本的にはオンラインのセッションを想定を想定しています。)
私はまだまだ修行中の身ですので、色々なケースの経験をさせて頂きたい、お役に立たせて頂きたいと考ています。
「こんな状況だけどシステムコーチの範囲内?」といった軽い相談からでも良いですので、もしよろしければお声がけいただければと思います。
これからも精進してまいります、どうぞよろしくお願いいたします!
締め
ログラス Devチーム Advent Calendar 2022の6日目は@tmknomさんによるGitHub Actionsに関する記事です。
また、ログラスはBizチームもアドベントカレンダーを実施しています。こちらもよろしくお願いします!