なぜ Wantedly に推薦システムが必要なのか
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こんにちは。ウォンテッドリーで Data Science Tech Lead をしている合田です。
この記事では、ウォンテッドリーのデータサイエンティストが開発している推薦システムについて紹介します。会社訪問サービス「Wantedly Visit」で実現したい理想のために推薦システムが必要不可欠なソリューションであること、そして Wantedly Visit における推薦システム開発の面白さと今後の成長余地について多くのデータサイエンティストに知ってほしいです。
以降では、Wantedly Visit の理想と推薦システムの必要性について、そして今までどういう課題を取り組んできて、これからどういう課題に取り組むのかを紹介します。
ウォンテッドリー株式会社について
ウォンテッドリーは『シゴトでココロオドルひとをふやす』ために、ビジネスSNS「Wantedly」を運営しています。「ココロオドル」の定義について詳しく知りたい人はこちらをご覧ください。
ココロオドル仕事との出会いを創出する会社訪問サービス「Wantedly Visit」や出会いを記録するつながり管理アプリ「Wantedly People」、入社後のココロオドル状態を支えるエンゲージメントサービス「Engagement Suite」といった複数のサービスを「Wantedly」というプラットフォームに展開し、『はたらくすべての人のインフラ』となることを目指しています。
会社訪問サービス「Wantedly Visit」について
Wantedly Visit は人と会社のマッチングサービスであり、気軽にお互いのことを知る機会を提供します。
最終的に目指したい場所
私たちは Wantedly Visit を通じて「すべての人がココロオドル仕事に出会う」ことを目指しています。1人でも多くの人がワクワクしたり熱中できるシゴトに出会えるようになることで、「シゴトとは面白いものだ」という考えが当たり前の世の中にしていきたいと思っています。
サービス構造
Wantedly Visit は「ユーザー」と「企業」という2種類の利用者がいるプラットフォームです。ユーザーは魅力的な企業と、企業は魅力的なユーザーと出会うためにサービスを利用しています。
このサービスでは、それぞれの利用者が相手側のコンテンツとして扱われていることが特徴的だと言えます。ユーザーは多くの企業コンテンツ(例えば企業ページや企業の募集)や企業から送られてきたスカウトの中から気になる企業を探し、反対に企業は多くのユーザープロフィールや募集への応募の中から気になるユーザーを探します。
コア価値
Wantedly Visit のコア価値は『出会う』です。ユーザーと企業のマッチングを促進することが、ユーザーの成功体験や継続的なサービスの利用に直結します。
- ユーザーは Wantedly Visit を使ってワクワクできる企業、仕事に出会うことができます。サービスで得られた出会いをきっかけにユーザーがココロオドル仕事ができるようになることで、ユーザーの次の転職タイミングや情報収集を始めるタイミングで再度サービスを利用してくれることが期待できます。
- 企業は魅力的なユーザーと出会い、その出会いをきっかけに採用に繋げることができます。企業が Wantedly Visit を運用して採用成果が出ることによって、継続してサービスを利用してくれることが期待できます。
このように、お互いが魅力的に感じられるような出会いを創出することで、双方に対して良質な体験を提供することができます。
サービス規模と成長余地
2022年10月時点における、Wantedly Visit の登録ユーザー数は355万人、登録企業数は4.3万社です。利用者数やサービスに蓄積されたデータ量は非常に多く、データによる価値の創出が十二分に見込めるサービス規模となっています。
登録ユーザー数と登録企業数の推移 - FY2022 Financial Results
またユーザー・企業の双方に大きな成長余地があります。2022年10月時点において、日本国内の労働人口6,900万人のうち当社シェアは9%、日本国内の企業数360万社のうち当社シェアは8%となっています。
ユーザー・企業のシェア率 - FY2022 Financial Results
サービスが継続的な成長に必要なのは良質なマッチング
Wantedly Visitの成長サイクル
Wantedly Visit の成長は「魅力的なコンテンツが増える → マッチングする → ユーザーと企業が増える」というサイクルと「魅力的なコンテンツが増える → 認知が増える → ユーザーと企業が増える」というサイクルの 2 つで構成されています。
サービスが成長するためにはそれぞれのサイクルが円滑に回っていることが前提となります。サイクルを円滑に回すには魅力的なコンテンツや良質なマッチング体験が必要なので、マッチングの質と量がサービスの成長 / 衰退に直結しています。
マッチングの質とは
マッチングの質の高さは、ユーザーが仕事でワクワクできる状態の実現に近づけられるような良い出会いだったかどうかで測ることができます。
例えば、Wantedly Visit での企業との出会いをきっかけにその企業に転職して今までよりも面白い仕事ができるようになるのであれば、それは良質なマッチングだと言えます。また直接的なものだけではなく、直近の転職ではその企業で働く選択を取らなかったがその後数度の転職を経てその企業で仕事するようになる、面談で得られたものをきっかけにその後の仕事探しが捗るようになる、といったポジティブな体験は良質なマッチングが成立することによって得られるものです。
質が低いマッチングはその反対の事象を指しています。いざ出会って話をしてみたが特に得られるものはなく、ユーザーと企業がお互いに結局何の時間だったんだ、となってしまったり、そもそもユーザーが応募してみたけど企業とマッチングできなかった、といったネガティブな体験のことを表しています。
以降では、質が低いマッチングのことを『ミスマッチ』と呼称します。
仮にミスマッチが増えるとサービスはどうなるのか
Wantedly Visit は「ユーザー」と「企業」の2種類の異なる立場の利用者が相互にやり取りを行うサービスであり、一方の体験の悪さがもう片方に波及して負の連鎖が生じるリスクがあります。
- 例えば、仕事を探すユーザーの企業に対する応募でミスマッチが増えてしまうとする。ユーザーは応募しても企業とマッチングできず利用を止めてしまう。企業は採用ターゲットから外れているユーザーからの応募が多い一方で採用ターゲットのユーザーからの応募がなく、期待される採用成果を見込めない。また利用ユーザーが減ってしまうことでスカウト対象のユーザープールが縮小してしまい、企業はスカウトでも採用成果を見込めなくなる。
- 例えば、候補者を探す企業のスカウトでミスマッチが増えてしまうとする。企業はスカウトを送ってもユーザーとマッチングできず、期待される採用成果を見込めないから利用を止めてしまう。ユーザーは関心のないスカウトばかりを受け取るようになることでサービスに対する印象が悪化する。また利用企業数が減ってしまうことで企業コンテンツの量と質が減少してしまい、ユーザーは魅力的な仕事を探すことが難しくなってしまう。
ミスマッチの増加を放置することはバケツの底に穴が空いた状態と言えます。今後期待されるサービスの非連続的な成長を妨げないために、バケツの穴を塞ぎつつサービスを成長させることが重要です。
なぜ良質なマッチングの成立難易度が高くなるのか
サービスにおいて検索や推薦などコンテンツを探す機能が充実していないという状況を想定した場合、Wantedly Vaisit において質の高いマッチングが成立する頻度は減っていくだろうと考えています。理由を大きく以下の2点に分けて詳しく説明していきます。
- 仕事に関する「嗜好」を捉えることが難しい(嗜好の不確かさ)
- 仕事に関する「属性」が複雑化していく(属性の複雑化)
仕事に関する「嗜好」を捉えることの難しさ
本質的な嗜好とは
はじめに一般的な話になりますが、自身の嗜好を完璧に把握できている人は多くありません。「顧客は自分が何が欲しいのかわかっていない」といった話は色々なバージョンがあると思いますが(例えばスティーブ・ジョブズなど)、得てして自身の本質的な嗜好を捉えることはとても難しいことです。ここで行う主張の大前提として、本質的な嗜好というものは端的に一言で表現し切れるようなものではなく、言語化することが難しいものだと考えています。
仕事探しにおける本質的な嗜好の難しさ
そして「仕事」に関する本質的な嗜好というのは、数あるドメインの中でも捉えることが難しいものではないかと考えています。自分の本当に好きなものはある程度経験して実感してみないと分からないものですが、「仕事」の選択は人生に大きく影響するものであり、そんなに多くの試行錯誤ができないからです。
本質的な嗜好を捉えきれないままだと、どういう問題が生まれるのか
例えば「エンジニアをやりたい」というユーザーがいたとします。ユーザーは「エンジニア」を軸に仕事を探していますが、実は彼自身の本当にやりたいことは「常に最先端の技術に触れたい」でした(仕事を探している時点では分かっていない)。数あるエンジニアの募集には最先端の技術を活用する仕事もあればそうでない仕事もあり、ユーザーは後者の仕事と出会って転職しますが、なにか自分のやりたいことと違う、とモヤモヤを抱えます。
自身の本質的な嗜好が分かっていないと、本当はもっと良い仕事探しの切り口があったにも関わらず(例えば上の例では「コンサルティング」で探していたほうが効率的だったかもしれません)それを使わない状態で仕事を探すことになってしまいます。
また自身の嗜好を正確に把握できていないということは、プロフィールで明示的にそれを表現することができない、とも言えます。これはユーザーだけでなく企業も同様です。お互いに本当のニーズが何なのかを伝えられないことがミスマッチに繋がってしまうかもしれません。
仕事に関する「属性」の複雑化
サービスの変化や世の中の変化によって、仕事に関する属性は自然と複雑になっていきます。
サービスの変化による複雑化
Wantedly Visit は成長しており、サービスを利用するユーザー数と企業数は増加しています。そうすると次第に、今までサービスにはいなかったようなユーザーや企業が増えていきます。
例えば、サービスの運用初期では利用者の大半は東京都内のアーリーアダプターなエンジニアやITベンチャー企業でした。しかしサービスの運用が続くにつれて、東京だけでなく日本全国の企業やユーザーが、またエンジニア以外の職種のユーザーも利用してくれるようになってきました。
世の中の働き方の変化と仕事の細分化
世の中の働き方や仕事の種類は常に変化しており、それに伴ってサービス内における仕事に関する属性が次第に変化していきます。
例えば、最近ではリモートワークや副業といった働き方の変化や、データサイエンティストやプロダクトマネージャーといった新しいポジションの登場や職業の細分化・専門化が進んでいます。
属性の複雑化によってどういう問題が生まれるのか
サービスを利用するユーザー数と企業数が増加するにつれてありえるマッチングのパターンの総数が積で増えていくのに対して、良質なマッチングの数は線形で増えていくことになります。なぜならば特定の性質のユーザーと企業だけがひたすら増えていくわけではなく(例えばエンジニアユーザーとテック企業だけがひたすら増えていくわけではない)、ユーザーと企業の多様性が高くなっていくからです。
そのため多種多様な会社・仕事の中からユーザーが自身に合う仕事を探すことは難しくなっていきます。また、ありえるマッチングのパターンに対する良質なマッチングの割合は時間とともに減少していくので、次第とミスマッチが増えていくことになります。
なぜ推薦システムが必要なのか
検索だけで良質なマッチングを実現できるか
良質なマッチングの成立を実現するために考えられるソリューションの1つは、仕事の検索体験を改善することです。「職種」や「業種」といった仕事探しの軸を検索フィルターとして追加したり、ユーザーのクエリに沿って適切な検索結果を返せるようにすることが挙げられます。しかし Wantedly Visit において、このソリューションだけではユーザーの課題を解消することは難しいと考えています。(念の為、検索が駄目と言っているわけではなく、検索・推薦のどちらかだけに依存せずに両者の良いところを取りながら開発したい、という主張です)
仕事探しにおける自身の本質的な嗜好を掴んでいる人は多くない
基本的に検索は調べたい対象が明確である場合に効果を発揮します。例えば、絶対データサイエンティストをやりたいんだ、という強い嗜好がある場合や、雇用形態や勤務地など仕事を探す上での最低条件が決まっている場合です。ユーザーはこれらの嗜好や条件を検索クエリや検索フィルターで設定して仕事を探すことになります。
しかしユーザーの嗜好が明確でない場合は、そもそも自身の嗜好を適切に表現できるクエリを作ることはできません。検索は能動的な行動であり、欲しいものが言語化できていないと能動的に行動することは難しいです。
また、先程の例に挙げた「絶対データサイエンティストをやりたいんだ」という強い嗜好も、それがユーザーにとっての本質的な嗜好であればいいのですが、そうではなく「社会インパクトの大きい仕事をしたい」といった本質的な嗜好が隠れておりユーザーが認識できていない状態だと、検索フィルターの利用は機会損失を引き起こす可能性があります。ユーザーの本質的な嗜好を満たせる仕事が「データサイエンティスト」という検索フィルターで引っかかってしまい、ユーザーがその存在を認知することができなくなってしまうからです。
検索フィルターに依存しすぎるとどうなるか
ユーザと仕事の属性が多種多様になっている中で、仕事探しに関する多くの変数をユーザが明示的に指定して仕事を探せるようにするには、極論ですがその分だけ検索フィルターを設定する必要があります。
しかし検索フィルターの種類が多いほど、都度フィルターを設定する必要があります。またフィルタリング項目のカテゴリ追加・修正・移行といった管理コストも高くなり、ユーザへの価値提供が遅延してしまう可能性があります。多様化する属性に合わせてスケールさせることが難しいプロダクト構造となってしまうかもしれません。
また検索フィルターは「指定したものしか見えない」という 0 / 1 の世界を作ります。しかし人は仕事を探す上での最低条件を除き基本的には 0 か 1 かで仕事を探すことはないと考えています。例えば、「週2ぐらいでリモートできる会社だと嬉しいが、仕事がめっちゃ面白ければリモートはできなくても良い」といったような暗黙的なトレードオフが心の中にあるはずです。検索フィルターに依存しすぎるとこのトレードオフを鑑みながら仕事を探すことが難しくなってしまうし、本当にユーザにとって魅力的な仕事を見逃してしまう機会損失が大きくなってしまいます。
サービス内のマイノリティなユーザー・企業が取り残されてしまう可能性がある
上記のように言っていましたが、実際のところ検索フィルターを仕事の属性分用意することは現実的ではないです。なので優先順位を定めて何を選択肢として出すかを決めます。例えば、「職種」というフィルター項目であれば、できるだけ多くのユーザーと企業が利用できるようにユーザー数・企業数の多いカテゴリを選択できるようにしたり、また「職種」で仕事を探す人が多いならば「職種」のフィルター項目が上の方に配置された UI を採用することが考えられます。
しかし優先度を設定することで、そのサービスにおけるマイノリティなユーザーの仕事探しの体験が良くならない懸念があります。例えばハードウェアエンジニアが仕事を探したい時に「ハードウェアエンジニア」のカテゴリがフィルターになかったりする場合です。
また仕事探しにおいてどういう軸を重視するかはユーザーによって大きく異なります。例えば仕事で使っている技術に関心のあるユーザーは従業員数などの企業情報に関心が薄いであろう一方で、今すぐ転職したいと考えているユーザーは企業情報に関心が高いと予想されます。ユーザーセグメントごとに異なる課題を単一の UI で解消することは難しいです。
私たちは Wantedly Visit を通じて「すべての人がココロオドル仕事に出会えるようになる」ことを目指しているので、できる限りトレードオフのない形でどのユーザーにも良い体験が提供できるような手段を模索していきたいです。
検索ではなく探索、魅力的な探索体験は推薦で実現する
探索することで本質的な嗜好に近づいていく体験
自身が何をできたら仕事でワクワクすることができるのか正確に把握できていないユーザーがいたとしたら、どのようにしてユーザーの本質的なニーズが満たせる仕事と出会える体験を提供できるでしょうか。
そのために「低いコストで仕事を探索する」という体験が必要です。いきなり転職というステップから入るのではなく、選考前のファネルで試行サイクルを回しやすい、会社のことを企業コンテンツから知れたり、会社に気軽に話を聞きに行く体験を提供するこのサービスは、ユーザーが仕事に関する本質的な嗜好を探索するためのツールとして機能します。
ユーザーはサービスを回遊して募集の閲覧や話を聞きに行くなど様々な種類の会社と仕事に触れることで次第に自身の嗜好に対する解像度が高くなっていき、よりワクワクできる魅力的な仕事に出会えることが期待できます。
ユーザーのフィードバックから、ユーザーにとって価値のあるものを特定する手助けをする推薦システム
探索は単純にユーザーに対してランダムに選んだものを見てもらえばいいわけではなく、よりユーザーの本質的な嗜好の方向に近づけるような探索が必要となります。
例えばユーザーに A or B or C のどれが良い?という問いかけを続けることで、そこでユーザーが好きだと判断したアイテム群から共通要素を見出せるはずです。そしてその共通要素から、よりユーザーにとって価値のありそうなアイテムを推定することができ、ユーザーにその中から自身にとってより魅力的なものを選んでもらう。これを繰り返していくことによって、ユーザーは自身の嗜好を深堀りすることができるでしょう。
このようなユーザーからの逐次的なフィードバックとそのフィードバックを適宜反映してユーザーに価値のありそうなものを提示するアプローチは、「どれがユーザーにとって価値のあるものか特定するのを助ける道具」である推薦システムで実現することができると考えています。
ユーザーの嗜好と企業の嗜好の両方を考慮する
上記はユーザーの嗜好に関する話をメインとしていましたが、良質なマッチングはユーザーの嗜好と企業の嗜好の両方が満たされることで初めて成立します。
企業の嗜好も、常に一定であるとは限りません。面談を重ねていくことで候補者のペルソナの解像度が高まっていくこともあるでしょう。また企業内における採用優先度の変化や候補者対応のキャパシティによって、企業が話したいと思う候補者の対象が変化するかもしれません。
企業側も魅力的な候補者に出会えるという制約の中で、ユーザーの魅力的な募集を探索する体験を実現することは非常に複雑ですが、これもユーザーと企業のそれぞれのフィードバックをもとに価値のあるアイテムを見つける手助けをする推薦システムを使うことで紐解けることが期待できます。
多種多様なユーザーと企業がいる中でスケールさせられる構造
ユーザーと企業の属性や嗜好が多様化する世界におけるユーザーと企業のマッチングには関連する変数が非常に多く、これらを全て人力で制御することは困難なので、データを使って最適化するのが妥当だと考えています。
例えば、リモートワークできると嬉しいが、仕事がめっちゃ面白ければリモートはできなくてもよい、などのユーザーが持っている優先順位やトレードオフを捉えて、機会損失なくユーザーが仕事探しが捗るような体験は良いものでしょう。
個々のユーザーの性質をデータから捉えて、個別に体験の最適化をしていくことで、どのユーザーセグメントに対しても良質な出会いを提供できると考えています。改めて私たちは Wantedly Visit を通じて「すべての人がココロオドル仕事に出会えるようになる」ことを目指しているので、データの力でどんな人でも使えるようなサービス作りを目指します。
Wantedly Visit において推薦システムとは何なのか
Wantedly Visit において推薦システムはサービスのコア価値を継続的に高めていくための基盤として機能しており、サービスを継続的に成長させるために必要不可欠なものです。そのため、ウォンテッドリーでは推薦システムを最も重要な技術領域の一つとして技術戦略上での位置付けをしています。
これまで何を取り組んできたのか
Wantedly Visit では2018年から推薦チームが立ち上がり、推薦システムの開発が本格的に始まりました。それから現在に至るまで、推薦チームは推薦でしか出せない価値を作ってサービスの成長を支えてきました。2022年度は推薦によって主要KPIが+20%改善できています。以下では、具体的にユーザーの課題をどのような手段で解決してきたか紹介します。
ユーザーごとに最適化した募集の推薦
ユーザーが仕事を探す際に重視する軸は人それぞれ大きく異なります。そのため単純な非個人化推薦(人気ランキングなど)ではユーザーの多種多様な嗜好を捉えることはできず、ユーザーが魅力的に思える仕事と出会うことは難しいです。
変数の多い人と企業のマッチングを実現するために、機械学習を活用してユーザーごとに最適な募集を提供するパーソナライズ推薦を開発・運用しています。多種多様なデータからユーザーの本質的な嗜好を捉えることで、ユーザーにとって価値のある募集を総合的に判断して提供しています。
企業ごとに最適化した候補者の推薦
ユーザー側における課題は企業側でも同様に存在します。多種多様な属性や嗜好が存在している中で、企業が自社にとって魅力的なユーザーとマッチングして採用成功に繋がるよう、企業ごとに最適なユーザーを提示するパーソナライズ推薦を運用しています。
また企業は仕事として Wantedly Visit を利用しているため、能動的に行動する傾向が強いです。そのため企業が利用するスカウト機能では、企業ならではの検索行動の傾向を考慮して推薦アルゴリズムを最適化しています。
サービス箇所ごとに最適化した募集の推薦
サービス内の様々な箇所でユーザーに募集を推薦しています。ユーザーの利用頻度が高い箇所を中心に、それぞれの箇所によって大きく異なるユーザーの体験に基づいて推薦アルゴリズムを最適化しています。
新規登録直後から興味のある募集に出会える体験の実現
過去には、新規登録ユーザーが登録直後の熱意の高いうちに興味のある仕事に出会えないという問題が起きていました。なぜこの問題が起きていたかというと、登録時点で取得可能なユーザーの明示的な嗜好は職種しかなく、職種に基づいた仕事探しの体験しか提供できていなかったからでした。
そこで選択したソリューションは「興味選択」という新しい体験の創出です。新規登録時に「興味」という仕事探しにおける複数の軸に属するキーワードを選択してもらい、登録時点で得られる明示的な嗜好の量と質を増やすことで、登録直後からユーザーの嗜好に合った募集を推薦できるようにしています。
会社訪問アプリ「Wantedly Visit」における推薦システム開発事例
つながりを活用した募集の推薦
「ユーザーは現職と違う会社でも成果を出せるか分からない不確実性の大きさから、不安を感じて応募しづらいと感じる」という課題があります。この課題に対して、ユーザーの不安を減らして気軽に会社に話を聞きに行けるよう、ユーザーのつながり情報を募集推薦に取り入れました。また「つながり」は不安の解消だけでなく相互理解の促進ができるような仕事探しの手段でもあるので、そういった仕事探しの体験を実現しています。
「つながり」は Wanteldy Visit や Wantedly People で構築することができ、「つながり」というプラットフォームの資産を活用して、Wantedly というビジネスSNS内におけるエコシステムを形成しています。
また推薦アルゴリズムだけでなく募集の検索条件に「つながり」の条件を追加することによって、能動的にも「つながり」を軸に仕事を探せるようにしています。
これから何を取り組むべきなのか
これまでユーザーの課題解決を着実に進めてきましたが、プロダクトには解決できていない多くの課題が残っており、人と企業の理想的なマッチングの実現には程遠いです。プロダクトの成長を鈍化させないためにも、すべてのユーザーと企業の理想的なマッチングに向けた課題の発見と根本的解決にフォーカスして開発を加速させる必要があります。
双方向の嗜好を考慮することでミスマッチを解消する
これまでの推薦システム開発では、主にユーザーが魅力的に感じる募集へ応募することを促進してきました。これによって応募の体験が大きく向上した代わりに、成功体験のボトルネックが応募後のファネルに移りつつあります。つまりユーザーは魅力的な募集に出会えるようになりましたが、企業側から見るとそうではないといったことが起きています。
サービスではユーザーと企業の明らかなすれ違いが起きていたり、それだけではなくユーザー側または企業側のニーズが満たされないことでミスマッチになってしまうというケースも積み重なっています。ミスマッチの多い現状は、モチベーションが高くて頑張れるユーザーでないと企業と出会うことができない状況と言えます。すべてのユーザーが気軽に企業と相互理解できるようになる世界を目指し、互いが両思いになるような募集にユーザーが出会えるようにすることで、サービス内のミスマッチの解消を取り組んでいきます。
人と企業のマッチングに関わる要素は非常に多く、人と企業のそれぞれが仕事に求めている要素が満たされることで初めて理想的なマッチングが成立します。人と企業・仕事に関する多種多様な属性や嗜好がある中で非常に複雑な人・企業の関係性をモデル化してプロダクトに反映することは、機械学習を活用した推薦システムでないと実現することはできません。
以下は人と企業の簡潔なマッチングモデルになります。人と企業はそれぞれ属性と嗜好を有しており、人と企業のマッチングにおいては一方向の嗜好が満たされているだけでなく、もう一方の嗜好も満たされることで良質なマッチングという成功体験が得られます。そのため、人と企業の双方向の嗜好を考慮して推薦するシステム、相互推薦システムが必要となります。
現在は、双方向の嗜好を考慮した推薦システムを構築して少しずつ改善を進めている状況ですが、ミスマッチを大きく減らせる理想形から程遠いです。具体的には「広さ」と「深さ」の両方が大きく不足しています。
「広さ」とは、現行の推薦システムにおいて考慮しているマッチングの要素のカバー範囲のことを指しています。属性と嗜好、またそれぞれの掛け合わせを明示的にモデル化することで、意図した通りのミスマッチの解消を進めています。しかし個々の問題に対する設計や対応の難易度は簡単なものではなく、かつ問題の種類も多いので人手や時間リソースが足りていない状況です。
「深さ」とは、マッチングの要素に対する解像度の高さを指しています。問題を完全に解消するためには、表面的な部分ではなく根本の原因を押さえなければいけません。そして根本を抑えるためには、イタレイティブに施策を進めつつマッチングに対する理解の解像度を着実に深めていく必要があります。
現行の推薦システムでのカバー範囲のイメージ図(色がついているものは対応済み、灰色はこれから対応)。灰色部分を優先度の高いものから対応していき、施策で得られた知見から階層を深くしたり広げることを繰り返し、根本への到達を目指します。
人と企業の理想的なマッチングは、短期間で達成できるものではなく、泥臭く問題を1つ1つ解消していき時間と人手をかけて理想へと進めていく必要があります。最終的に到達できる理想が非常にココロオドルものであると期待し、ユーザー、企業ともにお互いが魅力的と思えるものばかりが推薦されるサービスを目指していきたいと考えています。
募集画像を活用して共感を軸としたマッチングを実現する
Wantedly Visit ではユーザーに意義やモチベーションを見出だせるココロオドル仕事に出会える体験を提供できるよう、会社のミッションやそこで働く人の想いへの「共感」を軸にしたユーザーと企業のマッチングを重視しています。
そのため会社のミッションやそこで働く人の想いを表現できるプロダクト作りを行っており、そのための取り組みの1つが募集に添付する画像へのこだわりです。例えば、オフィスのイケてる写真やチームでディスカッションしている様子など、画像は会社のカルチャーや雰囲気などの言語化が難しい情報を伝達することができるので、ユーザーが共感できる会社を探すために重要な要素だと考えています。プロダクト内では募集の画像がユーザーの目に入りやすいよう画像を大きく表示させるようなUIを提供していたり、募集の画像の質を担保するためにクオリティガイドラインを設けて人力でのチェックを実施しています。
一方、現状の推薦では「共感」という Wantedly Visit におけるマッチングの重要な要素を明示的に考慮することはできていません。サービスの強みを磨き上げて唯一無二の価値をユーザーに提供できるようにするためには、強みである「共感」を軸としたマッチング体験を推薦で実現する必要があります。
上記のように、募集の画像には「共感」の構成要素となる言語化が難しい情報を多く含んでいるはずなので、機械学習を利用して「画像という媒体から必要な情報を意図通りに抽出」することで理想の体験を実現したいと考えています。しかし「共感」という抽象度が高い要素をモデル化することはー縄筋ではいかないはずで、「共感」を考慮した推薦システムの構築は非常にチャレンジングな取り組みだと考えています。
募集画像を使った推薦の研究開発の取り組みについてはこちらのスライド(DEIM2023技術報告資料)をご覧ください。
最適挑戦のためのマッチングを実現する
ウォンテッドリーでは、仕事でココロオドルための要素として「挑戦」が必要だと考えています。適切な挑戦が仕事への没頭と成果、成長を引き出す上で重要な要素になっているからです。
しかし、この「挑戦」という要素は現状のサービスではあまり考慮できていません。ユーザーによって最適な挑戦の中身やどのぐらい挑戦を重視するかは大きく異なり、かつ最適な挑戦を自分から見つけに行こうとする人は多くないと考えています。だからこそ、データを活用してユーザが望むユーザにとっての最適な挑戦を描いて推薦するという、最適挑戦のためのマッチングを推薦システムで実現していきます。
最後に
私は2019年9月にウォンテッドリーに中途入社して以来、会社訪問サービス「Wantedly Visit」の推薦チームに所属して推薦システムの開発と運用に注力してきました。多種多様な嗜好や性質を持つユーザーと企業の間で如何にして理想的なマッチングを実現するかという課題は複雑ですがその分インパクトが大きく、転職して3年経った今でも非常に挑戦的でワクワクできる仕事だと感じています。
これからも推薦チームは推薦でしか出せない価値を作っていきます。また長期的に成果を出していくためにも、現状に甘んじることなく、より大きなことが実現できるようなデータ活用のあり方を追求し続けていきたいと考えています。しかし、今後やっていきたいことに対して人が足りない状況です。今回の記事を読んで少しでも興味があると思われた方は、現在の転職意欲に関わらずカジュアル面談で是非お話しましょう!この記事に紐付いているウォンテッドリーの募集かTwitterのDMからご連絡ください。