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事例公開:グレーゾーン解消制度を使ったルールメイキング

皆様こんにちは!コーポレート・リーガルチームの植田です。

先日、当社にて職業安定法に関してグレーゾーン解消制度の申請を行い、規制所管官庁である厚労省から「Wantedlyが開発する推薦技術を用いた募集のパーソナライズ機能の実装が「職業紹介」に該当しない」との回答を得ました。

近年グレーゾーン解消制度を用いて法的論点の明確化を推し進める企業が増えていますが、まだまだ知名度が高いとは言えない制度ですし、申請の背景や具体的な手続きを社内の立場で紹介した事例も少ないので、(ごく簡単にではありますが)今回は当社のケースをご紹介させていただきます。

グレーゾーン解消制度とは

グレーゾーン解消制度とは、簡単にいうと、規制の適用が不明瞭な法的論点(新事業活動に関するものに限ります)について、事前に管轄官庁に照会をかけて(経産省が照会の窓口となります)、その適用の有無を回答してもらう制度です。

ルールが整っていない領域やルールが陳腐化した領域でビジネスを進めることの多いスタートアップにとって、主体的にルールメイキングを進めることのできる貴重な手段の1つといえます。なお、2020年においては15件の利用実績があります(12月20日時点での回答ベースの件数)。

※制度については、白石紘一「「グレーゾーン解消制度」における弁護士等のサポート」(ビジネス法務2020年12月号)にも詳しい記載があります。

照会の背景

Wantedlyでは、以前より、推薦技術を用いた募集のパーソナライズ機能(行動履歴等に基づいてユーザ毎に募集の表示順序を入れ替える機能)の研究開発に力を入れてきました。

HRTechサービスにおける募集のパーソナライズ機能自体は、近年は見慣れた機能にはなりつつあるものの、法的な観点では、規制ビジネスである「職業紹介」(職業安定法)の該当性について明確な整理がなされていませんでした。

法的に不明瞭な論点をクリアにするという目的はもちろんですが、日々推薦・検索システムの研究・開発に力を入れている当社エンジニアに安心して業務に専念してもらうためにも、グレーゾーン解消制度を利用できないか検討を進めてきました。

「Team Wantedly」 が RecSys Challenge 2020 で3位に入賞しました | Wantedly Engineer Blog
ウォンテッドリーでデータサイエンティストとして働いております 松村 です。現在は、Wantedly Visit におけるユーザと企業の理想のマッチングを実現するために推薦システムの改良や、データサイエンスを活用したプロダクト開発に責任を持つ Matching Squad のチームリーダーをしています。 このたび、社内のデータサイエンティストである、 合田 ( @jy_msc )、縣 ( @agatan_ )、松村 ( @yu_ya4 )でチームを組み取り組んできた RecSys Challenge 202
https://www.wantedly.com/companies/wantedly/post_articles/249713

申請にあたって検討したこと

なぜアップデートが必要か

まずは既存のルールをアップデートの必要性を改めて確認しました。ルールメイキングありきにならないように、Wantedlyが提供する推薦機能の価値を改めて確認し、当該機能をプロダクトに実装するために既存ルールのどの部分が障害となるのかを十分に整理しました。

あるべきルールは何か

次に、グレーゾーン解消制度によりどのような回答を得ることを目指すのかを議論しました。グレーゾーン解消制度の申請書には、対象となる論点について自社の見解を記載する箇所がありますが申請書雛形参照)、ここでは最終的に得たい回答を念頭に自社の見解を論理的に組み立てる必要があります。

また、厚労省の回答が、一定の条件が付されたものだったり、ネガティブなものであるケースもあり得るため、今後のプロダクト開発の方向性も踏まえながら、受け入れ可能なルールとそうでないルールを整理していきました。

過去の議論の精査

採用サービスにおける募集の推薦機能に関する厚労省のこれまでの議論を、外部専門家を交えて十分に検討しました。こうした議論の検討は、自社の見解を組み立てる際の材料になりますし、厚労省の回答結果を予測するヒントにもなります。

今回のケースでは、厚労省で2016年に行われた「雇用仲介事業等の在り方に関する検討会」の議論の内容を特によく検討しました。

業界全体への影響

グレーゾーン解消制度に対する回答結果は、経産省および厚労省のウェブサイトで公表され、事実上の新ルールになるため、当社と類似のサービスを提供している企業に対する影響も考慮しました。

提供しているサービスの仕様によって回答内容の受け止め方に異なる部分はあるとは思いますが、2016年を最後に表面的には止まっていた厚労省での議論を進め、少しでも基準を明確にすることは、採用系のウェブサービスを提供する企業にとって一定の意義があるものと考え、グレーゾーン解消制度の申請を進めることとしました。

申請の流れ

グレーゾーン解消制度は、管轄官庁の回答期限が原則1ヶ月以内と決まっているため、いきなり本申請をするのではなく、事前に経産省および対象法令の管轄省庁と協議をし、ある程度の回答の方向性の開示を受けたうえで、本申請に進むことが一般的です。

今回も、事前に作成した申請書をベースに、経産省側の担当者の方と、新機能の説明、法的論点、これまでの議論の経緯などを共有しつつ、十分な事前協議を行いました。その後、厚労省側から当社として納得できる内容が得られたため、そのまま本申請に進むことにしました。

なお、スケジュールは、以下のようなタイムラインで進みました。

今回、事前照会から本回答が得られるまでにかかった期間は3ヶ月弱でしたが、長いと半年以上かかるケースもあるようです。

回答内容

冒頭で紹介したとおり、今回、Wantedlyが開発している推薦技術を用いた募集のパーソナライズ機能の実装が「職業紹介」に該当しない、との回答を得ました。注目すべきは、「ユーザの検索条件に該当する求人が全件表示されていること」が「職業紹介」該当性を判断するうえでの一つの指標となることが示された点です。この点は、これまで参考にされてきた「民間企業が行うインターネットによる求人情報・求職者情報提供と職業紹介との区分に関する基準について」「募集情報等提供事業の業務運営要領」では言及されていない点であり、今後の採用サービス運営に新たな指標を与えるものと考えています。

おわりに

新たなビジネスモデルやテクノロジーを導入する際に、既存の規制が障壁となるケースは多々あるかと思います。グレーゾーン解消制度は、そうした場面において、企業自らが主体的にルールのアップデートを行うことのできる一つの有効な手段になるかと思います。

今回の事例紹介が少しでも皆様のお役に立てれば幸いです。

また、今回の申請にあたっては、当社顧問弁護士の先生のみならず、スタートアップ法務で活躍されている方々の有益なアドバイスをたくさん頂戴しましたので、この場をお借りして御礼申し上げます。

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