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カオナビ流のマーケット戦略~SaaSビジネス構築の舞台裏を語る~

こんにちは!
カオナビで取締役副社長 COOを務めている佐藤です。今回は新規ユーザー獲得のセールスにおけるカオナビの基本的な考え方と、その仕組みについてご紹介したいと思います。

話はカオナビの創業期に遡ります。事業をスタートするにあたり、代表の柳橋と僕は何をやるか、やらないかという議論を徹底的に尽くしました。そこで合意した最大のポイント、それが「僕らはSaaSというビジネスモデルを選択し、それ以外のビジネスモデルはやらない」ということでした。目の前のお金を稼ぐためには、コンサルティング、SI、人材紹介など色々な選択肢が転がっています。創業期なら尚更、そこを獲りに行ってしまう経営者も多い。しかし僕らは鉄の意志でそれらを一切行わず、SaaS一本で食っていくという腹を括りました。

なぜその選択をしたのか?SaaSとはつまり仕組みのレバレッジで収益が生まれるビジネスであり、結果、短い時間で社会へ大きな影響を与え、直接出会えない多くの人を一気にハッピーにできる、そう確信していたからです。

創業期に選択した「THE MODEL」型のセールス組織

セールスに関しては創業期から特にこだわりました。旧来型の営業手法なら、営業パーソンを沢山採用して、飛び込みやテレアポのようなアウトバウンドをガンガンする。しかし、そんな選択をする気は全くありませんでした。またB2B事業でフリーミアム戦略を選択し、成功している企業もありましたが、僕らのターゲットは規模が比較的大きな企業となるため、この手法も外しました。

カオナビのような事業は極端な話をすれば、1件の問合せから1件のアポイントが取れ、1回の商談で顧客のニーズにサービスがピタリとはまり、契約を成立させることが理想形です。

この状態を本気で実現させるためには、「最少人数で、かつスピーディーに」が必須条件となります。そこで僕らは2つのことを決めました。1つはサービスのコンセプト訴求を研ぎ澄ませ、広告宣伝から対面営業まで一貫させること。2つめはその一貫性を前提として、マーケティング、インサイドセールス、フィールドセールスの3チームでの分業体制とすることでした。細分化によって効率を高める代わりにサービスコンセプトを終始一貫させて効果を最大化するというやり方です。

もっと言えば、そのサービスコンセプトは製品開発と行ったり来たりをしたので、製品開発から営業までの一貫性とも言えると思います。ちなみにこのやり方はセールスフォースの「The Model」とも合致しています。

コンテキストは尖っていた方が良い!ターゲットを明確にさせるマーケティング戦略

ここからはもう少しだけ具体的に、それぞれのファネルでの試行錯誤を紐解いてみましょう。スタート地点はマーケティングでのサービスコンセプト&コンテキストの先鋭化です。

当時、僕らは「タレントマネジメントシステム」という製品カテゴリーに属するような言葉を使うことを極端に嫌いました。その理由は一般的に浸透していない用語であること、加えて「誰が」「何を」「どのように」活用するサービスなのか、全くイメージできないと思ったからです。

では僕らが訴求するべきコンテキストは何なのか?それが「顔と名前が一致しないを解決する」です。これにより「成長企業の経営者の」が主語になりました。つまり社員がどんどん増えて、誰がどこにいて何をしているか分からずに気持ち悪さを覚えている、人材活用に熱心な経営者にターゲットを絞り込んだわけです。

ユーザーは人事でなく経営者ということもポイントです。これは逆説的にいうと、顔と名前が一致する規模の企業や、その必要性がない大手企業、そして人の問題は人事が解決すれば良いと思っている企業はターゲットではないと明確に伝えることになります。

このコンテキストをマーケティングで明確に伝えるために、サービスサイトのTOP画面は毎週、「てにをは」まで拘って修正を繰り返していました。

加えてこのフェーズで最も大切だったのは、導入事例です。なかなか定量的に効果を示し難いサービスの価値を証明する唯一の方法は、導入企業がカオナビを活用し、成功している事例を示すことです。

だからこそファーストユーザーであるサイバーエージェント社をはじめとして、トリドール社、エイベックス社など、多くの先進企業の導入事例、そして成功事例を世の中に伝えることに魂を込めていきました。

インサイドセールスの司令塔化がセールス活動を「量」より「質」へ転換

「マーケがいっぱいリードを取っているのに営業が受注してこない」「マーケが取ってくるリードはほとんど受注につながらない」この手の話が巷には溢れています。

原因はマーケティングとセールスの分断です。僕はこの課題を解決するために、マーケティングとセールスの間にインサイドセールスを置くことを考えました。マーケティングオートメーションツールを駆使し、マーケティングからセールスにつながるパスを可視化・最適化する専門チームです。そしてそのチームをフロント全体の司令塔として位置付け、非常に重要視しました。

マーケ側のリードとセールス側のアポイントの不均衡をチェックし、それぞれのチームに発破をかけ、問題解決をはかる。これを繰り返すうちに、リード獲得→ナーチャリング→アポイント→成約のどこで何が滞っているのか、問題の可視化ができるようになりました。

結果、受注につながるKPIを意識できるようになります。フィールドセールスも無駄な単客やアポイントに時間を費やすのではなく、大切な提案活動に集中することができます。つまりインサイドセールスが司令塔の役割を果たすことはイコール、「各部門の生産性を量ではなく、質に転換すること」へつながるのです。

また僕がこの部門を直接マネジメントすることによって、全体最適化のための意思決定が即座にできる。我ながら非常に秀逸な組織編成でした。さらに僕がインサイドセールスチームを重要視することでセールス戦略が全社に伝わったことも成功のポイントだと思っています。

「インサイドセールスを司令塔に!成長を牽引するカオナビのセールス戦略に迫る」はこちらより)

サービスコンセプトへの共感がないユーザーへのセールスはSaaSの禁じ手

さて、それでは最後にシュートを決めるセールスにとって最も大事なことは何なのでしょうか。

それは機能でなく、サービスコンテキストをきちんと語ることです。つまりマーケティング段階から一貫して伝達してきたサービスコンセプトをリアルな人間の言葉できちんと表現することです。

僕はいつも「競合との機能の〇×表を提出したらおしまい」と言っています。SaaSは個別のカスタマイズをしない代わりに、ベンダーのサービスコンセプトに基づいたバージョンアップを約束するものです。だから、どういう方向性へバージョンアップをしていくサービスなのか、それを伝えないといけない。また長く使ってもらうことでLTV(ライフタイムバリュー=顧客生涯価値)が最大化するのですから、長く使ってもらう将来価値に合意がなければ長期的には解約という結果につながります。

もっと突っ込んで言ってしまえばサービスコンセプトに共感していないユーザーは解約予備軍ですから無理やり売ってしまうという行為はSaaSにとって禁じ手であると言えます。単なる機能説明であれば動画で十分。マーケティングから一貫してきたサービスコンセプトを最後にユーザーに正しく通訳し、正しく選択していただくこと。それがセールスの仕事であり、それにセールスが注力できるようにマーケティング、インサイドとバトンを渡していく仕組みこそが大切だと思っています。

テレビCM投下等の大きなマーケティングコストは既存ユーザーをハッピーにすることで生まれる

カオナビ は2019年からテレビCMやタクシー広告といったマス広告を断続的に実施し続けています。この施策の背景には、HRテック市場の盛り上がりがあります。カオナビが創った市場において、継続的に圧倒的なNo.1を獲得し続けることを迫られるフェーズに入りました。

そこで敢えて今までの以上認知拡大に舵を切りました。ただここには単に巨額の広告費を投入すれば良いというだけでないSaaSならではのカラクリが存在します。

SaaSでは、有名な話ですが、ビジネスの特性上、「LTV(顧客生涯価値)/CAC(顧客獲得単価) > 3x」(LTVがCACの3倍より大きい)が健全な水準とよく言われます。

ここでは細かい説明は省きますが、LTVが最大化すればするほど、広告費を投下する枠が拡がっていくということになるのです。そしてLTVはARPA(顧客平均月額)/ChurnRate(解約率)ですから、LTV最大化のためには、より長く(解約せず)多くの機能を利用してもらえると良いわけです。

つまりマス広告のように広告費をたくさん使うためには、既存のユーザーにきちんと活用してもらい、ファンになってもらい、長く利用してもらうことが対になる。SaaSってなかなか良いモデルだと思っています。

ですから今回マス広告に踏み込めた背景には、1,800社以上の既存ユーザーのカスタマーサクセスがキーであり、派手なテレビCMばかりが注目されますが、様々なカスタマーサクセス活動の充実がそれを支えているということなのです。

カオナビの第二フェーズの成長を加速するためには利用ユーザーの活用促進をどう仕組み化し、どうファンになっていただくか。新規ユーザー獲得の仕組み化で培った知見を今度は既存ユーザーのカスタマーサクセスに応用・発展し、次のステップでも大いなる成長を果たしたいと思っています。

当社はSaaSというレバレッジの利く仕組みのビジネスを営み、そこで働く一人ひとりの生産性にこだわって事業を展開しています。その価値観を今後も大切にしつつ、新たな仕組みでHRテックの市場で勝ち残って行けるように頑張っていきたいと思っています。

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