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“仕事の役割”だけが自分じゃない。1ヶ月の旅が教えてくれたこと

株式会社CRAZY(以下、CRAZY)では、「人々が愛し合うための機会と勇気を提供し、パートナーシップの分断を解消する」をパーパスに掲げ、運営しています。

今回スポットを当てるのは、執行役員として経営企画室室長を務める井上雄貴さん。井上さんは、CRAZY独自の長期休暇制度 「GREAT JOURNEY」を利用して、2023年4月から1ヶ月間、アメリカ一人旅をしました。

前職時代は、「大人になって長旅ができるなんて思っていなかった」という井上さん。なぜ、CRAZYでは旅を推奨しているのか。旅を経て、井上さんにどんな変化があったのか。お話を伺いました。

旅は、成長の機会。だからみんなが背中を押してくれる

―まずは、現在の仕事内容を教えてください。

井上:経営企画室室長として、財務や経理、マーケティング、営業といった業務を管掌しています。

―井上さんは、CRAZYの長期休暇制度 「GREAT JOURNEY(以下、GJ)」を活用して、1ヶ月アメリカへ行っていたと聞きました。GJとはどんな制度なのでしょうか。

井上:「目的を明確にし、1人で7日間以上海外に渡航する」というグランドルールを設けた無期限休暇制度です。

私たちは日常に“慣れ”がありますよね。慣れた環境での生活は、そこに最適化した自らのアイデンティティを強化していきます。それって自分の一側面を強調していくことになるんです。

だからこそ、“慣れ”から最も離れた海外という環境へ行こう。一人旅で自分と向き合う機会を持とう。そして、より理想のアイデンティティに触れ、人生を豊かにしようというのがGJの考え方だと思っています。

―実は、もともと1週間程度の旅を考えていたと伺ったのですが。

井上:はい。代表とメンバーと3人で話しているときに、GJに行こうと思っている旨を伝えたんです。代表から「どのくらい行く予定なの」と聞かれて1〜2週間くらいと答えたら、「もっと大胆に1ヶ月くらい行きなよ」と言われまして(笑)。

また、メンバーからも「厳しいコロナ禍で先頭を走ってくれた分、ゆうきさんには大胆に行ってほしい!」と言ってもらい、思い切って1ヶ月の旅に出ることにしました。

前職時代から旅は好きでしたが、行っても1週間が限度だと思っていました。また休む前には関係部署と綿密に調整し、戻ってきてからはフォローして回らないといけない。旅のために休みをとるハードルが高く、社会人には難しいと思っていました。

でも、CRAZYでは旅に出ることを「成長の機会」として推奨しているから、みんな快く送り出してくれます。もちろん、GJに出る前は引き継ぎをしたり、旅の期間中にも時々メンバーに様子を聞いたりしました。でも、僕が顔を出すたびにメンバーから「大丈夫ですから旅に集中してください!」と、たしなめられてしまう(笑)。だから、心置きなく長期の旅ができました。

自分の強みが、自分の苦しみになっていた

―あらためて、今回の旅について聞かせてください。GJには「目的を明確にし」というグランドルールがありましたが、井上さんの旅の目的は何だったのでしょうか。

井上:「目的を持たない旅にする」ことが目的でした。目的を明確にしてしまうと、目標達成にシビアな“検閲官の自分”が、綿密に計画を立てて忠実に実行しちゃうんですよ。

―検閲官の自分?

井上:はい。目標達成のために自分の感情や願望を抑えてしまう癖が昔からあって…。旅の道中にその自分を「検閲官」と呼ぶことにし、対話をしてみました。

例えば学生の頃は、定期試験で上位の成績を取るために科目毎のプランニングシートを徹底的に作り込んで、忠実に勉強を進めていたんです。そうしたら、学年3位以内の成績を安定的に取れるようになって。その成功体験から「綿密に計画を立て、忠実に遂行し、成果を出す」ことが、自分の強みになっていきました。前職の公務員時代でも、CRAZYでのこれまでのキャリアでも、検閲官の自分は活躍しましたね。

―きちんと計画を立て遂行するのは、一般的には良いことですよね。

井上:はい。コロナ禍、婚礼事業は大打撃を受けたのですが、その強みを活かして会社のV字回復に貢献することができました。ただ、予想以上に検閲官の自分が大きくなっていることにも気づいて…。

例えば、1円でも経費を削減するために財務を管理をする。休みの日でも目標達成が気になり、営業や問い合わせ数などの進捗状況を確認する。そんなふうに、プライベートにも検閲官の自分が残るようになって…。

趣味のサーフィンですら「うまくならなきゃ意味がない」「計画的に練習しなければ」と思ってしまい、次第に心から楽しめなくなっていました。目的や目標に執着してしまう自分を手放すために「自由の国」とも言われるアメリカで、目的のない旅をしたいと思ったんです。

目的を手放したことで、想像以上の感動に出会えた

―「目的を持たない旅」は、実際どうでしたか?

井上:最初の1週間は、ロサンゼルスで大谷選手の試合やバスケの試合を観たり、ラスベガスでポーカーをしたり、シルク・ドゥ・ソレイユなどの演劇を鑑賞したり、直感的にいいなと思うことをし尽くしました。

その後は何時間も車を走らせ、セドナやグランドキャニオンといった大自然の豊かさを感じて人生観を見つめ直す時間も取りましたね。

サンフランシスコではYouTubeやSalesforceといった大手IT企業を見学したり、本場のブルーボトルコーヒーを味わったり、その街に根付いたカルチャーを体験したりしました。旅の終盤は、カリフォルニアの海沿いのAirbnbに宿泊して、世界的に有名なサーフスポットでサーフィンを楽しみました。

様々な都市を行き来した1ヶ月間

1週間ほど滞在したパワースポットセドナ”の風景

一人での旅は想像以上に寂しかったり、道に迷ったりと多少のハプニングがありましたが、目標や計画に縛られず気ままに生きることで、やりたかったことがどんどん実現できて、充実した旅になりました。でも、終盤で問題が起こって…。

―問題?

井上:旅の間は基本的に車で移動していたのですが、旅の終盤のカリフォルニアの海沿いの街へは飛行機で移動しようと計画していました。サーフィンが好きな僕は、本場カリフォルニアでのサーフィンを最も楽しみにしていたと言っても過言ではなかった。少しでも滞在時間を長くするため、予定をしっかり組んで飛行機に乗りました。結局、ここでも検閲官の自分が無意識に出ていたんですよね(笑)。

だけど、1時間半予定だったフライトが、気流トラブルで10時間以上に伸びて…。そのうえ、予定の空港とは別の空港で降ろされてしまって。予定外の出費と予定外の時間が発生し、夜遅くなんとか滞在先に着いた時には、もう心身ともにヘトヘトでした。

そんな僕の様子を見たAirbnbのオーナーが、「晩ごはんを用意したので、召し上がってください。お金はいりませんよ」とご厚意で料理を作ってくださって。体も心も弱っていたので、その心遣いにとても救われました。

偶然なんですけど、そのAirbnbは日本人の中村ファミリーが管理していて、しかも旦那さんは僕が読んでいたサーフィン系の雑誌のカメラマンをしていたんです。外見も精神面も開放的で自由で、カリフォルニアスタイルが似合う方で。とても刺激を受けました。

滞在中も、真面目に旅の振り返りをしようとする僕に「そんなことしている場合じゃないですよ!いい波来てるよ!」といろんなところに連れて行ってくれました。そして、想像以上の感動にたくさん出会うことができたんです。

中村さんとカリフォルニアで1,2位と言われる抜群にいい波が来るポイントへ

―想像以上の感動?

井上:はい。移動も旅の振り返りも、予定していたようには進みませんでした。でも、ヘトヘトになりながら移動した後、人の愛情に心動かされたり、カリフォルニアスタイルな生活で活気づく自分に出会えたり…。

特にサーフィンでは、期待通りではない天気や波に対して、期待を捨てて身を委ねることで、自分という存在が消えていく感覚を体験しました。自分は自然そのものであり、計画的なものでも定義できるものでもないと実感したんです。一瞬だけ訪れた最高の波に乗った時、経験したことのないような多幸感に包まれました。

計画に忠実なのは、決して悪いことではないと思うんです。実際、それによって実現できたことはたくさんあります。でも、忠実すぎると自分が想像する以上の感動や新しい自分に出会えないとあらためて気づきました。目的や目標を決めずに、その時々で感じた気持ちやつながったご縁、その時の流れに身を任せる。リスクもあるけど、その分得るものは大きいかもしれない、と。

そして、検閲官の自分も否定しないことが大切だと思ったんです。どちらか一方ではなく、その自分も、心ゆくままな自分も同時に受け入れていく。行ったり来たりしてもいい。その極に触れることで、人生観は広がるんじゃないかなと。

帰国後、中村ファミリーと横浜のフェスにて再会

人は誰しも「繋がりたい」と思っている

―どうして検閲官の自分を否定しないことが大切だと思ったんですか?

井上:検閲官の自分は、目的や目標を決めて、計画を立て、仕事を前に進めてくれます。着実に成果を上げていくんです。ビジネスで成し遂げたいことがある僕にとっては、確実に大切な一人の“自分”。だけど、検閲官の自分が他の自分を否定し始めると苦しくなるんだと気づきました。

例えば、財務状況の厳しいコロナ禍では、メンバーからの予算申請に対して、Noと返答することが幾度となくありました。会社を守るべく、検閲官の自分がシビアな判断をし続けたんです。それが間違った判断だったとは今も思いません。

だけど、その判断を重ねるたびに、何かが分断される寂しい感覚がありました。着々と進む経費削減と改善する財務状況。その成果に相反するように湧いてくる「自分は何を得たかったのだろう?」という寂しい気持ち。

今回の旅で、その寂しさは「検閲官の自分がいたから」ではなく、「検閲官の自分が他の自分を否定していたから」だということが分かったんです。

合理的な判断をする検閲官の自分は、メンバーの想いに強く共感する感情的な自分を否定していたんですよね。その自分を否定することは、メンバーへの共感も否定することに繋がって…。結果、他者と繋がれていないという孤独を感じていたんです。だから、どんな自分も同時に受け入れていきたいと思いました。

―なるほど…!どんな自分も受け入れた先には、何があると思っていますか?

井上:自分と、人と、もっともっと繋がれる。その先に、CRAZYのブランドメッセージでもある“愛はみえる”という世界があると思っています。

人間誰しも「繋がりたい」が、本音だと思うんです。僕も、少年のように心からサーフィンを楽しむ自分と、もっと良い仕事をしたいと願う仲間と、ずっと繋がりたかった。

そうやって自分と、人と、繋がるためには「まだ知らない素敵な自分がいる」と期待することが大切だと思っています。

“相反する自分たち”を認める

「まだ知らない素敵な自分がいると期待する」とは、どういう感覚ですか?

井上:自分や人と繋がれなくなるのは、特定のアイデンティティを強化してしまうから。CRAZYがGJを推奨する理由でもあるように、慣れた日常ではその環境に最適な自分の一側面が強調されていくんです。

特定の自分が強化されることは、なんらかの“正しさ”が強くなると思います。その結果、他の自分や他者をジャッジしはじめ、自分とも他者とも繋がることが難しくなります。

仕事の役割で強調される自分は、あくまで一側面であって、本来の自分ではありません。

本来の自分は想像以上に大きくて、複雑性があって、相反する気持ちや観点を持っています。

その“相反する自分たち”を認めながら生きていくことで、自分と、人と、自然と、繋がりながら生きていけるんだと思います。これって本当に気持ちいいんですよ。だから“自分がまだ知らない自分”に、どんどん期待したいですね。

―多様な自分を受け入れた上で、これからどんなチャレンジをしていきたいですか?

井上:今回の旅で、自分や他者との間にあった分断に気づき「人々が愛し合うための機会と勇気を提供し、パートナーシップの分断を解消する」というCRAZYのパーパスの価値を再確認しました。

旅の最終日に、サンタモニカのビーチ沿いをゆっくり散歩したんです。CRAZYのコーポレートカラーでもあるマジックアワー(夕暮れ)の時間帯になり、感動的な景色に包まれました。空のグラデーションと、ビーチ沿いを行き交う個性豊かな人たち。そこには、“あるがままでいいんだ”と感じられる景色が広がっていました。その瞬間「自分もそこにいていいんだ」と世界と繋がった感覚を覚えて涙が溢れ出ました。

僕は、旅に出ることで検閲官以外の自分に気づき、その自分を認めることができた。

苦しみに変わってしまうほどの強みが自分の大きな支えだと気づくこともできたし、感情的な自分が大切な仲間と自分を繋げてくれるんだということにも気づきました。

だからこそ、会社の経営を担う立場として、仕事の役割上の自分だけではなく“全人格”で仕事をしていきたいです。ゆうきさんらしくないですねと言われたら、これも僕らしいよって言いたい。そうやってビジネスに取り組んだ先で、多くの人にある分断の解消に貢献できたら本望です。

役割を持つ大人にこそ、旅は必要

―最後に、なぜCRAZYが旅を推奨しているのか、実際に1ヶ月旅をした井上さんの考えを教えていただけますか。

井上:旅は、普段とは違う環境で過ごすことになります。また、一人旅だと頼れるのは自分しかいない。慣れない環境で、強制的に自分と向き合うことになるんです。自分の嫌な一面があぶり出されて、嫌な思いをするかもしれない。実際僕は、嫌な自分が出すぎて、バスの中で号泣したこともありました(笑)。でも同時に、ありのままの自分の良さに気付くこともできます。

仕事でもプライベートでも、自分の人生の舵を自分で取るなら、まずは自分を知ること。そして自分には今以上の可能性があるんだと信じること。そういった意味で、自分ととことん向き合える旅を、CRAZYは推奨しているのかなと。

多くの“役割”を持つ大人にこそ旅は必要だと思います。仕事で迷惑を掛けてしまうからと旅を諦めるよりも、旅をした後の自分がもたらす仕事やプライベートへの大きな価値を信じてみてほしいです。

頑張っているし、成果も出ている。だけど、違和感や孤独感など充実した結果に相反する感情を抱えている方にこそ、旅は素晴らしい価値をもたらしてくれるはずです。

執筆:仲奈々
企画・編集:池田瑞姫
撮影(一部):kuppography
デザイン:岩田優里

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