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社内外問わず、面白いエンジニア・デザイナーに質問しに行く「聞いてみた」シリーズ。社外編の第三回は、社内のエンジニア組織の改革を急速に推進しているというシーエー・モバイルさん。その役割を担った齋藤 匠さんに、シーエー・モバイルにおけるエンジニア組織の作り方を伺いました。
株式会社シーエー・モバイルさん
サイバーエージェントグループの中で、モバイル領域に特化し、スマートフォンサービス周辺の広告事業、占いやアーティストのファンサイト・メディア等のコンテンツ事業、IT関連企業への投資事業などを行なっている。
・開発チームの人数:80人(7月末現在)
・開発チームの構成:全チームを横断する基盤系のグループと、プロジェクトごとのチームからなる
齋藤 匠さん
大手SI(System Integration)企業で、チケットシステム構築、消費者金融の無人契約機システム開発、コールセンター構築などに携わる。2012年にサイバーエージェントに参加、基盤系システム統括後、技術人事としてエンジニア人材育成。2016年9月よりシーエー・モバイルへ。Technology Initiative Center 執行役員をへて、取締役に就任(現職)。
ビジネスサイドの強さが障害を引き起こすこともあった
(平木)齋藤さん、お久しぶりです!(平木は前職のサイバーエージェント在職時に齋藤さんにお世話になっていました)
(齋藤)おー久しぶり!
(平木)今日は齋藤さんにシーエー・モバイルでのエンジニア組織の改革について聞こうと思ってきました。
(齋藤)今はエンジニアに開発を全て委ねてもらってるけど、昔のうちはビジネスサイドが強い組織だったからね。
(平木)昔は例えばでいうと、どんなことが起きてました?
(齋藤)ビジネスサイドが主導する分、きっちりかっちりと案件を進行させられる良い会社ではあったけど、エンジニアサイドから見ると、問題を色々抱えていた。例えば、Apacheで1つのサーバ内に複数サービスをホストしていて、障害が起きても手がつけられないとか。ビジネスサイドがきっちり仕切る分、運用などへの予算が削られて、そういう状況になっていたみたい。
(平木)エンジニアから見れば必要な予算でも、その重要さがなかなか伝わらなかったと言うことですかね。
(齋藤)そう、プロジェクトの運営コストとしてサーバーコストが槍玉に上がって、個数を減らすしかないというようなことが起きていた。そうすると、一つのサーバがダメになると全部のサービスが風邪を引くという感じになるんだよね。
(平木)メドレーも数年前までは、エンジニアも少なくてインターネット企業ぽい雰囲気が薄かったそうなんですが、CTOの平山が着任して、エンジニアとビジネスサイドが尊重しあい、よりよいプロダクト開発を目指す強い組織を作ってきました。「エンジニアが開発の重要な部分を決めづらい」「ビジネスサイドと共にプロダクト作りをしていきたいけど、うまくいかない」こういう悩みをもつ組織は、意外と少なくないかもしれないですね。
(齋藤)エンジニアにそういう部分は任せてもらったほうが、結果的に障害も少なくて良いプロダクトになると思うんだけどね。
まずはロールモデルと成功体験づくり
(平木)そういった状況のなかで齋藤さんが、サイバーエージェントの技術人事担当から、シーエー・モバイルに異動したんですよね。来たばかりの時のエンジニア陣の雰囲気はどんな感じでした?
(齋藤)正直、すごく技術力が高いエンジニアが育つ環境じゃなかった。新しいことに挑戦できる環境じゃなかったからね。業務委託比率も高かったな。
(平木)まず齋藤さんが入ってやったことは?
(齋藤)社内のエンジニアが成長できる環境を作りたいと思って、ロールモデルとなる人材を採用した。このタイミングで、CTOとしてfkei(船ヶ山)をサイバーエージェントから迎えて、さらに既にサイバーエージェントを辞めて社外で活躍していたメンバーも呼び戻したりもして体制を固めていった。
(取材途中で遊びに来てくれた船ヶ山さん。写真右)
(平木)みんなが憧れるエンジニアがいることって大切ですよね。メドレーはベテランエンジニアが多いんですけど、そうしたベテランの仕事を見て、若めのエンジニアは刺激を受けて、より良いものを作ろうとする循環が生まれている気がします。
(齋藤)うん、エンジニアとして目指したい存在は大切だと思う。最初の3ヶ月くらいで、グループ会社で働くメンバーや卒業生などを引っ張ってきたんだけど、そうすると「彼らと働きたい」と言うエンジニアが集まり始めたんだよね。実は、まだエンジニアのグレードなどの整備はこれからなんだけど、こうして彼らの技術的なすごさが現場で見えてきたら、自然とグレードも整備されていくとも思ってる。
(平木)ビジネスサイドとの関係が変わったな、と感じ始めた瞬間ってありますか?
(齋藤)M&Aした会社との文化融合を、エンジニア主導でやって成功したときかなあ。うちが持っている技術を見せながら開発体制づくりをしていったら、これまでビジネスサイド側で悩んでいた文化融合がすごく上手くいったんだよ。その他にも、さっきサーバコストを削っていたと話したけど、ここを完全にエンジニアが巻き取って整理したことで障害が激減したという成功体験も効いた。障害が起きたときも原因と対策が分かるからすぐ復旧できるし、こうした中でエンジニアへの信頼や理解が生まれて来たのかなと思うよ。
職種を超えて情報公開することが、連携を加速させる
(平木)メドレーでも、平山がジョインしてプロダクトを目に見える形で改善させていくのを示したことで、ビジネスサイド側も「エンジニアの力で、プロダクトはこんなに良くなるんだ」と感じることができたようです。自分は平山のジョインした数ヶ月後に入社したんですけど、エンジニアが企画段階からプロダクトに入って議論する文化がすでに確立していました。目に見える成功体験は、ガラッと組織内の雰囲気を変えますよね。
(齋藤)もちろん、その過程で細かなレポートも出して、情報をブラックボックス化しないようにもしたよ。情報がオープンな中で開発を進めることで、ビジネスサイドとエンジニアの間に信頼関係ができて来て、今までは開発要件が細かく決められていたものが「企画からエンジニアに入ってもらおう」とか「部署横断でキックオフをしよう」という動きがどんどん出て来たんだよね。
(平木)情報をオープンにすることで、社内のコミュニケーションは円滑になりますよね。メドレーは「ドキュメントドリブン」を意識していて、議事録だけじゃなくて、個人が考えている企画のメモまで、情報共有ツールを使って公開しています。医療の行政動向が気になる時にも、営業チームやGR(Goverment Relationship。行政などとのやりとりを担当する)チームがまとめたドキュメントを探して最初の理解の助けにしたり、職種を横断して情報を活用してますね。
(齋藤)うちでも全部Evernoteで共有して、いつでも誰でも情報がみられる状態にしてる。リアルの場でも、月初会を開いて各チームが作ったものなどを発表して状況を共有するようにしていて、資料も後から振り返れるようにしてるよ。あと、それを詳しく知りたい時に誰に聞けばいいのかもわかるようにしている。ブログも、社外だけでなく社員にもみてもらえたらと思ってるよ。
次は、さらなる採用と成長に向けた文化づくり
(平木)ビジネスサイドからそうした流れへの抵抗というのはなかったんですか?
(齋藤)エンジニアについて分かる自分が、執行役員として入って、経営陣とやりとりできたことで「エンジニア組織がこうあるべき」ということを伝えていけたのが良かったんだと思う。きっちりした格好の人が多い中に、Tシャツに短パンで入ったのも良かったかもしれないねw 組織の雰囲気はガラッと変わる中でも、それが原因となる退職者もほとんど出なかった。
(平木)組織全体として「エンジニアサイドとビジネスサイドが、それぞれの強みを活かしながら共にサービスを作り上げていく」ことの必要性を感じながら進めていけたということですよね。組織の雰囲気が変わり始めた中で、次に必要な動きってなんだと思いますか?
(齋藤)これからは(シーエー・モバイルのことを知らない)中途のド新規層をどう集めていくかが課題だよね。最初は文化づくりを重要視するから「隣の席で仕事をしてそうだな」「このミーティングでこんな発言をしていそう」という目線で、組織にフィットするかどうかを見ていた。あとは素直でいい人そうだということ。これからは、これらの視点に加えてスキルレベルを意識して、もっともっと技術で組織を引っ張っていけるフェーズに進めて行きたい。
(平木)社内のエンジニアが自律的に学ぶ文化づくりも必要になってきますよね。メドレーでは月に1度「TechLunch」という勉強会を開催していて、持ち回りで最近気になっている技術やプロダクトに取り入れた仕組みの紹介などをする時間を持っています。それをブログで公開したり。
(齋藤)うちは教育は基本的にOJTで、自分がしたいと思った勉強に投資できるように「50万円まで自由に使える」というサポート制度を準備しています。自主的に学ぼうと思うために、表彰したり抜擢したりと、活躍したエンジニアに光を当てる動きも意識してやり始めてる。
組織も文化も、柔軟に変化し続ける
(平木)組織的には、今はどういう構成なんですか?
(齋藤)基盤系のグループが横断であって、あとはプロジェクトごとに縦にチームを作ってる。今のタイミングは縦がいいというのであって、フェーズによって横にする必要も出てくるだろうし、柔軟にやって行きたい。デザイナーチームも同様に縦に作っているよ。チームごとに“組長”というリーダーを作って、良いデザインのコンテストをするなど競わせたりもしている。ギラギラするわけではなくて、適度な競争関係があることで成長する仕組みを作っている感じかな。
(平木)組織も文化も出来上がってくると、新たな課題も生まれそうですよね。
(齋藤)エンジニアが、つい「やりたいこと」を通してしまうなんてことも、ちょっと出てきてる。もちろん事業をより良くする提案だったらいいんだけど、うちの会社で「ブロックチェーンに興味がある」みたいな提案が出たとしても、エンジニア個人がやりたいことと組織が向かうべき方向は、違うよねということになる。新しい技術へのチャレンジはどんどんして行きたいけど、事業にとって正しいことが前提。「事業と技術は両輪」と思っていて、今まではその技術部分の車輪が弱かったから大きくしてきたけど、そのバランスを保てるように、これからも進めて行きたいな。
(平木)メドレーでも常に「プロダクトドリブン」と言っていて、事業の要であるプロダクトを中心にして考えるというのを全員意識しています。プロダクトに最適な技術は何かを追求する中で、知見やツールが多く安心して使える“枯れた技術”を採用することも結構あります。一方で、新しい技術をきちんとキャッチアップして使わないと要件にフィットしなかったりする場合もあるので、プロダクトに一番合う技術を適材適所で使うようになっています。
(齋藤)技術要素として新しいところは押さえておきたいよね。もちろん事業に必要なものというのが前提だけど、専門能力が高い専門組織を持って、尖った部分も作って行きたい。うちの場合だと業務上、Webのフロント技術に特化させたいと思ってたりします。
(平木)社内文化を一通り作った後も、まだまだ進化のさせ方があるということですよね。今までの動きを振り返ってみて、より良いエンジニア組織を作るために一番大切なことって何でしょう?
(齋藤)「最初の変化を一気に起こすこと」がカギとなったなと思います。ビジネスサイドは、エンジニア組織が強くあることでどんな良いことが起こるか分からない。だからこそ、その変化を最初にグッと見せることで、組織の変化は加速すると思いますよ。
(取材を終えて)
取材した齋藤さんは平木が前職でお世話になってた方だったので(途中に遊びにきたfkeiさんも……)、終始飲み会のようなフランクな雰囲気で取材が進みました。
「事業と技術は両輪」という齋藤さんの考え方は、メドレーの「事業部長とプロダクトマネジャーの二頭体制」の組織づくりとも共通するものがあると思いました。ビジネスサイド・エンジニアサイドどちらもお互いを信頼しあい、それぞれの強い分野に対しプロフェッショナリズムを発揮できることが、良いプロダクトを追求するための下地となるんだなと実感する時間にもなりました。