「契約をデザインし、合理化する」
をミッションに掲げ、法務関連のドキュメント管理を効率化する新しいクラウドサービスを提供する「Hubble(ハブル)」。これを開発提供する株式会社Hubbleで唯一の法務出身者が、カスタマーサクセス(CS)の山下。法務の業務を解像度高く理解できるからこそ、Hubbleで働く面白さがあるという。法務からリーガルテック企業へのキャリアチェンジ、法務での経験が活きたエピソードなどを具体的に伺った。
◆法務の業務はこんなにも改善できる――「気づき」から「広める」挑戦へ
――現在Hubbleでどんな業務を担当されているのか含めて、自己紹介をお願いします。
前職は国内メーカー企業の法務でした。2020年1月からHubbleに参画し、カスタマーサクセスを担当しています。カスタマーサクセスの部門は、今年の2月にもう一人入社して現在2名体制です。カスタマーサクセスに関する業務全般をやっています。
メインは、Hubbleをご導入いただくカスタマーへのいわゆるオンボーディングのプロセス。お客さまにHubbleというサービスをいかにスムーズに導入していただき、最大限活用していただけるかの部分です。その後数か月~半年のペースで継続的に打ち合わせし、活用状況に合わせて更新やアカウント拡大のお話をさせていただきます。これが、いわゆるカスタマーサクセスの本丸の業務ですね。
加えて、カスタマーサポート的なお問い合わせ対応や、導入事例記事の作成など、カスタマーサクセス周辺のさまざまな業務にあたっています。
――Hubbleに入社したきっかけについて教えてください。
実は、私自身が前職のときにHubbleユーザーだったんです。Hubbleというプロダクトは個人的にいいなと思っていました。
2019年ごろ、次のキャリアステップを検討している際に、Hubble CEO早川とCLO酒井と、Twitterやイベントで交流する機会を持って、たまに話すようになりました。
法務もそれ以外も、さまざまな領域を転職先として検討していたんですが、前職(法務)に不満があったわけではなく、そのなかであえて転職するなら、新しいチャレンジをしてみようと考えました。当時2019~20年頃は、「リーガルテックがいよいよくるぞ」というタイミングだったので、「未開の地」でチャレンジする経験は得難いだろうと思い、入社することになりました。
――法務経験者でしかも元ユーザーとなると、Hubbleへの入社には特別な思いがあったのではと思います。
私自身、法務として就職した時のITリテラシーはたいしたものじゃありませんでした。やっぱり「ワードとメール」が当たり前だったんです。でも、同じ管理部門でも経理財務や人事などを見ていると、システムの導入が徐々に進んでいて、法務にももっとスマートなやり方があるんだろうなとぼんやりと感じていました。
そんな時、コンサルティング企業ととあるプロジェクトで一緒になり、彼らにすごく触発されまして。彼らは、業務をよりよくするためのテクニックをすごく大事にしていて、実際に自分が少しモタモタしていると「山下さん、これはこうやってやるとすぐできるよ」と教えてくれたんです。そこで、やっぱり日々の小さな業務でも改善できることはたくさんあるし、その際に活用するシステムの力は大きいと感じました。それを普段の自らの業務に置き換えて考えた時に、法務も、システムを使って業務を効率化していくことが絶対必要なんだと、私の中で繋がったんです。
会社の中で法務の一人として取り組んでいくだけでなく、この気づきを世の中に広めていく役割も必要なんだろうなと感じ、「じゃあ私がリーガルテックの領域に入って伝えていこう」という想いで、Hubbleに入社しました。
――ユーザーとして使っていたHubbleというプロダクトの印象と、実際に入社してからの印象はいかがでしたか?
ユーザーの頃から、早川、酒井など「Hubbleというプロダクトを作っている人たち」の顔が見えているのが印象的で、プロダクトも会社も身近に感じていました。前職ではさまざまなシステムを使っていましたが、作り手の話が具体的に聞けることは珍しく、新鮮でポジティブな印象でした。
周りで転職の話を聞くと、入社後のギャップに戸惑う人が多いですよね。ある程度社員を知っていることで、入社の際の不安材料が一つ減ったのはよかったです。
入社後の印象としては、とにかく人間的に優しい人が多いということ。その象徴が早川で、独特の人間的な力があると思っています。他のメンバーについても基本的に、ボールを拾ってくれる人が多いんですよ。例えば、お客さまからシステム上のトラブルが起きたと連絡をいただいたときに、Slackチャンネルに「これ分かる人いますか?」とポストすると、瞬時にエンジニアチームが寄ってきてくれます。時には早川が対応してくれることもあります。自分のことだけに閉じず、困っている人がいればすぐに助け合う。そうやってきちんとコミュニケーションがとれるのはHubbleの魅力で特徴の一つかもしれないです。
*若手の育成にも積極的に関わっており、この日はインターンに色々と説明中。
◆法務の経験が、ユーザーの“本当の課題”の理解に活きる
――とはいえ、カスタマーサクセスは山下さんにとって初めての業務ですよね。大変なことも多かったのではないでしょうか。
昨年1年間は、書籍や記事を読んで、いろいろと試行錯誤してきました。ベタですが、特に最初の頃はお客さまからの感謝がモチベーションでしたね。オンボーディングの資料も何度も変更して、模索しながらカスタマーサクセスの体制を整えてきました。最近イベント等で他社のカスタマーサクセスの方の話をきくと、やってきたことは間違っていなかったのかなと感じています。
現在の当社の組織体制は、いわゆる一般的なもので、ビジネスチームの中に、マーケチームと、セールスチーム(インサイド/フィールド)、カスタマーサクセスがあります。
カスタマーサクセスは、Hubbleのお客さまと常にお話ししているので、そこで伺った情報を2週間に1回くらい、ほかのビジネスチームに共有する時間を設けています。カスタマーサクセスが持っているお客さまの情報を共有し、なるべく社内全体で統一して理解する取り組みです。私が企画した新しい取り組みなのですが、「Hubbleはこういったお客さまに合うんだよね」といった、ユーザーやプロダクトに対する共通理解がより深まっていると感じます。また、それぞれの業務に追われる中、議論を交わす機会は多くはなかったんですよね。お客さまの情報を中心に、話す機会を持つことによっていろんな議論に発展していく。そういった意味でも重要な時間だと思います。
――なかでも特にどんなシチュエーションで、法務の経験が活きていますか?
法務の業務について“リアルに”語れる点は強いです。例えば、そもそも法務の方は、朝出社してまず何をするのか、外出はするのか……といった詳細の部分。お客さんの"あるある"に共感できるので、業務上の課題の理解も早いです。「そういうめんどくささ、ありましたよね。ちなみに私はこういう風にやっていました」といった話をできるのは、法務出身ならではだと思います。
お客さまから要望が来た際にも、その背景まで深く理解できるのは強みです。最近では、プロダクトマネージャーと連携して「次にどんな機能を実装するか」といった優先順位決めにも関わっているのですが、お客さまから「こんな機能がほしい」と言われた時に、いい意味で鵜呑みにせず「なぜその機能がほしいのか」「背景にある解決したい課題は何か」まで理解しようとしています。
*入社当初は、書籍等で学習しながら試行錯誤していたとのこと。
――プロダクトチームとの連携の話が出ましたが、売り上げを伸ばすためにビジネスチームとしてはお客さんの要望をできるだけ反映したい気持ちがあるのではないしょうか。プロダクトのビジョンとのバランスをどうとっていますか?
基本的にはお客さまからもらっている要望は全部やってあげたいんです。なので、順番の問題と割り切るのが、ある意味肝だと思っています。
というのも、私は前職でユーザーとして使っている時からHubbleという製品が好きで、このシンプルさが良いなと思っていました。そのHubbleのプロダクトのビジョンは壊したくないんです。
お客さまからの要望を聞き、反映する際に大事にしているのは「お客さまは『なぜ』その機能がほしいのか」。例えば、「ここにチェックボックスを付けてほしい」という要望であれば、背景にある課題はチェックボックスをつけることではなく、数ある契約書の中から特定の契約書を一目で分かるようにしたい、といったことかもしれません。私は直接「なぜその機能がほしいんですか?」と質問することもあります。すると、隠れていた背景が出てくるんです。それを解決できる機能を、Hubbleというプロダクトで一番よい形で表現していく。もらった要望をそのまま突っ込もうとすると、ハレーションが起きると思いますが、普段からプロダクトマネージャーと密に話して、考え方を共有しているので、こういったプロセスをとることができています。
実際、今年リリースした新機能は、私自身もカスタマーサクセスの立場からいろんな意見を出していました。お客さまに新機能リリースの連絡をしたら「あれは神アップデートだったね」と言われたこともあり、そういった反応をいただけると「間違っていなかった」とうれしくなりましたね。
*会社資料から抜粋。法務経験者がサポートできることもHubbleの強み。
*お客さまからいただく要望一つひとつを大切に。
◆必死に習得した法務の知識・スキルは無駄にならない
――今後、Hubbleのカスタマーサクセスはどのように展開していくのでしょうか?
これまではCS用語でいう「ハイタッチ」、いわゆるお客さまとの対話を重視していたんですが、新たに入社した社員はデータ周りが得意なので、データを活かしたカスタマーサクセスの活動もやっていきたいと考えています。それによって法務の方々の仕事もより可視化・定量化されていくと思うので、力を入れたいと思っています。また、個人的には引き続きプロダクトチームとの連携をより強化していきたいですね。
――最後に、法務経験者の方に向けてメッセージをお願いします。
法務の方は、今まで膨大な時間を費やして勉強してきた分、他の職種に移ることに抵抗感があるかもしれません。しかし確実に言えるのは、皆さんがやってきた業務はそのまま他の人にとって得難い知識・知恵として活用できます。その一つが、Hubbleのカスタマーサクセスチームやビジネスチームで、即戦力としてやっていけると思います。
さらに、法務の方たちが培ってきたロジカルな思考過程は、カスタマーサクセスだけでなく、どの業界、どの職種でも役立ちます。なので、ぜひ自信をもって新しい領域に踏み出してほしいです。