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「難易度が高いからこそ、面白い」。スタディストのCTOが考える、マニュアルというテーマがもつ複雑性と面白さ、社会への影響力

「マニュアルは実は複雑性が高い。だから面白い」そう話すのは、スタディストCTOの佐橘さん。

Teachme Bizがローンチして5年目の2018年にスタディストに入社し、それ以降Teachme Bizがプロダクトとして大きく成長するフェーズに、CTOとして組織を牽引してきました。ローンチ10周年という節目を迎えた今、佐橘さんは新しい挑戦の舞台を広げるべく新規事業開発に注力しています。

入社から5年、これまでを振り返りながらTeachme Bizをめぐる環境の変化から、マニュアルというテーマがもつ影響力、今後スタディストがさらに大きくなるために目指す組織や必要となる人材像までインタビューしました。

プロフィール
慶應義塾大学卒。株式会社リクルートライフスタイルにて、アジャイル開発プロセス導入、各種開発プロジェクトリーダーを歴任。同社TechLead、開発マネージャー職を経て、2018年10月より開発部長として株式会社スタディストに参画。2019年1月にCTO就任。IPA主催 2009年度下期 未踏ユース 採択、慶應義塾大学非常勤講師。趣味は狩猟や家族とボードゲームをすること。最近はドローン免許も取得。

正直、マニュアルにここまでの影響力があると思ってなかった

——佐橘さんがスタディストに入社して5年、Teachme Bizは10周年を迎えました。事業的にはどんな変化を感じていますか?

佐橘:私が入社した当時は、まだマニュアル作成支援市場という市場自体がなく、SaaSのカオスマップを見ても、その項目すらなかったような時代です。そんなときに、たまたま代表の鈴木と出会い、「マニュアルって絶対、可能性あるよ」という言葉を聞いて、確かに「マニュアルSaaSって、ブルーオーシャンじゃん」と思い、スタディストにジョインしました。誰もトライしていない領域に取り組むことに、面白さを感じましたね。

そして、この5年間の変化でいうと、それこそマニュアル作成支援市場という形で第三者機関から市場認定され、スタディストはそこでシェアNo.1のSaaSとして市場を牽引する存在(※)になりました。入社当時に比べ、お客様からの認知も確実に増えている実感があり、市場そのものを作ってこれたんじゃないかと感じています。
※出典:ITR『ITR Market View:カスタマーサクセス市場2022』

スタディストのMRR推移 Teachme Bizは主力事業として成長を牽引

——マニュアル作成支援市場でシェアNo.1を維持できているのは、どんな要因からだと思いますか?

佐橘:まず、最初に市場参入したプレイヤーとして、先行者優位は当然あると思います。それをベースに、市場がない中でお客様の求めるものを形にしてきた、試行錯誤する姿勢が会社として身についているのが要因かなと。

マニュアルってただあるだけだと意味がないんですよね。家電買った時についてくるマニュアルも正直見ないなと思って。お客様の成果に繋げるにはどうしたらいいのかを考えながら、マニュアルの作成だけでなく、閲覧や更新においても機能開発を続けてきました。本当に役に立つサービスづくりをするというスタンスでやってきているので、ここはちゃんと地に足つけてやってきた成果かなと思ってはいます。

お客様に伴走するからこそ見えてくることも多くて。入社当時、私自身も正直「マニュアルってない企業もある中で、どう役にたっているか見えづらいんじゃない?」と思っていたんですけど、お客様の話を聞いていると意外と影響力が大きいことに気づきました。

——どんなところに影響力の大きさを感じたんでしょうか?

佐橘:Teachme Bizのお客様はチェーンストアとして多店舗経営をされているケースも多いんですが、例えば国内で2000店舗を展開する企業があったとして、その店舗で毎日1回しなければいけない10分の業務がある。それをもし7分にできたら、3分の短縮ですよね。3分が2000店舗で6000分、つまり1日あたり100時間の短縮ができる。仮に時給を1000円で、365日とすると3650万円の成果に繋がる。そういう業務が3つあれば、1億です。これは机上の空論でなく、実際にこのようなアプローチの積み重ねで赤字から黒字転換を達成されている企業様も存在します。

Teachme Bizでわかりやすいマニュアルを作ることで、現場の作業効率をあげることができる。常に正しいマニュアルを公開することでミスを減らしムダを減らす。Teachme Bizにはそういった効果があります。

業種問わず、あらゆる現場で活用されているTeachme Biz 写真はまいばすけっと様での活用シーン

——確かに、すごいコストメリットですね。しかも企業活動がある以上、業務がなくなることはなく、時代的なものにあまり左右されないような気もします。

佐橘:今後、機械化・自動化というのは当然進んでいくとは思いますが、人間が働いている以上は、そこにかならず“手順”というものが存在します。ならば、手順書がなくなることはない。じゃあそこで何を改善できるのか、というのがTeachme Bizの本質的な価値にもかなり近いと思いますね。

一方で、ガチガチに管理して効率化を強制して、機械のごとく働かせるようなディストピア的な話ではなくて、あくまで効率的な手順が社内に浸透することでお客様に質の良い商品を安く提供できたり、従業員の残業が減ったり、利益率が上がったり、「三方よし」を実現できるという意味で「マニュアルってすごいな」と感じましたね。

また、チェーンストアではなく小規模だとしても、社内の総務部・管理部など各部署の業務を効率化するように浸透していけば生産性向上コストメリットにつながるので、様々な業種・業態で活用いただいてます。

挑戦の舞台を広げるための、新規事業開発

——佐橘さん個人でいうと、この5年間はどんな変化がありましたか?

佐橘:本当に正直言うと、私自身は元々「働きたくない」という気持ちがすごく強かったんですよ。キャリアとしても、学生起業にチャンレジしたり、新卒入社したリクルートでは事業立ち上げを学んだり、その後はスタートアップに転職……これ全部、「一発当てて、人生上がりたい」という思惑から来てるんですね。

ただ、スタディストに入社してからは事業開発やお客様の現場に足を運んで話を聞く機会というのが、すごく多くなりまして。その中で、「目の前の人のために、何ができるかを考えて作る」ということに苦しさはあれど楽しさも感じ始めるようになりました

すべてが楽しいわけではありませんが、寝ても覚めてもシャワーを浴びていても仕事のことを考えているので、仕事自体が「好きでやっている」という感覚にこの5年で変わってきたのかな、と思います。


——業務ではどんなことに取り組んでいるんでしょうか?

佐橘:スタディストは、「GENSEKIプログラム」という取り組みをはじめ、新規事業・新規機能開発に注力をしています。Teachme Bizの延長線上で出てくるものから、全く異なる領域のものまで幅広く取り組んでいるのですが、その中の1プロダクトをメインに新規事業開発に携わっています。

自身の役職としてはCTOですが、新規事業においてはCPOやプロダクトマネージャーといった側面が強いかな、と思います。お客様に課題をヒアリングして、その課題を解決できるような事業や機能を考え、プロトタイプを作って提案をしてみて、感触を探ったり、実際に事業化する際の収益性を考えたり。

新規事業開発といっても、スタディストのスタンスとしては「必中のものを一つ、作ろう」というよりは「筋がありそうなアイデアを薄く広く探っていく」ことを前提として進めています。今期からは新規事業開発室という組織をつくり、ローンチに向けプロダクトを実際に作っている段階です。

私としては今後、スタディストが色々な新規事業を立ち上げる流れを作っていって、そこに社員やお客様が一緒に挑戦できる舞台をたくさん用意していく。今はその事例作りに専念しています。

スタディストが掲げる3軸経営 新規事業は事業拡大の重要な一端を担っています

——仕事に向き合う上で、佐橘さんが個人的に大事にしていることはありますか?

佐橘:自分自身、今のCPOやプロダクトマネージャーのような仕事をするとはスタディストに入社するまでまったく思ってなかったので、入社してから挑戦の連続なんですよ。お客様のヒアリングもそうだし、ロードマップ引いて機能提案をするのもそうだし、プロトタイプを作るための技術学習もそう。

直近でいえば、新規事業をどう収益性・持続性のあるものにしていくのか、正解がない中で落とし所を見つけていかなければいけない。実際、新規事業のプロトタイプを実際にお客様に触ってもらって、反応が好感触でしたと。じゃあそのプロダクトの価格はどのくらいが適正なのか。それもまた、今まで自分がやったことのない、一つの新しい挑戦です。

挑戦している状態を続けることはそうだし、自分以外の社員が挑戦しているのを見るのも好きですね。そこから刺激をもらって、また自分のモチベーションが上がる。挑戦する人を応援したいし、それを見て自分も応援される。

シンプルに見えて複雑性が高い。だからこそ、挑み甲斐がある

——今後、Teachme Bizというプロダクトを含めて、開発本部や会社はどんな変化を遂げていくのでしょうか。

佐橘:冒頭でもお話しましたが、Teachme Bizはマニュアル作成支援市場の中でシェアNo.1ではあるものの、そのシェアは33%程度。名刺市場で考えれば、市場リーダーのSansanは81.6%(※)にもなっています。Teachme BizはNo.1とはいえまだまだこれから。圧倒的シェアNo.1を獲得するためにも、マニュアルを作って終わりではなく、その先の事業や企業の成長への貢献が必要になるはず。そのためにも、まだまだプロダクトを進化させて、バリューを広げる必要があります。
※調査研究レポート「営業支援DXにおける名刺管理サービスの最新動向2023」(2022年12月 シード・プランニング調査)より

開発本部の体制でいえば、ここでプロダクトの価値を押し上げるために、お客様や事業に本気で向き合って議論ができる人を今後、採用したいと考えています。

SaaSの中では、実はマニュアルってかなり難しい部類のジャンルだとも思っているんです。例えば会計や労務、法務周りのプロダクトならば、社会的に法律やルールがあって、それに則った共通用語があったり、ある程度統一された定義の中で進められるんですが、マニュアルって聞く人によってイメージするものが全く違うんですよ。その中で、あらゆる業態・業種の成果を上げることにどう結びつけ、どう精度を上げていくのか。

プロダクトを進化させる上で、シンプルにしづらい議論を整理しながら進めていき、かつ難易度の高い課題を面白いと感じながら向き合っていける、そんな人に興味を持っていただけたら嬉しいですね。

——難易度の高い課題に挑む。その上で必要となるのはどんなことでしょうか?

佐橘:これは組織作りにも関わることですが、社名は一つの答えになると思っています。社名はスタディストがどんな会社になるかの指針になっており、由来が“study + ist”で、「学ぶ人」を表しているんですよね。学習意欲の高さ、というのは非常に重要な要素だなと思っています。

意識の高い集団にいることで刺激されて自分も意識が高くなる「ピア効果」といわれるものがあるんですが、そうした組織ではあり続けたいですね。要は良い仲間が集まると、良い方向に正のピア効果が働くという話で、組織文化を作る上でも、学んでる人、社名の通り学習意欲が高い人が過半数の組織を維持できると、加速し続けることができると信じています。

とくに私が専念している新規事業の領域で言えば、色々な新しい技術を取り入れる必要がありますが、技術検証を行いつつもスピード感や、目的を持って本質的に事業を進めるための意識をもつことをチーム全体で重視しています。

最近では、Open AIを導入する際に、SREの若松さんが1週間もかからず、社内で安全に使えるChatGPT環境を構築してくれたり、技術責任者である長谷川さんも一日でプロトタイプを作ってくれたり。こうした学習意欲の高い人の行動が、新しいチャレンジをするときのスピードの源泉になっています。


——最後に、スタディストで働くことの魅力を教えていただけますか?

佐橘:マニュアルという、一見シンプルなようで複雑性が高いプロダクトだからこそ、開発にとっては面白いという側面はあると思っています。

具体的な魅力としては、エンジニアであってもお客様との接点を持てるということ。Teachme Bizは約2,000社のお客様に利用されており、リレーションが築けている状況です。そうした基盤をベースにヒアリングや視察できる機会はすごく多いので、自分の仕事が実際に世の中でどう役立って、物や人が動くことに、どんな影響を与えているのか。それを見て考えて行動できるのは、うちで働く大きな魅力の一つだと思っています。クライアントのロゴリストを見ていただければ、自分が消費者の立場で関わっている企業もいくつもあるはずなので、自分の生活と仕事と社会とが繋がっていることを実感できます。

それは逆に言えば、生の現場にいかに興味を持てるか、ということでもあります。開発主導の気持ちでいること自体は良いと思いますが、独りよがりにならず、新技術の活用含め、いかにお客様の現場の課題解決に繋げられるかを考えることが重要かなと。

そこには、私たちが提供できる新しい価値がまだまだ眠っていますし、誰も考えたことのないような解決方法を見つけていく面白さがあるのではないかと思います。

また、Studistという社名に恥じぬよう、技術選定に関しても積極的に新しい技術を学んで取り込むことを推奨している点にも触れておきたいです。

それこそ、コンテナ技術周りの諸々やAWSの時系列データベース「Amazon Timestream」をリリース直後に試したり、ChatGPTの導入も済み、ノーコードツールをプロトタイプ作成のスピードアップに活用したり。

まずは触って見てスピーディーに良し悪しを判断して、新技術の有用性を検証する文化は、かなり浸透している方だと思います。そうした初動をできるだけ早くするためにも、社内の承認フローとかレビュープロセスは極力コンパクトにし、権限委譲やムダな工数をかけないように意識していますし、今後もそのスタンスでやっていきたいと考えています。

(取材・執筆/郡司 しう)




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