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効率化から始まる「楽」のスパイラル
「働き方改革元年」に問われる職場の姿
残業大国、日本。安倍政権が「最大のチャレンジ」として働き方改革を挙げるなど、改めて各方面から議論がされているこの問題だが、各企業はどのようにして長年の労働慣習を乗り越えていけばいいのだろうか。
そこで今期待を集めているのが、クラウドサービスの利用などを通じた業務のスマート化。2015年12月に東証マザーズ上場を果たした株式会社ラクスは、あらゆるクラウドサービスの提供を通じて、まさに企業を楽にすることを実現している。
同時に、業務改善のサービスを提供するラクス自身もまた、スピーディーに事業を拡大し16期連続増収とする一方で、業務効率化により残業時間を短縮し、「平均残業時間20時間」を実現させているようだ。その根源について、代表取締役社長、中村崇則(なかむら たかのり)氏に話を聞いた。
『ひとつの「楽」が、さらなる可能性の呼び水に』
——御社の提供している「メールディーラー」と「楽楽精算」は、ともにシェアNo.1の座を堅持していますが、導入企業に「楽をしてもらう」という想いが生まれたきっかけは?
中村:自身の経験による気づきがきっかけですね。起業1社目でメール管理のサポートをしていた際に、毎日膨大な量になるメールをメーラーで管理していては、すぐに捌けなくなると思いました。そこで、管理の手順を仕組み化したものを顧客に提供したところ、次々と新たな要望が上がってきたので、それを取捨選択しながら開発に落とし込んでいくことで、どんどん顧客のニーズにフィットする商品となっていきました。それがメールディーラーの前身になっています。
経費精算に関しても本当に面倒な作業で、私自身やらずに済ませていた時期がありました。というのも、字を書くのがどうにも苦手で(笑)そこでPCに打ち込むだけで精算が終わりになるようなシステムがあればいいな、と思い楽楽精算を思いつきました。
——いずれも中村社長ご自身の気づきが発端となった商品なのですね。2017年は「働き方改革元年」にもなると言われていますが、こうしたツールの導入が果たす役割も大きいのでしょうか。
中村:ツールはあくまでも「手段」にすぎませんが、1つのツールの導入が呼び水となって、そのほかの業務の効率化にも波及していく可能性があります。その結果、労働時間の短縮にもつながる。人間は、長時間働くと、工夫をしなくなる傾向があります。時間をかけることで大抵のことを解決できると思ってしまうから。私は、時間が無限にあると思わずに、時間内で効率的な働き方をするのが、あるべき姿だと考えて思います。
無駄をなくしていくことで、働き手としても、企業としても「長時間働く」という旧来的な価値観から、効率性を重視する価値観にシフトさせることができますし、そうなって欲しいと思います。
1996年3月神戸大学経営学部卒業後、NTT西日本入社。
1997年合資会社DNSを共同創業し、メーリングリスト事業を始める。
2000年1月株式会社インフォキャストを共同設立、同年10月同社を株式会社楽天に売却。
2000年11月株式会社アイティーブースト(現・株式会社ラクス)設立、代表取締役就任。
——実際に、ラクス社内ではどのような業務改善の工夫がされていますか?
中村:社内では、それぞれのメンバーが「自分の得意なこと・やるべきこと」に専念できるような環境作りを心がけています。ピッチャーがキャッチャーを兼ねるようでは、現場は混乱しますし、パフォーマンスも上がりません。
そのような事態を人員配置の段階から避けることで、効率も最大化されますし、無駄な残業も減ります。これもまた、「楽」のスパイラルを生むための仕組みになっていると思います。
——人員配置のお話が出ましたが、採用面でも工夫をされているのですか?
中村:特別なことをしているわけではないと思いますが、例えば残業が増えそうな気配があれば、即座に人を増やすように伝えています。効率化しても1人では抱えきれない業務があるのであれば、そのタスクを分割できるようにするためですね。
——人員を増やすことで過負荷を避けながらも、高利益率型のビジネスモデルを確立できている秘訣は?中村:利益率が高くなるのは、自社が提供するサービスに付加価値があるからです。他社でもできるビジネスでは、価格の下げあいメインで競争することになります。企業としては、自分たちの提供するサービスの付加価値をどう上げていくかを考えないと、働く時間も短縮できないと思います。
『「精神論」に頼らない経営哲学』
——ラクスは営業や商品改善のスピード感も強みと聞きます。このスピード感を職場への負荷をかけずに保つ方法は?
中村:企業には「出せる速度」と「出せない速度」があって、その所与の条件に従って戦っていくことが重要だと思っています。例えば、自分に1万人の戦力がいるとして、相手が4万人であれば、勝てっこない。ところが、相手が千人であれば絶対に勝てる。
つまり、スピードが速いか遅いかは相対的なものなのですね。開発にしても営業にしても、精神論で発破をかけてスピードを上げるような無理をする必要はどこにもなくて、私たちとしては今持っている戦力を元手に、自分たちが一番になれるフィールドで戦って勝っていくということが肝心だと思います。
——競合の少ないフィールドに早期に着目した上で、効率的な勝ち方を探ることが経営判断としては重要であると。
中村:その通りです。これがスポーツであれば、勝負にもジャイアントキリングの醍醐味がありますし、私自身もちょっとうまいプレーヤーと手合わせをするほうが面白いと思いますが、経営とスポーツは違います。スポーツは負けても死にませんが、企業は下手に転ぶと死んでしまいますからね。
ただ、これはもちろん自分のオリジナルな考えではありません。「戦わずして勝つのが上策である」、「敵を倍する戦力で当たれ」と孫子も言っていますが、当たり前の心がけを守ることで、そうそう死なない組織を作ることができるのではないでしょうか。
『「一人のトップ営業マン」よりも「チーム全体の再現性」を』
——組織拡大を続けているラクスですが、その求める人物像とはどのようなものでしょうか?
中村: もちろんトップ営業マンがいるに越したことはありませんが、そのノウハウが属人化してしまっては意味がありません。それよりも、「周囲を巻き込みながら成果を出せる人」を採用することで、パフォーマンスに再現性を持たせることの方が大切です。
そういう意味では、「自分ができることを周りにもできるようになって欲しい人」や「自分よりできる人のようになるためには何を真似ればいいのか考えられる人」こそが評価される職場だと思います。
——最後に、ラクスの目指す生産性の高い職場の姿についてお聞かせください。
中村:単純作業をできるだけ排除することで、各自が得意分野に集中でき、互いに補い合うことでチーム力が上がるような職場ですね。
そのためにはオフィス環境の向上も大事です。社員を大切にすればロイヤリティー向上につながるのはもちろん、結果として顧客対応にも余裕が生まれますし、採用も自信を持って「いい会社だよ」と言えるようになる……そんな正のスパイラルを生むためにも、企業は社員のことを大切に思うべきです。
(NewsPicksより転載)
提供元:株式会社インテリジェンス
制作:サムライト株式会社