巷に溢れるFintech関連のニュース。色々あった気はするけれど、なにかと記憶が曖昧になりがちな皆さんのために、当社Fintech研究所長の瀧が独断と偏見で振り返る「月刊 瀧」。今回は、「別冊 瀧」ということで、インクルージョン・ジャパン株式会社の吉沢さんとの濃密な対談を前編と後編の2回に渡ってお送りしています。今回はその後編!
【別冊 瀧】Fintechを肴に吉沢さんとディープに語ってみた(後編)
吉沢:(トイレから)ダッシュで戻ってきた(笑)
瀧 :ええ、弊社、スピード感には定評があるので。
吉沢:あ、トイレめっちゃ長く入っている人とかいるじゃないですか。こないだ、ANAのラウンジのトイレね、20個ぐらいあるのに、朝全部埋まっているとかおかしくないか?!
瀧 :あれはアップする場ですよね。サッカーのように(笑)
吉沢:ほかの場所でやってほしいですよね。本当に1分半で済ませたいんですよ。
瀧 :でもサードプレイスですよね。トイレしかサードプレイスない人いると思っていて。
吉沢:それね、さっきの話とつながると思っていて。正直、3,4年前から仕事観がすごい変わっていまして。
支援しているベンチャーの関連で、大企業のマネジメント改革に関わったんですけど、それまで触れていなかった、いわゆる普通の大企業の課長とか部長が右往左往する機会にたくさん遭遇するようになったんですよ。端的に言うと非効率な日本の代表選手みたいな仕事の仕方してる。でも勝負するのはマーケットなので、効率的な連中と闘わなければいけないから、3倍の時間で働くしかないじゃないですか。で、カツカツで。じゃあ一方、ソーシャル的な楽しみがあるかっていうと、家に帰らないから、瀧さんも以前育児について書かれていましたけど、私も2人いまして、やっぱりあそこを疎かにすると、ものすごい精神的に疲弊するじゃないですか。会社はもうパツパツで疲弊してる、家に帰ると別の意味で疲弊する。
瀧 :疲弊しないために疲弊するみたいな(笑)
吉沢:なんかやっぱりサードプレイスって、便所ぐらいしかないんじゃね?みたいなね。それは超リアルに感じます。
瀧 :この前、MFクラウドEXPOで、Snow Peakというキャンプ産業の名門企業の山井社長をお招きした際に、なぜ人間はキャンプに行くのかっていう話がありました。山井さんとサツドラの富山社長と辻が超面白いトークをしていて、山井さんはもう現代人が疲れているから、人間性を取り戻すためにキャンプが必要になる、と仰るんですよね。キャンプ産業って、先進国にしかないらしいんですよ。
吉沢:へぇー、そうなんですね。面白い。
瀧 :ケニアの人たちは経済が発展してるからキャンプ行くかもしれないけど、モザンビークの人たちがキャンプに行くかっていうと、たぶんいかないんですよ。人間性を取り戻すために、私たちはお金を払って、2日間設営して、帰ってくるわけですけど、たしかにリカバリーが自然の中で、特に電波遮断の中でできればいいのにねっていう話があったんですよね。
吉沢:僕、2月に胆石で緊急入院したんです。病院に行ったら、マジこれ死ぬやつって言われて(笑)内視鏡でとって、安静にしてなきゃだめよって言われたんですけど、術後の1日2日って、体調が悪くてうなされているじゃないですか。
それで本当に驚いたんですけど、夢の中でどっかの会社の経営陣と何かを説得して、こう動かさなきゃなって思っている自分に気づいたんですよ。仕事が自分には大事な営みで、これが無意識の中にめっちゃあるんだなって思ったんです。
キャンプとかが必要な理由は、無意識の目的意識を全部リリースして、内省したり、考える時間を作るための場なんじゃないかなって。本当は仕事のルーチンにそれもセットできると、自律的にできると思うんだけど、バタバタしすぎちゃうと流されすぎちゃうのかなって。
瀧 :日本で3週間とか4週間のフランス流のバケーションを導入するべきなのかっていうのは、今のノームの延長線だと。なにやってんだ、みたいな感じがありますよね。でも、休みはよく働くためにあるんだろっていうのがあるじゃないですか。穿って考えれば「自分を取り戻されると、この社会構造の維持には困る」みたいなのがあって、結果として色んな制度が維持されるような形。その我慢が、キャンプ産業とかいろんなところで露出するんでしょうね。
吉沢:ある種現状維持のためかもしれないですよね。大企業の優秀な人で、状況的にハマっちゃっていた人は、そういう場を作ってあげたり、社外の人と触れさせると、感覚的にだいたい6割ぐらい会社辞めていきます。より自分のハマる場所とか、やりたいテーマのところで模索を始め、動いていっちゃう。多分それを全体的にやるとね、場合によっては優秀な人だけ辞めて、その組織が崩壊すると思うんですよ。その手前で、色んな組織が踏んばっている感じがします。
瀧 :ベンチャーの世界ってその点、優秀かはともかく、大きな所から出て来た人の集まりだったりするじゃないですか、IT企業に来て、憑き物が落ちたみたいな人っていうのは、結構たくさんいると思うんですけど。でも、例えば労働時間とか、給与水準とか私企業なので、伝統的な経済の側のノームを入れようとしちゃっている部分があって、綺麗な人事制度って難しいなっていつも思うんですよね。
吉沢:そうです。そのバランスを崩すために、VCとしてやっていること・・・
瀧 :そういえば、まだ自己紹介していただいていないので、ざっくり。
吉沢:もともとライフネットを立ち上げのときからやっていた時に、リクルートと一緒に新しい保険事業の立ち上げをやったんです。
リクルート側のプロジェクトの事業責任者が、今一緒に会社をやっている服部という女性で、もともとリクルートの中でトップティアの人材で、広報にいる人間だったんですね。で、一緒に事業立ち上げやるじゃないですか。本当に四苦八苦しながらなんとかちゃんと立ち上げることができて、今では日本で指折りの代理店ビジネスに成長したんですけど。
それで、一緒に仕事してて超楽しいので、この子と長く仕事をするためにどうすればいいかって真剣に考えたんですよ。で、とりあえず会社作らせて一緒に遊ぶかと。
僕は経験があったので、株式会社っていうものを自分で作ると、会社っていうのものの捉え方がめっちゃ変わるっていうのを感覚的に知っていたんです。で、服部にICJって会社作らせて、彼女が7割、僕3割だったんですけどね。
立ち上げも友達として手伝ったんですけど、ベンチャーの立ち上げを足を突っ込んで死ぬほど働くのが一番楽しいねと。飽きっぽいんで、熱量と継続性が超大事じゃないですか。ある事業に中心となる人物がいて、私たちは外から一緒に四苦八苦して、一番最初の訳の分からないところをやって、ある程度見えてきたら、自力で頑張ってもらう。で、次の会社にまたゼロベースで入ってっていうのがICJのベースとしてやっていることです。
で、もう一つセットにあるのは、大企業のコンサルが大好きなので、新しい事業の立ち上げとか、組織変革を、ライフワークで仕事にしています。
投資はロングタームでしかリターンがないのですが、大企業と付き合っていると、組織の中で何が大変で、新しい事業を決めるときに、どの人間関係で何をクリアするといけるみたいな力学がよくわかるんですよね。大企業で起きている話と、ベンチャーをうまく繋いで文脈は作れる、大きな営みになるっていうのが見えてきたって感じです。
うちの代表的な仕事でいうと、ispaceっていう宇宙開発ベンチャーが、経営が大変だった段階でいろいろと手伝って、この間までうちのメンバーだった陶山が、国の政策変化という別の軸をここに入れた結果、伸びたわけです。こういう合わせ技ができると。
瀧 :西海岸のVCの形にも近いですよね。アイデアは良いけど経営陣は大きく変えたほうがいいとかまでを含めて、担っていくような。
吉沢:ジョブズを描いた映画の中で、すごい好きな話があって。投資家はこういうビジネスモデルができて、こうしたらこういう風に動くから、オッケーこれでいこう、とか言うんだけど、お前馬鹿言うなと。実際製品作って事業やってみたら、いろんな矛盾がいっぱいできてきて、それを解いて初めて本当の理解ができて、それをやったことになると。
VCでも、ビジネス雑誌とかに書く綺麗な話はあるけど、待て待て、と思います。すごく大変な話が裏にはあって、そこまで含めて動かせて、初めて新事業の立ち上げなので。常に経営に一緒に入って、上手くいかないところを味わい続けていないと、本当の意味でのVCの役割って果たせないんだろうなって。
瀧 :そうですよね。氷山の一角だけがメディア露出する話で、暗い側と明るい側があって、マネーフォワードだと、明るい側を取り上げてもらえることが多いけど。結局、過去の船の残骸と明るい側しか見えない、みたいなのが、普通にネットだけ見ていたら観察可能なことです。
吉沢:そうです(笑)
瀧 :ここだけで投資判断とかトレンドとか。じゃあ、MaaSに今期は100億だ!みたいなことが起きて、いろんな事が起きるじゃないですか。
昨日クラウドワークスの吉田社長がブログを上げていて「当事者意識」について書いていたんです。
リクルートさんとかもよく、「圧倒的な当事者意識」を取り上げますが、吉田さんの議論の中では、それは世界観の押し付けで、個の滅殺だよね、としています。当事者意識を持てっていうのは、本人の実勢を否定しているコンテクストだから使わないほうがいいという議論で。
社内でもすごい頑張っているんだけど、チャット上の言動や目立った結果でしか見られていないとか、そういう情報をベースに当事者意識への評価や理解が他者によって生成される。
本当はすごい当事者で頑張っているけれども、観察可能な範囲でそれを評価する状況を単に作り出しているだけじゃないの、っていう気が常にしていて。やっぱり一定量の愛がないと、その後ろの部分を見ようと思えなくなっちゃうんですよね。
でも全部自分の責任だと思ってやっている人って、パフォーマンスというか、人間的な魅力もすごい上がるわけですよ。だから、早めに責任をもって、ある意味責任感に即した責任を取れる環境を実現しないと、キャリアの後半まで自己のためにしか働けないという人が増えてしまいますよね。
吉沢:記事で書いたことがあるんですけど、よくある誤解っていう話で、会社の中で、上司、自分、部下ってありますよね。なんか会社が掲げる存在目的を、トップダウンでこれを頑張れっていうのを当事者意識っていうんだったら、これはただの従属だよねと。日本の組織ではよく、ミッションがこう理解されちゃうんですけど、実際にはそういう話じゃなくて、会社には組織の存在目的があって、自分個人の人生の使命があって、その間の関わりなのですよね。
両者の共鳴点が何なのかっていうのが、いい文脈の意味での当事者意識なんだと思うんです。ここを考える時間っていうのは、正直少ないと思っていて。
典型的なのは、みんな株式会社を作ったことないじゃないですか。やるとこっちがどうあるべきかとか、深堀りできるんだと思うんです。僕の穿った見方で行くと、昔はやっぱり勝ちパターンはトップダウン型だったと思うんです。その文脈と、フラットな組織のあり方を肌で知っている起業家の間で、言っている話がごっちゃになるんですよね。全然違うメカニズムなのに。
瀧 :たしかに。
吉沢:だからいま、留学帰りの人とかいいんだと思うんですよ。ちゃんとそれを考える機会とか、迫られますでしょ?
瀧 :はい。ビジネススクールだと、ものすごいエリートになる雰囲気とかが確かにあったんですよね。そこを味わってしまってるから、ゼロイチで会社を作るっていうときに、日本はそういう資格を持っていてもそれほどいいことがない国ではあって。ある意味フェアだなって思うんですけど。
フェアな分、日本だと少なくとも米国と比べれば、事後的に学歴とかわからないぐらい、努力する人はパフォームできる場があるなとも思います。地味なんですけど、そういう機会の平等が実は日本の資産とも思うのですが、体感されてない分、アピールもされていないですよね。アメリカの貧富の差は、世代を超えて引き継がれるので、それに比べれば日本は色々やり直せるところが、すごいことですよね。
吉沢:そうそう(笑)色んな実験をしながら、そのような要素を活かせて行ければと思いますよね。
ダンさんもそうですけど、最近ね、世界の名だたるアカデミックな人間は、コンサル会社を自分で持っているんですよ。それは何でかっていうと、コンサルやってビジネスの最前線の理不尽さを観測するポイントを持っていないと、意味のない理論になっちゃうっていうことなんですよね。
マネフォさんは、まさにリアルでやっているじゃないですか。だから、瀧さんのこのポジションで、マネフォで事業をやるっていうのは、いいポジションだなと。
瀧 :いつもお仕事しながらありがたいな、って思ってます。
吉沢:頑張ってください。
瀧 :いえいえ、すいません。なんか励まされました。頑張りますよ。ありがとうございました。
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