最後のひと踏ん張り
最近、よく思うことがある。「最後のひと踏ん張り」ができるかどうかで、結果はずいぶんと変わってくるんじゃないかと。そう思ったのは、ある部署の収益性について、上半期と下半期で大きな差が生じたのがきっかけだった。原因は何だろう? と突き詰めていくが、大きな過失があるわけでもない。実際、大赤字になっているかというとそうではなく、ただ上半期はめちゃめちゃ利益が出ていたのに、同じようにやったはずの下半期では成績が下がってしまったのだ。
総合的に判断すると、その要因はすべての面でのメッセージ、プロモーションの品質が低下したのではないかということだった。そこで思ったんだが、これは「安心」のせいではないかと。つまり、プロモーションを担当した人間が、ある一定のラインまでいくと「ホッ」としてしまい、最後のひと踏ん張りができてないのじゃないかと。
最後のひと踏ん張りってのは一番利益性が高い。例えば、最初の10個の売上は、固定の原価がかかっているので利益はゼロだ。しかし一度ブレイクイーブンに乗ってしまえば、あとは儲かるゾーンになる。つまり、最初の10個では利益ゼロだが、最後のひと踏ん張りで得た最後の10個の利益性はかなり高くなるということ。
経験を積み、慣れてくると、ある一定レベルになった時点で「ホッ。これくらいなら形になる……」と思って、詰めが甘くなってしまう。本来はここからがドル箱ゾーンなのに。
90%の完成度を95%に上げる努力
これはみんなにも1人1人に関係の深い話だ。なぜなら、仕事も最後のひと押しで成果が全然変わってくるからである。60%のものを80%まで上げる(+20)努力よりも、90%のものを95%まで上げる(+5)ほうが大変だし、95%を98%(+3)まで上げるのはもっと大変だ。最後の+5とか+3のほうがしんどいのだ。
効率重視の人間にとっては、最後の+3や+5は、労力のわりにはリターンが少ないと思うかもしれない。それより同じエネルギーで他の分野を+20したほうがいいのでは? と考えるだろう。
しかし、ぼくは違うと思う。最後の+3があるから、「一流の仕事」ができるんじゃないだろうか。
オリンピックで100mを走るアスリートは、たった0.2~0.3秒のタイムを縮めるために、全身全霊をかけている。「それだったら、走り高跳びであと+50cm飛べるようにしたらいいじゃん!」とは思わない。
仕事も同じじゃないか? 自分の専門的な知識や仕事があったら、最後の+3%をどれだけやるかで、2位との差が大幅に開く。マーケティングをやってるとよくわかるのだが、このちょっとした差が事業として存在するかしないかまで決める。本当にエクセレントな結果を出すためには、最後のひと押しの仕事ができるかどうかなのだ。
「幼稚なプライド」
先日、読んでいた本のなかで非常に良い言葉を見つけた。それは、「幼稚なプライド」という言葉だ。その本にはこうあった。
「企業が低迷状態に陥っている原因を調べると、自社の成功サイクルの因果関係や他社に勝っている理由を明確にすることなしに、結果的には自分のクビをしめるような施策を打っていたという例を見かけることがよくあります」
「つまり成長の頭打ちは、成功を実現してきた過程で得られた、正しい因果関係を見失うことから起きます」
そして次の成長カーブを描けない原因は、
「成功体験を持った幹部が増えると、その中には多かれ少なかれ“幼稚なプライド”を持った社員が含まれる」
からだと。
「幼稚なプライド」とは、とっても上手い言い回しだなぁと思う。仕事を覚え、ある程度の成功体験ができてくると、「自分を疑う」ということがなくなってくる。こうすれば売上が上がる、反応が取れる、うまくいく……。それが形を変えれば、「ホッ。これくらいなら形になる」と安心してしまう。自分の成功体験に安住してしまうのだ。
成功体験は「自信」になるので、最初はよいのだが、それに対して何の疑問も持たないと、「自分のやっていることは正しい」と幼稚なプライドになっていく。そうなるとその人は成長しなくなってしまう。
「もっと良い方法があるんじゃないだろうか?」
「自分はこれが正しいと思っているが、本当に正しいのだろうか?」
こういう疑いをつねに持つことこそが、ものごとを深く考えることにつながる。疑いや疑問を持たない限り、思考が深まることはなく、問題意識を持つこともできず、事業もその人の成長も停滞してしまうのだ。
忘れないでほしいのは、ものごとは変わり続けるということ。あなたの役割も変わっていく。事業規模も変わり、環境も変わっていく。
簡単な話をすれば、0−1億円規模の事業を成長させるスキルと、5億−10億円の規模の事業を成長させるスキルはまったく違う。それなのに、自分が成功してきた「0−1」のスキルで仕事をしようとすれば、本人が変わらない限り、成果が変わることもないのだ。
なので、「幼稚なプライド」は捨てて、自分の仕事はこれでいいんだろうかと、つねに疑いを持つこと。それが次の成長へのスタート地点、+3%を発揮する力になる。
仕事に対する姿勢の持ち方
一方、「必要なプライド」というのもある。それは、自分の仕事に対するプライドだ。昔、こんなことがあった。非常に優秀な社員の1人が、クライアントと契約する際、ウチにとってアンフェアな条件で結んでしまったのだ。
先方は会場を用意してセミナーを実施する。それに対し、ウチは自社の顧客リストに向けて彼がセールスレターを書き、セールスメールを配信し、自社のシステムで決済をして、先方のセミナーを販売してあげる。この取引にウチから提供する価値(バリュー)は、「顧客管理システム」「決済システム」「セールスレターのクリエイティブ」「カスタマーサポート」などなどになる。ところが、彼はこの取引に提供するバリューを認識していなかったのである。
「決済システムがあるんだから使えばいーじゃん」「セールスレターが書けるんだから書けばいーじゃん」的な感覚。自分がやる仕事を「コストゼロ」だと考え、その価値を見込まずに契約を結んでしまったわけだ。彼と同じレベルで仕事ができる人は、世の中にそう多くはいない。しかし、その価値を彼は自らディスカウントしてしまった。
プロだったら自分の仕事や時間をタダ扱いするだろうか? 本当にプロだったら、自分の仕事、自分の時間を高く評価する。なぜならプロだから。結果に責任を持つし、ベストを尽くそうと一生懸命やるからだ。
ポイントは、自分の仕事にどれだけ「プロ意識」「プライド」を持っているか。一生懸命プライドを持ってやっていれば、相手に対する要求も大きくなる。相手にも自分と同じだけを要求できる。
もし、仕事相手が手を抜いたり、品質を妥協してきたら、「しっかりやってください」とハッキリ言える。しかしそうでなければ、その基準を要求することはできない。
それには技術の習熟度は関係ない。多少、下手でも、一生懸命取り組んでるなら、相手に対しても強い要求ができる。あなたに持ってほしいプライドとはこのことだ。それが「プロフェッショナルである」ということである。