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「富山の“土徳”を伝えたい」 厳しくも豊かな自然が生んだ品格を体験化し、地域の観光資源と経済力に

2021年7月以降、quodはもともと目指していた「地方の在り方」「地域への関わり方」に対して気持ちを新たにし、チームとして一歩踏み込んだプロジェクトを進めている。

quodが拠点とするのは、福岡県糸島市、富山県西部地区、長野県茅野市・立科町の3つの地域。具体的にどのような取り組みをしているのか、地域ごとに深く関わるメンバーに話を聞き、進めているプロジェクトを深堀りしていく。

今回焦点を当てるのは、富山県西部地区。富山には、厳しいけれど豊かな自然環境のなかで、恵みに感謝しながら土地の人が自然と一緒につくりあげてきた品格を表す「土徳」という言葉が存在する。quodの飯塚は、自らもその富山と東京の二拠点生活をしながら、DMO「水と匠」や地元の魚問屋との協業による自然・食文化・民藝などを活用したエリア開発・観光商品開発を通じて「土徳」を発信するプロジェクトを進めている。

福岡県糸島市で進行中の「地域と繋がれる宿」構想を語った中川は、「富山と糸島は似ている」と話した。糸島との共通点とは?quodだからこそできる地域づくりとは?富山で進めるプロジェクトの全貌を聞いた。

自然の東部、文化の西部

── 「二拠点生活」に挑戦する人も増えていますよね。飯塚さんは、なぜ富山と東京の二拠点にしようと思ったんですか?

妻の実家が富山なので、子どもが生まれるのに合わせて2020年に富山に引っ越したんです。quodでは「大都市と地方で暮らし働く」というのをキーワードにしているので、自分自身が地方で暮らし働くいい機会だと思って。今は富山と東京の両方に暮らす家があり、仕事に合わせて行き来する生活をしています。

── 富山に拠点を持ってしばらく経つ飯塚さんから見て、富山はどんな場所ですか?

富山は東部と西部で大きく特徴が異なる印象がありますね。

東部は立山連峰をはじめ「自然」がとても豊かで、西部は自然が豊かなのはもちろん「文化」の色合いが強いという地域性がある。quodとして地域づくりに関わっているのは、主に西部の「文化」寄りのほうです。

富山西部は、加賀前田藩の領地だった歴史が深く、浄土真宗の信仰文化が強く根付いている。「仏具」に関連した職人さんが昔から多い「ものづくりの街」として知られる高岡市では、金工や漆芸、染め物や刺繍など、仏具の技術を活用したさまざまな工芸品が盛んです。


(写真)シマタニ昇龍工房でおりん職人の話を聞くquodメンバー。

観光地としてのイメージは強くないので、地域としても観光客にたくさん来てもらうというよりは、まずは「モノを作る体験をしたい」「思想的な学びが欲しい」など生活文化的体験を重んじる人に来てもらえたらと思っているんです。

産業と観光をリンクさせながら地域を発展させていこうという考えは、quodが目指す世界観とマッチするところが多いです。今は「氷見(ひみ)」を中心に富山県西部地域で、いくつかのプロジェクトを手がけています。

── 中川さんに「糸島」の話を聞いたときにも感じたのですが、quodは関わる地域との相性も大切にしている気がします。

自分たちが「いいな」と思う地域に関わっていったら、自然とそこに共通点が見えてきた感じかなと思っています。長野の茅野市・立科町、福岡の糸島、富山の西部地域というquodが手がける3地域は、どこも「山水郷」なんです。「人の繋がり」「山水の恵み」「(その恵みを生かすための)手業・知恵」が揃っている。特に、糸島と富山は海沿いに位置していて漁業が盛んで、かつ土壌が豊かで農業も盛ん。歴史的背景も色濃いという点では、中川の言う通り似ているかもしれません。

しかし見方を変えれば全然違うところもあって、たとえば気候と雰囲気はまったく真逆。糸島は温暖な気候でオープンな雰囲気がある一方で、富山は厳しい自然と共にあり、どことなく“スピリチュアル”な感じです。個人的には、その点では「北欧」の雰囲気にも近いかなと思っています。

糸島と富山のプロジェクトは、アイデアをシェアできる部分もありながら、それぞれの違いもあり、面白い比較ができるんじゃないかと思っています。

文化や思想を「体験」できる商品づくり

── 氷見から広がる富山西部での地域づくり、具体的にはどのような取り組みをおこなっていきますか?

活動の主体となっているのが「水と匠」という組織です。いわゆるDMO(観光地域づくり法人)としての一般社団法人で、「産業と観光をリンクさせながら地域を発展させる」ことを体現しています。7月1日に収益事業を手掛ける100%子会社である株式会社「水と匠」を新設しました。

(画像)「水と匠」公式HPより

DMOという組織体は今や全国各地にありますが、自治体の観光課が主体になって運営していることがほとんど。でも「水と匠」は民間企業が立ち上げた行政とは独立した組織で、自治体、地元企業、観光事業者などさまざまなプレイヤーとプロジェクトごとにタッグを組み、自治体のビジョンを共に作ったり、エリアのマーケティングを行ったりする役割を担っています。quodは外部パートナーのひとつで、僕自身は株式会社化した「水と匠」の社外取締役を務めているんです。

現在はデータマーケティングに基づき経営戦略を立てたり、サービス開発をしたりしている段階。空き家を再生して宿泊施設にしたり、富山を訪れられない人向けにECサイトを立ち上げたりしています。

以前は、富山の「ものづくり」を生かした「物販展」を国内外で催していました。職人が作る工芸品は海外でも人気で、特に中国では「匠」という概念が注目されていて、それを機に富山を訪れるインバウンド観光客も多かったんです。そうした旅行客は「体験」を重視する傾向にあるので、実際に訪れられなくても楽しんでもらえるような新しいカタチの体験型企画を進めています。プロジェクトごとに紹介しますね。

①和菓子店「引網光月堂」のオンライン体験型物販

富山の有名な和菓子店「引網光月堂(ひきあみこうげつどう)」とは、オンラインでの体験型物販を実施しました。「引網光月堂」は現在4代目で、東京事変のアルバムジャケットに登場するクジャクモチーフのオリジナル和菓子を作ったりと、老舗ながら新しい取り組みにもどんどんチャレンジしているんです。

今回作ったのは、オンライン参加者が「こんなイメージの和菓子を」とオーダーすると、画面越しの職人さんがその場で作ってくれるという体験。国内のシニア層や海外の富裕層から大きな反響がありました。オンラインでものづくりの良さを知り、ECで商品を買ってもらう。そんな流れを、いろいろな業種で作っていけたらと思います。


②富山の散居村の古民家を泊まれるレストラン・オーベルジュに

富山県西部にある砺波平野には、220㎢の広さに約7,000戸を超える農家が点在する「散居村」が広がっています。散居村とは、広い耕地の中に民家が散らばって点在している集落形態のこと。

(写真)提供:(一社)富山県西部観光社 水と匠

ここに、秋田の「スイデンテラス」の光景にも引けを取らない、泊まれるレストラン・オーベルジュを2023年の秋に開業させるプロジェクトが進行中です。

「スイデンテラス」とは、秋田県・庄内平野の“水田”に浮かぶように建つホテル。地元ベンチャー企業が手がけた、"社会実験や新たなビジネス創出などを通じた課題解決の一手法”として全国的に注目を集めています。

砺波平野では、自然のグランドルールに則り、土地を生かし農業を続けてきたことで生み出された美しい風景が広がっています。富山の豊かな文化や食、自然をどう楽しんでもらうか? ということを詰め込んだこの土地独自のオーベルジュを開発中です。

③歴史ある善徳寺で“現代版の檀家制度”と宿坊体験を

今からおよそ530年前の室町時代に創建された、浄土真宗のお寺「善徳寺」。ここは「民藝運動の父」と呼ばれる柳宗悦が、仏教美学を解いた著書『美の法門』を書き上げた場所としても知られています。

そんな深い歴史と文化がある「善徳寺」で、デザイン活動家で民藝に精通するD&Department Projectのナガオカケンメイさんと一緒に、民藝思想を中心に“現代版の檀家制度”を作るプロジェクトが進行中です。個人や企業を対象にサブスクリプション会員を募集し、住職のオンラインサロンに参加できたり、お寺をテレワークや企業研修の場所として使えたり、宿泊施設として泊まったり。お寺を有効活用しながら、文化的体験もしてもらえますよね。


④氷見の魚問屋と、「天然の生け簀」の魚食文化を全国に

「天然の生け簀」とも呼ばれる氷見には、日本の海で獲れる魚種の7〜8割が生息しているそうです。縄文時代から暮らしが営まれている地域でもあり、農業も盛ん。この地域の食文化を、県外の人に知って、楽しんでもらおうと、地元の魚問屋さんと富山の食のブランディングと商品開発をおこなっています。さらには一緒に地域の物件開発にも着手しています。

(写真)氷見の海のようす(from Getty Creative MIXA)

ただ「富山の魚、おいしいよ!」と言うだけでなく、僕自身が富山に暮らしているからこそわかる感覚や、実際に五感で味わった文化的体験を、まるごと届けたいと思っています。食育や食にまつわる文化的体験を通して、豊かな生活をシェアできるようなツアーを企画中です。

まずは富山・氷見の魚、食文化の認知度を上げることから。富山の魚を使った新しい食店舗の企画を進めています。

自分が富山に根を張ったからこそ、生み出せた企画

── 和菓子、オーベルジュ、お寺、氷見の魚と、いろいろなプロジェクトが進行中なんですね。自身の二拠点生活が活きていると感じることはありますか?

やっぱり自分自身が二拠点生活をして富山にも生活のベースがあることで、出てくる発想の解像度は格段に高くなりました。東京から通っているとどうしても入り込めなかった部分がありますが、現地で暮らしているからこそ体験できることや、地元の人に教えてもらえるものがある。そして、それを大都市圏で暮らしている人の目線から捉え直すことで、地域にとっても、大都市圏で暮らしている人にとっても新しい可能性を見出せるのではないかと思ってます。

富山はスーパーで売っているお寿司でもものすごく美味しいし、旬のブリを地元ならではの形で食べる「ブリのフルコース」では、あえて寝かせて熟成して食べるなど、東京では見たことがないような調理法で新しい味わい方を知りました。現地で食べるからこそ分かる、漁師さんや料理人の想いがありますし、暮らしていれば自分が今から食べるこの魚が獲れた海の様子もわかります。おいしさって五感で感じるものだなと気づきました。


(写真)quodメンバー、漁港視察のようす

富山は、厳しい自然と共存し、自然から恵みをいただき、人間のチカラにして循環させていく……という、SDGsがナチュラルに続いている土地。これからの社会に必要な、人と自然が一体となった共同社会のあり方を体現しています。東京と富山と両方の感覚を行き来しながら、富山で培われてきたその価値観をどうすればシェアできるかを考えています。

── 日本にはたくさん魅力的な「地方」がありますが、富山だからこそできることもあるのでしょうか。

富山にこうしたまだ開拓されていないポテンシャルがあるのは、北陸新幹線が開通するまで文化的にも経済的にも“閉ざされた場所”だったという地域性・時代性があると思います。これも住んでみて気づいたことです。

良い意味で現代的なカルチャーやトレンドが入って来なかったため、独自の文化圏が守られたのだと思います。チェーンの飲食店なども、他の地域に比べて少ないんです。今では国内各地へのアクセスもよくなって“開かれた場所”になってきているので、富山の昔から繋がれてきたカルチャーを発信するには良いタイミングなのだと思っています。

もうひとつ注目しているのが、富山に根差す仏教的思想です。富山の南砺市に長らく疎開して、そこでその才能を開花させたとも言われている世界的版画家・棟方志功はこう言っています。

「私は自分の仕事に責任を持っていない。
自分に仕事をさせている何者かがいる。自分はその手足にすぎないのだ」

棟方氏は、作品は自分のエゴではなく、繋がれてきた思想や自然環境など自分を取り囲むものが、たまたま自分の手を通じて表現されたのだと考えました。見ているものを圧倒するような仕事ぶりも「仏様が自分を動かしているのだ」と言ったそうです。自分を突き動かす大きな力や人知を超えた何かを、生涯をかけて探っていたんです。

今、人々の生活や仕事のあり方が大きく変わり、資本主義について改めて考え直す動きも起きています。その中で、こうした東洋的・仏教的思想を体感したり、自然の中で大いなるものとの繋がり感じたりすることは、かつてないほど求められていると思います。

(写真)北陸一の霊場と言われる大岩山・日石寺

富山の「土徳」を伝え、豊かな暮らしを経済力に

── 糸島では「居場所を作る」ことが目標と聞きました。富山では、こうした取り組みの先にどのような目標がありますか?

「居場所を作る」というコンセプトは富山も同じで、空き家を活用して宿を作ったり、お寺の新しい使い方を提案したりしていきます。ただ、富山は糸島よりもより中長期的な滞在に向いていると感じています。週末だけ訪れるというよりも、僕のように二拠点生活を送る「もうひとつの生活場所」というイメージです。

富山の「豊かな生活」は、実際に暮らして体験して欲しいという思いがあります。民藝思想の創始者・柳宗悦は、それを「土徳」という言葉で表現しています。

「土徳」とは、「厳しいけれど豊かな環境の中で、恵みに感謝しながら、土地の人が自然と一緒につくりあげてきた品格」のこと。僕たちが手がけているのは、この土地に暮らす人、自然、文化のすべてである「土徳」を世界に向けて発信し、これを富山の観光資源と経済力にしていくためのプロジェクトです。

まずは自らが体験し、そのものの良さの本質を掴むこと。そして、それを今の時代に合わせた形でデザインし直すこと。糸島とはまた違う、地域づくりのプロトタイプを作り出せたらと思っています。

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