トヨタコネクティッドの先行企画部技術企画室では、次世代の製品化に活かすための試験・研究を実施しています。今後、MaaSが拡大していく中で、クルマ社会は大きく変わっていくことが予測されます。トヨタコネクティッドのエンジニアが担うのは、こうした社会変革の一端となる「未来のタネをまく仕事」。そう話すのは、技術企画室で技術統括の役割を担う檀野隆一です。技術企画室のミッションや業務のやりがいについて話を聞きました。
ソフトウェア開発の知見をクルマづくりに活かす
——はじめに、檀野さんの経歴を教えてください。
私は大学卒業後、一旦は大阪の会社に就職したのですが、元々ネットワークゲームの仕事がやりたいと思っていたことから5ヶ月ほどで東京の会社に転職しました。そこで約2年間ネットワークゲームの仕事に携わりながら、システムエンジニアとしてのキャリアを積みました。
その後は官公庁向けのシステムなどをいくつか経験して、独立。ソフトウェアの会社を起業したんです。5年経った頃、友人の会社の経営に携わらないかと誘われ、自分の会社を畳んで経営者として参画しました。その後、また別の会社の取締役などを経て、自宅があった名古屋に戻ってトヨタコネクティッドに入社しました。
——トヨタコネクティッドに入社することとなったきっかけはなんだったのでしょうか。
トヨタコネクティッドに参画することになったきっかけは、派遣会社の紹介でした。当時は30代半ばだったんですが、ソフトウェア開発に携わっていたそれまでの経歴と年収などの条件にぴったり合ったんです。
トヨタコネクティッドに参画した当初は、車載機のバックエンドシステムの開発にかかわっていました。トヨタ自動車にはエージェントという音声認識サービスがありまして、音声で目的地を設定することができます。
従来のナビは操作をするために車を停めなければいけませんでしたが、音声認識の技術を活用することで、いちいち車を停めなくてもナビの操作が可能になりました。「●●に行きたい」とエージェントに話しかけるだけで行き先が設定されて、ルート案内が表示されるのです。
当時はそういった仕組みのサーバー側、いわゆる裏側のインターネットの部分を担当していました。
愛知県だと車にかかわることイコール、メカニカルであったり、車の電気的な部分であったりに携わることが多いイメージなんですが、その中でもトヨタコネクティッドはハードではなくソフトウェアを担当しているという点が特徴的だと思っています。
新しい技術を「手の内化」して、少し未来のモビリティサービスをつくる
——檀野さんが所属する先行企画部技術企画室は、どんなミッションを持ったチームなのでしょうか。
先行企画という名のとおり、「いま」のプロダクトを作るというよりは、少し「未来」の技術のタネを見つけるような部署です。長期的には10年先の技術まで見通しつつ、2〜3年後に起こりそうなことに対して目を光らせています。
簡単そうに見える技術でも、実際に動かしてみると思わぬところに障害が発生することがあるので、自分たちで触って「手の内化」をすることで経験を蓄える。いざその技術を使おうとしたときに、どこにリスクがあるか、実際にサービス化するのであればどれくらい費用がかかるのかを言える状態にしておくというのが手の内化の目的です。
——具体的にはどんな業務をしていますか?
トヨタ自動車から受託で仕事を請けることも多いのですが、一方で、自社で技術のタネを見つける、トヨタコネクティッドオリジナルのビジネスをつくるための試験研究などもしています。
たとえば、ある会社から新しくデバイスが登場したとしましょう。そのデバイスを使えば、より安く画像認識の技術を広められる可能性がある。そこで、そのデバイスとソフトウェアを組み合わせて、より安くてよいプロダクトを開発するといった研究をしています。
最近ではさまざまなクラウドサービスが出てきていますので、おもしろいクラウドサービスを提供している会社さんと一緒に組んで新しいサービスができないかなど、そういったことに日々アンテナを張っています。
——たとえば、どんなサービスをつくろうとしているのでしょうか。
いわゆるMaaS(Mobility as a Service)、モビリティサービスですね。MaaSとは、モビリティをサービスとして提供するものです。車を売って終わりではなく、車に付随するサービス自体をつくる。
たとえば、テーマパークへ旅行しようとした場合、これまでなら車で移動したり、バスや飛行機に乗ったりして目的地へ移動して、現地でチケットを買って遊ぶというふうに、それぞれをバラバラに手配していました。これをワンパッケージにして、車での送迎からチケットの手配まですべてやるというのがMaaSの一例です。
ほかにも、タクシーの相乗りサービスがあります。タクシーは1人で乗っても2人で乗っても運賃は変わりません。それなら、知らない人同士をマッチングさせて同じタクシーに乗ってもらえば、それぞれの移動コストは下がるわけです。
技術企画室ではそういった新しいビジネスモデルが商品化できそうかという目線で、プログラムを組んで実装するといった役割をしています。
——そういった業務はどんなプロセスで行われていて、どう意思決定しているのでしょうか。
一般的な業務プロセスは、企画して、上司に予算獲得の交渉をして、予算が承認されたらそれを実現するために開発し、サービスができたら使ってもらってリファインしていく。そういった流れになると思います。
ですが、私たちの業務プロセスには非定型な部分が多いんです。決められた業務をこなすというよりは新しいことを研究開発していくので、どうしてもイレギュラーなプロセスが発生してしまうんですよね。
よくあるのが、法律の問題です。たとえば、荷物を運ぶサービス1つとっても既存業界と真っ向からぶつかってしまうため、私たちが考案したシステムでは法律に抵触してしまうことがあるんです。
サービス開発をするときには法務に問い合わせなければならなかったり、知的財産権について確認しなければいけなかったりといった、頼まれ仕事ではないがゆえのさまざまなプロセスが発生します。決められたプロセスを守っていけば仕事が完了するというのではなく、新しいことに必要なさまざまな業務をしていく必要がありますね。
そんな中、私は技術全体を見る統括的な業務をしています。より効率のよい方法はないか、この技術よりもこちらの技術のほうが使いやすのではないか。そういった部分を各プロジェクトで判断したり、現在企画されているプロダクトのシステム開発に参画したり、そういった技術全般に対する評価を担当しています。
責任が大きいぶん、制約は少ない。新しい技術にチャレンジできる環境がある
——技術企画室にはどんなカルチャーがありますか?
技術企画室のメンバーは十数名ですが、チームの雰囲気としては割とおとなしいですね。先行企画部は創設されて3年目の若い部署です。
決められたカルチャーがあるとそこに入ってきた人はそのカルチャーに染まるものですが、新しい部署ですのでまだカルチャーと言えるほどのものが形成されていません。みんながみんなそれぞれのカルチャーを持ち寄ってきて、いい意味で自由に仕事をしている雰囲気があります。
——技術企画室に参画することで、エンジニアとしてどんなチャレンジができるでしょうか。
MaaS関連の仕事が一番近い位置で降ってきますし、自ら生み出すこともできるので、MaaS関連の仕事でキャリアパスを積みたい人には向いているのではないでしょうか。
新しいことをやりたいと思ったときに、ほかの要素と比較してそれを使うことが妥当であると説明ができる状態であれば止める人はいません。ですから、エンジニアリングという意味ではあまり制約がない環境ですね。
たとえば、トヨタコネクティッドでは3〜4年前、あるプロジェクトでDockerという仮想環境を構築する技術を採用したことがありました。当時、社内周辺を見渡す限りDockerの「ド」の字も出てきていなかったんですが、便利な技術だからDockerを使いましょうと私が説得したんです。
エンジニアさんの話でありがちな「新しい技術を導入したいが上司がそれを認めてくれない」ということは、うちの会社ではほぼありません。その代わり、言い出した以上は最後まで責任をとってやり遂げようというスタンスですね。
技術的にやりたいことがあって、それを導入すればより効率的に回るのであれば、みなさん積極的に採用しています。
——檀野さん自身、トヨタコネクティッドに入社して自分のどんなところに成長を実感していますか?
トヨタ自動車では試作生産を終えて本生産で製品を流すことと、サービスの本番リリースにおいても「号口」という言葉を使いますが、号口のサービスインをしたあとに、どうしても細かな品質に関するフィードバックが出てきます。そういったときにどう対処するのか、その対処を経て次つくるときにはどこに気をつけなければいけないか、といった目線を非常に意識するようになりました。
たとえば、ケアレスミスは絶対に起こるものです。問題は、それを引き起こす環境やプロセスなんです。ケアレスミスを残してしまうと、同じ問題が定期的に起こります。それをいかに改善するか、ケアレスミスが本番に反映されないプロセスをどうつくるか。そこはとても口うるさく言われましたね。
エンジニアが何かをつくってものを動かすというのは、ひとりで家にいてもできるんです。本番サービスを開始して、どんなリアクションがあって、それが自分の想定とどれくらい違うのか。そういった経験はトヨタコネクティッドにいなければ得られなかったのではないかと思っています。
——メンバー個々が能力を発揮するために、会社から提供されている制度にはどんなものがありますか?
コンプライアンスや法務、セキュリティ関連など、知らなかったがゆえに大事故につながるような知識については、eラーニングが充実していて、必ず学ばなければならないものについては締め切りが設定されています。
エンジニアはエンジニアリング以外の部分には目を向けないようなところがありますが、たとえば「クラウドサービスを使っていたら実は輸出規制に当たっていた」というようなことが起きるんです。
そういった、「知らないと一発アウト」のような知識は限りなく組織が防いでくれていると感じますね。
「お見合い」によるエラーを防ぐため、自ら提案できるエンジニアに参画してほしい
——トヨタコネクティッドで働くことのやりがいや魅力はどんなところにあると思いますか?
トヨタ自動車自身はメーカーであって、GAFAのようなソフトウェアやインターネットサービスが主の会社ではありません。そういったこともあり、ソフトウェア寄りのメンバーが少ないので、ソフトウェア技術に長けた人の提案は通りやすい傾向があります。
たとえば、要件定義や設計、開発で、「こっちの方が合理的ですよ」という提案は割と通りやすい傾向があるのではないかと思います。そういった意味で、技術に長けた人は動きやすいのではないでしょうか。
——檀野さんは今後トヨタコネクティッドでどんなことを実現したいですか?
この先MaaSが広がっていくことで、いままでとはいろんなことが変わってくると思っています。たとえば、従来の車社会で規則正しく動いていた部分が今後どう変わっていくのか。こうした社会変革の一端を担えるという点にやりがいを感じています。
いま、世の中がDXの実現に向けて動いています。紙がオンラインに置き換わって、データが流れ始めて、これまでハードだった部分がソフトウェア側に寄ってきていると思うんですよね。そうすると、こちらが待っているだけでみんながソフトウェアという土俵に上がってくるのではないかと思っています。
これまでハード寄りで、紙ベースでものごとが進められていたものがすべてソフトウェア化、データ化されていく。その文脈で、自分ができる領域が広がっていくのではないかと思っています。その中でおもしろいことを見つけて、形にしていきたいですね。
——トヨタコネクティッドのカルチャーにはどんな人がフィットすると思いますか?
エンジニアはどちらかというと頼まれ仕事が多いので、「こういうシステムをつくりたい」と相談されれば「こうすればいいんじゃないですか」と提案できるんです。ですが、その一歩手前で、こちらから提案ができる人というのは相性がいいと思います。
技術企画室は新しい仕事が多いので、あちこちでいわゆる「お見合い」が発生しがちです。エンジニア側は「何か指示してくれれば設計図を書きますよ」というスタンス。一方の依頼者側では、「何を指示すればいいからわからないから、何か提案してよ」というスタンス。こうしたことが今後ますます増えていくのではないかと思っています。
そんなとき、発注の意図はわからなくても、「これまで類似のシステムでこんなのをつくってきたよ」と口に出して提案できるタイプの人は、向いているのではないでしょうか。
私たちの部署は「つくってなんぼ」というところがあるので、企画ができるだけでなく、エンジニアとしていろいろつくってきた経験のある人が魅力的に感じますね。