ウェブサイト・アプリ多言語化サービス「WOVN.io」を提供するWovn Technologies株式会社(以下Wovn)は、NTTファイナンス株式会社等から、2019年6月に資金調達をしています。そのご縁で、NTTファイナンス株式会社でWOVN.ioについて講演する機会をいただきました。講演したのは副社長の上森 久之。ファシリテーターはWovnへの投資も担当頂いている、NTTファイナンス株式会社 グローバル事業部 投資戦略部門 VC担当の市川 誠さんです。
WOVN.ioの解説はもちろん、Wovnが社会に与えたい影響や、若手社員向けのキャリア論まで話をさせていただきました。本稿ではダイジェストで、当日の内容をお伝えします。
会計士・コンサルを経てWovnへ
市川:
まず最初に自己紹介をお願いします。
上森:
Wovn Technologies株式会社というウェブ多言語化の会社の副社長の上森と申します。北海道で生まれまして、今36歳です。Wovnには私が32歳の頃、2期目にジョインしました。
キャリアとしては、北海道の大学院を中退して、監査法人トーマツで大企業の会計監査、J-SOXなどを担当。そのあとデロイト トーマツ ベンチャーサポートというスタートアップを支援する社内ベンチャーで、スタートアップの支援や、大手企業向けにオープンイノベーション的な文脈でコンサルティングサービスを提供していました。
市川:
そのあとWovnに入られたんですよね。
上森:
もともとWovnは創業当初はすべて無料でサービス提供していました。その後有料化するのですが、そのタイミングでビジネス化をしていかなくてはいけないということで、参画しました。
市川:
公認会計士の資格もお持ちでコンサルティングもされてたのに、あえてWovnに入られた理由はなんでしょう。
上森:
正直前職のデロイトトーマツは、今でも最高な組織だと思っているし、そこでやりたいことも山ほどありました。
一方でWovn社長の林 鷹治(ハヤシ タカハル)は、東京に出てきたタイミングが同じ社会人同期なんです。彼は北海道の同郷でもあってエンジニア。人として彼が好きだったのと、WOVN.ioというサービス・プロダクトもとても好きでした。共同創業者のJeffも含めて一緒に仕事がしたくて、好きだったデロイトも辞めてジョインしました。
母国語でインターネットにアクセスできるようにする
市川:
ここでWovnさんのご紹介をお願いできますか。
上森:
Wovn Technologiesは2014年に創業した、多言語化の領域を扱うスタートアップです。
通常ウェブサイトを外国語対応しようとすると、日本語の他のもう1つ英語や中国語のページを作らなければなりません。しかしWOVN.ioでは、もともとあった日本語のサイトをベースに英語や中国語のサイトを自動生成できます。翻訳についてはポストエディットと呼ばれる、機械翻訳で下書きをして、それを直していくサービスなどを提供しています。全部で約15,000サイトでご利用いただいていて、現在は主にエンタープライズ向けにサービス提供しています。
市川:
Wovnの事業を通じて、どういうことを社会に働きかけていきたいのでしょうか?
上森:
Wovnは「世界中の人が、すべてのデータに、母国語でアクセスできるようにする」というミッションを掲げています。今は日本語で検索しても英語のページは検索ヒットしなかったり、ロシア語のページを理解できなかったりします。これを日本語(母国語)で検索してもすべての言語のページにアクセスできるような世界にしていきたい、というイメージです。
世界には今、約40億人のインターネットユーザーがいます。その中で日本語のコンテンツは全体の3%程度しかありません。情報のほとんどは英語。一方今後何年かで、もっともっとインターネットユーザーが増えていきます。どんなインターネットユーザーが増えるかというと英語ができない人です。この方々や日本人は、インターネット上のほとんどの情報へアクセスできません。つまりWovnが成し遂げたいのは、情報格差の解消なんです。
またWovnはエンタープライズ向けにサービスを提供しているので、もちろん彼らにも貢献しているのですが、その先の日本経済にも貢献したいと考えています。
今日本のGDPは約500兆円。しかしここ数十年で約1500万人の労働人口が失われる。先進国では人口が減ると必ずGDPが下がります。GDPが下がると海外の投資家にとって日本のマーケットの魅力は低下します。金融マーケットに資金が入ってこなくなると投資ができなくなるので、このままでは今後、日本のビジネスはどんどん先行きが暗くなっていく。
今、海外の機関投資家が多くの日本株を保有しています。働き手がどんどんいなくなる中、この状況をカバーするためにAIや女性の社会進出等とともに実効性のある打ち手の一つは「外国人と一緒に仕事をする」です。
外国人に働きやすい環境を提供するためにも、インターネットの多言語化、ローカライズを通じて、日本が外国人でも仕事をしやすい国にしていけたらと思っています。
指示を待たずとも自ら動き出すチーム
市川:
事業を始めて、これは苦労したなという点を教えて下さい。
上森:
組織の話ですね。わかっていたことなんですけど、いざ迎えるとすごく大変です。
Wovnには今、約80名の社員がいるのですが、1年前は40名でした。つまり全社員の半分が1年未満なんです。マネージャーがマネジメントしなければいけない人数が増えて、今まで数名をうまく回していた人も10名~20名のマネジメントは容易ではありません。人事評価、業務の指示、モチベーション管理、キャリアプラン、ご家族のこと。こういったものを突然マネジメントしなければいけなくなってきました。普通の会社では当然にやっている事ですが、急に必要性を迫られると苦労します。
当然何もかも完璧にまわるわけではありません。中には離職する人もいますし、経営陣同士で毎晩夜中まで議論する日が続きましたし、今でも続いています。組織の話は会社の規模に関わらず大変ですね。
市川:
逆に一番嬉しかったことはなんですか?
上森:
たくさんありますけど、やっぱり「うわ、これはいいサービスだね」ってクライアントに言われて契約できたって話を、笑顔のメンバーから聞く事です。営業活動やデリバリーはとても大変ですが、メンバーの笑顔や顧客の声に救われます。
契約がないということは、世の中に認められていなかったり、社会的に意味のないものを作ってしまっているということだと考えています。それだと自分たちの趣味でしかない。だからこそお客さんから「WOVN.ioがあったから、ビジネスがうまくいったよ」というお話を聞くのはとても嬉しいんです。特にWOVN.ioの場合、クライアントが成功しているということは、その先にいる外国人にもいい体験を提供できたということで、これまた嬉しいですね。
また最近こんな話もありました。WOVN.ioは多くの鉄道会社に導入していただいて、運行情報をリアルタイムで多言語化しているんです。今まで運行情報サイトのリアルタイム多言語化は技術的に難しかったのですが、WOVN.ioなら実装できるということで、ここ1年くらいで急激に普及しています。
システムが止まりでもしたら鉄道会社はもちろん、そのさきの外国人に甚大な被害を与えかねません。先日台風19号がありましたが、こういった災害のときにこそ、運行情報は重要です。だからWovn社内でもシステムがちゃんと稼働しているか、当然モニタリングしているんですね。
台風のとき、一応指示を出そうかなと思って家でパソコンを開いたら、すでに担当チームが自らチームアップしていて、とっくにモニタリングしてくれていたんです。しかも土曜日だから本当は休みなのに。社内チャットのメンバー間のやりとりに目を通しながら、うるっときちゃいました。
仕事ができるようになるための働き方
市川:
いいお話ですね。社会的に意義があることに取り組まれていることがわかるエピソードです。
そういった方も含めて、Wovnには優秀な人材が集まってきているイメージがあるのですが、優秀な人を引き付けるポイントはありますか?
上森:
他のスタートアップと比べても、優秀な方はすごく多いと思います。採用率は5%ぐらいで、迷ったら絶対に採用しないというルールがあります。採用面接の際には、採用云々よりも、WOVN.ioというサービスや、会社と仕事したいな、ワクワクするな、楽しそうだなと感じてもらいたいと思って、候補者の方とお話しています。優秀な方は当然、他の企業からも人気なのでミッションや会社のファンになってもらうことが大事なんですね。そういったところを気に入ってもらうことも多いです。
それ以外のちょっと特殊なところで言うと、WOVN.ioはメンバーの約半分が外国人なのですが、日本語しか話せない人も結構多いし、今から入ってくる方にも、ビジネス担当なら英語力は必ずしも求めていません。ただ、社内でのオフィシャルの会議は同時通訳しているのですが、カジュアルなコミュニケーションは当然英語なわけです。
そんな環境で何が起こるかというと、英語が苦手な方も、少しずつ国際的な環境に身を置くことで、強制せずとも英語勉強しなきゃとなります。これも新しいチャレンジですよね。過去たまたま英語環境になかった優秀な人は、言語力以上によっぽど素晴らしいスキルを持っています。そんな方々なので、みんな努力家だし根性あるし頭もいい。だから必要に迫られればすぐに外国人メンバーと英語でコミュニケーションをはじめています。
市川:
この収録は、NTTファイナンスの若手社員も見ているのですが、若手へのメッセージもお願いできますか。
上森:
Wovnも20代半ば~30歳ぐらいの社員も増えてきて、採用面談なども含めて色々な方とお話ししてて思うのは、今の若手は二極化しているイメージがあります。具体的には「やり切っている人」と「こなしている人」です。
両者は一見見分けがつきません。今時点でのアウトプット自体はあまり変わらないし、下手したら「こなしている人」の方が要領がいいこともあります。ただ両者の差は後々に大きな差異となって現れるんです。
仕事をやり切っている人というのは、1年後に急に成長したりするし、5年後にはこなしている人とは実力が全然違ってきます。地味なことをちゃんとやる、継続してやり切るということは、非常に重要。原理原則が大事。そこに近道はないんじゃないかと思っています。
また20代だったら、素敵なボスを見付けて、そのボスを徹底的にフォローすることが大事です。あとはたくさん本を読むこと、仕事をたくさんやること…あ、もちろん労務上大丈夫な範囲で(笑)、やるといいのかなと思います。
市川:
今日はお忙しい中お越しいただきありがとうございました。
上森:
こちらこそ本日はお時間いただきましてありがとうございます。これから5年、10年、30年後と、もっといいお話ができるようになったり、いい世の中にしていきたいと思います。本日はありがとうございました。
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Wovn Technologies 株式会社は、若手社員も絶賛募集中です。エンジニア、マーケター、デザイナー、コーポレート・スタッフ、法務、人事、セールス、インサイドセールス、テクニカルサポート、エンタープライズサクセス、翻訳者、広報等、仕事はいくらでもあるので、Wovn Technologiesに興味がある方は、ぜひオフィスまで遊びに来て下さい。
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(text: pilot boat 納富 隼平)