水星には、多様なバックグラウンドを持つ人材が集まっている。
今年3月にHOTEL SHE, KYOTOのマネージャーになったばかりの岸さんもその一人。大手メーカーの営業を経て、コロナ禍でホテルへと転職してきた岸さんは、入社当初から水星という会社の思想に基づき、HOTEL SHE, KYOTOのあるべき姿を考え続け、チャレンジを続けてきた。
そうしたチャレンジもあって、入社から1年という異例のスピードでマネージャーに就任。むしろこれからが勝負の時期と話す岸さんが考えるこれからのキャリア像や、水星という会社の魅力・カルチャーについて伺った。
家族の期待に応えるような学生生活、就職活動
ーーまずは学生時代のことを聞かせていただけますか。
中学・高校の頃から映画や絵画が好きでした。特にアンディー・ウォーホルが好きで、芸大に入りたいとも思いましたが、学歴を重んじる家庭だったことと、自分自身も勉強が苦ではなかったので、家族の期待に応えつつやりたいことも両立できる同志社大学の文学部美学芸術学科というところに入りました。美学芸術学科は「美しいとは何か」を研究したり、言語化する能力を身につける学科です。私は芸術の創作に必要な技法や読み解く力を勉強していました。
大学では軽音サークルに所属していて、ファンクやフュージョンなどのジャンルでバンドをしていました。学科でも絵画はもちろん、音楽や漫画などあらゆる芸術をテーマにしてきたので、大学でいろんなカルチャーに触れてきた感じですね。現代アートが好きだったこともあって、卒論ではクリストファー・ノーラン監督の映画やChim↑Pomというアーティスト集団についての研究をしていました。
ーー就職活動については、どのように考えていましたか。
まわりには音楽をやっている人も多く、真面目に就職活動をやっている人が少なくて。私もそれに影響されて、あまり本腰を入れてやることはありませんでした。それなら家族の期待に応えようと、わかりやすいメーカーに就職することにしたんです。
それで、とある住宅設備メーカーに就職できたのですが、この会社は競合企業と比べて特に地方に強い会社でした。地元でも看板を見ることが多くて、家族も知っていたので、そういう点ではよかったと思います。
本当はアート系に就職したいとも思ったのですが、受け身でいると大学ではそういう情報が一切入ってきませんでした。だから、まわりでも大学が薦めるメーカーや銀行に流れていく人が多かったんだと思います。
ーー仕事においてどのようにモチベーションを保っていましたか。
会社では営業の部署に所属していたのですが、典型的な男社会で、入社時には部署内の女性は私一人だけ。すぐ辞めてほしくなかったからなのか、私だけ目標数値を低めに設定されたんです。上司なりの配慮ではあったと思うのですが、自分が女性だからという理由だけで仕事を任せてくれないというのに納得がいかなくて。
成績を上げていけば、もっと仕事を任せてもらえるんじゃないかと考えて、そのために頑張っていました。でも、実際に成績や目標が上がってくると、段々と頑張るモチベーションがなくなってしまい、転職を考えるようになりました。
企業のミッション、経営者の思想に惹かれて
ーー実際に転職につながった転機はありましたか。
コロナ禍に入ったことは大きかったかもしれません。それまで営業ということもあって忙しく、モチベーションがないと思っていても、頭の中を整理する時間がなかったんです。でも、コロナ禍で仕事が落ち着いて、在宅も増えたので、自分と向き合う時間が増えました。
そのタイミングでSHElikesというキャリア支援サービスの受講を始めたのですが、日本にはキャリアデザインをしっかり学べる場所がないんだということを改めて感じて。SHElikesはその一つの解決策だと感じたので、受講生でもありながら、インターンとしてサービスにも携わせていただきました。
ーー水星とはどのように出合いましたか。
絵を描くことがずっと好きだったので、SHElikesで契約とか仕事の仕方を学びながら、個人デザイナーとしても少しずつ活動できるようになりました。それ以外にもいろんな考え方やスキルが身についたなと思ったタイミングで、転職を真剣に考え始めました。
それで、wantedlyに登録して仕事を探し始めて、水星に出合いました。もともとホテルも翔子さんのことも知っていたし、この頃にはある程度自分のやりたいことがはっきりしていたので、絶対ここだというふうに感じました。
ーー決め手はどこにありましたか。
前職では"性別の垣根を超えて仕事を平等に任せてもらいたい"という、世の中の不平等を解消していくようなことが自分のモチベーションにつながっていると感じていました。水星は「選択肢の多様性を増やす」ということをミッションに掲げていたので、そんな思いがあるということを知って、会社を経営している翔子さんの考え方や、会社としてのあるべき姿に惹かれました。
ホテル事業部の貢献度合いを増していくために
ーー2022年2月にホテルスタッフとして入社してからまだ1年しか経っていませんが、どんな1年間でしたか。
この1年間で自分ができるようになった業務の幅が、前職の5年と比べてケタ違いで。社会人としての経験の濃さが全然違うなと感じています。どちらがいいかは人によると思うし、もっとのんびり安定して働きたいという方にはトップダウン方式の会社があっているかもしれません。私みたいにどんどん前に進んでいきたい人には、こんな環境があっているなあと感じています。
もちろん、楽ではなかったですけどね(笑)。ルールが少ないということもあって、目標を自分で立てておかないと、目の前のオペレーション業務に追われて、折れてしまう気がします。だから、つねに一年先のキャリア像を描きながら働いてきました。
ーー入社1年というスピードでHOTEL SHE, KYOTOのマネージャーに就任されました。
入社する前から、HOTEL SHE, KYOTOは「京都の中でも京都っぽくない観光業のあり方を模索している」と感じていました。でも、入社してみると、HOTEL SHE, KYOTOの本当の魅力にスタッフ自身が気づいていないということも感じて。もっとしっかりブランディングをして、コンセプトメイクしなきゃいけないと感じていたし、そうするべきだという話をしました。
ーー悩んだことやつらかったことはありましたか。
入ってすぐの私の発言が受け入れられるか不安だったし、実際に受け入れられないような瞬間もあったので、それはすごく悩みでした。自分がやっていきたいホテル像はあるけれど、それをまだ立場的にうまく伝えられなかったんです。
ーーそれでも、乗り越えてこれたのはどうして?
やっぱり翔子さんの存在が大きくて。私が配属された当初は金沢の香林居ができてすぐの頃で、長くホテルにいた人たちが別のホテルへ異動するなど、HOTEL SHE, KYOTOのカルチャーが崩れかけていた時期だったと思うんです。
それは翔子さんも感じていたようで、京都に私が配属されることの意味を翔子さんも考えてくれていたんだと思います。カルチャーを作ってほしいという期待もあったのかもしれません。だから、翔子さんと直接コミュニケーションをとる場所を最初から定期的に設けてもらって、考えを伝えたり言語化することができていたし、翔子さんが背中を押してくれた気がします。
HOTEL SHE, ブランドの第二章を作っていく
ーーマネージャーになって、仕事はどう変わりましたか。
(前支配人の)中村さんがマネージャーだったとき、ブランディングや企画をたくさん私に託してくれた裏側で、経営的な視点をすべて見てくれていたんだということを、今になって実感します。企画だけじゃなくて、きちんと売り上げを追っていかなければいけないという意識が生まれましたね。
ーーマネージャーとしての意気込みは?
ホテルで言えば、コロナ禍で厳しい状態が続いていましたが、インバウンドも戻ってきて、ようやくアクセルを踏める状態になっています。でも、この数年間戦略の立てようがなかったこともあって、そういう文化自体がなくなってしまっているようにも感じます。
だからこそ、きちんと戦略を立てて、宿泊部門やカフェ部門など、それぞれがどうしていくのかを考えなきゃいけないと思います。ここで働くみんなにもそれを意識してもらえるような組織にしていきたいと思っています。
この数年間でホテル事業部の会社への貢献度合いは下がってしまっていましたが、これからの会社の期待に応えるためにも、なんとなく売り上げを追うようなことはせず、しっかりやらないといけない時期だと思っています。
ーーこの先で考えているキャリア像があれば教えてください。
自分が今マネージャーとしてまずやっていきたいことは、社内におけるホテル事業部の存在感を高めていくことです。コロナ禍で売り上げを立てられない時期を経て、ホテル事業部の存在感が薄まっていましたが、ようやく盛り返せる時期が来たので、水星におけるホテル事業部のカルチャーを形作っていけるようにしたいと思っています。HOTEL SHE, ブランドの第二章を作っていく段階なのかもしれません。
ーー水星で働くことの魅力について教えてください。
やっぱり、ホテル事業部で働くことの魅力をもっと伝えたいですね。普通転職キャリアとしてホテルで働くことってあまり考えないじゃないですか。というのも、ホテルマンのイメージってカチッとした服装で、丁寧に接客をしてくれる感じだから。
だけど、水星のホテルではそんなことはなくて、テンプレもないですし、むしろHOTEL SHE,というブランドの思想に基づいて接客をする必要があるんです。上から言われるのではなくて、メンバー同士で接客の仕方やプランを考えなきゃいけないし、マルチタスクかつ裁量権も大きい。採用も育成もマーケも広報も全部自分たちでやる。そんな仕事は他にはないんじゃないでしょうか。
ーーでは最後に、一緒に働きたいと思う人物像があれば教えてください。
私が水星に惹かれたのがそうであったように、会社の思想に惹かれることが一番大事だと思っています。そこの考え方が一致していたら、その下で考えの違いが起きたとしても、最終的にはつながるというか。だから、社会の不平等とか選択肢を変えていきたいという方がいたら、ぜひ水星にきてほしいです。
一方で、一人ひとりの裁量権が大きいからこそ、自分の将来像を自分で描く必要があります。そういうのを自分で考えられる人が向いていると思います。
あとは「京都のおすすめスポットは?」と聞かれて「鴨川」と答えるような人というか、ホテルにおいても京都の伝統的な観光のあり方を考えるんじゃなくて、別の選択肢を提案してそれを熱意を持って語れるような方が活躍できる環境なんだと思います。
岸えりな:兵庫県丹波篠山生まれ。同志社大学文学部美学芸術学科卒業後、住宅設備メーカーで法人営業に携わりながらフリーランスでグラフィックデザイナーを経験。2022年2月、株式会社水星へ入社。HOTEL SHE, KYOTOのホテルスタッフ(アシスタントマネージャー)としてフロント業務をするかたわらで、自身で企画するイベントなども複数開催。2023年3月、HOTEL SHE, KYOTOマネージャー(支配人)に就任。