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ローカルな食の力で、暮らしは底抜けに楽しくできる。「食の本」から「食の体験」の世界へ飛び込んでみた。

「ふるさと食体験の準備室」インタビュー、第11回目は石川日向咲さんです。

前職の出版業界での仕事から、思い切って食の世界へ転職を決めたという石川さん。そんな石川さんの転職ストーリーと、ローカルな食への想いを伺ってみました。

20代最後の転職で、諦められなかったのは「食」だった

ーー 石川さんは、2021年8月にキッチハイクに入社されたのですよね。
はい。入社して4ヶ月ほどになります。前職は業界も違い、出版社の営業として本屋さんを回る日々でした。新卒から約6年間、本のある場所へあちこち足を運び、楽しく過ごしてきましたが、ふと「次に挑戦するなら、どんな仕事がしたいのだろう」と考えるタイミングがありました。働く場所、自分の時間、年収、好きな事。あれもこれも捨てられず、頭でっかちに悩んでしまったのですが、突き詰めた先にあったのは、自分の暮らしの真ん中にある「食」でした。自炊すること、人とお酒を飲むこと、旅やアンテナショップ巡りが大好きな自分にとって、その土台にあるテーマは「食」だと気が付いたんです。どんな形であろうとも、その領域に、仕事で関わってみたい。30代を前にしたこのタイミングで、飛び込んでみるなら今しかないと心に決めました。

衝撃を受けた。旅行、お取り寄せ、料理教室、そのすべてが詰まっている「ふるさと食体験」

ーー 異業種からの転職だったんですね。そんな石川さんと、キッチハイクの出会いを教えてください。

食にまつわる仕事を探す中で、キッチハイクの「ふるさと食体験」というサービスを見つけた日の衝撃は忘れられません。コロナ禍の長引く2021年、国内を自由に移動することもままならなくなった状況下。そんな中、転職サイトで出会ったのは、山盛りの食材セットが自宅に届き、オンラインで繋いで料理するという、新しい時代の地域のプロモーションのあり方でした。旅行、お取り寄せ、料理教室、その全ての楽しさが詰まった2時間の体験は、とても衝撃的で。こんなにわくわくするコンテンツを生み出す会社があるなんて! と、その夜、興奮冷めやらぬまま応募フォームに想いを書き綴って送信しました。

それまでの自分には、直接食にまつわるキャリアが無く、熱意があっても難しいかもしれないとどこかで思いつつも、気持ちを伝えないままに諦める選択肢はありませんでした。それまで携わってきた出版の仕事の中で、自分なりに大切にしてきた「作り手の想いを繋ぐ」というテーマは、メディアの異なるオンラインイベントづくりにおいても、きっと活かせる心構えであるはずだと、半ば祈るような気持ちで思いの丈を伝えました。

出版の世界で、作り手と読者とつなぐ橋渡し

ーー 出版業界では、どのような仕事に携わられたんでしょうか。

新卒で入社したのは、専門書を作る小さな出版社です。二年後に、別の出版社へ移りました。前職である二社目は、建築を軸に、住まいや暮らし、人文に芸術まで、幅広いジャンルの本をつくる会社。販促を担当したたくさんの本を通して、それまで自発的に触れてこなかったジャンルの知識もどんどん増えていき、興味の幅が広がっていくことがとても刺激的でした。

ーー 本の仕事を通して石川さんの視野が広がっていったんですね。仕事をする上で大切にされてきたことはなんですか?

出版社の営業は、作り手と読者の間の橋渡しをする重要なポジションです。一枚の企画書から本を構想し、著者と二人三脚で作り上げていく編集者がいて、メッセージの詰まった一冊を受け取った営業は、取次会社(卸)、書店、その先の読者へ無事に届くように、世に送り出すための道筋を整えます。「どんな人に読んでほしい本なのか?」「どんなキャッチコピーが読者に響くのか?」作り手が込めた熱量をできるだけ保ったまま、時には増幅させて、読者の元まで届けたい。そんな気持ちで、書店店頭を賑やかすPOPなどの拡材デザインや、写真パネルで世界観を演出するフェア展開など、書店員さんとうんうん唸ってアイデアを出し合って、バトンをつなぐためにできることは何かを考えていました。

本が教えてくれた、ディープでローカルな食の世界

ーー 販促に携わる中、さまざまな本との出会いがありそうです。

本当に多様な新しい世界を知りました。中でも『みその教科書』という本は、私にローカルな食に深くハマるきっかけをくれた特別な一冊です。著者の岩木みさきさんは、日本伝統の発酵調味料“みそ”をテーマに活動されている料理研究家さん。国内生産量のたった1%しかないという、昔ながらの木桶仕込みを続けるみそ蔵を、自らの足で3年半で60ヶ所、100回以上も訪ね歩いたそうです。伝統ある蔵と作り手の想いをもっと多くの人に届けたい、未来に残したいという思いから、ブログ「みそ探訪記」を綴り始め、この本はその軌跡から生まれた”みそを旅するガイド本”です。

関東育ちの自分はそれまで、「みその種類を選ぶ」という意識がまるでありませんでした。読み進めるうちに、東海では豆味噌、九州では麦味噌と、地域が変わればみそのスタンダードも変わる事実に衝撃を受けましたし、その豊かすぎるバリエーションにすっかり魅せられました。読んだ前と後とでは、スーパーのみそ売り場で目に飛び込んでくる情報量が、見違えていたんです。甘さがクセになる麦味噌や、旨みが強く中華にも使える豆味噌、それにいつも買っていた馴染みのある米味噌。冷蔵庫にみそが数種類あるだけで、お味噌汁づくり一つ取っても選択肢があることが楽しいですよね。地域が変わればまるで別の国のように文化が異なる「食」の多様性を知って、それを暮らしに取り入れることの面白さに目覚めていきました。

日々、食べるものに励まされて生きている

ーー そんな中、業界転職を決めたきっかけはありましたか。

本のまわりで働いた6年半は、自分の偏りがちな知見を大きく広げてくれました。営業職でありながら、イベント企画運営など幅広い業務に関わらせてもらったことも貴重な経験です。そして、さまざまなジャンルの販促に取り組むうち、自分の中で徐々に輪郭がはっきりしてきたのは、「食」の本に対する特別な想いの強さでした。

自分にとって、食べることはどうして大切なのだろう?と考えて思い至ったのは、私自身、日々食べるものに励まされて生きているからでした。起きて食べて働いて寝る、なんてことのない生活の時間が、人生の大部分を占めますよね。自分は、料理上手でも丁寧な暮らしでもないけれど、自炊が大好きで。ちょっと出かければおいしいご飯を買える時代でも、その時の心と身体にフィットするご飯を自らの手で生み出せたら、多少のことがあっても大丈夫と、どっしり構えていられる気がします。人に振る舞う華やかな料理も楽しいけれど、自炊はそれとはまた別の、自助スキルだと思っています。お昼時、会社でひも解くお弁当や、リモートワークの疲れを癒す晩ご飯で、食べたもののおいしさに励まされて、気持ちが少し前を向く。そんな小さな営みの尊さに深く気がついたのは、按田優子さんの『たすかる料理』という本を通してのことでした。

ーー 日々続く自炊に、飽きたりすることはありませんか?
自炊が好きと言いながらも、毎日毎食は作っていません。お酒と一緒にご飯を楽しむ時間が好きなので、週末は夫や友人とお気に入りの居酒屋に飲みにいくのが欠かせない息抜きです。そんな頻度であっても、自分の生み出す味は想像の範囲内ですぐに飽きてしまうので、いつもと違うスーパーで見つけた未知の野菜や、アンテナショップで出会うローカルな調味料を買い集めることが最近の趣味です。「新潟のかんずりというピリ辛調味料で今夜はお鍋にしよう」とか、「北陸のいしるという魚醤はナンプラー代わりに使えるんだ」とか、地域のローカルな食を知れば知るほど、ふだんの食卓に新しい風が吹き込んで、アップデートされていくのが楽しくて。だからこの仕事を通して、まだ見ぬ全国の地域食材と出会うチャンスを増やしていきたい。自分が助けられているように、他の誰かの食卓をほんの少し賑やかにするお手伝いが出来たなら、こんなに嬉しいことはありません。

現地に行く前に知りたかったこと。約2時間のイベントは濃密な「旅の予習」

ーー そんな思いから、キッチハイクへジョインしたのですね。石川さんがプロデューサーとして企画している「ふるさと食体験」の魅力を教えてください。

私の思う「ふるさと食体験」の面白さは、濃密な「旅の予習」であることです。オンラインで繋がる2時間で終わりではなく、それは参加者さんと地域の関係のほんの始まり。なぜなら、ふるさと食体験を通して得られる情報は、観光客に開かれていない、純度の高い「地域のリアル」だからです。

イベントに出演いただくのは、地域に根ざしたものづくりを手がける食の生産者さんや、その食材のベストな食べ方を知っている料理人さん。イベントづくりでは、ゲストへの取材を通して、本番の限られた時間内で伝えたいことを悩み抜き、地域の魅力を凝縮したコンテンツを練り上げていきます。愛する地元を語るゲストの言葉を聞けば、今度はその場所に実際に行ってみようと思えるし、たっぷり届いた野菜のセットやイベントで作った料理のレシピは、続く毎日に溶け込んで、気づけば暮らしの一部になっている。旅へつながるチケットでもあり、日常のアップデートでもある、そんな地域との関係づくりの形は他にないと思います。

ーー 「ふるさと食体験」を通して、自炊生活に変化はありましたか?

はい、「ふるさと食体験」を通して出会った全国各地のおいしいものたちが、早くも食卓に溶け込んでいます。自分もユーザーとしてよくイベントを楽しんでいるのですが、「九州茶産地」イベントをきっかけに、コーヒー党からすっかり緑茶を淹れることが日課になったり、「だしの学校」イベントをきっかけに、余裕がある日はかつお節からだしを取ってみったり。仕事と暮らしが地続きになって、ご飯づくりの選択肢の幅が自然と広がっています。

食の未来に向かって切磋琢磨。居心地のよさと刺激の両方がある、よくばりな環境

ーー 仕事環境については、いかがですか?

2021年8月に入社し、まだ日が浅いながらも感じているのは、メンバー全員が同じ方向を向いている気持ちよさです。メンバーは、キッチハイクの前には大企業からスタートアップ、雑誌編集者に料理人まで、個性豊かなバックグラウンドを持つ人たちが集まっています。年齢も経験も異なる同士が、目指したい食の未来に向かって、フラットな関係性の中で切磋琢磨していて。居心地のよさと刺激の両方がある、なんともよくばりな環境だなあと思います。新メンバーを迎え入れてくれるみなさんの心遣いが本当にあたたかく、厚くフォローしてもらいながら、早くも案件のフロントを任せていただいています。

ーー 他業種、他職種からの転職で、不安はありましたか?

これまで自分の居た世界と一味も二味も違う、スタートアップで働くことには大きな不安もありましたが、入社初日に開いていただいたリモート入社式に参加して、すぐに吹き飛びました。フルリモートの職場でも、こんなにあたたかくて距離の近いコミュニケーションがあるんだ!と目の覚める思いでした。最近では、メンバーがアイデアを持ち寄る福利厚生の募集があったりと、みんなによるみんなのための組織であること、自分もその一員であることを日々実感しています。

ーー フルリモート下でも、密なコミュニケーションがあるのですね。

始業時にチームで朝会を開くのですが、そこでは持ち回りで「おいしい話」というプチプレゼンコーナーがあります。メンバーの好きなお店の紹介や、かつて住んでいた街の忘れられないあの味、旅先で出会ったローカル料理に、最近読んだ食の本の話まで、食が絡めばテーマは自由。私も、趣味のアンテナショップや居酒屋めぐりについて話させてもらいました。まだリアルで顔を合わせたことのない人もいるけれど、全国に散らばるメンバーのパーソナルな一面を覗けるこの時間が、とても癒しです。それぞれにある専門分野のディープさに感化されて、新しいジャンルの扉が開けきれないほど増えています。

事後報告でOK。自分の裁量でどんどん進める、合理的なワークスタイル

ーー 石川さんから見て、チームのメンバーにはどんな人が多いですか?

少人数のチームながら、社内の職種は、イベントをつくるプロデューサーやプランナーに、Webサイトやアプリのよりよい運営を目指すエンジニア、デザイナー、ユーザーの体験をサポートするカスタマーサクセスまで多種多様です。さらにはその肩書きを軽やかにまたがり、社内で複業するマルチプレイヤーさんも多くいるのがすごいところです。全員がプレイヤーでありながら、チームとしても強く連帯しているのが新鮮な感覚でした。

日々新たなことに挑んでいくスタートアップだからこそ、仕事の型は定まっていません。ひとりのアイデアを元に、一から構築していくことも日常茶飯事です。とあるミーティング中、代表の山本の言葉で衝撃を受けたのは、「事後報告でいいから、どんどん自分の裁量で進めていこう」。まずは手と頭を動かしてみて、得た知見を積み上げていく、合理的でスピーディーな仕事の進め方。まずは前に進めながら同時進行で形づくっていく仕事のスタイルに、確かな手触りを感じています。

「食」への小さなチャレンジの後押しがしたい

ーー 立場の違うメンバー同士が連帯して、つくりあげているキッチハイクのサービスなのですね。

手前味噌ながら、「ふるさと食体験」は関わる全方位の人を幸せにするサービスだなあと感じます。参加してくれるユーザーさん、ゲストの事業者さん、そして自治体さん。まだ一度も行ったことのない場所でも、イベントの後では知っている人がそこに居て、どこかでその町の名前を聞けば自然と耳に入ってくるようになる。ゲスト同士がイベントをきっかけに横で繋がり、新たなお仕事の話が生まれたなんていう嬉しいニュースも聞きました。

今私は「静岡中部5市2町」のシリーズ企画のプロデューサーを担当させていただいているのですが、これまで何度も行ったことのあったエリアでも、取材を通して初めて知ることばかりです。藤枝市で甘いマンゴーが育つことや、焼津市が全国No.3のかつお節の名産地であること、南アルプスの清らかな軟水がおいしいお酒を生み出すこと。イベントづくりを通して、地域のディープな情報がどんどん増えていくことが楽しくて、食の作り手と食べ手を繋ぐ、この刺激的な仕事に思い切って挑戦してよかったと、心から思います。

ーー 石川さんの地域への想いを聞いていると、こちらまでわくわくしてきます。最後に、プロデューサーとして「ふるさと食体験」をどのようにしていきたいかを教えてください。

「まだ食べたことのないおいしいもの」は日本の中だけでも数え切れないほどあって、一生かけても食べ尽くすことはできないと思います。未知の食材や、ちょっと手間の掛かることに挑戦するのは、食いしん坊であっても多少なりともハードルを感じるもの。ですが、「ふるさと食体験」は、そんな人の背中を優しく押してくれるサービスです。「金目鯛を自分で捌いて煮付けにする」「プロに鰹だしの取り方を教わる」といった、自分ひとりではちょっと手を出さないかもしれない、でも一度やってみれば食卓を確かに豊かにしてくれる、そんな「食」への小さなチャレンジ。作り手へのリスペクトを胸に、そんな場づくりにこれからさらに深く取り組んでいきたいです。


石川 日向咲(いしかわ ひなさ)
2021年8月入社
現在「ふるさと食体験」プロデューサー

大学卒業後、出版社に入社。営業職として海、建築、住まい、暮らしなどさまざまなジャンルの書籍のプロモーションに携わる。出張や食の本のつくり手との出会いがきっかけで、日本全国にあるローカルな食の多様性に魅せられ、コロナ禍において地域と食の未来を形作っているキッチハイクの事業に共感し、転職。好きな食べ物はキクラゲ。

<趣味>
自炊、読書、ラジオ、アンテナショップ&酒場めぐり

<好きな食べもの>
キクラゲ

<暮らしの変遷>
埼玉、神奈川、東京

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