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【田中元子×キッチハイク】喫茶ランドリーに学ぶ、創造性を引き出す「補助線」のデザイン

こんにちは!KitchHikeマガジン編集部のMasatoです。

前回に続き、「キッチハイクのまかないランチ」にゲストをお呼びする企画、第2弾!今回は「株式会社グランドレベル」代表取締役、田中元子さんにお越しいただきました。インタビュー時は桜シーズン真っ盛り!「1階作りはまちづくり」を実践する元子さんをお迎えするべく、今回は上野公園で「お花見ランチ」をセッティング。「グランドレベル」で一緒にごはんを食べ、お話を伺いました。


田中元子(たなかもとこ)
株式会社グランドレベル代表取締役。1975年茨城県生まれ。独学で建築を学び、2004年、大西正紀とクリエイティブユニットmosakiを共同設立。建築やまち、都市などと一般の人々をつなぐことを探求し、国内外でメディアやプロジェクトづくり、イベントの企画などを行う。15年より「パーソナル屋台が世界を変える」を開始。16年、「株式会社グランドレベル」を設立。著書に『マイパブリックとグランドレベルー今日から始めるまちづくり』(晶文社)。

この記事のキーワード

「マイパブリック」って?:
「自分で作る公共」のこと。元子さんご自身、小さな「パーソナル屋台」を持ってあらゆる場所に出没。道ゆく人に無料で何かを振る舞い、コミュニケーションを図ることでひとときの「場」=(マイパブリック)づくりを実践。

「グランドレベル」って?:
私たちが生活する「地上階」のこと。マンション、オフィスビル、商業・公共施設など、あらゆる建物の「1階」。公園、駐車場、歩道などの「パブリックスペース」。街で目に飛び込む、地面に広がるすべての光景をまとめて、「グランドレベル」と呼ぶ。

「喫茶ランドリー」って?:
株式会社グランドレベルが手掛ける、現代版の喫茶店。「1階作りはまちづくり」の実践例として、開かれた空間作りがなされる。コーヒーやお茶、軽食はもちろん、ランドリー(洗濯機)やアイロン・ミシン等をそなえており、「まちの家事室」となっている。まちの人にとって自分の「やりたいこと」を応援する場づくりを行う。
「喫茶ランドリー」はどうしてヤバい?市民の能動性を引き上げ、受け入れる。グランドレベルの壮大な実験がはじまりました。

手作りの公共が、豊かな社会をつくる

元子さんは、「ある趣味」をお持ちだそうですね。ご自身の活動について教えてもらえますか?

私は、街に出て行ってコーヒーを淹れて、無料で街ゆく人に配っています。そしてこれが私のマイパブリック。とても楽しいんです!全然知らない人との接触に意義を感じて、やめられなくなりました。私自身、人が好きなんです。第三者であっても自分の周りにいる人は皆好きで、愛してるんですよね (笑)。
いきなり知らない人に「愛してるよ」って言うのは気持ち悪いんですけど、「コーヒー飲んでいかない?」という形でなんとなく伝えることができるんです。そのこと自体が嬉しいですね。

元子さんが「マイパブリック」を実践するのはなぜですか?

私はただの変わった「コーヒーを無料で配る人」と思われたい訳ではありません。自分が好きなことを街ゆく人にふるまうことで、そこにコミュニケーションが生まれ、場が生まれる。そんなちょっとした「手作りの公共=マイパブリック」を誰もが実践できてこそ、豊かな社会になると伝えたいです。
なので、街でコーヒーを受け取ってくれた人に「また来てください!」って言われた時は、こう返すんです。「次は、あなたの番ですよ。」って。


素人力を引き出す「補助線」

自分の好きなことをふるまい、人とつながる喜び。とても良いですね!
でも、普通の人はどうすればいいのでしょう?

たしかに急に「街で何かやってみろ」って、言われても困りますよね(笑)。マイパブリックをどうやるか?について、ワークショップをやっています。ワークショップでは、ある条件を用意してあげます。「あなたが”屋台”を持つと仮定します。お金儲けではなく、自分の好きなことで人にふるまってください」という条件。そうすると、逆に人は自由に羽ばたけるようになるんです。人が自由になる「補助線」を引くことへのこだわりが凄くあります。

受講生のなかで生け花をやっている子がいました。彼女は「花の屋台ならできる!」と、お小遣い程度のお金でガーベラをありったけ買って、街の中で配りました。すると街ゆく人たちがみんな花を持っている、まるで映画のような光景が生まれて。たちまち花を配り切った彼女は、「あぁ!こんなに楽しいことがこの世にあったとは!」と、震えながら帰ってきました。

それはすごいですね!
「補助線」という考えは、とても興味深いです。

今やってる喫茶ランドリーも、街の人にとって楽しいことをやる補助線にしたいと思っています。最近は、ミシンが得意なママが「ミシンウィーク」を自発的に企画したり、今は元美容師のママが店先で「ワンコインでちょい切り」をやったり、楽しんでいます。どれも、その人らしさが溢れていて本当に素晴らしいです。

人のクリエイティビティーを暴発させるために、「補助線」を引く。これって、とてもエキサイティングですよね。素人だからといって、できないとかやらないとか決めつけない。クリエイターとクリエイターじゃない人を分けるのも違う。私は、やっぱり「素人力」の暴発が見たいんです。

「ハックする」より、「ハックされる」側でありたい

キッチハイクも、いろんな人が「食」の体験をふるまえる「補助線」かもしれません。喫茶ランドリーで、特に意識されていることはありますか?

「人の能動性を引き出す良い器でいられるか?」ということですね。だから、喫茶ランドリーの完成度は、なるべく低めにしたいと思っていて。店に来た人が「おしゃれですね…」って一歩引いてしまうよりも、「ここだったら私も使っていいかな?」って、自分の道具に見立てられる具合にしたいです。

最近、近所の人が喫茶ランドリーに生け花を持ってきました。彼女は、まだまだ練習中のレベル。普通のお店だったら、なかなか飾ろうと思いませんよね。でも、私たちは喜んで花を飾りました。彼女は喫茶ランドリーを「自分の花を置いてくれる場所」と解釈してくれているということ。みんなが見る空間で公開することが、彼女の喜びになっていると改めて気付かされましたね。

「人の能動性を引き出す。」強く惹かれる言葉です。
何が大切なんでしょうか。

許可じゃなくて、応援することですね。「何してもいいですよ」ではなく、「素晴らしいじゃない!私も応援する!」と言ってあげる。一緒に共犯者になって、一緒に巻き込まれる。そうやって後押しすることは、誰にとっても力になります。

「人を巻き込みたい」という言葉をよく聞きますが、私は誰かに巻き込まれたい。何かを「ハックする」より、私は「ハックされる」側になりたいし、「ハックされる」ものを作りたいと思っています。

グランドレベルが生むグラデーション価値

元子さんは「グランドレベル」という建築の目線もお持ちです。それはなぜですか?

建築は、20歳前後のある日、偶然、ある本を手に取ったことをきっかけにハマりました。本を開いた瞬間、雷に打たれたよう感覚になったんです。

建築の知識は、独学で身につけました。学問は、人が幸せになるための「手段」と思って生きてきました。建築は、多角的な見所がありますが、私は「社会に接続していない建築」に対して、まったく興味がありません。やっぱり、人の生活空間である「地上階=グランドレベル」が一番気になりますね。

グランドレベルならではのおもしろさとは、なんでしょうか。

本当にたくさんありすぎますよ(笑)。コーヒーを道で配ってる時、通りすぎる全員が「視認」してくれる。これって、すごいことじゃないですか。1階にある喫茶ランドリーのカウンターに立っている時も、道行く小学生たちが、店には入らなくても、遠くからいつも挨拶してくれます。

コミュニティを作ろうとするとき、密室でやっても「内と外」しかありません。でも、やっぱりコミュニティ作りは「内と外」の二項対立ではなく、グラデーションでしかるべきなんです。つまり、グランドレベルでこそ、グラデーションあるコミュニティができると思っています。

グランドレベルが社会と接続しているからこそですね。
キッチハイクのオフィスは上野にあるのですが、上野の良さはありますか?

「社会に接続してる感」のある街とそうではない街があります。上野は、少しビルの上の方でも、基本的に「街にいる」という一体感を感じながら生きてられますよね。良い街を選んだなと思います。今どき「え?上野?」って言う人は、1周回って最後尾ですよ(笑)。

Webコンテンツなどやってる人たちにとっても、やはりリアリティは大事。サービスを運営する本人がリアルを感じてないと出せないものがありますよね。

大衆に働きかけることで、社会は変えられる

元子さんは、建築専門の目線を持ちつつ、とてもフラットな活動や言動に落とし込んで、社会にアプローチしている印象を受けます。どんな姿勢を大事にしていますか?

私は、社会を本当に変えることに興味があります。ニッチなものを変えるのではなく、そこはマジョリティに対して、目が覚めていたい。最終目的は世界平和なので、少しでも実現につながることがしたいと思っています。

だからこそ、活動や伝え方が一般の人にまで広く届くものにしたいんです。私は、建築という本当に素敵な世界に関わっていますが、今のところ、あまりに専門家だけのニッチな世界になってしまっている気がしていて。

ただ、実際に建築の仕事をくれる9割の人は一般の人。そういう意味でも彼らに振り向いて関心を持ってもらいたい。なので、とっつきやすさや楽しさの優先順位は、かなり上です。何かを正しく伝えることも大事ですが、門戸は広く、大衆に向けて働きかけることで、社会は大きく変わると思っています。

発信をされるうえで、とくにマイパブリック・グランドレベルなど「言葉」を作り出すセンスがすごいです。

昨年12月に発売した著書『マイパブリックとグランドレベル』をつくっている時、実はタイトルをめぐって、紆余曲折したんですよ(笑)。人は既に知っているものにも、まだまったく知らないものにも、手を出してくれません。

マイパブリックは、「マイ」も「パブリック」も、ほぼ皆が知っている単語。だけど、ちょっと分からなさがある、でも想像が及ぶ範囲。そんなチューニングが大切だと思っています。

キッチハイクは「シェアリングエコノミー」という言葉で表現されてしまうことがあります。ただ、私たちはもっと違う言葉があると思っています。

わかりますよ。そう、言葉って、どんなに未来のことを語ろうとしても、過去の記号でしかない。今ある言葉だけで、これまでになかった現象を表現するのは相当難しい。どうしても、タイムラグがあると思います。

スピーディーに理解するために、わかりやすく記号化しがちな世の中だとは思います。でも、まだ言葉になっていないけど、いずれ言葉になることって必ずあります。それを待つ、見つけることも重要ですよね。

料理はマイパブリック。キッチハイクはグランドレベル!?

キッチハイクは、料理を通じたマイパブリック、ネット上のグランドレベルだと思うのですが、いかがでしょうか?

インターネットはグランドレベルになると私も思っているので、私たちとキッチハイクの共通項にとても驚いています。料理は、とてもマイパブリックな世界ですよね。つくる人によって、全然違う。ちょっときれいな切り方するとか、ちょっと散らしたりするとか。もしかすると味そのものは変わらないのかもしれないけど、つくっている人や食べる人自身が楽しいと、味覚もポジティブな方に行きますよね。

まさに、「おいしいものを食べるかより、おいしく食べること。誰と食べるか、どう食べるか」につながる気がします。

環境が人をつくることがありますよね。人の良いところが発揮される時って、今日みたいなみんなで食べる良い環境に置かれている時なので。食事だって、やっぱり誰と食べているかってことが大事ですよね。

つまらないことも共有できる。それがコミュニティ

「みん食」は、人とのつながり、豊かなコミュニティをつくると考えています。日頃コミュニティ作りに関わっている視点から、「人がつながること」の魅力を教えてください。

魅力はたくさんありますが、いい意味で「期待しないこと」が大事です。つながりって良い事しか起きないと考えちゃうと良くないですね。人とつながるって、ごく日常的なことじゃないですか。だから、いつもお祭り状態なわけがない(笑)。最近は、コミュニティがおおげさに語られがちかもしれないですね。SNSとかでも、笑顔満載の写真ばかり。まるでそれがコミュニティみたいになっちゃっている。

コミュニティって、きっとつまらないことがあるはずです。「こういう日もあるよね」、みたいに。でも、つまらない時も仲間と一緒に共有できることが良さであり、コミュニティの本当の姿だと思っています。コンテンツが楽しいかとかが重要ではなく、つながることの価値ってそういうことじゃないですか。

なるほど!
私達も出会う「特別さ」より、人が自然に集まって過ごす「日常」の豊かさを伝えていきたいと感じました。本日は長い時間、どうもありがとうございました。


マイパブリック、そしてグランドレベル。一見「みん食」のキッチハイクとは異なる分野ですが、そこにはたくさんの共通点と、新たな発見がありました。「社会を本気で変える」という田中元子さんの意志と知見は、キッチハイクにたくさんのインスピレーションを与えてくださいました。

食でつながる暮らしをつくるキッチハイクは、日々まかないランチをみんなで食べています。元子さんとこれほど濃くお話できたのも、「みん食」ならでは。
次回はどんなゲストがまかないランチに来てくれるのでしょうか。
どうぞ、お楽しみに!

文・編集:福田 将人 (株式会社キッチハイク)
写真:野呂美穂
転載元: 民食の未来を切り拓く| KitchHikeマガジン


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