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「編集」の考え方はどんな分野にも生きる。ウェブ編集者がオフィス移転のヒトカラメディアに飛び込んで気付いた編集スキルの旨味

はじめまして、ヒトカラメディア取締役の田久保です。星空がきれいな佐賀で生まれ、福岡という素敵な街で大学時代を過ごし、就職を機に上京しました。

いま、ヒトカラメディアでは主にマーケティングやコンテンツ全般を担当しているのと、採用や広報、社内の組織づくりも旗振り役をやってます。最近はだいぶ減りましたが案件の企画提案に関わることもあります。経営関連の役割を抜くと、いわゆる何でも屋ポジション。社内に最新のウェブツールを導入して運用に乗せるのが、密かな楽しみです。

もともとは新卒から約7年、ウェブ業界でメディアの編集を中心に、主にコンテンツ側で携わっていました。そこから全くの畑違いの、不動産領域でオフィス移転のサポートをやっているヒトカラメディアに転職。「別業界すぎません?」とよく言われることも多いので、転職理由や転職を通して感じた「編集」というスキルについてわりとマジメに書いてみたいと思います。

ウェブの編集は楽しい。でも、モヤモヤもあった

総合情報サイト『AllAbout』を運営する株式会社オールアバウトに新卒で入社してから、編集やら広告制作やら新規事業やらディレクションやらいろいろ携わらせてもらいました。「情報で世直しするんだ!」というウェブメディアに対するスタンスや、編集の良き先輩に囲まれたのもあり、自身のアイデンティティとしては最初のキャリアである「編集」がずっとベースにありました。

「編集」ってとっても楽しいんですよね。既に世の中にある価値あるモノや情報を、切り口を変えて新たな視点から捉えなおして、いままで関心の無かった人に届けて振り向かせる。ほどよく裏方っぽくて、でも色気も出せる、気持ちいい仕事です。

オールアバウトの場合は、1000人を超える専門家の方々とのネットワークが強みで、彼らが今まで得てきた深い知見に触れることができます。料理人に例えると、腕が試される濃い食材がズラリとあるわけです。これを料理して世の中に届けて美味しく食べやすく召し上がって頂くのが仕事だったりします。この編集という仕事、自分にとって誇れる仕事であったのですが、一方でウェブの編集ってけっこうモヤモヤすることも多かった。

境目が曖昧。拡大していくウェブ編集者の守備範囲

会社ごとに違ったり、状況でも違うとは思いますが、何せよ「ウェブの編集」に関わるカバー範囲が広すぎる。ある程度流通路を持っている出版社なら、書籍を作ればとりあえず書店に並びますが、ウェブはこの「書店に並ぶ状態」すらも自前で設計し実現していかなければなりませんし、ウェブの編集の腕が試されます。ざっとどんな知見やスキルが必要か見ていきましょう。

日々の業務では、優れた切れ味するどいコンテンツの企画を立てられるのはもちろん、興味を引くためのタイトルや見出し、読後感や信憑性を担保した文章のクオリティコントロールが求められます。さらに記事の読者が人だけじゃない。Googleも気にしないといけないので、SEOの観点も当然必要です。ブラックな施策はNGですが、「人の目に触れる」状況を作る能力のひとつとして、欠かせない観点です。

検索流入を考慮していくと、次は記事の編成を考えることになります。記事の取り揃えや網羅具合、検索向けなのかソーシャル向けなのか、どんな比率で数字を作っていくのか、コンテンツ単体の「編集」ではなく、コンテンツの集合体としてのメディアの「編集」が求められます。他媒体やサービスとの連携も考えないといけません。ひとつひとつ質の高いコンテンツを作ることのバリューももちろんありますが、全体を考えられないとスケールはなかなか生まれてこないので、必ず向き合う必要があります。

おまけに制作予算が少ない。編集記事なら取材行くにも、自分ひとりで編集者兼ライター兼カメラマンというケースもけっこう多いです。ライターさんに依頼するにしても、「ついでに写真も撮っておいてもらえると…」という依頼も増えます。

マネタイズと背中合わせのウェブ編集

マネタイズも配慮しないと、意図のないコンテンツの量産は社内からコストセンターと見られがちです。いいコンテンツを作ったからといって、必ずしもお金として跳ね返ってこないのがウェブコンテンツの悲しい特性。マネタイズのことも視野に入れながら、コンテンツをどうやって作っていくかを考えることも必要になってきます。キュレーションの体制を組むのか、ユーザーに投稿させるか(話はそれますが、いまもこうして、Wantedly用の記事を書いている時点で、Wantedlyさんの目論見通りに乗せられちゃってるわけですが…笑)。仕組みが要るなら開発が必要そうだ、じゃあディレクションもしなきゃだからプログラミングも少しかじるか……。

とまあ、実際は部署で分かれていてそれぞれの領域のプロが分業しているのですが、自身の「編集」という仕事の本質を深く辿っていくような働き方をしていると、だいたい道に迷います。脱線しますが、いま、身近で活躍されているオールアバウトで編集に携わられていた先輩方も、どちらかというと「プロデューサー」的な役割で活躍されている方が多かったりします。突き詰めていくと、結果そういった全体視点的な役割になってくるんですね。

そしていま、特に大型のウェブメディアは難しい局地に立たされています。サイトやコンテンツが増えていき、コンテンツの流動性をグッと高めたソーシャルメディアが当たり前のツールになり、1つのサイト、1つのコンテンツに辿り着かせるコストがじわじわ上がっています(一方で広告配信技術の進化は凄まじいので、売上を作れる手段も進化しています)。アプリ経由の情報摂取も要因としてはありますが、新しいアプリをどんどんダウンロードする、という時代もピークは過ぎた感はあり今後読めないところです。何かしらの「発明」がないと、ビジネスとして成り立ちづらい状況になってきています。

一方で限られた領域を扱うウェブメディアの可能性は、やり方次第ではぐんと広げられます。もともとウェブの特性として、ニッチなニーズと特定の領域の情報を紐付けるのが得意なことが挙げられます。トラフィックは膨大に稼げないにしても、読者とのエンゲージを深めることはいろんな手段でできます。その先のマネタイズモデルにも依りますが、メディアを有効なツールとして使いこなせるような「手軽さ」はこの数年で一気に増したと思います。

こんな感じのことを、転職前の1、2年はけっこう考えていました。いまでもいろいろと考えてしまうテーマです。

ウェブ編集とは畑違いの不動産領域へ

さて、そんなことを考えていた僕が主にオフィス移転を扱うヒトカラメディアに転職しました。共通の知人を介して代表の高井を紹介してもらったことがきっかけです。Wantedlyの面談でもよく聞かれるのですが、理由をまとめてみるとこんな感じです。

◆リアルなビジネスへの渇望 ・自身のスキルを活かして、「情報との接点」の更に先の「リアルなアクション」を増やしたかった ・その「リアルなアクション」も自社で提供しながら、クオリティを上げていきたいと思っていた ・地元に帰ると誰も東京ほどにはウェブを使っていない。ウェブだけのキャリアに不安を感じていた

◆地方に絡めそうなテーマ ・地方出身なので「地方」や「働き方」というテーマにいつかビジネスでトライしたいと思っていた ・誰しも関わりのある「不動産」は、都市地方関わらずこれから先も変化が必要なテーマだと感じていた ・日本の地方は掘り起こせば面白い人や取り組みがザクザク出てくる。ここと都市部との接点を作りたいと考えていた

◆その他の要因 ・代表の高井と妙にウマが合った(同じクラスにいたらおそらく自然と仲良くはならないタイプ笑) ・高井の強みが、自分とは全く違う領域のスキルだった(補完できるな、と思った) ・30台突入手前の、悩めるお年頃だった(27〜28歳)

5年後選びにくい選択肢はどっちだ?

オールアバウトは思い入れのある会社でいまでも交流はあり、当時も残るか移るかは最後まで揺れ動いていました。最終的には「たとえば5年後、同じ選択肢が提示されたらどちらを選びにくくなっているか」という軸で判断しました。今しかできないことって、どっちなんだろ?って理由です。想いを汲んでくれた当時の上司や同僚、社長にはいまでも感謝です。

出会った当初の高井の働きぶり(暮らしぶり?)はこちらの記事に詳しいです。なかなかハードな創業期を駆け抜けています笑。この心理実験室みたいなオフィス、懐かしい。当時はメンバーとしてではなく、サポートメンバーとして関わっていました。 100坪オフィスに孤独のテント泊、警備員の寝起きドッキリ。ヒトカラメディアの過酷な創業期

ベンチャーにジョインして意外と感じた「編集やっててよかった」

入社して最初の仕事は、Google Apps(現G Suite)の導入と企業ロゴのリニューアルディレクションでした。早速編集の経験活かせない。やったことのないサーバーの設定も勉強せねば。ベンチャーあるあるですね。「編集者」というよりも「何でも屋」的な役割を求められている自負はあったので、まあ想定内です。ウェブや編集の経験があるのが社内では僕しかいないので、「ウェブとか編集とかクリエイティブはとりあえず田久保」と思われています。依頼があれば「ちょっとやってみますわ」と答えて、こっそり勉強したりやり方を社外の人に教えてもらったりせねばなりません。

やったことのないタスクでも誰かが拾わないといけないのが少人数ベンチャーの常。完璧じゃないにせよ色々とこなしていくのですが、ところどころ編集の経験が生きる場面があるんですね。いくつか事例を上げるとこんな感じです。

◆ミッション、ビジョンの策定 ジョインして3ヵ月後あたり。高井と1泊2日の合宿で作りました。材料を出し尽くして、組み合わせ、やり直し、切り口を変え、編み上げ、またやり直して、こりゃ完成しないぞ……とちょっと重い空気の中で生まれた言葉です。これがなかったら、いまはちょっと違う会社になっていました。10年先も納得できる言葉を作る行程はなかなかにタフです(10年先も変わらず残っていますように)。

◆自社商品の訴求の表現 ヒトカラメディアはオフィス仲介と空間プランニングという、「無形」のサービスを提供しています。極論言うと、どこのオフィス仲介業者にお願いしても一緒では?と思われている領域です(全然そんなことはないんですが)。そんな中で、お客さんによって提供価値が変わったりする中で大事なのが、いかに価値提供できるかへのこだわりだったりします。社内ではよく「スタンス」という言葉が使われていますが、これをいかに伝えるかは難易度は高いですが、編集の考え方が活かせます。提案用の企画書も、ある種編集の成果物ですしね。

◆採用ページで伝えるメッセージ 採用活動はWantedlyを積極的に使っています。会社の紹介文も募集記事も全て深く関わっています。運用開始から1000エントリーを超え、現在のメンバー数20名に対し、累計で12名のメンバーがWantedly経由でジョインしてくれました。不動産業界出身ではないメンバーも多数います。試行錯誤の日々ですが、編集スキルがなければ今ほど多くの方々へのリーチは作れてなかったかもしれません。あと、ミッション・ビジョンの磨き上げがなかったら、ここまで採用はうまくいってなかったと心底思います。

◆マーケティングに必要なワーディング プロのマーケターやコピーライターにはもちろん敵いませんが、自社のサービスを熟知している×一定の編集スキルがある、という状況であれば、あの手この手でマーケティングを有利に進められる武器は作れます。マスマーケティングで大勢にリーチ、というよりは、細やかなチューニングが必要なので、丁寧にインハウスでやってノウハウ積めるのは大きいです。

◆社内メンバーへの落とし込み(特に新しい仕組みやツールなど“浸透”が必要なもの) 半分個人的な趣味ですが、社内に最新のウェブツールを導入しまくっています。SlackやAsanaを使い倒す不動産事業者ってなかなかないんじゃないかなと思っています。ただ、新しいツールや仕組みって浸透しづらいんですよね。モノはいいんだけど使われずに頓挫、もよくある話です。ここも読者視点で記事を作り上げる編集マインドがあれば、具体的なシーンでのメリット訴求から始めちゃったりするので、メンバーへの浸透のスピードはかなり上げられます。

◆オウンドメディア、ソーシャルメディアの運営 いよいよ本職なのですが、ウェブ編集者がいればもちろんオウンドメディアやソーシャルメディアの運営も可能です。小さい規模の組織ほど、ウェブでの発信の効果は相対的に大きくなります。事業領域によっては、集客よりもブランディングが有効だったりします。メディアの運営はリソース使うので、小さい組織だとそれなりに馬力が必要ですが……。

けっこういろいろありますね。要は、発信側と受け取り側がいる場面では、けっこう活かせる技術なんです。

“編集”というポータブルスキルで何を生み出すのか?

正直言うと、ウェブの編集ってあんまり潰しの効かない職業なんじゃないかなと考えていた時期もありました。特に自分は、圧倒的に編集を突き詰め続けたわけではないので、「編集力」という観点でいくと自分よりすごい人は世の中にたくさんいいます。中途半端なスキルだなあと感じていました。自分にとって武器でもあり、ちょっとしたコンプレックスでもあった「編集」というスキル。もちろん、編集以外の考え方やスキルを得ていくことは必須ですが、この感覚が活かせる範囲って、意外とウェブ業界・メディア業界以外にもたくさんあるんじゃないかな、編集者ってもっといろんな領域に散らばったほうがいろんな面白い接点が生まれるんじゃないかな、と今では考えています。

コンテンツの編集にどっぷり使える時間はほとんどなくなりました。でも、編集者の根底のモチベーションにある「接点作り」を実現する手段や知見はどんどん増えてきているなという実感はあります。企画書もビジネスモデル、そしてもっと突っ込むと組織や世の中だって編集の対象になるのでは? まだまだ道半ばですが、今後もヒトカラメディアという会社であり媒体を通して、いろんな事を仕掛けるべくがんばります。乞うご期待下さい!

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