泊まれる醤油蔵
NIPPONIA 田原本 マルト醤油は、奈良県田原本町にある「泊まれる醤油蔵」です。
マルト醤油は、1689年創業の奈良最古の醤油蔵で、地元原材料と天然醸造製法にこだわり、丁寧な醤油づくりを続けていたものの、戦後の食糧難によって醤油蔵元として閉業を余儀なくされました。
しかし、閉業から70年間の時を経て、第18代当主の木村浩幸が、当時の醸造方法を現代に復活し、2020年に醤油づくりを復活するとともに、「泊まれる醤油蔵」としても生まれ変わらせました。
醤油事業を中核的な事業として位置付けつつ、計7室の宿泊施設と醤油蔵元料理をコンセプトとした飲食施設を直営。飲食・宿泊事業も主たる事業として運営しています。
飲食事業に関連して、地域の自家菜園にて約200種類の野菜を育成するなど、持続可能な事業を構築しています。
天然醸造のお醤油は、地元産原材料に拘り完全無添加のお醤油として高い評価を頂いているほか、宿泊事業も、国内オンライン予約サイト「一休」にて、高い口コミを得ています。
レストラン「蔵元料理マルト醤油」も、ミシュラングリーンスターを獲得するなど、持続可能な取り組みとして高い評価を頂いております。
醤油づくりの復活から事業企画へ
開業までのプロセスをご紹介します。
発酵調味料である醤油には、製造過程で「菌」が必要不可欠です。醤油蔵再興を図る中で、奇跡的に、マルト醤油には「蔵付きの菌」が生き残っていることがわかりました。また、かつての醤油製造方法を詳しく知る人はいない状況でしたが、書庫に眠っていた古文書を当主自らが紐解き、70年前当時の醤油醸造の復活に成功しました。
事業の全体像については当初、当主自らが企画していましたが、実現可能性を伴わないような内容にとどまっていました。人を介してnarrativeに相談があり、当主及びnarrativeにて、株式会社マルトを設立し、本事業を本格的に推進する運びとなりました。
醤油・宿泊・飲食事業の全ての企画と、建築設計及び資金調達を開業前に実施した上で、開業の経営・運営までをすべてnarrativeにて実施しています。
醤油との新しい接点を生む場所
醤油そのものはコモディティ化した商品であり、新規の設備投資かつ小ロット生産では、他社製品との競合する関係で、持続可能な事業として成立しないという判断となりました。
大手醤油メーカーは、大量生産であり、かつ醸造期間も短いことから、圧倒的な価格競争力を有しています。地場の醤油メーカーについても、既存の商圏を確保している他、既存の設備投資の償却が終わっており、大量生産ではないものの、一定の価格優位性がある状況でした。
そのような状況で、お客様との接点を、醤油×販売にとどめることなく、「泊まれる醤油蔵」「食べられる醤油蔵」と再定義し、事業に取り組んでいます。
その結果、宿泊者及びレストラン利用者が、マルト醤油の価値(味はもとより、マルトが持つ物語=narrativeなど)を高く理解、評価いただき、結果としては醤油商品としての販売が伸びていくこととなりました。
醤油そのものを5感で理解してもらうことによって、高い価格であっても最終的には購入していただけるような「接点」を事業全体を通じてお客様に提案出来たことが、ブレークスルーポイントであったかと思います。
地域資源を主役に、持続可能な事業をつくり続ける
マルト醤油が存する「田原本(たわらもと)」をご存じの方はどれだけいらっしゃいますでしょうか。
田原本には、私たちが宿泊施設をつくるまで、宿泊施設が一つもないようなエリアで、観光地としての認知は全くありませんでした。
私たちnarrativeが、地域資源であるマルトや、社寺仏閣や地域事業者を主役として引き上げた結果、奈良の中部地区に人の流れが芽生えつつあります。
地元の人は、「地元には何にもない」と謙遜していますが、地域の歴史・文化・物語(narrative)を丁寧に拾い上げ、現代の歯車にフィットしてあげることによって、持続可能な事業は構築可能だと考えています。
マルトは、すでにその証明を行っているものと考えていますが、今の取り組みにとどまらず、「醤油の里」としての認知を広げるため、田原本エリアにおける面的な事業展開を考えています。
格式高い蔵元料理「マルト醤油」のみならず、多種多様な醤油料理の飲食施設の展開のほか、歴史深い近隣の神社におけるお祭りの復活など、多様性のあるまちづくりを自らのリスクを取った上で行っていきたいと考えています。