はじめまして、日本橋エリアマネージャーと、2025年に日本橋・人形町で新規オープンするホテルのジェネラルマネージャー(GM)を担当している、甫足賢人と申します。
甫足賢人|Kento Hoashi
株式会社Staple マネージャー
東京都青梅市出身。 大学で持続可能な街づくりを研究し国内と国外をパーマカルチャーを軸に旅をしながら学ぶ。持続性には経済性の循環も重要と感じ、新卒では環境と経済の両輪を回すべく、ディベロッパー案件へのプロデュースを行う東邦レオへ入社。 マンション理事組織の伴走、コミュニティファームの現場マネージャー、企画開発の空間プロデュースを行う。2022年に人形町に引っ越してきたことをきっかけにSoil work の会員になる。半年ほどたってSoilwork2ndの屋上改修工事の案件を引き受けるのをきっかけに、本格的なStapleとの関わりが始まる。旅の経験を踏まえホテルオーナーになる夢と、今後のStapleならではの新規事業開発の可能性に惹かれ、2024年6月に入社。
開業と運営のスキルを身につけ、将来は地元青梅で兄弟でホテルをつくる事が目標。仲間と好きな地で仕事を通じて人生を楽しみ、おじいちゃんになっても遊び心ある人になることを目指し働いております。
僕が担当するSOIL Nihonbashi の「エリアマネージャー(エリマネ)」の仕事は、日本橋にある施設全体(コワーキングスペース・飲食店・ホテル)を見ながら、エリアの20年・30年後を見据えてStapleがどのようにこの街と関わっていくのかを設計することです。設計と言っても建築的な話やパソコンに向かってやる業務というよりは、街に出て地域の人たちや様々なステークホルダーと話をしたり関係性を作っていく、地道な活動が多いと思います。
また、エリマネと並行して開発の核となるホテルのプロジェクトマネージャー(PM)とジェネラルマネージャー(GM)も担当しています。ホテル開発から運営まで日本橋に携わる事で、地域で事業をされている方々とも目線を同じにしたり、一緒にこの地を盛り上げる仲間になれると信じています。なのでエリマネ兼GMというのは、いちホテル施設だけでなく面でちゃんとエリアに関わりハードとソフト両面で街に携わりたいと思っていた僕にとってはまさに理想的で、ぜひこのポジションを担当したい!と立候補して今に至ります。
※ SOIL:Stapleが手がけるホテル、レストラン、ショップ、ワークラウンジ( Soil work)などの場を、歩いて周ることのできるネイバーフッド内に配していくローカル複合施設です。現在は広島・瀬戸田と東京・日本橋にあり、今後各地に展開予定。
ホテルの企画者として、エリアマネージャーとして
こんな1週間を過ごしています
これまでも施設の開発には携わってきたものの、ホテル業の中に本格的に入るのは初めてなので、まずはホテルのオペレーションを中から知るべく、StapleとMedia Surfが合同で運営する「K5」で週の前半はホテルマンとして働いてます。ベッドメイキングからレセプション業務、バックオフィスまで、ホテルの運営を体感として理解すべく、現場に浸かっています。。そして週の後半はStapleの業務。建築事務所の方や施工会社さんたちと図面を囲みながら議論を重ねプロジェクト推進を行っています。
最高のチームで、地域とつながるホテル作りを
今回建築を担当するのは「武田清明建築設計事務所」さんなのですが、彼らは「空間」ではなく「環境」を目指す建築のあり方を追及し、素材/テクスチャー/自然/有機的な自然と人工物建築の融合を得意とするチーム。今回の「指先の感触を持ち帰るホテル」というコンセプトを体現するため、ドアノブの石を探しに新潟の糸魚川までプロジェクトチーム皆で拾いにいくほどのこだわりをもって、理想の形を追及しています。施工を担当する「礎コラム」さんはK5の頃から一緒にタッグを組んできた仲間で今回の施工にも熱が入っており、最高の布陣で進められていてありがたいです。
建設地はここ。都会の真ん中に緑豊かなホテルを作ります。
武田清明建築設計事務所にて。グリーンに溢れた空間で、このプロジェクトで目指す日本橋のホテルの形を議論する。
そしてエリマネの視点から目指したいのは、地域とつながるホテル運営をしていくこと。僕らはただ滞在して消費して終わりという泊まり方をするホテルにはしたくなく、たとえば街のおじいちゃんと自然と話せる環境があったり、街の自然を感じられるような客室になっていたり…。日本橋を愛してくれる人の宿泊を促したいし、訪れることで日本橋が好きになるような場所を作りたいと思っています。
日本橋に寄り添うということ
都会の中でも生態系を感じる場所をつくる
僕はもともと菜園コミュニティのマネージャーをしていたことがあったり、Stapleが運営するシェアオフィス・Soil work Nihonbashi 2ndの屋上ハーブガーデンを施工していたり、植物が好きで積極的に関わってきました。それもあって、今回のホテルではグリーンデザインへの思い入れが特に強いです。屋上緑化はもちろん、各客室のグリーンにもかなり力を入れており、客室のベランダに地植えで植物を配置する予定です。プランター等に比べて、メンテナンスもコストも膨大になる地植えは、普通ならまずやらないことですね(笑)。
それでもあえてやる理由は、やっぱり日本橋の街への思いがあります。日本橋は東京のど真ん中で生態系が少ないように感じていたのですが、それでもSoil workの屋上ハーブガーデンを創ると、そこに雑草が生え、アブラムシもついたんです。たったそれだけのことでしたが、僕は生態系の気配を感じて、いつかこの日本橋に鳥が、生き物が、やってくるところを想像してすごく嬉しかったです。ホテルにおいても、小さくても本物のグリーンを配置することで、いつかは鳥の声で目が覚める場所になっていく予感がしました。
さらに日本橋は2040年代に向けた首都高の地下化によって豊かな水辺が作られる予定なので、自然をとりまく環境がだいぶ変わってくるはずです。そんな街にできるホテルのあり方を見つめ、本物にこだわって、街の生態系を感じるような世界線を見てみたいなと思います。
ホテルの外観イメージ
“謙虚さと一体感”をもって、歴史ある街に入っていく
ホテルというハードをつくりながら、どんなスタンスで街とかかわっていくかについてもお話したいと思います。
僕は“SOIL”というブランド名が好きです。土、泥臭さ、地層。そんなものを感じます。土の上にコンクリートのビルを建てて完結してしまう開発ではなく、建てたあとに地域の土壌の一部に混ざらせてもらうイメージです。その“謙虚さと一体感”こそが、地域と関わるうえで大切にしたいことです。こんな風景をこの地に生みたいという僕らの意志も持ちながら、これまで地層のように積み上げられてきた日本橋の歴史の時間軸を感じて、その中に自分たちが存在しているということを忘れずに、その意志を街に混ぜていくようなスタンスでいたいです。
大規模都市開発の多い日本橋のなかでも、人形町はもともと“路地裏園芸”が多い街。自分たちの意思で街の風景を生み出す原点とも捉えられる路地裏園芸は、皆で街を歩いて感じた地域の風土であり、ホテルにはこのイメージを反映させていきます。 photo by 浜田昌樹
江戸時代の日本橋は、全国から集まる新しい物や人を取りこみ高め合って栄えていて、その再構築の文化は今も脈々と受け継がれているように感じます。だから、人の力や得意な領域をお互いに借りあって豊かな時間を作れたらと思っています。
たとえば、ホテルで育てたハーブをSoil workの会員さんやホテルのお客様・地域の人たちと一緒に収穫して、ピザ生地を作るワークショップを開催しホテルのピザ釜で焼いて、屋上で皆で食べるとか。
ホテルで完結するのではなく、他の施設を横断して、大人も子供も街の人も旅行客も、皆がこの街ごと好きになれる瞬間を作りたいです。ゆくゆくはSOIL Nihonbashiの施設以外も巻き込んで、地域の方とそういう瞬間を作っていくような関係性を築きたいですね。
描いている未来の景色
こんな風に街と寄り添っていって、いつかは “お客さんもスタッフも地域のご年配の方も、皆がカウンター席に並んで同じボトルをシェアしておしゃべりしている”なんて景色が生まれるようになったら最高だなと思います。そんな大人たちの様子を見た子供たちも「なんだか大人って楽しそうだな」と感じたりして。
お客さんなのか、もてなす側なのか、内か外かが曖昧な空間。まるで“縁側”のような場所を日本橋に作ることが、僕の目標です。