「肩書きはエンジニアだけど、本質的にはデザイナーやアーティストなんだと思う。」と言い切るエンジニア・後藤祐介さん。その言葉の通り、彼のポートフォリオには両方の感覚を持っているからこそ生み出されてきたクールな作品がズラリ。穏やかな語り口に潜む熱い信念と、ドイツ仕込みの美学には、クリエイターの学ぶべき点がたくさんありました。
ドイツの電気機器のデザインに衝撃を受け、単身渡独
―ポートフォリオがすべて英語ですよね。ドイツなど国外で活動されてきたのはどういう経緯で?
僕はもともと高専で電気工学を学んで、卒業後はインフラ系の大手電気機器メーカーで、下水道電気システムの設計をやっていました。具体的にはエンジニアとして客先に入り、コンサルティングや設計をする仕事です。その仕事の一環で展示会に行くことがあったんですが、そこで見たドイツ製品のデザインに衝撃を受けまして…。
後藤さんが見た、シーメンス社製の産業制御システム(PLC)
「右下のI0モジュールの正面にアールが掛かってるとことか、ケーブル配線をフタで隠していてさらにエッジに開けるためのノブがデザインされているところとか、かっこいいですよねー!」(本人談)
その製品群は機能が優れているのはもちろん、当時僕がいた会社の製品よりデザインが100倍カッコ良かったんです。あぁ工業製品でここまでデザインを洗練させられるんだと感銘を受けたのをきっかけに、ヨーロッパでデザインを勉強したいと思うようになって。貯金して最初はデンマークに行き、その後ドイツ・ケルンのデザイン学校で5年間勉強しました。
―ドイツではどんなことを学びましたか?
プロダクトデザインをメインに、UXデザインなども含め総合的に学びました。その学校はサービスデザインの分野で有名な学校でもあり、さまざまな学びの切り口がありましたね。その中で、プロダクトとしてのデザインだけではなく、使う人にとっての広義な価値について考えるようになりました。
その後はケルンのantwerpesAGという会社に入ってIoTデバイスの試作開発をしたり、マレーシアのAPDというデジタル系制作会社でリサーチ・企画・ソフトウェア開発などをしていました。
【dishtoshare】:紙パルプを使った分割できるピクニック用の器。ドイツ時代の作品。
―その後帰国して1→10(ワントゥーテン)に入りましたよね。
はい。ちょうど海外にいてもチームラボとかライゾマティクスなどの名前が聞こえてきている中で、デジタルとアナログを組み合わせたプロトタイピングを掲げていた1→10は魅力的で。そこで2年ほどデザインエンジニアとして勤務し、今はフリーランスとしてさまざまな企画に関わっています。
―海外での経験が今に生かされていることはありますか?
いろいろあって簡単には言えないですけど、プロダクトデザイン発祥の国であるドイツでの経験は、今に影響していると思います。特に現地の文化・哲学・言語を通して、体に染み込むような形で“デザインの考え方”を学べたのはよかった。四六時中デザインのこと考えていたし、デザインが生活に密着している感じがありました。今はデザイナーよりエンジニアとしての活動がメインなので、仕事に直接的に生かされる面はそれほどないですけど、クリエイティブの考え方の基盤のようなものはドイツで身につけた気がします。
―デザイナーの心を持ったエンジニア、という感じですね。
そうかもしれないですね。自分はデザイナーだということも忘れたくなくて、最終的な価値を作ったり面白いアウトプットにするための手段としてエンジニアもやっている、という意識です。どちらにしても、基本的には“手を動かさなかったら死ぬ”と思ってやってます。偉そうなことだけ言って手を動かさないおじさんにはなりたくないんで(笑)。
―後藤さんがデザインの要素を大切にされていることはKonelでは有名な話です。
世の中的には分野を越境しているクリエイターも増えてきてるので、決して珍しくはないんですけどね。“デザインエンジニアリング”という言葉もありますが、ひとつの職種にとどまらない考え方はとても好きです。
今は「一般社団法人テクニカルディレクターズアソシエーション」という団体の設立にも携わっていますが、そこに出入りしてる人たちの中にも複数の分野の職能を持つ人はたくさんいます。KonelのCTOの荻野さんなんかもまさにそうで、エンジニアが企画全体のディレクションに関わっていくべきだという意識は広がってきてますよね。
―とはいえデザインもエンジニアリングの両方の技術を磨くのは、きっと大変ですよね。
うーん、実は両方をやっていくことに関してはちょっと葛藤してた部分もあって。というのも、たとえば今からプロダクトデザイナーを専門的にやるのは正直難しくて、その道のプロにはどうしても勝てないんですよね。だから複数の職能を活かすことで、能力の高さよりも“幅”で勝負している感じです。いろんなことをちょっとずつ知っているというのが自分の強みになれば良いと思い至り、今はこのスタンスがしっくりきています。
Konelのメンバーからは「こんなことやりたいけど、どうすれば良い?」みたいな相談が多いんですが、僕は手玉が多い分だいたい答えられるので(笑)、この会社との相性は良いのかなって思います。
自分の作ったもので人を幸せにできるか、が究極のテーマ
―仕事をする上でのこだわりはありますか?
自分の作るものがエンドユーザーにとって本当に価値があるかどうか、さらにはそれが“人を幸せにできるかどうか”を考えながら作ることですかね。誤解を恐れずに言うなら、使う技術はどうでも良いと思っていて、それを使った人が幸せになるだろうかとを想像しながら手を動かすようにしています。
―それは素敵です。ただクライアントワークだと、どこまで自分の思いや考えを注入できるかは難しい部分もあるように思いますが…。
たしかに、広告の案件においては企業のメッセージを形にすることが仕事なので、それが自分の思うような形で人を幸せにできるかどうかはわからないですよね?特に僕の場合はプロトタイプが多いから、そもそもユーザーに届くような製品にたどり着かなかったりもするし。
でも究極の目標は口にして、意識していないと。言わなくなったらダメだと思うんです。
―言霊のようなものでしょうか、わかる気がします。一方で自分の思いを100%乗せられるのが自主制作だと思いますが、後藤さんはそうした作品もたくさん作ってきていますよね。
そうですね。いろいろ作ってきましたが、「TOU」などを作ってきたKonelの関心領域とも重なるなぁと思っているのが“ゆらぎ”に関するアート制作です。たとえば過去にLEDを立体化した作品を作ったのですが、LEDチップのランダムな点滅が木炭の燃えている様子に似ていることに気づいたんです。そこで、火の立体映像を作ることを考えたのですが、過去の類似作品では炎の揺らぎが人の手でアニメーション化されていたことがどうも引っかかって。なので僕はシミュレーションを使って燃焼を再現をすることに集中して制作しました。
でも作っているうちに、どこまでシミュレーションしていったら「燃えている」ことになるのかとか、次々と疑問や課題が湧いてきたりして…。そうした考察が次の作品につながっていくのも自主制作の楽しいところです。
【Combustion in Cage】:小型LEDチップを立体的に配置して炎を表現した作品
Konelの魅力は「突破力」。チームの作り方も普通じゃない
―ところで、Konelと仕事をするようになったきっかけは何かあったんでしょうか?
荻野さんとBASSDRUM 鍛冶屋敷さんとの対談を見たんですよ。「知財図鑑」(Konelの関連会社)の話だったんですが、なんだか面白そうなことやってる人たちがいるなぁと思って。一度会ってみようとコンタクトを取りました。
―あの知る人ぞ知る対談がきっかけだったとは(笑)!
実際に関わるようになって、Konelのどこに魅力を感じますか?
Konelがすごいなと思うのは、代表の出村さんを中心としたメンバーの“突破力”です。アイディアをちゃんと形にする力がある。若い子たちも含めて、作りたい!という強い思いを感じるし、アイディア自体も面白いんです。技術や制作能力がある会社は世の中いくらでもありますが、こういう力がある会社はそうそうないし、彼らのやりたいことを実現するために技術面でサポートできたら良いなと思っています。
―みんな背伸びしてて、できるかどうかのギリギリをやろうとする人たちですからね…。そこを可能にするために「助けて、後藤さん!」と頼ってる感じがします。
普通の会社はそういう背伸びをする時に、エンジニアを増強する選択を取りますよね。たとえばインスタレーション案件を強化したいならそれができる人を集める、という職能を軸に人材を考えるんです。で、その人たちを食わせるために類似の案件を手がける。そうすると、人材ありきで仕事が決まっていくから専門性は高まっていくけど、仕事の幅や成長機会は広がりにくくなります。
Konelはそれが完全に逆だなと感じます。先にさまざまな“やりたいこと”をもった人がいて、その実現のために誰の力を借りようかという発想。だから専門家ではないかもしれないけど、思いが強く柔軟な発想を持つチームが出来上がって、それが突破力につながっているんだと思います。
―嬉しい分析、ありがとうございます。
チームの作り方自体が資産だからそれを伸ばしていけば良いと思うけど、一方で会社が大きくなっていく過程で、その資産をどう組織としてキープしていくかは、きっと次の課題ですよね。難易度高そうだけど、注目しています。
―エンジニアとしてのKonel での仕事には何か特徴はありますか?
いわゆる制作会社だと、決まった要件に従ってエンジニアが手を動かすことが多いですが、Konelはエンジニアもその前の企画レイヤーから入れるのが面白い点ですね。そうするとテクニカルディレクション的な動きを求められるけど、プロトタイプする上では企画の根っこの議論もわかった上でやれた方が断然楽しいですから。
―たしかにプロトタイプって修正ややり直しが多いから、言われたことをやるだけではつらそうです。
プロトタイピングでは、「これで良いかな?」と議論する→次のプロトタイピングをする→また議論するというサイクルをスピード感を持って繰り返すことが大切です。作る側は疲弊するけど(笑)、良いものを作るためにはやらなきゃいけないこと。決まったものを集中して1個作るよりも、いろいろなものを10個作って可能性を探る方が、ものづくりのあるべき形だと思います。
専門馬鹿になるくらいなら、ただのバカでありたい
―今年はKonelのベルリンオフィスができましたが、ドイツと関わりの深い後藤さんとも、今後いろいろできそうですね。
ベルリンの件を聞いた時は「お、いいじゃん!」と思いつつ、正直ちょっと複雑な思いもありましたね。僕はドイツにとても影響を受けていて第二の故郷だとも思っているのですが、住んでみて「どんなに愛着があっても自分は決してドイツ人にはなれない外国人なんだなぁ」という実感を持ってしまって。だからベルリンオフィスをやろうという決断に対しては、少し嫉妬の混じった羨ましい気持ちと、素直に応援したい気持ちが同居している感じです。
―なるほど…。でも現地の知人の方をベルリンチームにつないでくださったとも聞きました。
はい、もちろん僕ができることは協力したいですからね。ドイツってわりと保守的で大きな企業のマーケティング力が高いんですよ。だから新規ビジネスで参入するにはそれなりにハードルがあるんです。でも一方でアートのコンテクストはとても高いから、日本とはまた違うアプローチの方法やチャンスがありそう。面白い場所だと思うから、ぜひとも切り拓いてほしいです。
―最後に、これからチャレンジしたいことを教えてください。
もっとアート作品を作りたいです。ちゃんとアワードにも出して、それこそドイツなどヨーロッパでも評価されたい。
最近作りたいのは、常に火星の方向を指すオブジェ。たくさん作って太陽系のそれぞれを星指すようにしたらどうなるかなーとか、日々いろいろと考えています。そういう妄想的なおしゃべりをする相手を求めているので、Konelでは雑談に乗ってきてくれる人が多くて嬉しいですね。僕は、特定の分野に限定した専門馬鹿になるくらいなら、ただのバカでいたいんです。
―そのこころは?
昔お世話になった教授が言っていて、すごく共感した言葉で。
“面白いかどうか”という、一見バカかと思えるような視点で物事を捉えた方が、専門馬鹿で「これはできない」って決めつけてかかるよりずっと豊かな人間になれる、ということだと僕は受け取りました。これはエンジニアにも当てはまることで、狭い視野で“できるかどうか”で判断するのではなく、多少エキセントリックでも面白いと思える選択をしたいなと思います。
―ぜひKonelでもそのエキセントリックぶりを存分に発揮してください!今日はありがとうございました。
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聞き手:丑田美奈子(Konel)/撮影:Jay