「グローバル広告代理店から、敏腕アートディレクターがやってくる!」との朗報が入ったのは2020年10月。それからわずか2ヶ月で、Konelに新たな風を起こしているのが足立章太郎だ。専門領域を磨いてきたエキスパートが、その土俵を広げる過程で見えてきているものは何か。作ることにどこまでも真っ直ぐな足立さんに、語ってもらいました。
「メシ食えないよ」と言われたデザインの世界へ
―足立さんはいつからクリエイターを志すようになったんですか?
実はデザインの世界に入ったのは割と遅い方で。地元浜松の高校から慶応大学に進学し、入ったのは文学部。大学時代の前半は、テニスサークルでザ・大学生という感じの日々を送ってましたね。3年でゼミの専攻を決める時に、文学部には珍しくアート分野を扱う社会学系のゼミがあって、面白そうだったのでそこに入りました。そこからようやくデザインやアートに少しずつ触れるようになって、ポスターを作るなどの制作活動もしていました。技術的にはPhotoshop Elementsがちょっと触れる程度でしたが、友達とちょっとした作品展もやりましたね。
―それは意外な経歴。それまでは制作することはなかったってことですか?
興味はありましたよ。原体験として思い出すのは、NIKEのAIRMAX95の大ブーム。当時からNIKEやジョーダンが大好きで、AIRMAXという文字のデザインを俺なりに考えて“火”っぽくしたり“水”っぽくしたり、いくつも紙に描いて遊んでました。
でも、高校で美術の先生にデザインの仕事に就くのってどうですかね?って相談したら「メシ食えないからやめとけ」と言われて(笑)。そんなものかと思って無難な文学部を目指しました。
―それはひどい…。でも最終的には広告業界に入ったわけですが、そこにはどんな経緯が?
普通のサラリーマンにはなりたくなくて、就活してなかったんです。そのかわり大学3年の冬に、友人と6人のチームで「マーケティング・プロモーションプランコンテスト」という学生コンペに応募してみたら、グランプリを獲ることができて。俺はロゴやビジュアルを作る担当だったんですが、この時チームで仕事をする面白さを知って、広告業界に興味を持ちました。よくよく業界を調べてみると、佐藤可士和さんらが大活躍してクリエイターが脚光を浴びていた時期でもあり、純粋に面白そうで。「なんだ全然メシ食えるじゃん」って思った(笑)。
それで急いで就活を始めたものの、文学部出身だと入社しても大半が営業職に配属されると知って。俺がやりたかったのはADだったから、どうしようかと悩んでいたら、四大卒→美大に編入→AD職で電通に入社したという人をネットで見つけたんです。これだ!と思ってその日のうちに連絡を取って相談して、翌日には就活をやめてデッサンの勉強を始め、その人の進路をそのまま追う形で武蔵野美術大学の視覚伝達デザイン学科に編入しました。
―すごい行動力!
勢いは良かったんだけど、入ってからは正直大変でした。ずっと美術をやってきている人たちの中に放り込まれるわけだから、周りについていくのに必死で。毎週出される課題に向き合いながら、一生懸命やりました。でも、正攻法で頑張っても経験の差があってなかなか勝てない。だったら作品の見た目や技術で勝負するよりも、人と違う視点で、より面白いものを作れば良いんじゃないかと思い至って。それで、よりコンセプトにこだわった作品作りをするようになりました。
―それ、今の足立さんの仕事のスタイルにつながってる気もしますね。
武蔵美を卒業後は、希望叶ってマッキャンエリクソンにAD職で入社したんですが、“コンセプトを大事にする”ということは、たしかにずっと意識してきましたね。どんな表現をするときも、その表現の土台となるコンセプトをしっかり練ることで、より人に伝わる作品になる。なぜその表現なのか、なぜその手法なのか、コンセプトから導いてとことん突き詰めることで、強い表現になると思うんです。
足立さんが企画・制作したTORAYの広告作品。“素材”が世界を変えることをButterfly Effectになぞらえ、植物由来の薄い布で作られたうちわを配布した
ADの可能性を模索した先に出会った、Konelというカオス
―マッキャンエリクソンでは12年勤めて、今年11月からKonelに入社しました。きっかけは何だったんでしょう?
35才を過ぎた頃から、もし自分のフィールドを大きく変えるならそろそろラストタイミングだなと感じ始めて、良いチャンスがあれば踏み出そうと思っていました。同時に、ADとして広告を作ってきた経験をもっと外に広げていきたいと思うようにもなってきて。逆の言い方をすると、広告を作っているだけでは、自分の可能性を狭めてしまうんじゃないかという不安があったんですよね。
そんな時に偶然、以前から面識のあった出村さん(Konel代表)のnoteをたまたま読んだんです。そのタイトルは「広告制作だけでは満足できなくなったデザイナーへ」。…俺のことかと(笑)。
―noteに共感して連絡をくれたんですね。
そう。めちゃくちゃ共感して、すぐに連絡して会いに行きました。直接話してみると、出村さんとは考え方がリンクする部分が多いし、「日本橋地下実験場」というオフィスも面白いし、参加メンバーも多様性があってカオスな感じが興味深い。Konelなら自分自身の可能性を広げられそうだし、俺もまたカオスの一部として刺激を与えられる、良い関係性を築けそうだなと思いました。で、「明日金沢のオフィスに行くんだけど、一緒に来ます?」って言われて、ついて行ったんです。
―急ですね…。
2日間金沢で出村さんたちと過ごし、どっぷりKonel流を体験して、帰りに小松空港に送ってもらう車内で「入社します」って言ってました(笑)。
大手代理店からスタートアップに移るということ
―実際入社してみてどうですか?
入ってから感じるのは、取り扱う案件もそのソリューションの手法も多岐にわたっていて、想像以上のカオスっぷりだったということ。でも、いったい何の会社なのか説明しにくいことがコネルの魅力でもあると思うので、それはむしろプラスに感じてます。
それと、別のプロジェクトでそれぞれ動いていても、Konelというチーム全体でやっている感覚がありますね。リモートワークでもオンラインでのコミュニケーションが活発だし、どのプロジェクトにも共通して“良いものを作りたい”という純粋な思いがあるから、カオスなわりに意外とまとまっているんだと思います。
―とはいえ大手代理店からの転職だと戸惑うこともあるのでは?
いや、今のところ特にデメリットは思い当たらないですね。代理店とスタートアップ、それぞれの良さがあるだけだと思っています。
たとえば、大規模案件は代理店の方がやりやすいし、世の中の目立つ場所でコミュニケーションできるのは魅力的ですよね。それに実績がたくさんあるので進め方に“型”や成功パターンがある。ただ一方で、その“型”に添いすぎるとイノベーティブな発想が生まれにくかったりもするので、進め方の柔軟性やフットワークはスタートアップの方が長けていると思う。皆で0から考えて、クライアントとも膝付き合わせて作り上げていくのは、Konelに来て感じるクリエイティブの醍醐味ですね。
―"皆で考える"と言えば、つい先日ローンチした「ネクイノ」のリブランディングプロジェクトでは、ADとしてはかなり初期の工程からプロジェクトを引っ張っていましたね。
そうですね。代理店では基本的にADとしてのデザインやディレクションをすることにフォーカスしていましたが、今回の「ネクイノ」ではクライアントとの初回打ち合わせからずっと入っていて、UX・UI デザインから動画のディレクションまでを全般的に担当しました。
デザインをする、レイアウトを考えるという意味では今までと同じ役割なんですが、その前後にある“クライアントの思いを汲んで見せ方を整理していく”“作った先にどう使われるかを意識してデザインする”という経験はこれまであまりなかったので、使ったことのない筋肉を鍛えられている感覚でした。
オンライン診療アプリなど医療DXを手掛ける、株式会社ネクイノのコーポレートムービー
―まさしくADとしての可能性が広がっていきそうですね。
Konelに来て改めて気づいたのは、いろいろな領域で“ビジュアライズ”が求められているということ。たとえばブレスト会議でアイディアを出し合っている時に、サラッと「それってこんな感じだよね?」という絵が出てきたら、議論にドライブがかかったりしますよね?
そんな風にクリエイティブ制作の段階に至る前から、ADがプロジェクトの中枢機能として必要とされる場はたくさんあるはずで、それってADの新たなポテンシャルなんですよね。まぁ出村さんがnoteで書いてたことと同じなんですけど(笑)、それを今リアルに感じているところです。
―今後足立さんのようなキャリアを選ぶ人も増えるかもしれませんね。
大きな組織で自分の役割を全うすることももちろん否定はしませんが、有能なADはビジュアライズだけでなく、言葉も書けるし、プロジェクト自体を構成できる能力も持っているはず。だから企画の本筋に積極的に関わる推進力となるべきだと思うんです。デザインという専門分野を持ちながら広範囲で能力を発揮できたらかなり強いし、やりがいありそうじゃないですか?業界的にもそういうADが増えていったら面白くなりそうですよね。
書道と宇宙、これからの足立
―今後チャレンジしたいことはありますか?
実はまあまあの毛筆有段者で、これから書道家としての活動もしたいなと企んでます。
―あ、そういえばポートフォリオの表紙が超絶美しい字でした!
ありがとうございます。書道とグラフィックの経験を掛け合わせたいとは前からいろいろ考えていたんですが、Konelに来て多彩なクリエイターと触れ合っていたら、今までのアウトプットのイメージがまだまだ狭かったことに気づいて。もっと外の領域まで発想の幅を広げていいんだとわかったから、形にするのが楽しみです。
あと俺、宇宙好きなんですよ。天文学者になりたかった時期もあったくらいで。「ブラックホール」というタイトルでホーキングの理論に妄想だけで対抗するという(笑)謎の文章を書いたこともあります。宇宙の仕事、やりたいですねぇ。
―そういうことは声に出して触れ回った方が良いですよ!Konelの周りはいろんな人がいるから、きっとどこかで宇宙案件に繋がる気がします。
マジですか…。誰か宇宙に関わる仕事、一緒にやりましょう!
それと、今はまだ繋がってないけどこの記事にピンと来た、という方ともぜひ組みたいですね。Konelって比較的テック寄りのイメージを持たれてる気がするんですけど、実はその前後左右で、ビジュアルの表現者として大事な役割を担えるチャンスがゴロゴロあります。個性あるフィルターを持って、デザイナーとしての可能性をどんどん広げたい方、ぜひ仲間になりましょう。待ってます!
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聞き手:丑田美奈子(Konel)/撮影:Jay