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人と山をつなげるアプリを作る開発エンジニア


目次
▶ 懐かしい匂いに惹かれてYAMAPへ
▶ スピード感を持った開発環境「YAMAP LABO」
▶ 歩きスマホにならないコミュニケーション
▶ 変化を好まないユーザーと、変わり続ける企業の宿命
▶ 人と山をつなげるアプリ

年間およそ3,000件発生している山での遭難事故。そのうち約4割が道迷いによるものだ。プレミアム会員限定の機能である「ルート外れ警告」は、予定していたルートから外れると、警告音が鳴り知らせてくれる。道迷いを未然に防ぐことを目指した機能だ。

その開発の中心となり推進してきたのが開発チームのエンジニア、落石 浩一郎(おちいし こういちろう)さんだ。YAMAPの中核を担う開発チームは、全社員のほぼ半数を占める。落石さんに、YAMAPのアプリ開発の裏側を聞いてみた。

懐かしい匂いに惹かれてYAMAPへ

普段は呼吸をするのと同じようにサウナと読書を楽しむという。座禅中に意識が飛ぶ経験をし、趣味のランニングではランナーズハイを体験。そういったフロー状態を科学的に再現するにはどういうアプローチがあるか考えたとき、サウナにたどり着いたそう。自己分析も科学的なエンジニア

「YAMAPに、懐かしい匂いみたいなものを感じたんです」

落石さんは初めてYAMAPを使った時の感想をこう語る。

落石さんがスマートフォンのアプリを自ら開発し始めたのは、大学時代のちょうどiPhone 4が発売された頃。手元のMacとiPhoneを繋げば、アプリ開発ができることに感銘を受けた。当時の業界は大手企業はそこまで参入しておらず、ほとんどのアプリが予算のない中で作られた、荒削りなものだった。

「個人の開発者が、一攫千金を狙えるような楽しい世界でした。作っていたのは検索を便利にするアプリで、最終的にはストアで有料アプリの5位までいったんです。粗々しさとスピリットに溢れていた時代でした。

徐々に大手企業が参入してきて、札束で殴り合う世界みたいになったんです。ほとんどが利益を生みやすいゲーム系のアプリになってしまいました。企業がハイクオリティなアプリを無料で提供するようになり、個人では太刀打ちできない世界になってしまいふてくされていました。

YAMAPにはあの頃の荒削りさや、大学時代に感じたワクワク感があるなと思いました。ちょっと懐かしい匂いがするなと(笑)」

大学時代に個人で手掛けたというアプリ。一時は有料アプリで5位にランキングされたことも

以前は東京のアプリ関連の会社に勤めていた。最初にYAMAPのアプリを使ったのは、秩父の武甲山。その頃、転職を考えていた落石さんは、YAMAPの求人サイトを見て初めて、登山で使えるアプリの存在を知る。

「スマホのアプリがこういう広がり方をするんだと思いました。前職では、アプリのレビューサイトを運営していたんですが、お金になるゲーム系のアプリばかり紹介していました。ゲームのような趣味だけでなく、登山のような肉体的な趣味にも使えることに思わず感心してしまったんです」

それまで、屋久島や富士山に登ったことはあったけれど、案内板と勘を頼りに登っていた。自分が歩いた軌跡を客観的に見られるYAMAPの安心感に驚く。

「GPSが機内モードでも使えることへの技術的な関心が大きかったです。アプリを実際に使ってみて、ワクワクするような懐かしい匂いを感じて、ここでだったら、今のクオリティを更に向上させる手伝いができるんじゃないかと思い、福岡へUターン就職しました」

スピード感を持った開発環境「YAMAP LABO」

開発チームで落石さんが中心となり進めたのが、「ルート外れ警告機能」。ルートから外れると、警告音が鳴り知らせてくれる機能だ。開発のきっかけを聞いてみた。

ルート外れ警告の詳細はこちらの記事でご紹介

定期的に行われていたアイデアのブレストで、やってみたい機能をポストイットに書き出して壁に貼っていたことがあった。その中の一つ、「ルート外れ警告機能」が、落石さんの頭の片隅に残り続けた。なんだか作るのはめんどくさそうだなあ、どうやったら作れるかな…そう思いながらも月日は流れていった。

「ある時、カスタマーサービスチームがまとめたユーザーの要望の中に、道を外れた時に通知して欲しいというものがあったんです。それを見たときすぐに、できそうだと感じました。

それまでは難しく考えすぎてたんですね。そういうことってよくあるんです。朝起きてシャワー浴びている時に思いついたり、寝る前までは複雑過ぎて手を付けられないと思っていたことでも、起きてみると簡単に思えたりすることがあったりします。頭の中の小人が教えてくれたみたいな感じで。割とプログラマーあるあるだと思うんですけど(笑)」

YAMAPでは、全社員の目に触れるメモのようなツールを使っていて、そこに開発したい機能を上げると“いいね”が付く。“いいね”の数が多ければ実装の機運が高まる。その後、週一回のミーティングで提案し、上からの承認が得られ、デザイナーと相談しながらブラッシュアップしていく。というのがざっくりとした開発の流れ。

しかし、いざアプリの新機能を作ろうとすると、考えなければならないことは意外に多い。デザインをどうしよう、どんなユーザー向けにしよう、などなど…。手順は多岐にわたり煩雑だ。

そこで、正式なリリースの前に、最低限の機能が使用できる段階で世に出し、使ってもらいながら機能をブラッシュアップさせていく開発の進め方が推進されている。「YAMAP LABO」だ。「ルート外れ警告機能」は、LABO機能としてリリースされ、その後プレミアム機能となった。

“登山体験をテクノロジーでアップデートする”という目的で作られた、新たな開発環境である「YAMAP LABO」。「ルート外れ警告」は、当初YAMAP LABOではAndroidのみを対象としていたが、正式リリースの段階でiOSにも対応。その他の細かなアップデートを含め、現在の形になった

ユーザーとしては、新しい機能が次々に作られるのは歓迎すべきことだが、出す側は、スピード優先でとりあえず世に出すというのは勇気がいるのでは?

「一度出した機能を消すというのは、ユーザーの反発が大きいんです。特に成熟したアプリ機能をなくすことには恐れがあります」

スピード感を持って新しい機能を世に出していくために、YAMAP LABOという免罪符が必要なようだ。どのくらいのスピード感かというと、「ルート外れ警告機能」の場合、落石さんが午前中にユーザーの要望を目にし、できそうだと感じてから、その日の午後には会社の周辺でプロトタイプの検証を行っていた。着手からリリースまでは約3週間。2020年1月に、最初はAndroidのみで提供された。

YAMAPのオフィス周辺を「ヴァーチャルな山」に見立てたテスト環境を使い、開発中の機能を試すこともしばしば。周りの人が見たら、オフィス街をウロウロする怪しい男性に見えてしまうかも!?

YAMAP LABOで開発された機能は他にも、ランドマーク検索や、リアルタイム積雪モニターなどがある。ランドマーク検索とは、例えば二つの山を選択すると、その山の両方を通る活動日記を地図上に表示してくれる。縦走を計画する際には、そのルートを通った活動日記を参考にすることができ便利だ。

積雪モニターは、活動日記の写真から「雪」というキーワードを使用している写真を拾い上げ集計。リアルタイムの積雪状況を、地図上にマッピングされた何万枚もの写真で確認することができる。


YAMAP LABOはYAMAPをダウンロードしているユーザーなら、ログインして使用することが可能だ

歩きスマホにならないコミュニケーション

しかし、登山のアプリを使っていてふと頭をよぎるのは、アプリに頼りすぎてしまい、自分の頭で考えることを放棄してしまったり、迷うことも含め、道を自分で探して登るという登山の楽しみを失ったりしてはいないかということ。

「その気持ちはよく分かります。自分も旅をする際は、どちらかといえば道に迷いながらよくわからない路地裏を歩くようなスタイルが好きなので。

機能は設定で選択できるので、必要なければOFFにしておくこともできます。時間がない時や、不安なルート、安全に登りたいという時に設定してもらったらいいと思います。

YAMAPでは、登山中に歩きスマホにならないコミュニケーションを目指しています。ルート外れ警告は、スマホを見ながら山に登ってしまう状況を改善するための機能でもあります」

使う側からしても、山でスマホの画面はあまり見たくないというのが正直なところ。しかし、起動していればついつい目がいってしまう。スマホを見ずに活用できる機能はありがたい。

変化を好まないユーザーと、変わり続ける企業の宿命

落石さんが入社したのは社員がまだ十数名の頃。創業メンバーをはじめ、YAMAPには熱い思いを秘めつつも温厚な人柄の社員が多かったと落石さん。「落石のように変なヤツを入社させて大丈夫だろうか、とある種の賭けで採用されたんじゃないでしょうか(笑)」

開発者でありながら、デザインセンスも持った落石さんは、インタビュー中何度も、「いや違うな、ちょっと違うな、なんか違うな」と繰り返し、言葉を選びながら、なるべく的確に分かりやすく伝えようと話してくれた。

落石さんはUXエンジニアという肩書きを持つ。2020年12月にできた、YAMAPのデザイン原則「RIDGE DESIGN」をAndroidやiOSアプリに取り入れる業務も行う。

「今はまだ、デザインを整えている段階です。ユーザーがどのタッチポイントから入ってもYAMAPとわかるようにデザインを揃えています。その先に、使いやすさや、伝わりやすさを改善していくというところに手をつけていけたらいいなと思っています」

しかし、使っていて戸惑う部分はまだまだある。やっと覚えて使いこなせてきた頃に、また新しい機能が出てきてと、開発のスピードにユーザーが追いつけないこともあるのでは?

「年配の方は特に、機能や仕様の変更を好まれない方が多いです。一方で企業としては、常に変化していかないといけない面はあると思うんですよね。

変わらないでくれという意見はすごく多いです。でも、変わらないと登山人口も増えていかないと思うし、若者がもっと増えて、登山シーン自体が若返りしないと、我々としてはパイを取りにくい。業界としても登山人口が少なければ、登山道などの登山環境に予算が割かれなくなりますよね。

変わり続けるということは、会社も登山環境もちゃんと循環するような仕組みを作ろうとしているからなんだと、ポジティブに受け取ってもらえると嬉しいです」

人と山をつなげるアプリ

同じくエンジニアの同僚である田渕さんは、落石さんについて「“神は細部に宿る”を体現している人」と語る。「デザインの再現度は1ピクセルも妥協せず、細部まで気を配って実装しています。自分の美学に対する高い熱量と取り組む姿勢は、隣で見ていて尊敬してしまいます」

落石さんに、今後の目標を聞いてみた。

「普段手にしているスマホって、コンテンツを消費するメディアになりがちです。YouTubeを見たり、電子書籍を読んだり、他人のツイートを眺めたりと。

でも、YAMAPのアプリを入れてもらって山に登れば、そういったコンテンツの消費だけではない、ちょっと違う体験がスマホでできる。YAMAPがそういう選択肢を提供しているということが、もう少し世の中に広まっていったら面白いなと思います。

多くの人からすれば、YAMAPってまだ選択肢の一つにも入りづらいと思うんです。登山とスマホが組み合わせられるということを山に登る人しか知らない。

YAMAPを知らない人や登山をしない人でも、アプリを入れれば、比較的安全に登山というものを趣味の一つに加えることができる。そういう選択肢をもっとより多くの人が持てるようになれればいいと思います」

最小限の荷物を背負い、自分の足で登るしかない登山と、今やお困りごとは何でも解決してくれる便利なスマホアプリ。確かに、登山者以外からするとなかなか結びつかない組み合わせかもしれない。

しかし、YAMAPの地図アプリが多くの人の登山への敷居を下げ、垣根を取り払ってくれた。携帯電話が人と山をつなげてくれた。そのことに、アプリを作っている開発者自身が一番驚き、楽しんでいる。きっと、これからもっと私たちを驚かせてくれる機能が生まれることだろう。

(ライター:アウトドアライター米村奈穂)

(撮影:YAMAP 﨑村 昂立)

(※ この記事は 2021年4月27日 に YAMAP MAGAZINE に投稿した記事を元に編集した記事です。)

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