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「ここで日本一になる」 青果流通業界に切り込み、決意した中小企業からスタートアップへの転換――ベジクル創業と成長の軌跡(前編)

ベジクル株式会社は、2024年6月30日、これまでの累計で5.2億円の資金調達を完了したことを発表しました。代表取締役CEOの池田将義が祖父の創業した会社の社名「司企業」を引き継ぐ形で設立してから約15年。現在は中小企業型からスタートアップ型へと経営の舵を切り、第二創業期として成長の真っただ中にあります。

今回は、改めて、創業の経緯と成長の軌跡などについてお伝えします。前編では、代表・池田の半生を振り返り、会社立ち上げ背景の解説をしていきます。



中卒、一人暮らし、フリーターから始まった

池田は中学生時代、学歴を重視する日本社会になじめず、途中からイギリスの中学に転籍し、卒業。その後帰国して、高校に行くことなく社会に出ました。

池田 「俺は大学なんか行かなくても成功するから大丈夫だ」と大見得を切って、親の推奨する高校に 行かずに社会に出ました。16歳で一人暮らしをするようになりましたが、アルバイト生活は安定せず、電気・ガス・水道が全部止められたこともあります。家賃を払えずに家を追い出され、ホームレスになったこともある。「世の中って甘くないな」と痛感して、親に土下座して謝って、実家に戻してもらいました。

実家に戻り、まずは安定した仕事をするために祖父が経営していた青果卸会社でアルバイトをすることになります。ここが池田と青果流通業界との出会いでした。

池田 僕は初めて青果市場に行ったときに、「俺はここで日本一になるんだ」と思ったのです。根拠も何もないのですが、勝手に決めていた。僕の人生は、過信と早とちりの連続で、踏み外してきたことも多いのですが、祖父が好きだったからとか、家業だからとか、いろいろな理由はあるにせよ、17歳のときに「これが自分の人生でやるべきことだ」と直感しました。

17歳での「日本一」への決意が、後の池田の人生の原動力になっていきます。

祖父の会社で仕事をする以外にも、アルバイトを並行させ、実家にいたこともあって金銭的に余裕は生まれていきます。数年間その生活を続ける中である思いがわいてきたと池田は振り返ります。

池田 それなりにアルバイトでお金を稼いでいましたが、「ずっとこの仕事を続けるわけにはいかない、いつか自分で何かやらないと」とどこかで感じ続けていました。僕は人に何か命令されるのがものすごく苦手ですし、安易な考えですが、父がスーパーマーケットの経営をしているので、そこをうまく利用すれば楽にお金持ちになれると思っていたのです。


スーパーからの左遷がベジクルの起点に

祖父の会社でのアルバイトを通して、いつかは父の会社を継ぎたいという想いを強めていた池田。青果市場について理解するだけでなく、しだいに「市場の先」にある世界を見てみたいと思うようになります。

そこで、一度祖父の会社を離れ、数年間の“修業”をすることを決意。都内のスーパーに入社して働き始めました。

池田 数年間働く中で、スーパーという業態でどのようにすれば業績を伸ばせるのかという経験を積みました。一定の自信を得たので父の会社に入社し、学んだことを生かして本当に成果が出せるのかを試してみることにしました。

池田が入社すると、担当店舗の売上はどんどん伸びていきました。しかし、店舗を異動すると、前にいた店舗の売上が下がってしまうということが起こります。池田の属人的なマンパワーで業績を上げることはできても、再現性のない状態になっていたのです。

同じことを繰り返すたびに「現場を怒ってしまっていた」という池田。

池田 今思い返せば、仕組み化できていなかったのです。当時はそんなことを思いもせず、「本気さが足りない」と社内で偉そうな態度を取っていたところ、父から煙たがられるようになりました。売上は作れるけれど、社長の息子としては正しくない振る舞いをするので、父としては、いない方がいいと判断したのでしょう。「市場の方の事業所に行け」と言われました。事実上の左遷でしたね。

このとき再び市場に関わり始めたことが、のちにベジクルの設立につながることになります。


集客とオペレーションを最適化し、ブルーオーシャンを順調に開拓

池田がベジクルの前身である「司企業株式会社」を創業したのは2009年。祖父の想いを引き継ぎ(当時は父の会社に吸収されていた)、資本関係はないものの、同じ社名で同領域の会社を設立。創業当初は、市場の駐車場で地道に野菜を詰めるところから始まりました。

池田 お客さんを増やすために、朝から晩まで飲食店に飛び込み営業をして、晩から朝までは出荷作業をして。最初の2年ぐらいはほとんど寝ずに働いていました。

寝る間も惜しんで仕事をしていたものの、なかなか努力量に相応の事業成長ができずに困っていた池田。そんな折、iPhoneが登場します。池田は早速iPhoneを使い、野菜の写真を撮ってミクシィやアメブロなどのネット上に掲載。すると、そこを経由して飲食店から問い合わせが入ってくるようになったのです。

池田 ネットに野菜の情報を載せると、お客さんの方から来てくれることに気づきました。これがいわゆるマーケティングの始まりです。アメブロを書くと集客できるのがわかったので、次はホームページ上にブログを設けて、自社ブログとしてお客さんを引っ張ってみようと考えました。そこからは、リスティング広告やLP制作など、デジタルマーケティングの領域に注力するようになりました。

業界的には珍しかったデジタルマーケティングを駆使したことで、集客には困らなくなった池田。しかし、今度は顧客が増えたことによる弊害に直面します。たくさんの顧客をさばけるだけのオペレーションに課題が噴出したのです。

池田 お客さんが増えれば売上も利益も増えるのですが、オペレーションがアナログすぎて、どんどん忙しくなってしまって……。自分が苦痛と思うような時間も増えてきて、お客さんが増えることを喜べなくなってきてしまったのです。

1人で把握しきれない部分も増え、トラブルにも遭う中で、池田は「データ活用」の有効性に気づきます。

池田 あるトラブルが起きた際にデータをじっくり見ないといけない機会があり、そのときにデータの構造を理解しました。そして「このデータを組み替えることで作業効率や生産性が上がる」と気づいたのです。これを機にデータ活用を踏まえたマネジメントを強化していき、そこからは順調に成長が始まったと思います。

集客面はデジタル活用、オペレーションはデータ活用により、効率化しつつさらなる拡大ができる土壌がつくられました。業界としてはブルーオーシャンだったこともあり、順調な成長軌道を描いていきます。


スタートアップの台頭に募る危機感。経営変革を決意

ところが、2015年頃から、スタートアップが台頭し始めます。ITリテラシーの高い異業種からの参入が増えてくる中で、当時の強みだったマーケティングの勝ちパターンが崩され始めました。「デジタルマーケティングの採算が合わなくなった」と危機感を覚えた池田は、よりマーケティングの勉強に力を入れ、自社が生き残る方法を模索していきます。

池田 スタートアップの人たちはデジマに依存しているように思えたので、ベジクルはあえてデジタル以外のマーケティングを活用する戦略を取りました。泥臭い営業をしたり、DMを送ったり、配送車をラッピングしたり、オリジナルダンボールを作ってゴミ箱からも認知を広げたり。思いつく限りの手は全部打ちました。そこでまた一段階、会社として強くなったと感じています。

アナログなマーケティングの強化が功を奏し、スタートアップが台頭しても自社の経営が傾くことはありませんでした。しかし池田は、当時の経営手法について、反省点もあったと感じています。

池田 もっと経営が上手だったら、もっと早く成長できていたなと思います。当時はいわゆる中小企業経営だったので、利益を残しながら着実に商売をしていくというのが前提にあります。スタートアップのように資金調達をして、大きく事業投資をしない限り、小さな成長しかできません。

着実な経営は、それはそれでいい面はあるのですが、当時業界のことをよく知らないエリートの人たちに数億円という資金が集まっていることに正直違和感というか、「悔しい」と思ってしまった。

そこで、スタートアップになるにはどうすればいいか勉強をし始めました。どうしたら自分のようなノンエリートがエリート村に入っていけるのだろう、いかに資本市場にアクセスするのか、などを探し回っていたときに、たまたま現取締役の岩崎と出会いました。

現在ベジクルの取締役を務める岩崎亘は、大きなビジョンを掲げ、そこから逆算してリソースを集めて経営するスタートアップ型の経営手法の重要性を池田に力説。それに共感した池田は岩崎を誘い、経営変革を行うことを決意しました。

池田 中小企業経営をしていたので利益はたくさん出ていて、僕は少し有頂天になっていました。しかし、このままコツコツ成長を続けていても、日本一にはなれない。だからやり方を変えて、成長角度を上げていく経営にシフトしようと決めました。2018年頃のことです。

17歳のときに志した目標を持ち続け、経営のパートナーも得て、第二創業期を迎えようとしていたベジクル(旧・司企業)。そこに、そこに予期せぬ危機が襲来しました。新型コロナウイルスのパンデミックでした。


(後編に続く)


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