社名の通りツナガル株式会社のミッションは、人と人や、地域と地域とのつながりを創出し、関係をデザインすることにある。
機会を生み出し、出会いの輪を広げ続けるには、それをビジネスとして成立させ継続させる必要がある。ツナガルが志向する、ビジョンドリブンなビジネス。札幌支社の3名が、これまでの実践からその展望を語ってくれた。
渥美 資史
ツナガル創業メンバー。前職では上海支社立ち上げに従事。2015年入社、前職の海外の経験を活かしてグローバルコミュニケーション事業部を立ち上げ、官公庁・行政の事業推進・プロジェクトマネジメントに取り組む。2020年7月に札幌へ移住し、札幌支社の創立メンバーとして札幌支社長を務める。
森村 俊夫
2020年入社。札幌オフィス立ち上げから参画し、新規事業としてスタートしたオンラインツアーのメインディレクターを務める。ツナガルがこれまで取り組んでこなかった地域との関係値作りをメインに、企画営業からディレクションまで幅広く担当。
藤田 花
2022年入社。幼少期をドイツ、カナダで過ごし、毎日新聞社の記者として東北地域を担当。ツナガルへ入社後、新規事業におけるビジョンを言語化して世に発信してくことに従事し、体験デザインやコミュニティデザイン、出会いのきっかけ作り等に取り組む。
札幌支社の起こりはユニークだ。現在はすでにツナガルの中核拠点となっている札幌だが、立ち上げはわずか2年前。それも、縁もゆかりもない渥美が単身乗り込んで、ゼロから作り上げた。2年前とは、新型コロナウィルスが蔓延しはじめ、国内や海外の観光業が一斉にストップした頃。しかし、そんな逆境下だからこそ、渥美は新天地での挑戦を模索していた。
渥美「これは自分の性分なのかもしれませんが、普通の仕事を普通にこなしているだけでは、もう満足できないんです。自分のことを誰も知らない土地で、文字通りゼロからビジネスを立ち上げていくような成功体験を一度でも味わうと、困難な状況こそ自分が取り組むべきものに思えてくる。だからコロナ禍は、私にとってチャンスだったんです」。
渥美は前職で、中国でのゼロベースのビジネス展開を成功させている。27歳、言葉も文化も違う国で一人歩き回り、6年の滞在期間で数億の売上を作り上げた手応えは、何物にも代え難い。ツナガルのボードメンバーであり、前職では先輩後輩の関係だった竹林の言葉を借りれば、「渥美はファーストペンギンにならないと気が済まない、クレイジーな人物」。そんな風にして先を急ぐ渥美が、北海道の展開を模索していた時に出会ったのが、森村だった。
渥美「話の理解の速さ、人柄など、森村の実力はすぐに見て取れました。中でも注目したのは、バンドのマネージャーとして世界ツアーに帯同していた経験。不確定な要素が多く、ビジネスの形さえ定まっていない新規事業を立ち上げていく上で、その対応力やコミュニケーション力はまさに私がほしいものでした」。
森村「私はかつて、音楽業界でアーティストのマネージメントをしていました。現場で起こるさまざまなトラブルを瞬時に判断して、ライブを成功に導かないといけない。そのオペレーション能力やリスクマネジメント力は、そのまま今の仕事に役立っていますね」。
こうして渥美は森村という強力な部下を得て、札幌での事業創造に邁進していく。
札幌オフィス立ち上げ時の様子を語る渥美・森村と、興味深そうに聞き入る藤田。
ツナガルが主語になるビジネスへの転換
渥美は、新天地での展開にあたって、もう一つ自分にルールを課していた。それは、ビジネスモデルそのものを作り変えること、である。ツナガルはこれまで、旅や観光、文化交流を軸に、官公庁や地方自治体、民間企業に対して有効なソリューションを提案することで、ビジネスを発展させてきた。しかし渥美は、その先のあり方を探していた。
渥美「もともと事業会社をやりたいという気持ちはずっとありました。クライアントへのソリューション提案ではなく、自分たちが主語になるようなビジネスを作ること。我々が中心になって世の中に何かを投げかけ、それが社会貢献や価値になり、ビジネスにもなるという形を成立させること。それが、次のツナガルのモデルになるはずと考えたのです」。
クライアントを満足させるソリューションは提供できるようになった。会社としての基礎体力もついてきた。では、ツナガルがその先に行くにはどうしたらいいのか。ツナガルが実現したいビジョンとは? ツナガルが主体となって、世の中にもたらせる価値とは? ツナガルはここにきて、自社のビジョンと正面から向き合うことになった。
つながりを作り出すことで価値を生む。それをto Bソリューションとして提案していたのがこれまでのツナガルだとすれば、これからのツナガルは、自らが主体となってつながりを作り、その価値が結果的にビジネスを生むことを目指している
新規事業の最初の舞台に選ばれたのは、北海道の支笏湖。日本の中でも抜群の透明度を誇る湖で、カヌーで漕ぎ出せばその美しさに誰もが魅了される場所だ。しかしコロナ禍で観光業はストップし、地元の事業者も仕事が激減。そこで、オンライン上で体験をシェアする「LIVE Travelers」というサービスを構想した。とはいえ、人との繋がりもなければ確立された手法もない。森村はまず、足で稼いで地元の人たちとの関係構築に奔走した。
森村「物怖じせずに人の輪の中に入り、関係性を作るのは、マネージャー時代からの得意技。それに、プロジェクトを自分事として腹落ちさせ、気持ちを込めて接すれば、相手にも伝わるものです。そうこうするうちに、観光事業者が私たちのビジョンに賛同してくれたり、面白そうだと乗っかってくれるクリエイターと接点ができたりして、人の輪が徐々に広がっていきました」。
渥美の構想のもと、支笏湖でのライブ配信を実施したのは、森村が入社してからわずか10日後。遂行力とスピード感がツナガルのビジネスを特徴づけている ※写真は函館ツアー撮影時のもの
そして、LIVE Travelersで手応えを掴んだ2人が、福岡チームと連携して発展させたツナガルの新事業モデルが、NOMADO projectだ。
森村「大分県日田市とフランスのノルマンディーをオンラインでつなぎ、数度にわたって交流の機会を持ちました。国の違い、人種の違い、常識や文化の違い、それらがもたらす社会の壁を、つながることで乗り越える。そういったビジョンを僕らが伝えていくことで、地域の人たちにも理解が生まれ、思わぬ広がりに発展しました」。
渥美「深くつながるためには、深い体験と共感が必要です。ノルマンディーの人たちが日本の茶道や書道を知る。それだけなら文化交流の域を出ませんが、なぜそれをするのか、茶道や書道の持つ型がどのような意味を持っているかといった背景までを伝えることができました。市役所の方々からは、姉妹都市連携をしたいという声も聞くほどでした。私たちが主導して作ったものが、実際につながりを生み、価値を生む。その素晴らしさを、改めて実感できましたね」。
アイデンティティシフトを起こすつながりの創出をテーマに、過去の観光事業支援の経験やテクノロジーを活用して、人と人や地域を結ぶ
体験をデザインし、感動をシェアする。
こうして徐々に形作られていくビジョンドリブンの新事業を推進するために、欠かせない存在が藤田だ。藤田の前職は、全国紙の新聞記者。何かが起こっている現場に赴き、取材をして情報を整理し、広く世の中に伝えていくことを生業としてきた。ツナガルの新しい試みを外に向けてわかりやすく伝えていくことは、ツナガルのビジョンを補強し、その影響を証明していくものになる。
藤田「おそらく『未知の世界を知りたい』『異文化を体験したい』というのは、人間が持っている根源的な欲求なのではないでしょうか。だから、ツナガルが掲げている『人とつながることで価値を生む』というビジョンにとても共感したんです。でも、その良さは体感ベースのものですから、情報化したり言語化したりして人に伝えていくのは簡単ではない。ツナガルのビジョンをどう魅力的に翻訳し、ツナガルの社内だけでなく多くの人にとって意味のある活動として捉えてもらうか。そこに私の役割があると思っています」。
渥美と同様、森村も藤田も、札幌にはゆかりがない。外から来た、いわばよそ者。だからこそ、新鮮な目で地域を見つめ、その魅力を発見し、相対化することもできる。
森村「例えば、週末に家族で北海道内を旅行すると、国内では見たこともない景色が広がっていたり、アイヌ民族の文化に触れることができたり、素直に感動する体験がたくさんあります。この感情の高ぶりを、他の地域や他の国の人にそのまま伝えられれば、それだけで価値になると思うんです」。
藤田「国境を越えて、無理解や無関心を超えて人がつながることができれば、やがては戦争もなくなるかもしれない。ツナガルのビジョンを遠く先まで見据えれば、世界を変えていくことだってできるかもしれません」。
渥美「脈々と続く地域の営みがあり、その魅力を外部に接続して、気づいていなかった価値や言語化されていなかった価値を発見する。それは、人の生き方を豊かにしてくれるものだと信じています。ツナガルが主語のビジネスとして、そこに到達し、それを社会に広げていきたい。私たちはいま、ようやくスタートラインに立ったのだと思っています」。
ひとりから始まった札幌支社は、それぞれの専門性を持つ3名の連携により、2年で大きなうねりを生み出すまでに成長した。ツナガルのビジョンを実現する部隊が、次に見せてくれる景色に期待したい。
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