「持続可能性」「サステナブル」を耳にしない日はないほど日常的となったこれらの言葉。”働く”ということを考える上でも、注目している方は多いのではないでしょうか?内定者である私も、その一人でした。
そんな私が気になったのは、土屋鞄製造所で2021年秋に始動した「リユースプロジェクト」。ここで販売されたのは、お客様に愛用された鞄です。それを回収し、丁寧に修理やクリーニングを施して、新しい製品として新しいお客様の元に届ける。これがリユースプロジェクトです。
これは一見、持続可能な社会づくりの一環であるゴミの削減を目的としたサービスのように思われますが、実は別の目的がありました。
今回は、土屋鞄製造所が”サステナブル”というキーワードとどのように関わっているのか、プロジェクトを牽引されたコミュニケーション本部長の三木さんとコミュニケーション本部 お客様相談部長の笹田さんに話を伺いました。
※内容は木村が入社前の取材・記事になります。(2022年4月1日入社)
【内定者プロフィール】
- 木村 志乃(きむら しの)
筑波大学 社会・国際学群 国際総合学類 4年
国際協力に興味を持ち大学に入学。インドにてハンセン病患者の支援をするワークキャンプに参加、現地に住み込みで滞在し家屋の修繕や差別意識の調査等を行う。
「お客さまに長く愛され続けるために」から始まったリユースプロジェクト
(去年のメディア発表会で登壇する三木さん)
ーリユースプロジェクトが生まれたきっかけを教えてください。
三木:実はきっかけとなるものはいくつかありました。1つは、土屋鞄がこれまで取り組んできた、お客さまに“安心”をお届けするサービスを対外的に伝えきれていない部分がたくさんあるという課題でした。土屋鞄はお客様に製品をより長く使い続けていただくためのサポートに、昔から注力してきました。そこで培われたノウハウには、驚かされることが多く、当たり前のものとして埋もれたままにしておいてはいけないと思ったのです。
それから別のきっかけとして新卒採用で出会った就活生たちの声もありました。就活生の多くが、大量生産・大量消費にポジティブじゃなく、環境に対して配慮され長く使用できる製品を進んで選んでいると聞いて、若い世代のこのような意識に対して土屋鞄がやってきたお客さまのサポートは応えることができる。
なので、土屋鞄がこれまで続けてきた取り組みを、明確に伝えることが必要だと思いました。それが、ブランドの輪郭にもなります。
また、笹田も同じようなアイデアを持っているという話を聞いて、一旦棚卸しをしてパッケージングしよう、ということになったのです。
ー笹田さんのアイデアとはどのようなものだったのでしょうか?
笹田:土屋鞄製造所では、これまで『長く使えるもの』を企画・販売してきました。また長く使ってもらうためのサービスの一つ、アフターサポートも行ってきました。そんな中、長く使っていただくためにできることが、まだ他にもあるのではないか?自分がユーザーだったらどんなサービスがあるといいかな?と考える中で着目したのが、製品の手放し方です。
大切に使ってきた製品だけれども、ライフスタイルが変化してどうしようかな...と悩まれているお客様に何か選択肢を提供できないかなと。それで製品の引き取りという方法を考えました。
ーこれまで土屋鞄が取り組んできた「長く愛されるものづくり」の延長線上に生まれたものだったのですね。実際、このプロジェクトを実現するために苦労したことはありましたか?
笹田:いつどこで誰が引き取り、いつどこで誰が共感を得ながら販売するのか?という設計が一番大変でした。特に引き取りについてはお客様からの共感が得られるか不安な気持ちがありました。例えば、引き取りという回収方法ではなく、買取という方法をお客様は期待するのではないかというものです。
しかし、大切に使用してくださった思い出のこもった製品を、評価・査定したくない、できるものではないという気持ちが強く、引き取り協力者へのお礼として一律のお買い物券をお渡しする結論に至りました。
そんな中、設計の大きな支えとなったのがおよそ5000人の土屋鞄ユーザーから寄せられたアンケートでした。プロジェクトに好意的な意見が多く、背中を押されました。
三木:アンケートに多くのユーザーの方が答えてくださったのは、土屋鞄がこれまで大切にしてきたお客様とのコミュニケーションの積み重ねの結果でもあると思います。
帰ってきた鞄に新たな価値を込める
ー 土屋鞄職人によるリユース品の魅力はどんなところでしょうか?
三木:土屋鞄の修理職人は、見えない部分までもこだわり、お客様が使用している様子を想像して元の形を全くその通りに復元します。古い糸を抜いて、新しい糸を通すときにも、同じ穴にピッタリ通すほどです。元通りの形にして、お客様に返すためのこの技術とこだわりは土屋鞄の強みです。
お客様が鞄を修理に出す時に土屋鞄に期待しているレベルは、街の修理屋さんに出す時よりも高いはずです。その期待値に応えるために職人は、お客様の目には見えない細部にまで丁寧に修理を施します。これは大変なことですが、土屋鞄の職人はそれを楽しんでもいて、こんな職人は世の中にそう多くはいないと思います。
そのほか、リユース品ではエイジングさせた風合いを楽しんでいただけますし、新品の購入を検討されているお客様にとっては、従来の価格と比較して安価に製品を手にすることができ、お試しの機会となります。また、どのような手直しがなされたのかを記載した認定証もついているので、安心です。
(リユース品にお付けしているプロダクトレコード(認定書))
笹田:このキャンペーンは私たちの予想を上回る反響がありました。お客様から集まった鞄の総数は550点を超え、中にはお客様がお手紙を添えて鞄を提供してくださることもありました。お手紙に、「初めて買った鞄で捨てる気になれないから、土屋鞄の職人の手にかけて次の人の元に届けて欲しい」と書かれていたのが印象的です。キャンペーン中にリユース品の販売を担ってくれた童具店・中目黒では、販売初日のオープン前からお客様が並んでくださいました。
三木:小学生の時に土屋鞄のランドセルを使っていたという学生がリユース品なら手が届くかなと思って...とお店に来てくれたり、土屋鞄のランドセルを子供に購入したことのある方が今回は自分用にとお店に足を運んでくださったりすることもありました。当社のミッションでもある「時を超えて愛される価値」がまさに体現されているなと感じましたね。
リユースプロジェクトから「CRAFTCRAFTS(クラフトクラフツ)」へ
ーリユースプロジェクトのこれからについて聞かせてください。
笹田:昨年秋は、キャンペーンとして開催したリユースプロジェクトですが、5月から「CRAFTCRAFTS(クラフトクラフツ)」という名前でレギュラー化します。「クラフトクラフツ」は、自分たちの手で作り自分たちの手で修理することを意味する造語です。
2022年は2回の引き取りと、2回のリユース品販売を予定しています。3月末に専用HPを開設しました。今はまだティーザーサイトですが、5月には全公開となり、そこで改めて全てお知らせしますので、お楽しみに!
三木:皮革産業はどんどん雇用が失われていますが、私たちのこのような取り組みで雇用が増えて当社以外の職人の方々にポジティブな影響を与えられればいいなと思いますよね。
ー土屋鞄は今後サステナブルとどのように関わっていくのでしょうか?
三木:土屋鞄が「時を超えて愛される価値を作る」というミッションを掲げているからには、サステナブルはこれまで通り無視できないものです。そこは絶対に変わりません。
あとは、皮革産業、製造業を考えたときに、ものづくりに関わる者がアップサイクルプロジェクトのように2次流通のことも考えることで、作る責任や使う責任を果たしていくことは大切だと考えています。
いま先陣を切って私たちが取り組んでいることを、今後は他のものづくりに関わる企業の助けになれば、もしくは一緒に新しいことに取り組めればいいなと思います。サーキュラーエコノミーと呼ばれるような仕組みの真ん中に入れるような活動をしたいなと思っています。
製品の手放し方までもサポートするからこそ、お客様が安心して購入し使用することができる。土屋鞄にとって持続可能性は、これまでの「時を超えて愛される価値作り」の中で意識せずとも大切にされてきたものでした。今回の取材を通して私が、サステナブルな社会作りに土屋鞄とその一歩を踏み出したいと感じたように、この記事を読んでくださったあなたが土屋鞄で一歩が踏み出せそうだなと感じていただければ嬉しいです。