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土屋鞄は新卒で入社して今年で3年目の成田。
大人の女性に向けたシリーズ「Gusset code (ガゼットコード)」や、「"運ぶ"を楽しむ -THE FUN OF CARRYING-」など数多くのデザインを手掛けました。
仕事をする上で大切にしていることや、上司の嶋谷も交えてチームの話をしてもらいました。
【プロフィール】
成田 宙(なりた そら)
武蔵野美術大学造形学部工芸工業デザイン学科卒業。
大学時はテキスタイル専攻に進み、エンボス加工やプリーツ加工を主に研究。
土屋鞄は新卒で入社して今年で3年目。
革との再会とそのルーツ
ー学生時代には具体的にどんなことをしていたのですか。
成田:テキスタイルを専攻しており、布の分野の研究などをしていました。あとは、一部革を使用した鞄やアクセサリーを作って、アパレルショップに出店をするPOPUP活動をしたり、インターンで革のブランドで生産管理をしたり、多岐に渡って動いていました。
革と向き合うことで、革好きの両親の影響で革と触れ合う機会が幼少期から自然と多かったことに、改めて気付きました。家に革張りのソファがあったり、父がもともと革好きだったり。
それがきっかけで、自分の中で「将来的に革製品に携わりたい」という気持ちが芽生えるようになりました。
ー土屋鞄と出会ったきっかけを教えてください。
成田:土屋鞄は大人ランドセルでもともと知っていました。製品の魅力はもちろんですが、コンテンツやよみものなど、宣伝とは一線をおいた使い手に寄り添った暮らし方の提案が魅力的でした。
もともと自分でブランドを立ち上げようとしていて、やろうとしていたブランドにコンセプトが近かったのも決め手の一つです。
そして選考に進むにあたって、色々な方が本当に丁寧に対応くださって。ここならきっと気持ち良い人たちと一緒に働けると実感しました。
初めて手掛けたウィメンズシリーズ、Gusset code(ガゼットコード)
ー2020年秋に発売されたGusset code(ガゼットコード)。土屋鞄として久々のウィメンズシリーズを初めて担当し、相当なプレッシャーだったと思いますが、大変だったことや心がけていたことはありますか?
発売されたのは入社2年目の秋で、とても思い入れのあるシリーズです。難しかったのは、今までなかったターゲットに向けての製品化です。新しい層へのアプローチだったので、こんな人に届くといいな、と思う人の小物や服装は街中でチェックしたりしました。
集中すると視野が狭まってしまう傾向があるので、意識的に雑誌を見たり好きなWebサイトを見たりして、気分転換をしました。ゼロから作るので、切羽詰まって大変な時ももちろんありました。そんな時こそ、【ほうれんそう(報・連・相)】はこまめにするなど、コミュニケーションを細かく取ることに留意して進めていました。
チームで仕事をしているので、誰か一人の意見だけではなく、色々な考えが聞けたのは良かったと思います。
ーそして、成田の上司の嶋谷が登場します!
嶋谷:よろしくお願いします。今回僕は脇役に徹しますので(笑)
ー成田が入社して以来、同じチームとしてお仕事してるんですよね。
嶋谷:はい。成田はもともと自分のブランドを持ちたい志があったのもあり、常に高みを目指す姿勢が印象的でした。初めて任せるシリーズの型数としては多かったかと思います(笑)
でも、彼女ならきっと乗り越えることができると思い任せることにしました。
成田:(笑)でも、任せていただけた方が性格的にも合っていたので、与えられた貴重なチャンスだと思って頑張りました。
嶋谷:重視しているのは、デザインができるかよりも、何か「もの」に対して熱狂できるかどうか。それはファッションじゃなくてもいいんです。例えば文房具でもいいし、家具でもいい。熱狂できるものがあるかどうかは、生み出す熱量にとても関係しているんですよね。
成田は本当に革やファッションが好きなのが普段話しててもよく伝わるし、熱量を感じられた。
大変だったこともあったと思うけど、成田の強いこだわりがあったからこその仕上がりでしたし、期待を超えるものをきちんと形にしてくれたと思います。
作り手に寄り添い、伝え続けること
ー自分がデザインした製品が世に出て、嬉しかった反響はありましたか?
成田:ターゲットとしていたメディアに出られたことや、周囲から嬉しい声をいただくことがありました。それももちろん嬉しいことなのですが、何より嬉しかったのは自社の職人から「面白いもの作っているね!」という声をかけてもらったことでした。
経験を重ねていくと、知識はついてくるけれど、できるとできないの境界線が無意識に生まれてしまう。そうやって線引きしてしまうと面白いものって生まれないと思うんです。大切なのは、どうしても伝えていきたい部分を整理し、結果的に叶わなかったとしても、諦めずに伝え続けていくこと。
そして、作り手に希望を伝えるだけでなく、自分も作り手側になって考える。
良いものを一緒に作っていきたい気持ちを伝えることを大切にしています。
考えて歩み寄れば作り手もそれに応じてくれる。特に職人の遊び心シリーズは凝った技法を使っているので、寄り添って伝え続けることが大切だと実感しました。
そのような背景があったので、製作の段階で職人から声をかけてもらった時は、自分の思いが通じたのかな、と嬉しくなりました。
嶋谷:商品企画は外部から見ると、ここの部署で仕事が完結しているとどうしても見られがちなのですが、僕らはあくまで発信者です。企画の先には様々な分野のプロフェッショナルが形にしてくれるので、実は普段のコミュニケーションが仕事を進めていく上で肝なんですよね。
成田は一つひとつ周りに確認する姿勢をとりつつも、時に周囲に頼る力、また頼りきりではなく、自走していく力をバランス良く発揮していました。
土屋鞄は個人のデザイナーズブランドではないけど、一過性のトレンドを生み出したいブランドでもない。なので、普遍的な価値を見極め、お客様に届けたいメッセージを明確化する必要があります。身近で親しみやすい要素は残しつつ、唯一無二のこだわりを重視しているので、簡単に妥協しないほんのちょっとの姿勢で、製品の仕上がりが変わってくるんですよね。
成田:諦めずに作り手の立場になって伝えて、一緒に形にしていったからこそ、そのノウハウが次の職人の遊びコンテンツやSGHR(スガハラ)とのコラボなど、今に繋がっているのかな、と思いました。
嶋谷:成田にはこれからもどんどんステップアップしていって欲しいと思います。
ーチームで動く時に心がけていることはありますか?
嶋谷:商品企画チームはデザイナーだけで成立している訳ではありません。僕もデザイナーではないですし。デザイナーの他に、最初のコンセプトを決める人、プロジェクトのマネジメントをする人、価格設定をする人など色々な分野のスペシャリストが集まっています。
皆それぞれ大切にしたい思いがあるので、チームでやりながらも個々の力を最大限に発揮できるように心がけていますし、目指していきたいですね。
こだわりは持ちつつ、捉え方は何通りあってもいい
嶋谷:実はお客様や世間にどう受け取られるかというのもものすごく興味があって。雑誌などのメディアに意外な切り口で載っていると「こんな魅せ方があったんだ」と僕らも新たな発見があります。製品が世に出る前にはわからなかったことが蓋を開けてみたら予想外のところで反響があったり。
特にガゼットコードは、後になってじわじわと新たな切り口で浸透していった感触がありますし、次の企画のヒントにもなりました。
目にしたり、手に取っていただいた人の数だけ、受け取り方があってもいいと思うし、色々な捉え方ができる製品っていいなと思います。
成田:メディアなどの反応が、予期していなかった部分で見られると、嬉しくなりますね。
実際に使ってくださったり、伝えてくださる人のフィルターを通して様々なカラーや個性があって、私たちが勉強になります。
長く愛されるもの以外にも、運ぶこと以上の価値を
ー今後チャレンジしていきたいことがあったら教えてください。
成田:嶋谷とも話していましたが、運ぶ機能以外の新しいカテゴリーでの革の魅力を伝えていきたいです。ホームコレクションのように、鞄を使用している時としていない時のそれぞれの空間に対するアプローチに興味があります。
あとは使う人の気持ちの変化に寄り添った提案ですね。
よく鞄や小物を持っていて「気分が上がる」という感情は「良いもの」を持つと生まれるものだと思うので、その価値を生み出すのはもちろんのこと、さらなる付加価値をつけられたら面白いと思います。
購入していただけたら終わりではなく、人が持っている姿のその先、経年変化にさらなる付加価値を想像しながらデザインできたら楽しいだろうし、土屋鞄の暮らしの提案としての幅も広がるのではないかと思っています。
もともと季節や暮らしの提案を発信し続けてきた土屋鞄なので、製品自体にもよりメッセージ性が込められた世界観のものを提案できたら理想ですね。