前回に引き続き、製造業でDXを早い時期から導入し成功を納めたユーザー企業であるMipox株式会社の代表取締役社長 渡邉淳氏と、企業のDX化の推進を開発やコンサルティングでサポートするベンダー側企業となるthomas株式会社 代表取締役社長 広瀬和行のDX対談の第2弾をお届けいたします。
第1弾の対談記事はこちら
Mipox株式会社 「塗る・切る・磨く」技術をベースに製造業を行い、来年で100周年を迎える老舗メーカー。2011年からSalesforceを導入し、業績の急回復を果たすなど、DX化により大きな成功を収めた。
thomas株式会社 代表の広瀬はSalesforce社でトップセールスとして活躍後、thomas株式会社を2018年に起業。Salesforceをはじめとしたクラウドサービスなど、企業のDX推進をサポートするSI事業を行うベンチャー企業。
情報システム部、DX部のネーミングから出てくる差
広瀬:Mipoxさんは、導入の当時から情報システム部っていうのがあったんですか?
渡邉:なかったね。経営企画部があって、そこの人が半分やってるみたいな感じ。
広瀬:今は情シス部もあると思うんですけれども、会社によってはない会社もあると思うんですね。やっぱり情シス部は必要ですか?
渡邉:情シスはいらないね。やっぱり名は体を表すので、うちは、情シスじゃなくてDXで、その前はIT戦略室。
でも「トランスフォーメーション」をしなくちゃダメってことでDXにして、今はDXチームがインフラもネットワークもやってる。もちろんSalesforceだけじゃなく、他のERP、SAPもやってるし、他のSaaSの様々なこともやってる。
広瀬:確かに 「情シス部」というと守りのイメージはありますね。
渡邉:「トランスフォーメーション」だからね。だからこそ、失敗もできる。失敗してもナイストライっていう、風潮になる。情シスが〜って聞くと、まず名前変えたほうがいいですよって。結局、リミッターを作ってしまっている。僕らは「情報システム」を取り扱っているっていう、固い、守る、失敗は許されないっていうね。ちょっとチャラついた方がいいよって思う。
広瀬:最近だとデジタル推進部や、IT推進部なんかも多いですが、ネーミングでイメージもまた変わってきますね。どんな会社もDX推進部のような部門自体はあったほうが良さそうですね。
DXはベンダーの外部の力と社内の明確な目標が成功へと繋げる
広瀬:我々は、開発をする外のベンダー側の立場ですけれども、今のお話を聞いていると「DXの推進ができる体制がある」というところが、導入する時の大事なポイントなのかなと思いました。
基本的には、そういう体制がない企業が、DXを推進していこうと思った場合は、外部ベンダーを頼った方がいいとお考えですか?
渡邉:ハイブリッドかな。なんでかっていうと、thomasのようなベンダーがサポートしていくっていうのは大事だけど、あくまでもツールだと思うから。本来、その会社でどうしたいとか、こうしたいとか、業務をしっかり分かりながらやってくのが必要。上手くサポートしてくれる外部の力と上手く組み合わせるのがすごく重要かな。
広瀬:確かに、サポートしていく上でお客様の理想のイメージを聞きながら言語化していき、それを絵に表すとこうですか?というのを確認するフローから入らせていただくことが多いのですが、DXがすごく成功されてる企業様の傾向で言うと、これをしたいっていう要望を明確に持っていらっしゃることが多いです。ただ、やり方がわからないからっていうことで、実装するところを我々でさせていただくと、引き渡しがすごく上手くいくような印象ですね。
社員全員がアカウントを持ち様々なデータが確認できる社内プラットフォームへ
広瀬:導入当初からSalesforceって何が、どこまでできるんだろうっていう判断はついていましたか?
渡邉:2011年に導入をして、CRM/SFAだけじゃないって気づいたのが2013年くらい。カスタムオブジェクトでいろんなことができて、あれもこれもとやり始めて、これ行けるぞって思って全員に導入した。
広瀬:当時(Salesforce時代)の記憶を思い返すと、Mipoxさんってすごいなって思ったのがCRM/SFAの領域を飛び越えてプラットフォームとして使っているっていうところですね。ここがやっぱり他の会社さんとは違うかなって印象は持ってましたね。
渡邉:最初は営業ツールで導入していたんだけど、その後、当時のSalesforceの営業に「全員に入れます」って言ったら、ありがとうございますより先に「え?本当ですか?」って言われたんだよね。
製造業で全社員に入れるって、この人頭おかしくなったんじゃないかって、何するんですか?っていう話だったんだよね。全社員営業な訳じゃないですよね?っていうね。
でも、うちはプラットフォームに情報が溜まっていくとか、ここでコミュニケーションができるっていうひらめきがあった。なんでひらめいたかって、僕がシステム管理者の1人で、カスタムオブジェクトとかでこういうのやりたいなって自分で作れた。効率化が好きで、めんどくさがり屋の僕がたまたま実装できちゃったっていうのも大きなきっかけだったかな。ラッキーが続いた。そうじゃなかったら、「まあ、営業は使ってますけどね」っていう1ユーザーになっちゃってたのかなと思う。
広瀬:私も営業でSalesforce社に入った時、カスタムの自由度と簡単さに可能性を感じました。従来のシステム開発だと、色々ヒアリングして、コーディングしてシステムが完成して、でも使ってみると、お客様側からちょっと違うなと差し戻されることも多いですが、Salesforceのプラットフォームは、簡単に修正や追加ができるので、そこは素晴らしいところだと体感しています。
渡邉:うちで言うと、ITコストダッシュボードを見ると、Salesforceのアカウントが何個In useなのか、月額、どの部署が何アカウント使っていくらかっていうのがすぐに確認できる。通常は売り上げとか、利益とか受注とかフォーキャストとかフェーズ管理ばっかりだけど、僕らはバックオフィスでも結構データを入れてる。例えば、有給取得とか残業も出てくるし、生産量とか、タスクのオープンクローズとか経費とか。
広瀬:しっかりデータを入力、生成されてるからここまでできるんでしょうね。
渡邉:人事異動も、前まではチャターで入社しましたとか、退社しましたとかお知らせしていたけど、それも手間だった。だから、人事が人材のデータベースを処理さえすればシステム上で該当の社員は異動なのか、休職なのか、退職なのか確認できるようにした。思ったよりすごいでしょ?
広瀬:すごいですね。これ逆に、なくなっちゃったらどうなるんだろうなっていう。
渡邉:そうですよ。困ります。
広瀬:そうですよね(笑) これありきでデータが組まれてて、情報が構成されてるなっていう印象ですね。
100周年に向けて、働くことの価値観を変えていきたい
広瀬:Mipoxさんは、来年で100周年ということなんですけれども、変化をさせていきたいポイントなどはありますか?
渡邉:働くことの価値観を変えたいと思ってる。うちは、歴史が長いからこそ引きずってる価値観も実はある。
これは入社式で話したことなんだけど、「なぜ、多くの社会人は日曜日のサザエさんをみるとブルーな気持ちになるのでしょうか」って。
次が重要で、「お給料は、仕事という罰ゲームの対価ではない」っていうこと。特に昭和世代はそういう部分を持っている。「こうしたい」、「こうやりたい」じゃなくて、「自分を押し殺す」とか「こうやらなきゃいけない」っていうのが仕事だと思っている。でもそういう認識のままではこれから勝てないと思う。
昔は社長が「俺たちこうやっていくんだ」っていうのを示して、「これやりたまえ」っていう仕事だったでしょ。今は社長が先導して会社をリードしていくんじゃなくて、僕1人のアンテナだけじゃなくて、社員全員が「あれやりたい」「これやりたい」っていうのをバンバンテーブルに出していくのが重要だと思っている。仕事が10あるうち、10は無理でも3/10くらいは、「私これやりたいんです」っていうのを持って働いてもらいたいな。っていう。その気持ちを価値観に切り替えていくっていうのが僕の仕事ですかね。
広瀬:すごく伝わりました。私も働き出した頃は「楽しいものだと思うな」っていうのを刷り込まれて仕事してきた立場ではあるので、昔は仕事は罰ゲームだという感覚がありましたね。
渡邉:仕方ないよね、給料もらってるんだからってなっちゃうんだよね。だからその価値観を変えたいなって。
広瀬:Mipox楽しそうですね。渡邉さんのように、トップの人がそういう思考を持ってるっていうのは会社が変わる機会が絶対にあるっていうことだと思うので、すごく学ぶべき事だと思いました。
「敬語をやめたい」から生まれたフラット組織にもDXが一役
渡邉:あとは敬語をやめたい。年齢や勤続年数での壁を取っ払って、オープンでフラットなコミュニケーション文化を形成している。だからうちはあだ名を使ってるしね。僕は、ショーンっていうあだ名だけど、最近チャットではもうショーンとも呼ばれず、🐏の絵文字で呼ばれてる。(笑)
広瀬:すごいですね。これは促進してるんですか?
渡邉:促進してたら当たり前になった。僕が社長って呼ばれてた時は、「何かやりたいことある?」って聞いたら「僕はないです」って言うけど、僕がひつじのショーンで「何やりたいの?」って聞いたら、「僕はこんなことやりたいんですよ!」ってなるじゃない。コミュニケーションの変革をやっています。
広瀬:それもまたDXですね(笑) こういった遊び心があるから、固くなりすぎずにいいのかなっていうのはありますね。
渡邉:「お給料は仕事という罰ゲームではない」っていうのは、ここにも繋がる。あだ名を付けるのが目的ではない、僕らの手段であるっていう風に。
広瀬:カルチャーを醸成させるためにもデジタルを上手く使われてるんですね。