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認定NPO法人D×P理事長 今井 紀明さんと語る ー 10代の孤立と社会の課題、そして私たちにできること

みなさん、こんにちは。スパイスファクトリー株式会社でPublic Relationsを担当している前田です。この記事は、火曜日の朝10時に配信している「スパイスファクトリーのラジオ」で2024年7月2日に放送されたラジオ放送の情報をもとにまとめています。

今回お越しいただいたのは、大阪府の認定NPO法人D×Pで理事長を務めている今井紀明さんです。スパイスファクトリーはD×Pに収益の一部を寄付したり、パソコンを提供するなどの支援をしています。10代の孤立と向き合うD×Pの活動を通して見える社会の課題と、私たちにできることについて語りました。

認定NPO法人D×P理事長 今井紀明さんプロフィール

1985年札幌生まれ。立命館アジア太平洋大学(APU)卒。神戸在住、ステップファザー。高校生のとき、イラクの子どもたちのために医療支援NGOを設立。その活動のために、当時、紛争地域だったイラクへ渡航。その際、現地の武装勢力に人質として拘束され、帰国後「自己責任」の言葉のもと日本社会から大きなバッシングを受ける。結果、対人恐怖症になるも、大学進学後友人らに支えられ復帰。偶然、中退・不登校を経験した10代と出会う。親や先生から否定された経験を持つ彼らと自身のバッシングされた経験が重なり、2012年にNPO法人D×Pを設立。

スパイスファクトリーとの出会いと、D×Pの現在の活動

今井:D×Pという、今年で13期目のNPO代表をやっている、今井です。D×Pは10代の孤立を解決するというテーマで、「ユキサキチャット」というオンライン相談の事業と、大阪ミナミの繁華街「グリ下」(グリコ看板の下)近くで、「ナイトユースセンター」という50坪ぐらいの支援拠点を運営しています。

前田:流郷さん、私たちとD×Pさんの出会いのきっかけってなんだったんですか? 

流郷:私がD×Pさんを知っていて、うちの会社でも何か応援できたらということで、今井さん、CEOの高木さん、私の3人でまず話したことがきっかけですね。高木さんも「この活動を支援しない人なんているのかな?」っていうぐらいすごく共感してくれたんですよね。

前田:2023年の3月から月額法人寄付で携わらせていただいて、その後もナイトユースセンターの立ち上げの時にもPCを寄贈させていただきました。

今井:ありがとうございました。

流郷:あと、うちの周年イベントにもオンラインで参加してもらって、うちの社員にも、こんな社会課題があるんだって知る機会にさせていただきました。それがちょうど一年前ぐらいですね。

前田:それでは、早速今井さんにいろいろ聞いていきたいなと思うんですけど、まずD×Pの最近の取り組みや活動内容について、詳しくお聞きしたいです。 

今井:オンライン相談の「ユキサキチャット」は、いま1万3千人くらいまで登録が増えていまして(2024年7月2日時点の人数)。13歳から25歳の若者が登録していますけど、やはり物価上昇で親御さんに頼れずに一人暮らしをしている高校生とか、お母さんやお父さんが亡くなってしまった大学生とか、ヤングケアラーで介護をしている子とかの相談を受けています。特に困窮している子も多いので、食糧支援や現金給付支援も届けて、学業を支えています。それこそ、食糧支援が20万食を超えていて、現金給付支援はもう8000万円近くになっています。

流郷:20万食!

今井:そうなんですよ。

流郷:すごい増えてますね。

今井:そう。天満橋のうちの倉庫から、毎週2000食ぐらい届けています。

認定NPO法人D×P提供写真:食糧支援送付準備の様子

前田:それが「ユキサキチャット」。

今井:そしてもう一つ。いま「東横キッズ」って言葉が結構ニュースで聞かれてると思うんですけど。新宿の歌舞伎町にたむろしている家出や虐待を受けたりしている子どもたちが集まっています。大阪だとミナミのグリコの看板の下、それを「グリ下」と呼んでいて。うちはそこから5分ぐらいのところに50坪ぐらいの場所を借りて、支援拠点「ナイトユースセンター」を夜オープンして支援事業をやっています。

【繁華街にユースセンター|グリ下近く】10代を支援するD×Pとリノベーションのクジラが"居場所づくりのデザイン"で連携
認定NPO法人D×Pのプレスリリース(2023年7月6日 12時00分)【繁華街にユースセンター|グリ下近く】10代を支援するD×Pとリノベーションのクジラが"居場所づくりのデザイン"で連携
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000023.000053323.html


認定NPO法人D×P提供写真:ナイトユースセンターの様子

前田:夜オープンしているんですね。

今井:そう、それが結構大変で。グリ下の子たちが一日5、60人ぐらいは来ています。利用している若者の背景をみると72名のうち6割が虐待を経験しています。(本分析はn数が少ないため、あくまで参考値)一緒にご飯作ったり、遊んだり、相談を受けたりとかしているんですけど、結構やっぱり各地から来るんです。

流郷:そんなに各地から集まってくるんですね。

今井:そもそも住所不定の子が2、3割ぐらいいて、しかも小中高生もくる。やり始めてから、僕らもすごいびっくりしていて。結構深刻な状況がいま繁華街で起こっている。例えば、薬物のオーバードーズとか、あと性被害とか妊娠、性病とか、本当にそういう相談がありますね。「ナイトユースセンター」をオープンしたのが2023年の6月27日なので、ちょうど今一年経つんですけど、週2回・夜のオープンだけでもう5000人近くが利用してるんです。


認定NPO法人D×P提供写真:ナイトユースセンターの様子

前田:週2回だけで5000人!

今井:本当に大変なので、いまはスタッフも10人以上雇用していて。オープンの日以外は、一緒に病院に行ったりとか、福祉の相談窓口に行ったりとかして、サポートしています。

流郷:すごいですよね。本当に一人一人のケアが素晴らしいなって、毎回聞いてて思うんですけど。

今井:そもそも僕らが支援を始めた時には、グリ下の子たちを支援するプレイヤーはほとんどいませんでしたし、自治体の支援策もない状況でした。警察は補導するって意味で動いていましたが、それだと逆に子どもたちからするとすごい不信感につながってしまうし、相談できる人がいなくて、夜の仕事や犯罪に巻き込まれたりするケースが多くなってしまう。

流郷:最近ニュースを見ても、若い世代が関わった犯罪が増えてきているって、感覚値でもすごく感じますよね。

今井:なので、なるべく僕たちもさらなる問題解決に向けていろいろ動いていて。実は中央区長がうちの提言を伝えてくれたみたいで、先日大阪市長と府知事にも提言できて、それがきっかけでやっと自治体も動き始めたみたいです。

子どもたちはなぜ孤立してしまうのか

前田:子どもたちが孤立してしまう原因って複雑だと思いますけど、主な原因ってどこにありますか?

今井:やっぱり不登校ってのが、まず一つのこの繁華街の問題で言うと大きいなと思っていて。なぜかというと、少子化にもかかわらず、不登校が過去最多の数になって、小中高生で36万人というデータになってきています。この数って学校を30日以上欠席している子なので、30日未満とか保健室登校とか長期欠席者みたいな数って含まれていない。だから、それを含めたら倍ぐらいの数になっているって言われてます。虐待の相談件数や自殺の件数も多いですし。

前田:かなり深刻ですね。

今井:あと子どもの困窮についてのオンライン相談って、まだ数が少ない。子どもたちは、福祉制度も知らないし、知ってはいても使えない時もあります。また、電話相談とか窓口にも行くっていう発想はない。だから何重にも壁があって、リーチできていない。だから日本の子どもたちを取り巻く環境っていうのがいろんな観点で悪化し、対応策が打てていない状況です。
 
流郷:サポート体制が社会になかったっていうのが結構不思議ですね。日本って、割とセーフティーネットがしっかりしていると思っていたので。

今井:確かに日本って保険医療にしても生活保護もしっかりある。でもそれを使うための距離が遠いというか、特に子どもや若者たちにとってはすごく遠くて、アクセシビリティが低い。いじめの相談はオンラインであるけれども、福祉的な相談っていうのは少ない。だから「困った時になかなか助けてって言えない社会」なのだと感じます。

前田:親以外に相談できる人がいるっていう前提が、社会にないのかもしれませんね。子どもは親が育てるものみたいな思い込みが強くて。

今井:子どもたちにとっての「社会資源」がいまはないんですよね。こないだ神戸女学院の内田樹先生と話したんですけど、戦後はまだ子どもは地域で面倒を見るとか、預けあってご飯を一緒に食べるといった相互扶助があったけれど、それが高度経済成長を経てなくなってしまった、と。だから子どもたちが「助けて」っていえる環境をいかにもう一回作り直すかを我々はしなきゃいけないと思っています。

流郷:一方で大人たちについても、女性もどんどん活躍して働きましょうって政府が号令をかけているから、子どもの孤立ってさらに深刻。だからこそ、D×PさんのようなNPO法人の存在って本当に大事だと感じますね。

継続的な長期視点のサポートで状況を克服していく

前田:D×Pのサポートを受けて孤立を克服した事例って、あったりしますか?

今井:ありがたいことに本当にいっぱいあって。例えばユキサキチャットだと、6ヶ月以上食糧支援でサポートした方の4割ぐらいがいま学業継続していて、2割が支援制度につながって、2割が就職したといった割合です。それに大学卒業して就職した子が、うちの寄付のサポーターになってくださったりとか。


認定NPO法人 D×P提供画像:サポート提供後のアンケート調査(n-149)

前田:めちゃくちゃいい循環ですね。

今井:ありがたいし、自分が担当していた子が活躍してる姿を見るのはうれしい。あとは、精神疾患の当事者になって苦しんでいた子が、ちゃんと生活保護に結びついて、安定的に生活ができるようになったりとか、障害年金制度を活用して働けるようになった子もいたりします。

流郷:そういったサポートの期間は、どれぐらい時間をかけるものなんですか? やっぱり長いんですか?

今井:D×Pのサポートの期間は、長いです。他のオンライン相談のサービスだと30分や45分でいったん区切って終わるところもあるみたいですが、、うちの場合は一か月以上続くのが6割、です。現金給付や食糧支援をしている子に関しては、結構長くサポートしていく。1年以上継続してサポートしている方もいます。


認定NPO法人D×P提供画像

流郷:虐待を受けている子どもって、大人への信頼がそもそもなかったりすることもあると思うんですけど、それも頻繁にコミュニケーションを取ることで解消していったりするんですか?

今井:そうですね。オンライン面談をして、継続的にサポートしていきますね。あとはD×Pの場合、一社だけで支援しようとしないという方針を立てているので、140近い全国のNPOとか、あとは自治体も30団体ぐらいは連携していて。生活保護とか制度につなげるべき時は同行支援が必要ですけど、これは僕らだけではできないので、全国各地のNPOさんに一緒に行ってもらったりしています。やっぱりそうしていかないと根本的な支援にまでつながらないんですよね。

流郷:組織と組織がつながることで、さらなるパワーを生み出すっていうすごい。さすがだなと思います。

今井:アメリカでは、これは「コレクティブインパクト」って言われますよね。ひとつのNPOが支援できることってかなり限られています。例えばNPOや自治体も対立をするのではなく、協力していくべきっていうのは、創業以来すごい大切にしてきたことですね。

前田:逆に支援が足りないとか、悔しい思いをした経験とかってあるんですか?

今井:結構あります。例えばオンライン相談で言うと、支援を受けた子が「ユキサキチャットの支援が良かった」ってことをTikTokで上げてくれて、それは良かったんですけど、1500いいねぐらいついてめちゃくちゃバズったんですよ。そうしたら4日間で月間の相談をはるかに超える相談量が来てしまって。

流郷:それはサーバー落ちそう。

今井:だから新規相談を停止しなきゃいけない状況になって。相談のキャパを一瞬超えると、対応できなくなったり、返信が遅くなったりしてしまうのは悔しいですよね。

いま私たち一人ひとりにできることとは

前田: 10代の孤立の問題に対して、私たちができる具体的なアクションって例えばどんなことがありますか?

今井:大前提として、まずは「子どもをちゃんと育てる」「地域でちゃんと育てる」って意識を社会に浸透させていくのは大事なこと。なので、政策や選挙を通じて誰もがそれに関わっていると言えますよね。また政府や民間法人がアクションできていない領域を、NPO法人、非営利組織や非営利型の会社が担うので、そこでボランティアするとか、あるいは寄付をするのも一つのアクションです。うちも予算の84%は寄付で賄っていますし、寄付があることで政府に提言を求められたり、社会を変えるアクションにつなげられていますので。

前田:私たちも法人月額寄付をさせていただいていますけど、私もスパイスファクトリーが月額寄付したのをきっかけに、D×Pさんを初めて知って寄付しました。10代の孤立の問題をニュースでたくさんみていたので、実際のアクションにつながったんですけど、それが自分でもかなり驚いてて。普段あまり寄付をする方ではないので。

今井:それは超うれしいですね。

流郷:そうですよね。寄付文化が日本には根付いてないって言われるし、私も社会的課題には関心があるけれども、あまり寄付はしなくて。私も実は、個人寄付をしたのはD×Pさんが初めてなんですよ。その辺りの課題について、次回語りたいですね。

次回はD×P 今井さんと日本のNPOの信頼度や寄付のあり方などについてお話ししていきます。
後編もどうぞお楽しみに!

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