教科書編集、デジタルコンテンツ企画、高校教諭…すべての経験がライフイズテックにつながった。教材コンテンツディレクターとして活躍する矢野が考える、これからの教育に必要なこと
「中高生ひとり一人の可能性を一人でも多く、最大限伸ばす」をミッションに掲げ、2010年の創業から次世代デジタル人材育成を手がけるEdTech企業、ライフイズテック。今回は教材コンテンツディレクターとして「Life is Tech ! Lesson」を始め、ライフイズテックが手がけるサービスの教材・カリキュラムの開発・制作を担当する矢野洋子に話を聞きました。
Profile
矢野洋子(Yoko Yano)
東京大学大学院 教育学研究科卒業後、新卒で東京書籍に入社。中学生向けの数学教科書編集に携わった後、エムスリーにて、医療関係者向けのコンテンツプロデューサーとして活躍。その後、教育に深く関わりたいという思いから教職を取得。2022年にライフイズテックに入社後は、教材コンテンツディレクターとしてカリキュラム開発・制作を統括。
「数学が好き」という思いから教育の道へ
ー まず、矢野さんが教育に興味を持ったきっかけを教えてください。
学生の頃から数学が好きで、「もっと数学の世界を深く知りたい」と思い、大学では数学を専攻。「この面白さをたくさんの人に伝えたい」と思い、教育というものを学問の側面から学ぼうと、大学院で教育課程に進みました。教育の世界は知れば知るほど面白く、どんどんはまっていきましたね。
大学院卒業後は、東京書籍という教科書の出版社に入社し、中学生に向けた数学の教科書編集に3年ほど関わりました。学習指導要領がほぼ10年に一度改訂されるため、教科書も学習指導要領変更と、その間の期間である4〜5年に1度変えるのが慣習になっています。私が入社した時は、ちょうど学習指導要領改訂のタイミングだったので、いちから教科書に関わることができました。
新しい教科書を出版するまでのプロセスは長く、最初からいきなり紙面の編集に入ることはありません。使用実態調査や教員へのヒアリング、新しい学習指導要領の理解など、長期スパンで進める一大プロジェクトです。その中で、私は教科書のデザインも担当。生徒が理解しやすいようにするため、全体的な変更を実施しました。
しかし、毎回長期のプロジェクトだからこそ、編集長になるには最低でも10年はかかると感じました。自分の力をさらに伸ばしていきたいと思い、教育に限定せず「わかりづらいものをわかりやすく伝える力」を身につけようと考えるようになったんです。
そこで選んだのがエムスリーでした。医薬品情報という専門的な内容を、わかりやすく正しく医療関係者に伝えるスキルを身につけたいと思ったんです。コンテンツディレクターとして、記事や動画などのデジタルコンテンツを短期で企画・展開する経験ができました。媒体も対象もスピード感も、前職とはまったく違い、とても勉強になりましたね。
そんな環境でも、ずっと数学への関心は持ち続けていました。また、医薬品は表現上のガイドラインが厳しく、公開できる情報や使える言葉が限られます。そのため、「医療業界に特化したスキルになるかも」という懸念が徐々に強まりました。大学院で教育学を学んだ日々はかけがえのないものでしたし、教科書編集のためにじっくり学習指導要領に向き合ったことも楽しかった。「やはり教育が何より自分に向いている」と思うようになったんです。
ただ、東京書籍では、先生方の授業を見て気になることがあっても「自分は授業をしたことがない」という負い目がありました。再び教育の道を選ぶなら、そんな思いを抱えたままでは嫌だと思ったんです。そこで、教科教育だけでなく全体像を理解するためにも、教員免許を取得しようと決めました。
2年間かけて教職を学び、実習期間を経て、中学・高校の数学の教員免許を取得しました。実習を始めた頃は、中学生の前に立つだけで緊張してしまい、自分のことで精一杯でした。しかし、慣れてくると生徒とコミュニケーションを取りながら授業を組み立てられるようになりました。最後には「多様な考えが出て、生徒が自分の意見を考えて発表できる」という理想の姿が実現でき、とても嬉しかったですね。
ライフイズテックからは、教育への本気度が伝わった
ー 教員免許を取得したことで、先生の立場も理解できるようになったのですね。
教員免許取得後、東京の私立高校で、1年間常勤講師として働きました。しかし、長期的なキャリアを考えたときに、より自分の強みを生かしつつ、課題を補っていきたいと思ったんです。一般的には「数学が得意=ITも強い」というイメージを持たれがちですが、私はそうではありませんでした。しかし、IT分野は今よりもっと重要になるからこそ、早いうちに挑戦しておくべきだと思ったんです。
ライフイズテックと出会ったのは、そんなときでした。ディズニーの世界を楽しみながらプログラミングやクリエイティビティをオンラインで学ぶことのできるプログラミング学習教材「テクノロジア魔法学校」や中高生向けのIT・プログラミングキャンプなどのサービスを知れば知るほど、心から「わくわく」したんです。私は、子どもが主体となって学ぶ上で「わくわく」という感情が必須だと考えていますが、これまでの教育ではあまりその点が重視されていなかったように思います。その点、ライフイズテックは「中高生ひとり一人の可能性を一人でも多く、最大限伸ばす」というミッションを本気で目指していることがよく伝わったんです。すぐに入社を決め、2022年4月にジョインしました。
チームのランチ会
入社当初は、中学校・高校向けプログラミング学習教材「Life is Tech ! Lesson」を担当。すでに50万人のユーザーがいるサービスのため、現状の内容をブラッシュアップしていきました。2022年7月からは、学習塾向けの新プロダクト「情報AIドリル」の教材ディレクションを担当しています。教科書編集は、現行の教科書や編集員の先生に作成いただいたものをベースにどうアレンジを加えるかを考えますが、今は社内でゼロから作っていかなければいけないので、これまでのスキルを総動員しています。とくに、教員時代に自分で問題を作った経験は、そのまま活かせていますね。
常に学習者の視点に立ち、情報教育の重要性を伝えたい
ー どのような体制で教材ディレクションを進めているのでしょうか?
学習塾向けプロダクトのカリキュラムづくりを担当するのは、おもに私と正社員1名です。特定の人が手がけたほうが統一感が出るため、私が全体を管轄し、ダブルチェックやレビューをもう一人のメンバーに任せています。反対に、問題解説はメンバーに作成してもらい、私がチェックするという体制です。
今のチームは、バックグラウンドがそれぞれ違います。もう一人のメンバーは、スイミングスクールのインストラクターとして子どもへの指導経験があり、高校も情報系専攻だったので、IT知識が豊富なんです。
教材ディレクターになるために、先生として学生に指導した経験は必須ではありませんが、「学習者の視点に立つ」姿勢は必要不可欠です。「どういう風に伝えれば受け手にわかってもらえるか」を常に意識し、教材や授業の構成を考えられる人が活躍できると思いますね。また、学習者に身につけてほしいスキルを特定し、そのためには何が必要かを考え、問題を組み立てるスキルも必要です。
あとは何より「情報教育に携わりたい」という思いが大切だと思います。強い課題感というより、「これからを生きる人たちには、日々の暮らしの中で情報を整理して活かす力を持っていてほしい」という感覚でしょうか。ライフイズテックはスタートアップなので、「言われてからやる」のではなく、「自ら必要なものを考えて動く」ことがすべての職種に求められます。個々人が興味のある分野をインプットした結果、チーム全体が強くなるという状態を目指していければと思いますね。
ー 最後に、今後の目標を教えてください。
チームとしての総合力を上げたいと思っています。というのも、情報は他教科との関わりが大きいのが特徴です。英語はプログラミングなどで、数学はあらゆる場面で活用します。最近、社会科の経験があるメンバーがグループに新しく入ってくれたおかげで、知的財産権や著作権などの法律を、生活でどのように生かすかという視点が加わりました。今後は属人的にならないよう、チームで知識やノウハウをシェアして貯めていき、より良い形にしていきたいと思っています。