ライフイズテックは新たな資金調達を行い、事業をさらに成長させるフェーズに突入する。そして今回の資金調達は、「インパクト投資」という新たな形で成し遂げられた。ライフイズテックがこれまでにない資金調達手法を選んだのは、なぜなのだろうか。その理由について、今回の資金調達に深くかかわった3人のメンバーに語り合ってもらった。
(ライター:@qris_)
<インタビューメンバー>
代表取締役CEO
水野 雄介
1982年、北海道生まれ。慶應義塾大学理工学部物理情報工学科卒、同大学院修了。大学院在学中に、開成高等学校の物理非常勤講師を2年間務める。大学院修了後、人材コンサルティング会社を経て、2010年7月 ライフイズテック株式会社を設立。
取締役CFO 兼 Impact Officer
石川 孔明
1983年愛知県生まれ、豊田高専・アラスカ育ち。名古屋大学大学院環境学研究科を卒業後、多国籍企業のグローバルM&A、非営利組織の事業評価・資金調達等に従事した後、2016年からライフイズテックへ参画。社会的インパクトのマネジメントや資金調達、事業計画策定を担当。
経営企画本部長(当時)
信原 淳
1979年、広島県生まれ。一橋大学商学部を卒業後、あずさ監査法人に入所。法定監査とIPO支援業務に従事し、2年間のシリコンバレーオフィス駐在も経験。外部からサポートするだけは飽き足らず、スタートアップの一員として世界にインパクトを与えるべくLife is Tech !にジョイン。戦略策定、資金調達、財務経理、社内体制構築等に従事。
重視するのは、その企業が未来や次世代に何を残すのか。「インパクト投資」という新たな投資の形
<信原 淳(以下、信原)> 今回ライフイズテックは、「インパクト投資」という新たな形で資金調達をしました。おそらくこのインパクト投資という言葉自体、あまりなじみがない方も多いと思います。
<石川 孔明(以下、石川)> 「インパクト投資」とは、未来や次世代に良い社会や環境を残そうと事業を展開している企業に投資することです。こうした企業を対象として、経済的指標以外も評価して投資しましょうという動きが近年、一部の投資家のあいだで出てきています。
<信原> 最近ニュースでも少しずつ目にするようになってきましたね。どうして今、注目が集まっているんでしょうか?
<石川> 投資の起源をさかのぼると、もともとは大航海時代に「この船にお金を預けたら、香辛料をたくさんもって帰ってきてくれて儲かるか」とみんなでお金を出し合ったところから始まっています。莫大な冒険の費用を分担して負担する代わりに、うまく行けば分け前をもらうという仕組みですね。
こうしてほぼ純粋な経済的動機ではじまった投資が、20世紀にはいってちょっと変化します。キリスト教的な文化背景をもつ一部の投資家が、武器やタバコ等に関連する企業への投資を避け始めました。「教義に合わない活動をする企業には投資しません」と。
最近よく聞く「ESG投資」は、こうした文脈のうえで発展しました。大ざっぱにいうとESG投資とは「環境、社会、ガバナンス(企業統治)」を重視する投資のことで、今では世界の全投資マネーの4分の1、約2,600兆円がESG投資だといわれています。
<信原> 「悪いことに加担している会社に投資するのはやめよう」、「なるべく環境や社会に配慮している会社に投資しよう」という流れが加速しているんですね。直近では、石炭関連など二酸化炭素の排出量が多い事業から、投資マネーが引き上げるといった動きが話題になりましたね。
<石川> 最近はさらに一歩進んで、「悪いことをしてなさそう」だけではなく「環境・社会に良いことをしている」企業をサポートしたいと思い始めた人たちが、インパクト投資に注目し始めています。
<信原> 環境や社会にとって「悪いことをしていない」というネガティブな視点よりも、未来や次世代の社会のために「良いことをしている」というポジティブな視点で投資先を選ぶようになりつつあるんですね。ただその「良いことをしている」かどうかという視点で投資先を評価することは、非常に難しいですよね。
<石川> 「社会に良いことをしている」といっても、何を基準に「良い」といっているのか明確ではありませからね。
「良いことを評価する」は難しい。インパクト評価を実現するために必要だと感じたこと
<水野 雄介(以下、水野)> だからこそライフイズテックは今、「良いこと」を指標に落とし込んで評価する「インパクト評価」をやろうとしているわけです。これまでにない取り組みになるので、NPO(非営利組織)のインパクト評価に携わっていたこーめい(石川)に参加してもらうことにしました。インパクト評価の動きは会社のファイナンスにも必ずつながってくるはずなので。
<石川> 財務諸表だけでなく、非財務情報をあわせて企業を評価する流れはスタンダードになっていて、ここに「社会的インパクト」の要素がこれからはいってくるでしょうね。既にインパクト投資に特化した投資信託も登場していますし。
非営利組織の資金調達、つまり寄付集めを担当していた際に、事業の成果を数字で判断・評価できないところがとても面白いなと思いました。投資とは逆で、寄付だとお金は1円も戻ってきません。となれば、自分が投じたお金がどんな社会の変化につながっているのか気になりますよね。
でも、非営利事業の成果は財務諸表には表れません。寄付者はお礼状を受け取ったりして、それはそれで素敵なのですが、「その寄付が社会にどう影響したのか」はちょっとよくわからない。感謝されていることは分かるけれども、本当に気になっているのはその先なのに・・・。
<水野> 投資した人が気にしている部分がカバーできていないんですね。それに気付いた時に、どのようなアプローチをしたんですか?
<石川> ある企業が「世代間の貧困の連鎖」を断ち切ることを目的に、都内の児童養護施設の進学率を上げるプロジェクトを立ち上げたときには、進学率を上げるためにどんな支援が効いて、子どもたちどのような道を歩んでいるのかを徹底的に調べ、事業の担い手と資金の出し手にフィードバックしました。
そもそもなぜ進学率を上げるのかというと、貧困の連鎖が起こりやすいのが児童養護施設だったからです。様々な議論がありますが、やはり生涯年収に大きく影響するのは学歴です。ざっくりいうと都内の大学進学率は平均で約50%なんですが、児童養護施設だと10人に1人、およそ10%の子どもしか大学に進学できないのが現状でした。
あまり知られていませんが、施設のサポートあるのは原則18歳までで、その後は施設を出て独り立ちしなければなりません。なので卒業後は就業する人がほとんどで、本人に進学意欲があっても、経済的事情から大学進学を諦めざるを得ない構造がありました。
もし進学率を上げることで、親族や社会からのサポートが届きにくい子どもたちの機会平等が実現できれば、将来の経済的環境の改善に貢献できるのではないか。そんな想いのもと、大きな額の寄付を得て、実績ある非営利組織が取り組んだ画期的なプロジェクトでした。
僕は第三者の立場からインパクトを測定して、非営利組織と投資家(寄付者)にフィードバックし、事業の改善やさらなる支援へとつなげてもらう役割を担っていました。あなたの貢献がこのような形で社会に影響を与えましたよと、資金の出し手に「お金と社会的なリターン」を伝える役割です。
インパクト投資と評価は、理想の社会を実現するミッションからブレないための一手段
<信原> ライフイズテックでは、どのようにインパクト評価を進めていく予定ですか?
<石川> まだまだ会計のようにスタンダードが確立されていないため、様々なインパクト評価の手法の是非が、世界中で議論されているという状況です。なので、これを当てはめれればOKというものはありません。議論を参考にしつつ、投資家と連携してインパクト評価のフレーム自体を改善していく段階かなと思っています。
ただライフイズテックの場合、「中高生ひとり一人の可能性を最大限伸ばす」とビジョンが明確なので、インパクト評価はしやすいですね。一見するとプログラミングの技術を持ち帰る場として見えがちなキャンプですが、同年代の仲間たちや大学生メンターとの交流の中で、ものづくりの楽しさとか、思い描いたものを形にしていく喜びとかを感じてほしいと思って実施しています。
なので、キャンプ後にヒアリングやアンケートを実施して、子どもたちの価値観や行動がどう変化したかを、各事業ごとに丁寧にリサーチします。
<水野> 実際に、スクールの卒業生が大学生になってメンター(中高生をサポートする側)としてライフイズテックに参画してくれたり、企業に就職して活躍したり、起業したりと、ライフイズテックと出会ったことで、いろんな波及効果が生みだされているよね。
<石川> そのような未来につながる波及効果が可視化できるのがメリットなのですが、インパクト評価は「投資家に約束した以上、説明責任を果たすためにしなければならない仕事(つまりコスト)」として捉えられがちです。
<信原> 確かに投資してもらった以上、報告をしなければならないという説明責任はあります。
<石川> 僕はインパクト評価はコストではなく、R&D(研究開発)だととらえるべきだと思っています。インパクト評価の本質的な意味を考えれば、評価をしたほうが事業は良くなるんですよ。手前味噌ですが、ライフイズテックはうまく評価を事業に活かしているなと思います。
例えば、オンライン教材開発の背景には「場所や時間を問わず学びたい」という子どもたちや親御さんの声が活かされています。これって自分たちの事業と顧客の声をきちんと評価した結果ですよね。こうしたアクションができるのはやはり、中高生の可能性を伸ばすという明確なミッションがあるからだとも思います。
<信原> 僕は経営企画として戦略を考える際に、「なんで僕らは今この仕事をしているんだっけ」と立ち返ることが多いんです。僕らは中高生の可能性を伸ばすための事業をしているんだから、このビジネスはやめようとか、ここが足りないから追加しようとか、ミッションがビジネスをブレさせない指標にもなっています。
<水野> 会社が掲げたミッションからブレないことが、今回のインパクト投資の大きなテーマなんですよね。
今回の動きでは非常に多くの人を巻き込んでいますが、僕はその中で「なぜNPOとしてスタートしなかったのか」という質問を多く受けました。確かに会社が目指す社会的意義からみても、ライフイズテックはNPOとして発足してもよかったわけです。それでも僕らの場合は株式会社として発足し、受益者から対価をいただく構造をつくったほうがサービスの質があがるだろう、また社会へ広がっていくだろうという考えがありました。
ただし株式会社の場合、ミッションに共感しない外部株主が大半になれば、利益のみを最優先するようになってしまう可能性もあります。そもそも僕らは、中高生の可能性を伸ばすためにこの会社をつくったのに、それを株主の意向でブレさせることだけはしたくないわけです。
おそらくこれからこのミッションと株主の意向との間で悩む会社も増えてくると思うんです。だからこそインパクト投資を通じて、ミッションからブレるような事態をおこさせないようにしたいし、僕らがその事例のひとつになりたいと思っています。
<信原> 「ミッションからブレてしまうと経済的にも成長できない」と評価されるくらい、ミッションと経済的利益の両輪を実現する事例を作っていきたいですね。
<石川> それはインパクト投資が広まるかどうかにおいて非常に重要なテーマですね。ミッションに基づいたインパクトを追求する企業が長期的に発展している、という事例が増えていくといいなと思います。
良いことをしている会社でいたい。良いことをしている会社に入りたい。インパクト投資プロジェクトを動かしたメンバーたちの想い
<信原> ライフイズテックが今回とった「インパクト投資」という資金調達が、社会的に注目をされていることは分かりました。とはいえ日本ではまだ前例が少ない状況で、このような形での資金調達を考えた理由はなんだったのでしょうか?
<水野 > インパクト投資での資金調達を考えたきっかけは、僕が今の時代に、お金がお金を生み出し過ぎて、お金の価値が高くなりすぎているという危機感を抱いていたからです。資本主義を否定するわけではありませんが、お金の価値のバランスが崩れているんじゃないかと思っていて。
人が生きていくためには、本質的に人が必要だと思うものが投資などできちんと評価され、価値が再定義されたりアップデートされたりする必要があると思っています。そしてこれからは、本当に良いことをしている会社に人やお金がつきやすい時代が来るんじゃないかと感じていたんです。なにより、そうした価値観でライフイズテックを運営していきたいという想いがありました。
ただこの価値の再定義、アップデートをするためには、社会的なリターンに期待を寄せ投資してもらう必要があります。だから前職で非営利事業のインパクト評価をしていたこーめい(石川)を、「一緒に働かない?」と口説き落としました。こーめいは前職の時からライフイズテックのファイナンスも手伝ってもらっていたので、安心して任せられるなと。その後、のぶさん(信原)にもジョインしてもらいました。2年前くらいですかね?
<信原> 2018年1月入社なので、だいたいそのくらいです。
<水野> のぶさんは元々、前職のあずさ監査法人時代にライフイズテックの監査を担当してくれていた人だったんです。ライフイズテックだけでなく、大手航空会社の再上場やファッション通販サイト運営会社の上場を担当していた、いわばスーパーエース。そんなすごい人に会社の仕組み作りに取り組んでもらいつつ、今回のインパクト投資による調達を中心的に進めてもらったわけですが……。そもそもなぜ、あずさのスーパーエースがライフイズテックに来てくれたんですかね(笑)?
<信原> いやいや、スーパーエースなんてとんでもないです(笑)約14年あずさ監査法人にいて、ベンチャーから大企業まで、いろんな会社のIPO支援や監査を経験させてもらいました。アメリカのシリコンバレーにも2年行って、一通りのことはやらせてもらったなと思っていました。
転職エージェントに相談しつつ、ベンチャーで働いていたり投資系の仕事をしている人にいろんな会社を紹介してもらったこともありましたが、なかなか自分の中で最重要視していた「良いことをしている会社にいきたい」という基準にあう会社が見つからなくて。
この基準って、思いのほか意図が伝わらないんですよね。特に転職エージェントの方々に説明するのが難しくて、「良い会社ですよ」と紹介されるのは年収が良いとか、海外経験をいかせる外資系の会社ばかりでした。監査法人の仕事も好きでしたし、恵まれた環境だったので、僕が思う「良いことをしている会社」でなければ転職しようとは思わなかったんです。
ライフイズテックを意識したのは、エージェントから「どういう会社が良い会社なんですか?」と聞かれた時に、例えばで出していたのがライフイズテックだったからでした。そういえば良いことをしている会社をあちこちで説明する際にライフイズテックを例として挙げているなと思ったときに、「あれ、俺、ライフイズテックのこと、好きなのかも」と(笑)。
そしてちょうどその頃に、こーめいさんから「(あずさ監査法人に)ずっといるつもりなんですか?」と尋ねられたので「実は次を考えています」と伝えました。その時、「そんなに色んなところにライフイズテックみたいな会社って言ってるんだったら、ここに入ればいいじゃん」と気づいたんですよね(笑)。
<水野> こーめいは、のぶさんの採用を考える時に「自分の給料ゼロにしてもいいから、絶対採用してほしい」って言っていました。会社のタイミング的には節制しなければならない時期だったので、コーポレート人材、しかもプロフェッショナルの採用に難色がなかったとは言えないんですけど(笑)。今となっては約2年、インパクト投資に向けて一緒に働いてこられてよかったなと思っています。
賛同してくれる人たちがいたからこそ。インパクト投資という新たなチャレンジが実現できた理由
<信原> お陰様でインパクト投資による資金調達を達成できたわけですけれども、やはりこれまでにないチャレンジ感がすごかったですよね。そもそも、投資意思決定時に社会的インパクトを評価してくれる投資家さんに会うこと自体、とてもハードルが高かったですし……。経済的リターンのみを評価する方ももちろん多いので、プレゼンしてもすぐに断られることもたくさんありました。
なにより、これまで出したインパクトの実績をロジカルに説明するのは難しかったなと感じています。インパクト評価につながる部分だからとても重要なんですけれども、ライフイズテックが社会課題を解決するのかという想いや、どのように解決していくのかという戦略は伝えられても、エビデンスをもとに過去の実績を分かりやすく説明し理解してもらうのは、至難の業でした。
<水野> 現場にもたくさん来てもらいましたね。
<信原> 「キャンプやスクールを運営しています」と口で言うだけではイメージが湧きにくく、本当の価値が伝わりにくいので、直接見てもらって「これは確かに、子どもたちにとってよいインパクトがある事業だね」と納得してもらった感じはあります。オンライン教材も、これまでに培った教育ノウハウやテクノロジーを使って作り上げていて、その結果オンライン教材の課題である継続率を非常に高くできていることを丁寧に説明して、本当に中高生の可能性を伸ばすための事業を展開しているんだなと理解してもらいました。
<水野> 今回の調達の過程で「アメリカからも資金調達できたらいいよね」という話も出たじゃないですか。そして実際に現地でプレゼンをしたら、意外と好反応でした。
とあるベンチャーキャピタルは、オンライン学習の継続率の低さという課題は重要で、ライフイズテックの継続率を高めていく仕組みが、学習の格差を埋めることにつながると評価してくれました。それと「女子参加率が非常に高いのも評価できる」と。インパクトにつながる具体的な指標を評価してくれました。
<石川> 振り返ると今回のインパクト投資による調達は、そういったインパクトを志向する投資家の方たちと現場の僕たちで、インパクト投資というコンセプトを具現化するところから一緒にやってきたという感じがあります。
<信原> 日本やアメリカで僕らの今回の動きに賛同・評価してくれた方々からも、ライフイズテックへの大きな期待を感じますよね。経済的な指標だけだとやはり評価してくれない人もいた中で、社会的なインパクトも理解してくれた人が支えてくれていることが、僕らのやりがいにもなっているなあと。
<水野さん> インパクトを評価というパワーも時間もかかる難しいところも含めて、やる価値があると思ってもらえたんですよね。
それとやはり期待を寄せてもらっているのには、SDGsの流れも少なからず影響しているのかなとも思うんですが。
<石川> SDGsは2030年までに達成する「世界をサスティナブルにするための目標」のことですが、これを達成するのに500兆円くらい資金が足りないといわれています。そこでインパクト投資に期待が集まっている。これからは「海の豊かさを守ろう」とか、特定のSDGsのゴールに特化したファンドが出てくることもあるでしょうね。
ここ数年、世界最大規模の機関投資家が、投資先企業に対して「ステークホルダーを大事にしない企業は長期的に繁栄しない」「経済的リターンだけでなく世の中に対する利益を考えなさい」との書簡を出しています。投資家から社会的なインパクトを意識しなければ投資しないというメッセージが届くのも、こうした流れとリンクしているのかなと思います。
次に目指すは「ソーシャルIPO」という新たな株式市場。「良いことをしている会社」に人やお金が集まる社会が当たり前に
<信原> 投資や政府といった外部環境からのアプローチが社会の潮流を変えていくのと同時に、ライフイズテックの場合やはりキャンプやスクールなどのリアルな教育現場のニーズにこそ、社会をより良くしていくためのヒントがたくさんあると思うんです。
例えば学校の先生方は、2020年からのプログラミング教育必修化に向けて「IT人材を育てないといけないのに、教える人材も教材もそろっていない」と、苦労されています。そこに僕らがサービスを届けることで、楽しくスキルを身につけるというインパクトを生み出しつつ、ビジネスも拡大できます。現場で感謝されることも多いですし、これって、とてもありがたいことだなあと。
投資家やステークホルダーからフィードバックをもらいながら、事業を良くしていく——。そんな循環が整っているライフイズテックは恵まれているなと、どこに行っても感じます。
<水野> 株主やステークホルダーに応援者でいてもらうことが大事なんです。今後は、一層それが重要になっていくでしょうね。例えば、クラウドファンディングって、個人が良いなと思ったことに対してお金を出すじゃないですか。インパクト投資は、いわばそれの株バージョン。自分の価値観で良いことをしているなと思うところの株を買えばいいんです。それもポジティブに捉えて応援したと言えますよね。
<石川> そうですね。まだまだ金融系の人たちにインパクト投資っていうと「そんなの広がるの?」というリアクションもありますが、普段の買い物を考えても、めちゃくちゃ土を汚染して作ったニンジンと、少し値段が高いけれども土地や健康面にも配慮してつくられたニンジンが並んでいたら、後者を評価して買う人が増えていると感じます。これと同じことが株式市場にも当てはまるようになるんじゃないかなと思っています。
<信原> そうなれば、結果的に社会的に良い事業がどんどん増えていきますしね。
<水野> 結局のところインパクト投資は、長期的にものを見ていきましょうという動きだと思うんですよ。
僕はライフイズテックの究極形として、800年続くオックスフォード大学のような歴史を重ねていく21世紀の教育機関を作って、次の世代がより幸せに生きやすい社会をつくる人材を輩出することで、子どもたちひとり一人が自分の強みや能力を最大限に発揮し、お互いにリスペクトしあえる社会を目指しています。この取り組みに対して「100億円かけて約3年で投資対効果がありますか」と言われても、ありますとは回答できないでしょう。ただ800年続いてきたオックスフォード大学に100億の価値がないかと問われたら、そんなことないじゃないですか?
僕らが日々向き合っている教育は、すぐに結果が出るものではありません。しかし人間社会が発展していくうえで、絶対に欠かせない財産です。だからそういうものに対して、長期的な投資判断がきちんとできる状態を作り出す必要があります。
正直インパクト投資は、僕らにとって大きなチャレンジです。きちんと言葉にして発信していくこと自体にもリスクが伴います。ただやろうとしている道、そしてやり方が正しければ、良い社会づくりにつながって最高じゃないですか。だから今回のインパクト投資の動きに、さらにいろんな人を巻き込みながら少しでも形にできたらいいなと思っています。
そしてさらに僕は、インパクト投資による資金調達の先に「ソーシャルIPO」という株式市場を思い描いています。利益と社会的インパクトのどちらもきちんと評価された上で上場できるようになれば、「良いことをしている会社」に人やお金が集まる社会が当たり前となり、もっと未来は良くなっていくはずです。
<3人の対談を受けて>
今の社会が資本主義で成り立っている以上、経済的利益次世代や未来に良い社会を残すというすぐには目に見えにくいリターンを追い求める会社を応援することに勇気がいるのは事実でしょう。しかし目先の利益にとらわれすぎた結果、社会が生きづらいものとなってしまえば、自分自身はもちろん未来を生きる子どもたちにとって良いこととは言えません。
ライフイズテックがファンドのコンセプト作りにも取り組んだ「インパクト投資」から「ソーシャルIPO」へつながる動き。社会的な影響という長い目で見たリターンに期待を寄せることが、将来社会全体にとって大きな貢献になるかもしれません。
そしてライフイズテックと投資家の皆さんが今回このプロジェクトを動かしたことで、一人ひとりが自分の価値観を軸に「社会的な影響・貢献」をしている人や会社を応援し始めていることも分かりました。この動きが当たり前のものとなれば、あらゆる切り口から社会がよりよいものとなっていくのではないでしょうか。