キカガクの代表取締役社長に就任しました | 株式会社キカガク
はじめまして、キカガクの大崎です。2021年1月1日よりキカガクの 代表取締役社長に就任 することになりました。 この投稿では、 経営体制変更の理由や私が これからキカガクで成し遂げたいミッション について紹介します。 キカガクは吉崎が2017年に設立した会社で今期で5期目となります。 ...
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みなさん、こんにちは。
株式会社キカガクの吉崎です。
初めましての方も多いと思うので、キカガクを一言で紹介すると『AI を含めた先端技術の教育』を主に社会人向けに手がけている会社です。
最近ではこの分野もありがたいことに注目を集め、同じ領域の会社(同志)も増えてきましたが、立ち位置を明確にすると、キカガクは AI というよりも教育に重きを置いている会社です。
そのため、ゆくゆくは AI は領域の一部であり、日本や世界の教育をより良い方向に導ける会社になりたいと思っています。
キカガクも 2017 年の1月にひとりで創業してから早くも4年の月日が経ち、5期目に入りました。
ひとりで立ち上げた会社も今では立派な組織になり、この1月から社長を退任して、会長へと就任するまでになりました。
組織を作るということは思っていた以上に面白く、自分一人では到底成し遂げられなかったことに挑戦できるようになります。
※ トップ画像は4年前の創業初期にオフィスも借りられず、貸し会議室で転々と講義をしていた懐かしい写真です。
新しく社長に就任した大崎くんのブログはこちらですので、新しいキカガクの様子をぜひ覗いてもらえると嬉しいです。
今回の立場の変更やこれから取り組んでいきたい方向性を紹介していきますが、結論から紹介してしまうと、せっかくのリアルな体験談が味気なくなってしまうため、起承転結の順番でゆっくりと紹介していきます。
そのため、少し長くなってしまいますが、みなさんもゆっくりと心を落ち着けて、楽しんでいただけると嬉しいです。
まず一番気になるところが、ここですよね。
新社長の大崎くんのブログでも触れられていますが、社長という立場は退任していますが、キカガクをリタイアしたというわけではありません。
創業者が追い出されるといった起業家界隈ではよくある話ですが、今回はそういった方向性ではありませんので、ご安心ください。
それでは起承転結の4部構成でお楽しみください。
創業して4期目の2020年2月。
突如として、未曾有の状況に陥りました。
ニュースでは薄らと聞いていたのですが、想像以上のスピードと規模でコロナウィルスの影響が出始めました。
母から「あんたはニュース見んと思うけどコロナウィルスって知ってるん?」と聞かれ、「中国で何か流行っているらしいね」と受け答えしていた1週間後の話でした。
キカガクでは東京の神田を中心に設けている会場でセミナーを開催しているため、最初は「感染予防のため」と称して、セミナー受講生からの延期が相次ぎました。
延期というのは回収までのスパンが長くなってしまうので、小さなベンチャー企業にとっては結構痛い話ではあったのですが、とはいえ、昨年は4期目でそれなりに蓄えがあったので、売上が変わらないならば数ヶ月の延期は全然大丈夫と気にしていませんでした。
そして、4月になり、戻ってくると思っていたお客さんが全く戻って来ませんでした。
感染者の大幅な増加で、社会の何かが崩れ落ちる音が少しずつ聞こえ始め、コロナウィルスだと思っていたものが、いつしかコロナショックへと規模が変わっていました。
昨年の4月頃は案件がほとんどなくなり、どこから手をつけて良いのだろうと。
創業してから黒字で年々成長を続けていただけあり、成長を前提に採用して大きくなっている組織、組織が大きくなる前提で借りた大きなオフィス。
いきなりの売上の大幅減に、単純な計算ではあと数ヶ月で底を突くキャッシュ。
これまで起業家の本で読んだことはありましたが、目の前が真っ暗になるってこんな体験なんだ。
。。。と思いながら、内心は薄ら笑いを浮かべていました。
この時まで、自覚がほとんどなかったのですが、起業家を数年していると、日々の景色が色褪せていき、新しい刺激に飢えていたのです。
「渋谷ではたらく社長の告白」の藤田さん、「不格好経営」の南場さん。
あの本で読んだことがある目の前が真っ暗という景色が『ようやく来た!』と不謹慎ではありますが、テンションが上がります。
もちろん、経営状況は本当に悪く、これからの経営を続けていくために、私が連帯保証人になり、かなりの金額の融資を受けることになりました。
おそらくキカガクが倒産するとなかなか返しきれない金額であり、事実としてプレッシャーだらけの日々ではありましたが、楽あれば苦あり。
大先輩方に比べれば、まだまだ1段階目の試練だなと焦りながらテンションの上がる自分に言い聞かせる不思議な感覚でした。
さて、大きな融資も決まり、今にも崩れ落ちそうな大きなプレッシャーはありますが、これで当面の継続は可能であることが決まりました。
流れに逆らって売上を取り戻そうとしても、キカガク規模の会社では逆流に飲み込まれるだけです。
少し流れに逆らって、みんなで営業の電話をしてみましたが、まったくの効果なし。
そうなればやるべきことは1つ。
日本含めた経済が戻って来たときに備えて、次のレベルに上がるための仕込みをするだけです。
実はこれって私にとっては、とても都合の良い機会でもありました。
当時のキカガクは、創業から3期連続で黒字化しており、自分たちであげた利益で設備投資をしたり、新しい人を採用したりと好循環の経営ができていました。
その一方で気になっていたことが、労働集約型の働き方に対する限界です。
もう少し具体的な話としては、組織の人数が増えるにつれて属人化していっていました。
教育業界に対して新たな視点でのメスを入れたいと意気込んでいた自分たちが、従来の教育業界での働き方と同じような属人化をしていたのです。
サブストーリー:なぜ属人化は起きるのか?
ここで少し話は本題から逸れますが、属人化って何がいけないのかを考えます。
属人化の全てが悪いわけではなく、良い属人化と悪い属人化があると思っています。
属人化は人としての個性を活かせている状況でもあるため、講師のカリスマ性やフォローの際の優しさなどは個性として属人化しても良いところです。
この良い属人化の部分は、その点に時間を使えれば使えるだけ個人としての幸福度は高まるため、より伸ばしたい点です。
では悪い属人化とは?と考えると、個人としても企業としても望まない(時間を使いたくない)タスクに対して起こる場所だと思います。
例えば、私(個人視点)であれば紙に書くたびにストレスがたまりますし、こういったタスクに時間をかければかけるほど幸福度が下がります。
個人の視点では考えやすいですが、企業として望ましない属人化とはどういったものか。
それは、ある特定の人が辞めたり部署移動したりすると機能しなくなることではないかと思います。
いまは一見うまくいっていても、Aさんが辞めてしまった途端に全体のレベルが下がってしまうといった経験はないでしょうか。
この企業目線での属人化を排除することができないと、企業のスケールに比例してリスクも大きくなります。
では、なぜこのような属人化が生まれてしまうのか。
属人化は諸悪の根源であるとみんなが頭でわかっている中、なぜ身の回りのほぼ全ての仕事が属人化してしまうのか。
もちろん私自身も完璧な解を持っているわけではないため、みなさんも一緒に考えていただきたいところです。
ふと、属人化が生まれるチームを見て気づいたのですが、教え方が全然違うのです。
例えば、家の建て方を例に紹介します。
属人化が生まれるチームは最初のリーダーが「家の建て方を教えるよ!」と弟子に「後ろで家の建て方を見とけ!」と具体的な家の建て方を教え、一子相伝の秘技が代々伝わります。
一方で、属人化が生まれないチームは最初のリーダーが「家の建て方はわかったが、家の建て方の教え方はまた別物だ」と家の建て方を広く伝えられるように、建て方を誰でも理解できるように整備することに時間を使い、ここで設計図が出来上がります。
そして、その設計図に基づいて抽象的な考え方を教え、その上で実技訓練を通して技を習得させます。
最初こそ学習コストがかかるため初速は遅いですが、設計図という共通認識(レビューポイント)の醸成と再現性高く次の人材を生み出すことで、結果的に加速させることができます。
プログラミングでは、このような設計図をクラス、その設計図に基づいて建てた家をインスタンスと呼び、抽象と具体を切り分ける習慣が出来上がっています。
その一方で、ただひたすら現場に立ち続けるだけの人には設計図やクラスといった概念がなく、悪気なく一子相伝の秘技を伝えてしまっているように見えます。
社会人になってから多くの人と仕事をしてきて、なんでこの人って仕事が属人化してしまうのだろうと思っていたのですが、単純に現場で現場の知識を教えてもらう一子相伝型が属人化の正体であることに気づけていないのだと思います。
もちろん、当人にも悪気がなく、自信の仕事に誇りを持って働いている分だけ、そこに指摘することが心苦しく、その惰性で属人化が組織として加速していきます。
最初の1人目が次の人に伝える際に属人化していると、なかなか後戻りができず、組織を作っていく際に、一人でもこのクラス(設計図)の概念を理解していない人がいると、負の遺産がたまりがちだと気づきました。
実際、キカガクのチームでもオペレーションを中心に属人化している箇所が爆発しそうになっていたため、オペレーションチームの構成を見直し、膿を出し切る作業は想定以上に大変でした。
属人化が生まれる原因がある程度見通しが立ったところで、なぜビジネスにおいて、属人化が生まれるのがだめなのか。
この理由は「ユーザビリティを下げて売上を上げるビジネス」に帰着するからだと私は思っています。
属人化が起きている作業は多くの場合、継承する前の人が教師データであるため、継承後の人は師匠よりも劣化するはずです。
そして、労働集約型のビジネスでは人員数と売上は比例します。
つまり、売上を上げるためには、人員を増やす必要があり、属人化の劣化によりこれまでよりも質の低い人になってしまいます。
属人化を受け入れることは社内でのオペレーション増加でコスト増加といった面も問題ですが、最終的にその不利益をユーザーが被ってしまうことが一番悲しい結末です。
せっかく会社として大きくなって受講生も増えたのに、それに伴って悪評も一緒にスケールしてしまっては本末転倒と表現しても良いかも知れません。
キカガクでは会社が大きくなるとともに、受講生にも喜んでもらいたい。
目指すべきは『ユーザビリティを上げて売上を上げるビジネス』です。
メインストーリーへ復帰
さて、属人化の話が熱く長くなりましたが、メインストーリーがここで止まっていました。
当時のキカガクは、創業から3期連続で黒字化しており、自分たちであげた利益で設備投資をしたり、新しい人を採用したりと好循環の経営ができていました。
その一方で気になっていたことが、労働集約型の働き方に対する限界です。
もう少し具体的な話としては、組織の人数が増えるにつれて属人化していっていました。
教育業界に対して新たな視点でのメスを入れたいと意気込んでいた自分たちが、従来の教育業界での働き方と同じような属人化をしていたのです。
ある程度組織として拡大できている一方で、どうしても属人化が気になるレベルでした。
講師が講師に一子相伝で教えるスタイルでは、この先にワーストシナリオである「ユーザビリティを下げて売上を上げる」ことになってしまう。
そこで、当面の仕事もなさそうであるため、この属人化に対する意識の変革や教育のスケールへの仕込みをするチャンス!と捉えることにしました。
一子相伝を防ぐために、設計図をしっかりと描き、テストによって実力を確認できる仕組みを設ける方法をきちんと作り上げようと社内で動き始めます。
いきなりすべてを変えることができないので、マイルストーンを定めて順次実行していきました。
まずは社内の再教育です。
受講生に知識のインプットだけできれば OK といった曖昧なゴールである意識を変えるために、テストをゴールとして定めるテスト駆動での勉強方法で学んでもらいました。
具体的にはインプットの動画は各2時間で、アウトプットには6時間程度かかるように設計し、ゴールの要件も定量的に定義しました。
この再教育により、「教えて満足、教わって満足」だったキカガクの講義が、「受講生の知識が身について満足」に変わり始めます。
もともとの教育のゴールは満足してもらうことではなく、受講生に知識が身につき、それを実活用に活かせることであり、ここを再認識してもらいます。
そして、その社内の再教育の際の内容にも仕掛けがありました。
キカガクでは、機械学習を中心とした内容を取り扱うため、講師は日頃 Python のみを使いますが、この力だけではプロトタイプまでで止まってしまい、なかなか本格的なプロダクトを作ることができません。
プロダクトを作ることができないと、質の高い講義を作れたとしても、その講義をスケールさせる仕組み作りができません。
そこで、再教育の内容はデータサイエンスではなく、JavaScript を中心とした Web アプリケーション開発の実践的な内容としました。
現在人気の長期コースでも Web アプリケーション開発を取り扱っており、講師にとっても最新の知識を習得しておくことにメリットがあるだけでなく、ゆくゆくはプロダクト開発も内製化できるような組織にしていくための長期的な仕込みでもありました。
日頃勤勉で学びに貪欲なキカガクのチームはあっという間に成長し、4月からの仕込みでしたが、5月には研修の補助として使える社内向けのアプリケーションがいくつか生まれ、9月には現 kikagaku.ai の原型となる ikus.ai をリリースしています。
講師全員が機械学習の数学やプログラミングができるだけでなく、新しい JavaScript のエコシステムでの Web アプリケーション開発までわかるチームになりました。
この kikagaku.ai をリリースして本当に良かったと思っているところは、好評の脱ブラックボックスコースやメディカル AI コースを無償で色々な人に提供できたり、既存のコースの大幅な値下げを進められたことです。
システムを内製化して講義の質をコントロールしたり、無駄なコストを削減した分をユーザーに還元でき、『ユーザビリティを上げて売上を上げる』に一歩近づくことができました。
また、コンテンツの作り方にもメスを入れていきました。
これまでは基本的に私がコンテンツ制作の全般を担当していたのですが、育ってきたメンバーに新規コンテンツの制作ができるように育てていきます。
「とりあえずコンテンツ作ってみ?」というと、属人化の話で「とりあえず家を作ってみるか?」と一緒ですので、ここに最初に時間をとって自分がいつも行っているコンテンツを作るってどういう工程でできているかを分解してみることにします。
最後の動画のところの粒度が粗いですが、いつもはこのぐらいの工程を経て、みなさんのお手元に届けています。
特に設計の工程を念入りに分解しており、過去の反省として動画を撮影してから内容の手戻りがあると絶望的に大変であったため、なるべく前半に手を抜かないとキカガクのメンバーにも伝えています。
もちろん、みんな最初は言っていることの本質を理解しきれず、「ある程度はぶっつけ本番でいき、編集でカバーします!」と意気込みますが、完成後の打ち上げで「甘すぎました...言っている意味が今なら体でわかります」と顔つきが変わって話してくれます。
このコンテンツ制作の工程も少しずつ浸透してきたおかげで最初はみんな大変すぎて泣きましたが、共通認識(設計図)を持って属人化の少ないコンテンツ制作部隊へとレベルアップしていくことができました。
結果的に 2020 年は、従来の年とは比にならない数のコンテンツを質を維持したまま作り上げることができました。
コロナショックを期に、これからキカガクを飛躍させるために必要なユーザー目線での教育や質の高いコンテンツ制作、そして、質を維持したまま量に転換できるプロダクト開発まで仕込むことができる1年になりました。
ちなみに、4〜5月は紆余曲折していましたが、セールス&マーケティングチームの必死の頑張りのおかげで、その後は売上も復活することができ、2020年は前年の130~140%成長で無事黒字化で終えることができました。
教育に対する解像度や踏み込める領域が広がり、そして、組織としても成長できた良い1年になり、最初の前置きが嘘のようですね。
色々な仕込みを同時並行に進めていき、7月ごろには売上も回復できそうな見込みも立ち、プロダクト開発も進められたり、コンテンツ制作も仕込みが終わって、それぞれにレビューをするだけで進められるようになってきた頃です。
ふと、思うことがありました。
起業した1年目は売上もコンテンツも作り出さないといけないので、一杯一杯の日々でしたし、2〜3年目は組織を作ろうと失敗を繰り返しながら試行錯誤の必死な日々、4年目はどん底からのスタートで変革を起こすための仕込みに必死な日々。
さて、5年目から自分の役割ってなんだろう。
コンテンツを生み出し、売上を生み出し、組織を生み出し、プロダクトを生み出し、方法論を生み出した今、自分にできることってなんだろう。
もちろん、CEO として売上をさらに伸ばすための戦略を日々考えるのも良いのですが、自分の役割としてそこって輝くのだろうか。
コロナウィルスの負の影響が大きすぎたがゆえに、その問題をある程度クリアできた頃に、自分って結局何がしたいのだろう?と大きな穴がぽっかりと空きました。
うまくいかない時は課題解決のために全力で頭をフル回転させれば良いですが、次にフル回転させてくれる戦場ってどこなんだろう?
贅沢な悩みかも知れませんが、自分でも思った以上に虚無感が大きく、目の前が真っ暗になりました。
何をしても色褪せて見える景色、何をしても刺激のない日々。
自分でも意外でしたが、あれだけ業績が悪くて潰れる寸前だったころは生き生きしていた自分が、うまくいき始めると全然生き生きしていませんでした。
もちろん、会社はうまくいき始めています。
毎週の経営会議での報告でも多少の問題こそあれど、大枠の方針は大丈夫ですし、悩みは格段に減っていました。
キカガクは本当に良い人が集まってくれたチームですので、人の問題も他の企業の話を聞いていると、ほとんどありません。
でも、どこか自分のギアがうまく合わなくなっていました。
あの頃のスリルが忘れられなかったのかも知れません。
もちろん、またどん底に落ちたいというわけではないため、自分のモチベーションがどこにあるのかを考える日々でした。
なんであの頃の自分は生き生きしていて、今の自分は生き生きしていないのか。
とっても簡単なことでした。
誰よりも早く情報をキャッチアップして、難しいことをわかりやすく噛み砕き、多くの人に届けていく。
その工程に自分が先頭を切って取り組めている日々が楽しく、そしてチームの中で唯一無二の価値を発揮できていると自負していたからでした。
車で例えるとわかりやすいのですが、早く遠くへいくためにはガソリンも必要ですが、エンジンも大きくしていかなくてはいけません。
売上がガソリンだとすると、技術力はエンジンの大きさです。
キカガクを創業してから、組織を大きくするための日々に費やして技術に時間を割くことができていなかったのですが、改めてコロナウイルスの影響を機に、技術へコミットしてみると天職だと思えました。
そして、7月。
一部上場企業の社長とキカガクの取締役で会食の場があり、たくさんお褒めの言葉をいただいた翌日。
現社長の大崎や取締役、執行役員陣に自分のまとまっていない考えをうまく言葉にすることはできませんでしたが、社長をこの中の誰かに任せ、次の自分のポジションを見つけたいと伝えました。
社長の交代を伝えた経営陣はポジティブに捉えてくれたおかげで、スムーズに新経営陣への移行を進めることができました。
もちろん、紆余曲折はありましたが、半年間の準備期間を経て、2021年から正式に新体制となりました。
私は代表取締役社長から代表取締役会長となり、一言で言うと、何をするかわからないポジションです。
でも、これがとっても大切なことだと思っています。
社会人の方なら多くの方に共感していただけると思うのですが、ベンチャー企業で働いていたとしても、日々の目の前のタスクに追われていてイノベーションなんて到底ありません。
むしろ、ベンチャー企業の方が、一人でカバーしないといけない範囲が多く、効率化なんて二の次であるため、イノベーションから遠いかも知れません。
果たして、イノベーションはベンチャー企業から生まれるのか、大手企業から生まれるのかわからなくなりましたね。
この突破口は「余白」にあると思っています。
余白とは日頃のこなさないといけないタスク以外の時間のことです。
よく、20%ルールなどと聞くと思いますが、まさにその時間のことです。
みなさんの会社は 20%ルールなど、タスク以外の時間を取るルールがあるでしょうか。
そして、もう1段階踏み込むと、それが社内のイノベーションに繋がっているでしょうか。
キカガクでもなるべく講義以外の時間を取れるようにしてきたのですが、結果として今までイノベーションとは程遠いものでした。
空いた時間は次の講義の準備でいっぱいいっぱい。
コンテンツ制作は最初に想定したスケジュールの2〜3倍はかかってしまい、自分の時間なんてなかなか取れない。
これが多くの実態でした。
サブを20% ルールどころか、講義は就業時間の40%以下に抑えて、サブを60%近く取れるようなスケジューリングにしようと進めても、同じ状況どころか、その空いた時間の有効な使い道を考えないといけなかったり、時間取れている以上は何か勉強しているのだよね?とプレッシャーだけが大きくなっていたかも知れません。
もちろん、20%ルールを否定しているわけではなく、これら同様のルールをうまく使えるためには前提条件があったことに気づきました。
それはその道のプロフェッショナルであり、自分が取り組んでいるタスクの工数を正確に予測できるレベルに到達していることです。
このレベルに到達している人は自身の中で余裕を持って時間配分ができるため、これらのルールが有意義に働きますし、知識量も豊富であるため効果的な課題設定も難なくこなせるのだと思います。
20%ルールというと Google 社を思い浮かべますが、人物像としては納得がいきます。
ベンチャー企業では新しいことへの挑戦の日々、メンバーも若くて発展途上。
そんな状況に Google 社の真似をして 20% ルールを取り入れても、クリエイティブどころかカオスが増すだけだったのです。
これからも講師が勉強できる時間はなるべく確保していこうと思っていますが、そこに「イノベーション」を期待することは無駄な期待とプレッシャーが増すだけであるため、辞めておいた方が良いと反省しました。
では、どうやってイノベーション生み出すか。
このキカガクのような状況下では「イノベーションに特化したメンバー」による創出しか選択肢がありません。
だからこそ、そのイノベーションの創出の先頭を私が切っていきます。
会長というポジションは幸いにも短期的なタスクに対する期待値は切り離していただけるため、今ではなく、未来に対してコミットすることができる数少ないポジションです。
また、経営者である背景から、自社への利益を生まない興味本位の R&D 的な取り組みになってしまうことを抑制できます。
この「余白」とも言えるポジションをうまく活用することがキカガクの飛躍に繋がると信じています。
また実は余白を作るって、資本的な背景としてとても難しいことで、他の方の売上から自分たちの活動資金が得られる状況が作り出されているため、その状況も重々理解して進めていきます。
イノベーションを起こす新規事業チームは私ともう1人の2人チームで始まりました。
もう1人は同い年で最近育休から復帰した入田くんです。
理系の大学院出身(しかも制御系)やブログを書くことが好きであったり、技術力のレベルも近く、ベストな最小構成のチームで始められました。
当面はこの最小の構成でマイルストーンを刻み、徐々にチームを大きくしていきたいと思っています。
そして、取り組もうと考えている領域ですが、キカガクのコンテンツ制作の強みに目を付けています。
教育の会社とは教えるときの表面上に出やすい講義の質に関して評価されやすいのですが、キカガク本来の強みはコンテンツ制作から講義まで一貫して行えることです。
特に独自コンテンツを質を担保したまま量産できる体制を築き上げている会社は少なく、どの企業に聞いてもここに苦労されているようでした。
それは当然で、すでにコンテンツ制作の工程を紹介した通り、莫大な時間がかかります。
定量的に見るとわかりやすいのですが、1時間分の動画ができるまでに企画から制作完了までに大体30~50時間ほど費やしています。
ある程度、雛形のあったキカガクの脱ブラックボックスコースとメディカルAI専門コースの合計24時間の動画でさえ、私が約4ヶ月(8時間×22日×4ヶ月=704時間)フルコミットして制作しています。
イノベーションとは今までとは別の方向を向いて、これまでとは異なる教育の課題を解決する選択肢もありますが、余白を利用したイノベーションとは社内の強みを圧倒的な強みに変換することから始まると思っています。
私も R&D 部署にいたことがあるのでわかるのですが、事業推進部隊と R&D は切り離して行動することが多くあります。
ただ、この進め方をしてしまうと、事業推進部隊は自分たちに恩恵がないため R&D を販管費泥棒のコスト部隊と捉えてしまいます。
だからこそ、少なくとも初期の R&D に近しい動き方をする部隊は売上を作ってくれている事業推進部隊に恩恵のあるように動き始めることで理解のあるイノベーションが進められるはずです。
キカガクでいうと、コンテンツ制作の工程でレビューなどをたくさん挟むのですが、ここに対して効率的なツールがなく、フリーフォーマットでの指摘になってしまいます。
これでは Before/After の蓄積がたまらなかったり、後発の人に経験を伝えることが困難です。
だからこそ、設計からコンテンツ制作、レビューまでの一連の流れを効率的に進められるシステムの構築こそ、最初の飛躍の鍵だと思っています。
質の高いコンテンツを作ることが得意なチームが考えた、質の高いコンテンツを作るためのシステム。
従来の Wordpress に代表される Contents Management System (CMS) やブログでは気軽に書くことができるものの、どうしても質の高さをカバーするにはシステムではなく、チームでのルール決めなど運用側でのカバーが必須でした。
社内の強みをプロダクト化していくことで、自分たちに恩恵があり、それを社内以外にも使っていただけるように届けていきたい。
自分たちがユーザーだからこそ、より良い UI/UX を考えることができ、こだわりの詰まったプロダクトになるはずです。
質の高いコンテンツをより低いコストで生み出すことができれば、学ぶ方にもより多くの学びの選択肢を提示することができ、前半で紹介していた『ユーザビリティーを上げて売上を上げるビジネス』へと繋げることができます。
インターネットが登場した頃は他の人の情報を気軽に閲覧することができてメリットがありましたが、今の時代はその逆で、情報過多であり、情報を取捨選択できる目利き力がないと良い情報にすら辿り着くことができなくなりました。
情報をパーソナライズするキュレーションメディアができ便利になりましたが、本質的な課題は「質の低い情報が量産されている」状況です。
もちろん気軽に記事が書ける世界は素晴らしいため、せっかくならば「気軽に質の高い記事」が書ける世界を作っていきたいですよね。
この質の高い記事を書くときには設計の工程も経ていき、設計の大切さも理解することができます。
これも重要で、属人化を産んでいる根本的な原因に設計という概念の欠如を挙げました。
世の中の全員にプログラミングを学んで設計の大切さを理解していただくことは到底難しそうですが、こういった文章の作り方ひとつとっても設計の工程が大切であることを伝えられると、属人化に対する意識の問題まで根底から変えていけるのではないかと予想しています。
「質の高いコンテンツ」を生み出すことは表面的にも情報過多の社会における良い方針であり、ただしこれはきっかけのひとつに過ぎず、根本的には設計の大切さを伝えることで、属人化を防ぐことに繋がっていくはずです。
また、アウトプットの文化を根付かせることは、教育効果を高めることにも大きく影響するため、学びといった観点でも良い影響があります。
たかがコンテンツ制作、されどコンテンツ制作。
教育を変えていくとは、巡り会う情報の質を高めること、教育者が質の高いコンテンツを作れるように支援すること、学び手のモチベーションや知識の習得率を高めること、さらには、属人化を減らして学びに使える時間を増やせるよう支援すること。
これらの全てを根底からメスを入れていくことが、私の考える教育に対するイノベーションです。
表面的な課題解決も大切ですが、やはり教育が大好きでそこを極めたい企業としては、表面からどんどん本質に深堀りしていき、時間はかかりますが根底からより良くしていきたいです。
現状で私が見えている解像度ではここまでですが、年々解像度は高まっているため、また来年にはもっと面白い話ができたら嬉しいです。
教育は掘れば掘るほど人の幸せに繋がっているため、携われている幸福度が非常に高い分野だと改めて感じます。
結論を急がずに、起承転結の4構成で会長へとポジションを変えた背景を紹介しました。
本当はもっともっと具体的な戦略も考えていて話したいことがたくさんあるのですが、その辺りはまたお会いできた際に聞いてみてください。
直接の面識がなくて会うことがないよという方も、ちょうど本日から stand.fm で音声でのキカガクチャンネルの配信を始めましたので、レターで質問を募集しています。
もし、今回の新規事業に興味を持ったという方がいらっしゃったら、まだ採用の募集を出していないのですが、会社のお問合せに直接熱い思いと一緒に連絡をください。
新規事業チームの簡単な技術選定は以下の通りです。
※ 近々、入社前のスキルセットの要件を満たしているか保証できるテストを準備して公開する予定ですが、まだ粗くても良ければテストの内容もできているので、早くに取り組めるように配慮も可能です。
新規事業チームでの採用はまだこれからですが、現在勢いよく伸びているキカガクの講義を担当する講師やプロダクトのフロントエンドエンジニアの採用を積極的に行っているので、まずはこちらからもオススメです。
冒頭でも紹介していましたが、新社長の就任記事はこちらですので、ぜひ続編として読んでみてください。
それでは、みなさん、長文にお付き合いいただき、ありがとうございました。
株式会社キカガク 代表取締役会長
吉崎 亮介