パリ賞の経緯
私は美大を卒業し、インビジョンにジョインする前は、大学の職員など教育機関でサポートや指導の仕事をしてきました。仕事と並行して美術家として制作活動も続けており、インビジョンで仕事をしながらも変わらず制作活動を行ってきました。
その活動の一つとして、この度、母校の奨励制度にあるパリ賞を受賞することが出来、パリで一年間の滞在制作をすることとなりました。
撮影:中川達彦
受賞できたポイント「偏愛」
制作活動を始めてから15年程になりますが、私のテーマは15年間変わらず「サメ」をモチーフとした作品を制作することです。サメとの出会いは意外なところからでしたが、サメの魅力に取り憑かれ、「サメと人との関係性」ついて考え続け作品へと展開しています。
サメ一本で制作を続け、一つの事についてとことん突き詰める、そんなサメに対する「偏愛」とも言える表現が今までの活動の実績にもなり、このような素晴らしい賞を頂く経緯にもなったのではないかと思っています。
普段の仕事でも「サメだったら」と、何かとサメに置き換え、自身の行動や考え方を見定めたり、人生において「サメ」は必要不可欠な存在となっています。
消費社会が当たり前な現代では技術が進歩するほど、物事の差がなくなり、価値の低層化が進行すると損得でしかない短期的なフェーズへと動きが速まり、コモディティ化が促進されます。この事は、全く関係のないようなサメにも当てはまる事があります。
サメの漁獲量が増え、個体数が激減するとサメの発育に影響が出て、早熟化が進みます。サメは人以上の妊娠期間を経て生まれ、成熟するまでにも歳月を要するとされています。早熟化が進むということは弱体化にも繋がり、種の存続が危ぶまれるということです。
そのもの自体の存在が危ぶまれてしまう、そんな状況にいつでもなる現代社会を再構築する時が来ていると感じることがあります。
インビジョンで大切にしている価値観には「志・信念・義憤」の三つがあります。本質を見定め、信念を持って行動することが、「働くかっこいい大人」であると。私自身、社会の中ではまだまだ見習いですが、私の人生の中では、サメに対する価値観が生き様へと変化して、最終形態は「サメになる」という目標を掲げ、そのための制作活動であると言えます。
サメになんてなれる訳が無いとはなから諦める人がほとんどかもしれませんが、定めというものは、自ら決めることと決められないことの二つあり、サメになれるかなれないかは私次第であるとも言うことが出来ます。たとえ、今回の受賞の理由がサメだけに限らなくとも、結果その評価がパリ賞というものに繋がったのではないかと思っています。
大切なことは、根拠のない信念、信じてあげる力であり、最終的には得意技を持ってご機嫌であれば、「働くかっこいい大人」は間違いなく増加していくと思います。
勝手にインビジョンパリ支局
パリに行くことは自分との戦いの一つでもあります。先ず海外での生活経験がなく、制作活動の前に様々な壁が立ちはだかる事が想定されます。東京とパリでは環境も大きく違い、生活するだけで必死だとは思いますが、人生を送る上で、働くという行為が気づきの一つ、世界を見渡す一つであると思い、私にとっては必要なのかもしれないとダメ元で、パリに転居はするがインビジョンの仕事を少し続けさせていただけないかと、誠吾さんに相談をしました。
誠吾さんには、今ままでも制作活動とインビジョンの仕事との兼ね合いで、一般的に見たら無茶な相談をさせて頂きました。そして、今回はよりハードルが上がった相談案件ではあったのですが、「パリ賞?なにそれ、パリに行くの?すごいじゃん、おめでとう!」「パリでも仕事を続けると言うことは、インビジョンパリ支局発足だね。」と、日本では駿河湾の海底峡谷、世界ではマリアナ海溝くらい、ど深い心意気なお言葉を頂き、引き続きインビジョンの仕事をさせて頂くことになりました。本当に心から感謝申し上げます。
一年間ではありますが、新たな環境で挑戦してみたいと思います。
行ってきます! À bientôt !