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【社会起業のレシピ】「自分で何でもしようとする経営者は、組織の成長を止める」

経営者が現場から距離を置く時

NPOやソーシャルビジネスのスタートアップが成長のための投資段階に入ったとき、経営者がとくに意識したいのが「権限の委譲」である。起業後しばらくのあいだは、経営者みずからが営業や広報など外向けの業務から、人事や経理など内向きの業務まで、1人で切り盛りしてきた。これは非営利のスタートアップでは「あるある」だし、ピュアビジネスのスタートアップでも往々にして同じだ。設立直後やサービスイン直後の段階では、これも致し方ない。全てが手探りなのだから。


しかし、ルーチンがある程度完成し、成長の段階に入ったら、このやり方にさよならを告げなくてはならない。現場のマネジャーを任命し、さまざまな業務を任せていく。経営者が現場から意図的に距離を置いていく。そうやって、前に述べたように、「経営者がいちいち指示しなくても、事業がまわっていく組織」をつくっていく。この時期になったら、思いきって自分の立ち位置を変えていくことを考えるべきなのだ。




マネジャー育成のはじめの一歩

ただし経営者が突然現場から失踪してしまえば、かえって現場は混乱するばかり。それを避けるためには、その前段階から、経営者に代わって現場を切り盛りしてくれるマネジャー、そしてナンバー2を徐々に育てておくことが必須となる。


方法としては、まずは仕事と成果の定義を新たに任命するマネジャーと対面で行う。「君の仕事は、保育スタッフを採用し、トレーニングし、モチベーションを維持することを、チームで行うこと。成果は目標採用数で測ろう」であるとか、「この作業所を運営すること。成果は、売り上げと利益と、従業員満足度で測ろう」等だ。


そこで納得できる仕事の定義と成果を設定できたら、今度は権限の設定。「どこどこまでは、僕に聞かないで、君が判断しても良いよ」ということを決める。例えば「作業スタッフは君が判断して良いけど、管理職候補は経営者が最終決定するフローにしよう」であるとか、「月10万円までは君の判断で備品買って良いからね」というように。

マニュアル化も忘れずに

経営者の手元の仕事の内容を「マニュアル化」し、マネジャー等スタッフで代理可能なようにすることも忘れてはいけない。起業当初はどんな組織でも、経営者のカンを頼りに、出たとこ勝負であれやこれやと工夫しながら進めていくことになるだろう。そうした工夫はそのまま放置せずに、結果を見てしっかりと分析し、マニュアル化していく。それができていれば、経営者がプレーヤーから外れても、後任者はうまく仕事をまわしていけるだろう。ちなみにマニュアル化の小さなコツだが、マニュアルが全くない場合は、「引き継ぎする」側の経営者が作成すると、うまくいかない場合が多い。分かっているから色んな部分をはしょってしまったり、そもそもマニュアル作成のような業務が嫌いだったりする(笑)「引き継ぎされる人」が、経営者の口頭での説明を文書に起こしていく、と言う方がうまくいく場合が多い。


マネジャーとの個別会議

権限委譲しマニュアル化しても、いきなりはマネジャーは育たない。毎週なり2週に1回なり、適切なタイミングで個別のミーティングを設定、状況をフォローし、フィードバックを行う必要があるだろう。業務がきちんと引き継げ、うまく回っているか、という「業務支援」に留まらない。それ以上に、初めての役職に不安を抱えたマネジャーの「精神支援」も行わなくてはいけない。「頑張っているね」「助かっているよ」等の声がけを行いつつ、不安や心配を取り除き、前向きに業務にあたれるようコミュニケーションを図っていくべきだ。


現場を離れた経営者の次の仕事は……

マネジャーたちが育ってきたら、そのなかからさらに、経営者の右腕になってくれそうな人材を「ナンバー2」化していく。実質は、その人物がマネジャーを束ね、組織を切り盛りしていくことになる。こうして経営者がいなくても組織が自動的にまわる状態になってくると、経営者には時間的にも、エネルギーの点でも余裕が生まれる。じつはこれこそが、成長を加速させる源となる。なぜなら、経営者は次なる展開のための一手を打てるようになるからだ。たとえば、新しいサービスメニューの開発や、専門知識のインプット、ステークホルダーとの更なる関係構築などがそれだ。それについては、後日あらためて述べる。適切な権限委譲によってマネジャーを育てることもまた、組織がスケールアップしていくうえで欠かせないことなのである。

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