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戦略と戦術

ダイレクト出版の社員に向けて書いたレターを転載しています。

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To: ダイレクト出版のみんなへ
From: 小川忠洋


これってみんながよくする勘違いというか、間違いだと思うんだけど、「戦略」は賢くて、「戦術」は次元が低いみたいなイメージを持ってないかな? 確かに戦略のほうが抽象概念だし、工程としては上流工程なので、まぁ、なんとなく戦略のほうが上で偉い……みたいな感覚になってしまうのは分からんでもない。

が、戦略と戦術ってのは、コインの表裏みたいなもんで表裏一体。単純な話、戦術が分かってない人間は、戦略なんぞ分かりっこない。戦略にばかり目をとられると、戦術的なイノベーションやノウハウの積み重ねが少なくなってしまう。

ジャック・ウェルチが戦略についてどんなことを言っているか。彼はこう言っている。
「戦略についてじっくり考えるより、その分、体を動かせ。戦略は大まかな方向性を与えるものである。戦略なんて、限られた資源をどう割り振るか、それだけのことだ。必死で苦闘するものではない。」
ポイントは、戦略なんて必死で苦闘するものではない……というところだろうか。

「ポジショニング戦略」で有名なアル・ライズも、「戦略よりもまず先に戦術だ」というようなことを言っている。

簡単な例を挙げると……。
時は戦国時代。群雄割拠の戦国の世で、並み居る武将を退けて天下を統一(叩きのめ)したのは誰か? 言うまでもなく織田信長だ。

じゃあ織田信長は、戦術は平凡で、戦略が優れていたのか?そんなことはまったくない。信長は鉄砲という、その時代で最強の武器(戦術)を持っていて、その価値を見出し、それを使いまくって天下統一を成し遂げた。もし、武田信玄が同じように鉄砲部隊を持っていたら、信長だってフツーに負けてた可能性も大きいよね。

信長にも、どこと組んで、どこにどういう順番で攻めるかという戦略はもちろんあったし、それはそれで素晴らしい戦略であったと思う。でも鉄砲(武器)がなければ、そんなの絵に描いた餅。実現なんかできっこない。逆に言えば、鉄砲があったからこそ立てられた戦略なわけだ。つまり、戦術を知り尽くしてそれを磨いたからこそ戦略が立てられると。

ぼくは歴史の勉強をいろいろしているんだが、歴史って大抵は戦争の歴史で、そのきっかけは大抵が経済問題で、勝敗は何でつくかというと武器でつく。優れた武器を持っているほうがほぼ勝つ。片方がアームストロング砲(マシンガンみたいな大砲)なのに、片方が弓矢で戦っていたら勝ち目はない。

いつの時代もそう。「武器」が決定的な要因になるのだ。戦略ってのはもともと戦争から来ていて、敵よりいかに優位に立つかという略(はかりごと)なわけで……。「武器」を知らない人間が戦略を学んだところで、何の役にも立たない。

ちなみに、ぼくがいろんな戦略本を読んだ結論は「戦略とは、競合と違う独自性を維持して、戦わずして勝つこと」(ここでの戦わずは、価格競争せずにということ)。戦略論の超権威であるマイケル・ポーターは「差別化の本質は、より高い価格を要求できること」だと言っている。

要するに、ビジネスにおける戦略とは、「差別化」がすべてであって、競合といかに違うポジションを取るかをひたすら考え続けるということなのだ。おそらくそれが戦略のほぼすべて。

じゃあ、ウチの場合はどうなんだって話だが、「競合はどこ?」と言われてもあんまり思いつかないよね。つまり、ウチの場合は業種的にも新しく、競合があんまりいない状況、ってか差別化がそこそこできている状態にあるんじゃないか?だとすると、この状況で戦略を学んでも大した効果はないだろう。

それよりも、その差別化を実現しているウチの「武器」は何かってことだ。それはダイレクトマーケティングでしょ。もっと細かく言えば、セールスライティング、オンライン広告、プロモーションやキャンペーンのノウハウ。こういうのが武器でしょ。

この面で他社に追いつかれないようにしないといけない。今、この業態が混沌として強い競合が出る前に、どんどん前に突き進んでしまうことが、後発に対する防衛になる。ってことは、戦略本なんか読んでないで、戦術をもっともっと研究しろ! という話になる。

英語を学んで、米国でのマーケティング事例をたくさん仕入れて、自分の武器庫にたくさん新しい武器を仕入れる。そうすれば、その武器を使って新しい戦略、より優れた戦略を立てられるようになる。


誤解しないでほしいのは、戦略がまったく必要ないという話ではないこと。冒頭にも言ったようにコインの表裏。現状の戦略が機能しなくなってきたら(簡単に言うと、がんばってもがんばっても成果が出なくなったら、戦略が機能しなくなってきている証拠)、新しい戦略が必要だし、そのときは今まで勉強していた戦略論が使えるようになるだろう。

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