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アジア企業初、 スタンフォード大学に冠講座を創設

先人の残した歴史とぼくらが残せる未来

 ぼくは歴史を学ぶのが好きだ。歴史を学ぶと、自分たちが普通に暮らしている生活が、いかに過去の人たちの死ぬ思いの努力の上に成り立っているのかということが分かる。
 だからなのか、僕自身、なんとなく“恩義”のようなものを感じるようになってきた。
 それじゃあ、その“恩”を返すために、ぼくにできることはないのだろうか。ぼくらは過去の人たちが作り上げてきたものから恩恵を受けている。であれば、自分たちの次の世代や将来の人たちのために、何かをなすべきではないか。ぼくは次第に、そんなことを考えるようになった。

 日本は世界的に見れば、教育レベルが非常に高く、教育熱心な国民だ。アメリカでは、超トップ層にはすごく賢い人たちがいるが、それはあくまで一部だけ。普通の一般人は、ぶっちゃけ教育レベルが低い(アメリカ人の4人に1人は地球の公転を知らないとか、アメリカ人の半分はニューヨークの場所を知らないとか、驚愕の事実が報道されている)。
 それなのに、現代社会の基本となるインフラは、ほとんどがアメリカから出てきている。「なんでだろうな?」と考えると、やはりその超トップの教育レベルに雲泥の差があるからだと思う。

アメリカの大学のなかでも、ぼくが個人的に注目したのはスタンフォードだ。スタンフォード大学からは、ものすごい起業家・経営者がたくさん輩出されている。グーグル、アップル、ナイキ、ヤフー、HP(ヒューレット・パッカード)、サン・マイクロシステムズ、インテル、マイクロソト、マクロメディア、シスコ、ペイパル……すべてスタンフォード出身。日本の教育とは違って、かなり実用的な授業がおこなわれているのだ。

 寄付文化の盛んなアメリカでは、ビジネスで成功した人などがお金を出して大学をよくして、次の世代に貢献しようとする文化がある。アメリカの大学には、誰かの名前を冠した講座や建物がよくあるけれど、それはその人が大学に寄付をして、その金を基金とした運用利益で運営されていますよ、ということだ。

 たとえばスタンフォード大学には、ウィリアム・ゲイツ・コンピュータ・サイエンス・ビルディング(ビル・ゲイツ)や、パッカード・エレクトリカル・エンジニアリング・ビルディング(HPの創設者、ウィリアム・ヒューレット)、ポール・アレン・センター(マイクロソフトの創設者、ポール・アレン)といった建物がたくさんある。ビジネススクールも、ナイキのフィル・ナイトによって建設されている。研究講座や奨学金にも、人の名前を冠したものがいっぱいある。これからの社会に必要だと思われるような講座や研究施設が、寄付によって続々と設立されているのだ。

 一方、日本の大学では、研究とは基本的に国から予算をもらっておこなうものである。だから予算をたくさん引っ張ってこられる教授が偉いとなるし、あまり自由な研究が生まれない素地にもなっている。
 そういう点で、ハーバードやMIT、スタンフォードなどと比べると、日本の最高学府である東京大学ですら微妙なのかな……? そのせいで大きく差が出てるのかな……? と、そんなことを思ってしまうわけだ。


なぜ日本のことを外国に教育する必要があるのか?

「国家百年の大計は教育にあり」と言われるように、ぼくは教育こそが将来の人たちのためになることだと思っている。だからこそ、ぼくらは教育事業を営んでいるとも言える。
 日本国内の教育レベルを今以上に上げるために、ぼくらはぼくらにできることを少しずつでもしていくしかない。でも同時に、日本のことを外国に教育するのも大事だと痛切に感じているのだ。

 その理由を理解するには、国際政治の基礎的な知識が必要になる。なので少し駆け足にはなるが、ここでその背景となる情報を説明してみたい。
 最近は「アメリカは今は凋落している」と言う人もいるが、なんだかんだ言って、米国はいまだに圧倒的なパワーを誇っている。
 軍事予算1つとっても、世界の50%を占めるのは米国。中国がどんどん膨張してきていると言われているが、戦争になったらアジアにある米国艦隊だけで余裕で倒せるだろう。
 金融でも米国は世界を支配している。どこの国でも、大きな商売をするときにはドルで決済する仕組みだ。情報面でも圧倒的に強いし、IT技術も世界一。それは圧倒的なパワー……今でも世界は米国が牛耳っているのだ。

 そして、日本はその米国に完全に支配されている。「いや、日本は独立国だから支配されていないし、対等に交渉している」と思うのは大間違いだ。まず、日本には米国の軍隊が駐留していて国防機能がない。ま、「ない」と言うと語弊があるけど、国防で米国に頼っているのは紛れもない事実であり、そのために経済でも従属せざるをえない。
 たとえば、郵便局が民営化されたり、派遣社員が増えたりしているのは、米国からの強い要望があったためだ。バブルが崩壊して日本が不況に陥ったのも、米国の意図だろうと言う学者もいる。
 日本の首相は、米国に逆らうと、スキャンダルなどが偶然発生する愉快な仕組みになっている。そんでもって、米国の豊かさは、日本が米国債を買う(という名の送金)ことで維持されているといってもいい。
 学校教育の在り方もそうだし、日本がシベリア開発をできないのもおそらくそう。紙幅の関係で詳しく説明できないのが歯がゆいが(興味がある人は、国際政治を学ぶのがおすすめ)、まぁ、なんだかんだで、日本は米国に完全に支配されてるのが現状なわけだ。それがあまりに完璧なため、ぼくらは気づくこともできないでいたりする。


アメリカ人は誰も日本を知らない

 もちろん、米国は日本のみならず世界を支配していて、圧倒的な影響力を持っている。だから米国を敵に回した国ってのは、おしなべて悲惨な目にあっている。最近ではイラク、その前はソ連、その前は日本とドイツ、おそらくこれからは中国だろう。

 歴史上、日本が戦争に負けたのは、米国だけだ。そして、とても悲惨な占領を経験し、いまだにその禍根が残っている。一方で、日本が経済的に大躍進できたのも、米国の支援のおかげだったりする。だからいずれにしても、今も昔も世界の圧倒的パワーである米国を敵に回すことは、どんな国でもできないことだ。
 そんな背景があるので、米国国内には各国からのロビイストや謎の団体みたいなのがいっぱいいて、自国に有利になるように米国政府に影響を与えようと、いろんな活動がされている。
 ぼくらが知ってるのは、たとえば2011年に米国と韓国に設置された従軍慰安婦像がそれに当たる。なんでそんなことをするのかと言えば、答えは簡単で、日本と米国を離反させるためだろう。強いもの同士が組んでいるときには、それを引き離して各個撃破するのが基本だからね。
 ほかにも日本の印象を悪くさせようと、さまざまな活動を日夜続けている資金豊富な団体はたくさんある。信じられないかもしれないけれど、そんなことが現実に起きていて、実際に日本の将来に影響を及ぼしている。

 それに対して日本は何をしているかというと、ほぼ何もしていない。数十億も出して広告代理店を雇い、米国で大規模なキャンペーンでもやれば、他国の思惑が絡んだPRなんて吹き飛ばせるかもしれないが(こうしたメディア戦略をおこなっている国はたくさんある)、日本人の美徳は「何も言わない」なので、何も言い返さない。
 だから、米国では日本の情報というのがまったく出てこないのだ。つまり、アメリカ人は誰も日本を知らない……そう言っても過言ではない状態。これじゃあ、日本に不利な情報をガンガン宣伝されたら、それがそのまま罷り通ってしまう。とてもよくない状況だ。

 日本は世界に誇れる素晴らしい歴史と文化を持っているにも関わらず、世界の動きを決める米国においてすらも情報発信が極めて不十分で、本来の姿を理解してもらえていない。資金豊富でPRの上手な国の思惑が通り、日本にとって不利で不名誉な状況ができてしまう。それによって一般の日本人がさまざまな形で不利益を被っている。
 これでは、ぼくたちのみならず、ぼくらの子どもや孫たち、次世代の人々の尊厳を傷つけることになりかねない。ぼくは、日本には将来的にも豊かで誇り高い存在であり続けてほしいし、それはきっとみんなも同じじゃないだろうか。


米国最高の研究所から日本の情報を発信!

 ぼくがスタンフォード大学フーヴァー研究所で日本人唯一の教授、西鋭夫博士と出会ったのは、3年前の夏だった。そのときは一受講生として、西先生の歴史講義を受けただけだったが、その後、フーヴァー研究所のツアー(講義のようなもの)にも参加して、親しくさせてもらうようになった。
 その西先生から、フーヴァー研究所の前所長、ジョン・レイジアン博士が「アメリカでは誰も日本に注目していない。Japan Projectを創り、フーヴァー研究所を世界の日本研究の場にしたい」と熱く語っていたと聞いたのは、まさにぼくが日本の将来のために何ができるんだろうと考えていたときだ。
フーヴァー研究所は、スタンフォードのなかでも公共政策を特別に研究する機関で、第一次世界大戦、第二次世界大戦の公文書や、近年まで機密文書として米国に保管されていた政府機関の資料がたくさん収集されているところである。

そのフーヴァー研究所に「日本」を研究する講座を作って情報発信できれば、日本の未来にとってどれだけの価値が生じるだろうか。米国の最高権威だから、その研究成果はあらゆるところに引用されて広がっていくだろう。またフーヴァー研究所はホワイトハウスの要職にたくさんの人を送り込むような研究所だから、政府の要人たちに影響を与える可能性も大きいはずだ。情報は人の行動にとてつもない影響を与える。

 そのうえ、寄付による研究講座はスタンフォード大学でお金を運用した利回りで運営されるため、一度、研究講座を作れば、一生フーヴァー研究所に残る。つまり日本を研究するチェアー(研究基金のこと)を作れば、永久に日本研究を続けられるというわけだ。

 それは現在だけでなく将来の日本にとっても、非常に価値のあることだとぼくは思った。それでフーヴァー研究所に「日本近代史」の研究講座を設立することにしたのだ。2015年8月のことである。
 日本からのチェアーは、ぼくらが史上初(というか、アジア初の快挙だそうだ)。米国の風習で、チェアーにはすべて個人名が冠されている。ぼくの講座にも、ぼくの名前が付いている(本当は個人名が付いた講座を作るなんて嫌だったのだが、後々のことを考えると、ひと目で日本人だと分かる名前が付いていたほうが良いだろうということで、思い直すことにした)。


 そんな思いで設立したチェアーだが、その設立過程でお世話になった日米の弁護士さんたちから「このような事業に関われて幸せです」とコメントをもらったり、フーヴァーで記念式典をやったときの日本人カメラマンから「がんばってください!」と応援されたり、フーヴァーチェアーについて話した人たちからたくさんの励ましをもらったりしたので、やはり日本人は自国の誇りを取り戻したいと考えている人が多いのだと思う。

 この講座がそのための一翼を担ってくれたらいい。そして今後、ここから発信される情報が、日本の将来のためになるといい。ぼくはそれを願っている。そうすれば、ぼくらは日本の将来のために少しは役立てたと言えるはずだ。


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