「売上が上がり続け、社員の幸福度も高まり続ける」会社を実現するためにはどうすればいいか?
このような悩みを抱えている経営者は多くいらっしゃると思います。私も、会社を創業して11年いつもこの問いの答えを探してきました。そのために色々な取り組みをしてきましたが、中には逆効果で離職率が上がってしまったり、社員一人当たりの生産性が下がってしまった、なんていうことを沢山経験してきました。そんな中で、私がいきついた答え。それは、社員の「セルフマネジメント能力」を高めることです。
「セルフマネジメント能力」とは自分で自分をマネジメントできる能力なので、普段上司が管理しなければならないとされている目標数字、GAPを埋めるアクション、モチベーションなど自分のパフォーマンスや心の状態を自分の力で管理できることを指します。
セルフマネジメントができる人材が少ない理由
今まで社内外含めて5,000人以上の方々にお会いしてきました。その中で、社内、属しているコミュニティで圧倒的な成果を創出し、かつイキイキと自分の人生を楽しんでいる人は例外なくセルフマネジメント能力の高い方々だと確信しています。当然ながらそんな人が社内に多いと業績は上がりますし、社内の雰囲気が良くなります。
ではなぜ、そういった人材が社内にいない、もしくは少ないのか?
私はマネジメントのやり方が大きく影響していると考えています。それは長く日本に根付いてきた「管理型マネジメント」、最近では「間違ったセルフ型マネジメント」の2つです。
そもそも、管理型マネジメントが推奨されていたのは1960年代、戦後の高度経済成長期でどの市場も伸びている時代でした。「どうすれば物が作れるのか」が明確だったので、上司が部下を管理し言う通りにやってもらうことが企業の成長戦略として有効でした。そのため、「管理する」「無駄なことをしない」「余計なことをさせない」ことが成功するための鍵だったのです。
しかし、現代は違います。昨今のコロナウイルスの問題など、何が起きるか分からない時代です。そんな時代だからこそ、変化に柔軟に対応する力、そしてその対応スピードを最大限速めていく事が求められます。そのためには一人一人が問題に直面した時に、自らの判断、自らの力で解決に取り組む事が大切だと私は考えています。
では、何でも自由にやらせればいいのか?というと答えはNOです。これが「間違ったセルフ型マネジメント」です。セルフマネジメント型の経営に移行しようと考えている経営者の中には、「ルールをなくす」「階層をなくす」などの手段に囚われたり、「何でも自分で判断する」を推奨したりしますが、それは本質的ではなく、そういった施策は結果的に社員の柔軟性を奪い、対応スピードが遅くなる事も多くあります。
ここからは、セルフマネジメントで会社経営し、組織としての生産性を高め、かつ従業員の幸福度も高めていくためのポイントをお話します。少しでもご参考になれば嬉しいです。
セルフマネジメントができる人材を増やすため欠かせない基盤
セルフマネジメントで会社経営を行い、組織としての生産性を高めていくための会社としての基盤になるのが、会社と個人、個人と個人の信頼関係です。
ここでいう信頼とは、組織というシステムの中で「AさんがBさんを信頼して物事を依頼できる」といったような事ではなく、「組織が企業としてのVISION実現という道筋を歩む中で困難な局面に直面した時に、集団としていかに団結できるか」という事を指します。この信頼関係を構築できているかが全ての土台です。この信頼がベースにあれば、一人一人に組織として求めている成果を合意し、それをできるだけの権限を移譲してそれぞれに仕事を任せる事が可能になります。それを続けていく事がセルフマネジメント人材の増加につながり、会社にセルフマネジメントが定着していきます。
「でも信頼は一朝一夕に積み上がらないよね?」というお声もよく頂きます。そして、それはまさにその通りです。信頼関係はそんなすぐに構築できるものではありません。私は、だからこそこの信頼関係が構築できているか、構築するために組織としてパワーを割いているかが将来的に決定的な差になると思っています。
「信頼関係」を構築する上で大切な3つのポイント
信頼関係を構築する上で私達が大切にしているポイントを3つお伝えします。
① メンバー一人一人を「大人」「プロ」として接する
私達は、上司、部下関係なくそれぞれを一人の大人として扱います。入社歴、今までのキャリアは関係なく「大人と大人」「プロとプロ」といった対等な関係です。今まで、多くの会社を見てきましたが、信頼関係が構築されていない会社の多くは「大人対子供」「プロ対アマチュア」といった関係性でメンバーと接しています。そうなると、細かく管理する、ルールを厳格化するなどといった本来大人であれば必要のない管理やルールが会社の中に蔓延してきてしまいます。こうなると、人は「信頼されていない」と感じ、自ら率先して「管理される」事を選択し、本来持っているはずのパフォーマンスは発揮されなくなります。ですので、信頼関係を構築する上で大切なのは一人一人を自立した大人として扱うスタンスだと思っています。
例えば、テレワーク中、メンバーの仕事の進捗が見えにくいことがあったかと思います。そんな時にメンバーを子供として扱うと、「あいつは仕事をしていないんじゃないか」と疑い、Zoomを繋げっぱなしにしたり、PCに管理ソフトを入れたりといった対策を打つかもしれません。しかし、こうすることでメンバーは「管理・監視されている」「信頼されていない」と感じてしまいます。
しかし、彼らを大人として扱えば、そういった対策を打つ必要はなくなります。大人として信頼し、プロセスは彼らに任せ期日までに成果物が完成するのを待つはずです。メンバーは会社の外では自分で家計をやりくりし、家庭を持ったり交通ルールを守る大人なのですから、こちらが信頼すればそれに応えてくれるはずです。
② パワーギャップを縮小する
ここでいうパワーギャップとは、階層や役職、部門間にある特権の差の事を指します。例えば社長室や役員室、特定の役職以上は新幹線のグリーン車に乗れる、などといった事です。
これは社長室がある会社はダメ、グリーン車に乗ってはいけないという事ではありません。重要なことはその特権が信頼関係を高めるため、組織のパフォーマンスを高めるために必要なものなのかどうか?を問うことです。そして、それを問うた結果、必要な特権は残せばいいし、増やしてもいいと思います。逆に必要のない特権は積極的に減らしていく事が大切です。ここで特権を残す、増やす、減らすを判断する時に最初に行うのは二つの「明確化」です。
「それぞれの役職・階層の責任を明確化」
「その責任を全うするための権限を明確化」
この二つです。多くの会社では、責任と権限が曖昧だったり、その二つが釣り合っていないという事がよく起きています。例えば、部門長は部門のPL責任を持っているのにも関わらずPLに作用する各種数字の詳細の閲覧権限や変更権限がなかったりします。これでは信頼関係も組織としてもパフォーマンスも上がりません。パワーギャップを縮小するという事は、役割における責任の明確化とその責任を全うするための権限の明確化、それに対して現在の責任や特権が大きすぎないか、小さすぎないかを議論し、自社における最適なパワーバランスを見つけることに繋がります。
③ 情報の透明化
信頼を構築する3つ目のポイントは情報の透明化です。私達には「情報が人をエンパワー(=力を引き出す)する」というコンセプトがあります。
人のパフォーマンスはその人が持っているスキルは勿論ですが、現在持っている、またはアクセスして知ることのできる情報の多さ・正確さによって大きく左右されます。
例えば、「今日の夕方から雨が降る」という情報を知っていれば多くの人は傘を持参するでしょうし、予定していた外出をスケジュールしなおすかもしれません。これを会社に置き換えると「このままいくと今月は赤字になる」「Aさんが2ヶ月後に退職予定」といった情報があればその人の行動が変化するかもしれません。今まで以上に営業活動に時間を割くかもしれませんし、Aさんの業務引き継ぎをスムーズに終わらせようとするかもしれません。
しかしながら、メンバーの行動が変化する可能性がある情報を多くの会社は隠そうとします。隠すだけ隠しておいて挙げ句の果てに「何で成果が上がらないんだ!」とまで叱責しようものなら信頼関係など作れるはずがありません。また、情報を透明にせず特定の人だけ知っている情報が増えてくると、メンバー同士の飲み会などで「ここだけの話なんだけどさぁ…」というお決まりの枕詞で会社の情報がウワサ話として広がっていきます。ここまでくれば会社への信頼感は当然持てるはずもなく、自分は情報を知らないわけですから「信頼されていない」となるわけです。
「とはいえ全部の情報を透明にはできない」
「情報を透明にしたら逆にメンバーのパフォーマンスが落ちるかもしれない」
というお声を頂く事があります。
ここで重要なのは、全ての情報を透明化する事ではなく(できるならそれが望ましいですが)メンバーの行動変容が促進される可能性があるものを優先的に透明化していく事です。そしてそれがどの情報なのか?はメンバーが知っています。経営チームが「知っておいてほしい情報」とメンバーが「知りたい情報」は違う事がありますので、メンバーと一緒に優先順位を決めていく事をオススメします。
また、もう一つ重要な事は、メンバーの「情報処理能力を高める」サポートを組織として行う事です。例えば、会社のPLを開示したところでPLが読めなければ何の意味もありませんし、下手をするとアクセスした情報からして欲しくない解釈が生まれパフォーマンスが低下する事もあり得ます。ですので情報を透明化する事とメンバーの情報処理能力を高める事はセットで行う事が求められるのです。
このようにメンバーを巻き込んで信頼関係を構築する、コツコツと信頼を積み上げるには確かに時間がかかります。そして、短期的には売上には直接関係していないようにも見えます。そのため、経営者としても社としても負担に感じることはありますし、私自身も途中で投げ出したくなる事もありました。
でも、私はこういったコミュニケーションを続けてきて今は本当に良かったと思っています。セルフマネジメント能力の高い人材を育成し社内に増えてくると、セルフマネジメントが社内の文化として定着してきます。そうなった事で私達に起きたポジティブな出来事をいくつかあげてみます。
・メンバー一人当たりの売上高が過去最高になった
・離職率が20%から5%へ、ネガティブな理由での退職がほとんどなくなった
・もともと出社が強制ではないので、コロナ禍のリモートワークによる影響が最小限に抑えられた
・採用段階でセルフマネジメント出来ない、自信のない人が入社してこなくなった
管理型マネジメントとセルフマネジメントの最も大きな違いは、ナビをするかどうか
ここまでお読みいただくと、セルフマネジメントが会社経営において効果的である一方、一筋縄では行かない、時間がかかるものだとお感じになる方もいらっしゃると思います。
私はセルフマネジメントをよく自動車の運転に例えて話します。
管理型マネジメントは、ナビ付の車と一緒。運転している部下に、「ここは右。次は左です」と指示しながら、目的地まで行きます。免許を取得する時の路上教習に似ています。回り道を一切せずとにかく目的地へと導くので、目的地に早く着く確率は上がるでしょうが、「新しい抜け道」といった発見はほとんどできなくなります。そして、ドライバーはナビがないと運転できなくなってしまいます。
一方セルフマネジメントは、目的地を決めたら、あとは運転手に任せます。少し遠回りをしてみたり、速度を変えてみたりと、運転手やチームによって行き方はさまざま。自分たちの力で、目的地まで辿り着きます。
経営チームは、事前に信号やガソリンスタンド、今までの旅路を振り返る宿という「最低限のルール・チェックポイント」を設置するだけ。信号のない道路だと一人ひとりが勝手に動いてしまうので、事故が起きる確率が高まり、なかなか目的地に辿り着くことができません。給油ができない車は旅の途中に止ってしまいます。また、旅の振り返りをしないと運転のテクニックは上がっていきません。
「早く行きたいなら一人で行け。遠くに行きたいならみんなで行け。」
という言葉があるように、短期的に最速で目的地に辿り着くには、間違いなくトップダウンで管理型マネジメントだと思います。しかし、経営者である自分の身の丈以上の会社成長、VISONの実現、メンバーそれぞれの人生の自己実現のためにはセルフマネジメント型が最も効果的だと私は信じています。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。