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代表インタビュー。創業5年を迎えた、HRtechスタートアップのこれまでと、これから。


circus株式会社は、人材紹介プラットフォーム「circus AGENT」を展開しているHRtechスタートアップです。2017年に設立され、この7月に5周年を迎えました。5年が経った今、会社はどのようなフェーズにあり、これからどこに向かうのか。circus株式会社の代表取締役である矢部さんの口から語っていただきました(聞き手・ライター永山)。


― 本日はよろしくお願いします。本来はあまり表に出ない代表だと聞いていますが(笑)、設立5年の節目ということで色々と話をお伺いさせてください。まず改めて、circusという会社はどんなサービスをやっているのですか?

「HRにNew Standardを。」という理念の下、2017年に創業し、2019年に現在の主軸事業である人材紹介プラットフォーム「circus AGENT」を立ち上げました。

「circus AGENT」は、企業と人材紹介会社の取引の効率化を図る「人材紹介のBtoBプラットフォーム」です。求人企業は、プラットフォーム上に求人を掲載するだけでさまざまな人材紹介会社に一括で紹介依頼ができ、人材紹介会社は、自社で紹介先の企業開拓を行わなくても、掲載されている求人案件にすぐに人材を紹介できる。

また、全人材紹介会社の紹介データが蓄積されていて、それを活用して人材紹介会社は感覚的な人材紹介を、より高い精度で行っていただくことができます。

人材紹介マーケットに残るレガシーで非効率な商習慣を、プラットフォームに置き換える。言い換えるなら、人材紹介領域のDXのようなイメージです。現在では、取り扱い求人案件数がのべ3万件以上、1,000社を超える人材紹介会社の方に利用いただけるサービスに成長しました(2022年9月時点)。

― かなりの規模に成長していますね。そもそも、人材紹介マーケットでBtoBプラットフォームをつくろうと思ったきっかけは何だったんでしょうか。

私は、これまで10年以上にわたって、求人広告、RPO、人材紹介、HRtechなど、HRという切り口で、さまざまな分野に身を置いてきました。人を通じて企業の成長を支援するという人材業界の存在意義を強く感じてきた一方で、ある“違和感”を抱いていたんです。それは「人材業界は、良質なサービスを提供したプレイヤーが勝つわけではない。」ということです。

アウトバウンドで売り込んでいくための大きなセールス組織を構築できた会社が勝つ。LTVに見合っていれば、多額のマーケティングコストを投じることができる会社が優位に立つ。こういった構造に違和感を感じていました。

中小規模、スタートアップでも、課題解決に必要な"良いサービス"を提供している人材事業者はたくさんいます。しかし、本当に良いHRソリューションが、必要としている企業に届いていない現実がありました。サービスの品質向上や顧客課題の解決に向き合い、良いサービスを提供できる事業者にアセットが集まって、成長機会があるマーケットになったら、シンプルに人材業界がもっと良くなる。そう思っていました。

その中でも、人材紹介マーケットで事業を始めたのは「課題が明確に分かっていたから」というのが正直な答えです。

人材紹介会社は約3万社あるのですが、その3万社がそれぞれにテレアポなどで取引先開拓をしています。一方で、求職者は、売り手市場において多様なキャリアの選択を希望し、人材紹介会社はそれに応えきれない。結果として、取引先を開拓するだけして、人材を紹介できずに終わってしまう。何なら企業との関係性が悪化してマイナスで終わる。求職者側には、無理やり企業を受けさせる。なんてことも起きていました。

人材紹介会社にとっても、企業にとっても、求職者にとっても、人材紹介のプラットフォームが必要なのではないか。そう感じたことが「circus AGENT」を創ったきっかけです。


― なるほど。ニーズを捉えたサービスのように思えますが、サービスを立ち上げてからここまでは順風満帆でしたか。

サービスローンチから約3年になりますが、直近の1年は、爆発的に伸びた実感があります。ですが、はじめの2年間は苦労しました。

プラットフォームという2者以上をクラウド上で繋げるソリューションにおいて、最短でトランザクションをつくることが重要になります。片方のユーザーの質がマッチしなかったり、ユーザー数が少ないとプラットフォームが活性化しないため、それぞれのユーザーの量と質の担保を最短で行う必要がありました。

しかし、人材紹介プラットフォームは、今でこそエージェントにとって一般的なサービスとなりつつありますが、当時はまだ文化として一般化されていないサービスであったため、ユーザーの量と質の担保に想定よりも時間を要しました。

多くの試行錯誤をしましたが、その中でも大きな解決策となったのは「同業者間での求人シェアリングスキーム」でした。人材紹介会社同士で、持っている取引先の案件情報をシェアして、協業できる機能をリリースしました。この機能によって、効率的にプラットフォームのユーザー獲得を進めることができ、ブレイクスルーのきっかけとなりました。

その他にも、人材紹介という、ある種特殊な領域におけるユーザー課題を抽出してプロダクトを磨きながら、情報設計、マーケティング、プライシング、あらゆる部分で絶妙に最適化をしながら、今の形をつくりました。

新規事業開発は、聞こえは良いですが、無数の壁にぶち当たりながら、一歩ずつ成功に近づく。そんなことを実感した2年間でした。


― スタートアップの中には、“死の谷”を超えられずに終わってしまう会社も少なくありません。伸びたポイントはどこにあると分析しますか。

仰る通り、人材紹介プラットフォームという新しい市場が直近3年くらいで出来たことによって、参入してくるプレイヤーも増えてきた印象があります。その中でも、私たちがいわゆる「死の谷」を乗り越えることができたのは「プロダクトを変え続けられたこと」。これに尽きるかなと思っています。

前提として、バーティカル領域におけるプロダクトの成長ドライバーは2つあると考えていて、圧倒的なユーザー視点とテクノロジーの両立です。テクノロジー、つまりプロダクトを形にするための技術や開発力は、優秀なエンジニアさえ集められれば、最低限の担保はできる。もちろんそれは重要です。ただ、テクノロジーで何を形にするのかがずれてしまっては意味がない。そのために必要なのが、圧倒的なユーザー視点です。

ユーザーの課題を解決するためには、何が必要なのか。人材紹介会社が何に困り、何を求めているのか。定量・定性問わず、ひたすら人材紹介会社にヒアリングを重ねました。また、ユーザーの目線に立つために、自分たちも人材紹介事業をやってみたりしました。

当初、人材紹介会社の多くは人材紹介プラットフォームに対して「求人数(取引社数)」を求めていたんです。より多くの求人があれば、それだけ自分たちが抱える候補者に紹介できる機会が増えると。でも人材紹介会社の事業成長のために本当に必要なのは「マッチング率を上げること」でした。候補者がそのポジションに合うかどうかを見極めること、求人に魅力を感じて納得してエントリーしてもらうことが実は重要であり、そのために必要な情報や仕組みが整っていなかったんです。

ユーザーの表面化している“顕在的なニーズ”ではなく、ユーザーも気付いていない“潜在的な課題”を導き出したことで、「circus AGENT」を単なるデータベースサービスではなく、マッチングプラットフォームに進化させることができました。それがバーティカル領域ならではの、成功要因だと思っています。


― ありがとうございます。人材紹介マーケットについての話もありましたが、サービスが成長した今、改めて今後の展望を聞きたいです。

「circus AGENT」は、人材紹介マーケットというある種、限定的な領域で、レガシーな商習慣をプラットフォームに置き換えてきました。

ですが、これはまだ通過点に過ぎません。創業時から掲げる「HRにNew Standardを。」の理念のもと、2022年の10月に新規事業開発プロジェクトを始動させます。「HR Business Platform Project(略してHRBP)」です。“HR領域のビジネスインフラをつくる”ことをビジョンとし、新規事業開発プロジェクトを複数立ち上げる予定です。

  • HR特化型セールスマーケティングプラットフォーム事業

必要なHRソリューションがすべての企業に届く新しいマーケットプレイスの創造をします。企業は、人事課題を解決する最適なソリューションを自由に選び、すぐに解決できる世界をつくります。

  • HR事業者向けアセット支援事業

HR事業者の事業成長に必要なヒト・モノ・カネのアセットを提供します。

  • HRワーカーのキャリア開発プログラムの構築

HRリテラシー向上の体系化を行い、新規職種の創造を行い、ライフイベントや年齢によるキャリア開発の障壁を解消する環境を創り出します。


― 新規プロジェクトのアイデアがこんなに!ちなみに、“HR領域のビジネスインフラをつくる”というのはどういう意図なのでしょうか。

先ほどもお伝えした通り、HR領域ではたとえプロダクトに確かな自信があっても、大手企業にセールスマーケティングの力で負けてしまうことが多い。資本力の格差により、良いサービスが広がりにくい業界構造となっていて、これを変えていくことが大きな目的です。

大企業に中小が資本力で負けること自体は他業界でもよくありますが、HR業界は、HRtechだけでも5,000を超えるサービスが存在すると言われています。HR業界のカオスマップを見てもらえれば、いかにその数が多いかが分かるはずです。これだけあると、マーケティングへの投資が不十分なサービスは確実に埋もれます。でも、埋もれている中にも良いサービスはたくさんある。そこで、資本力に関係なくHR事業者が活躍できるフィールドをつくり出すことが当社の使命だと考えます。

人材課題は、企業の経営課題の実に9割近くを占めると言われるほど、企業経営における重要なファクターです。良いHRソリューションを広げることで、HR市場の成長に繋げ、日本の経済成長を後押しする。これがHR領域のビジネスインフラをつくることの意味だと思っています。


― ありがとうございます。せっかくなので最後に、矢部さんのポリシーとこれを読んでいる方へのメッセージをお願いします。

事業家としてのポリシーは大きく2つあります。

1つめは、「techに頼り過ぎないこと」です。

HRtechやプラットフォームと言っていただくことが多いのですが、僕自身テクノロジーを過信しないようにしています。人材×AIで成功しているプレイヤーがいないように、HR領域はビックデータで予測することが難しい領域です。これは、金融領域などと異なって、感情や感覚が左右する要素が多分にあるためです。ファクトを分析するだけでなく、方法論をつくって浸透させていくことが成功に繋がったりします。テクノロジーと属人性のバランスを持ってプロダクトをつくることが、少なくともHR領域での重要な要素だと考えています。

2つめは、「プロダクトづくりに本気で取り組むこと」です。

あたりまえだと思われるかもしれませんが、これができている会社は意外と少ないと思います。これは私の考えですが「イケてる風だけど中身がない事業」ってシンプルにカッコ悪いなと思うんです。知名度だけはあるけれど、実はサービスの作り込みが甘くて課題解決にはつながっていない、みたいな。

ある先輩経営者から「広報やPRに力を入れるタイミングは重要」だというアドバイスをもらったことがあります。良くも悪くも拡散されるので、中途半端なサービスを世の中に出すことはもはや将来的なリスクになりかねないという話でした。だから、まずは価値あるプロダクトをつくりたかった。そのために、「circus AGENT」のUIを決める際は1px単位でこだわりましたし、ボタンの名称一つひとつにもコメントしたくらいです。おかげさまで、提供価値の高いサービスになったという自負がありますし、拡がってきたんだと思っています。

冒頭に「あまり表に出ない代表」と言っていただきましたが、出たくないわけではなく、プロダクトや事業推進に力を入れてきて引きこもっていたという感じかと思います。これからは少しずつ外に出ようと思います(笑)

最後に、読んでいる方へのメッセージとしては、「ジョインするには絶好のタイミングです!」ということだけ伝えたいと思います。

今は一つ目の事業柱ができて、第二、第三の柱をまさに今から一緒につくり、より大きな目標を実現するフェーズです。このタイミングで入社される方には、そのプロセスに0→1で関われるチャンスがある。その意味で、今が一番面白いかもしれません。


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